そらちゃんを探して
五月の連休に胡桃の家に遊びに行くことになった。
中学は学区こそ違ったが、わたしと胡桃の家は歩いて10分くらいのところにあった。だから、うちの門にかかっていた木札を見つけられたのだろう。
あの頃の胡桃は、わたしより背が小さくて泣きべそをかいていたから、てっきり小学生だと思っていた。
ベージュ色の外壁に白い出窓のついたおしゃれな家に辿り着くと、インターフォンを押す前に胡桃がドアを開けた。
「いらっしゃい! そろそろ着く頃だと思った。入って入って!」
「お邪魔します」
「みんな出掛けてるから遠慮しないで。あたしの部屋、二階だから」
階段を上がって部屋に入ると、真正面の大きな出窓から柔らかな光が差し込んでいた。
「うわぁ、出窓があると広い感じがしていいね!」
「うん。あたしも気に入ってるの」
窓の横に少しアンティークな感じの
わたしが見ていることに気がついた胡桃が、
「もう帰ってこないと思うけど、捨てられないんだ」と寂しそうな笑顔を浮かべた。
しばらくゲームをしたり、おやつを食べたり、恋バナをしたりして楽しく過ごしたあと、わたしは前から考えていたことを胡桃に伝えた。
「あのね、うちの神様ってあれからずいぶん力を増してて、探せる範囲とかも広くなったんだ。それで、もし良かったら、もう一度そらちゃんのこと探してみない? もちろん探せるとは限らないし、辛い思いをするだけかもしれないんだけど……どうかな?」
わたしの提案に胡桃は驚いていたが、
「もちろんやるよ! ほんとにもう一度探してくれるの?」と目を輝かせた。
「うん。でもさっきも言ったように、また見つからないかもしれないよ? それでもいい?」
「大丈夫! ずっとモヤモヤしてたから、もう一度チャンスをもらえるだけでも嬉しい」
「わかった。じゃあ、やってみよう」
わたしはカーディガンのポケットから巾着を取り出し、中に入っていた木札を見せた。
「この札に向かって声に出して願いごとを言って。そらちゃんの姿を思い出しながらね」
「わかった」
胡桃はパンパンと二回手を合わせ、大きな声で言った。
「神様! うちのそらちゃんを見つけてください。白と青のきれいな色をしたセキセイインコです。よろしくお願いします!」
実は木札を使うのは今回が初めてだ。
ちゃんと光くんに聞こえてるのかな。
わたしも胡桃の隣で手を合わせた。
「どうかそらちゃんを見つけてください」
すると、木札が光り輝き、目の前に白狐が姿を現した。
『わあい美桜だあ。会いたかったよぉ』
まるで犬のように尻尾を振る。
「わたしもよ。元気そうだね」
白狐の好きな耳の後ろを撫でる。
「あの……美桜?」
胡桃がそっとわたしの腕に触れた。
「あっ、ごめん! 実は神様の使いの白い狐が来てくれたの」
「ええっ!! そこにいるの?」
「うん」
「うわあ、やっぱり美桜って巫女さんなんだね!」
「いや、そういうんじゃないよ。小さい頃から一緒にいるだけ。白狐、そらちゃんを探せる?」
『うん。細い光が見えてるからね。あれを追っていけばいい』
それを聞いて思い出した。
「山で見えてたのと同じ?」
『あのときは女神さまの力を借りたけど、今は主だけの力だよ。うーん、ちょっと遠いかも。今から行ってくるね』
「お願い! 気をつけてね」
いってきまーすと、白狐が窓をすり抜け、外へ飛び出していった。
「狐さん、なんだって?」
胡桃がおそるおそる訊いてくる。
「なんか、そらちゃんのいるところまで光が見えてるみたいで、今追っていった」
「なにそれ! じゃあ、生きてるってこと!?」
「うん。それは間違いないみたい」
「ああ、良かったあ……きっと生きてると思ってた」
白狐が帰ってくるまでのあいだ、わたしは胡桃に乞われるまま、神様と白狐の話をした。
「なるほど。それで“失せ物探し”だったんだ」
「今は光くんが修行中だから、やってないけどね」
「早く姿が見えるようになるといいね。あたしも見てみたいよ。超絶イケメンの神様」
「あはは、心変わりしちゃうかもよ」
「それはない! あたしは翔平くんひとすじだから」
日が暮れる前に白狐が帰ってきた。
「おかえりなさい。どうだった?」
『元気だったよ。おじいさんとおばあさんが住んでる家に飼われてた』
わたしが白狐の言葉を胡桃に伝えると、目を輝かせて喜んだ。
胡桃の家にあった地図を広げ、白狐に訊く。
「どのへんかわかる?」
『えーっとね。赤い電波塔を越えて、大きな橋を渡って……花森公園っていうのが家の前にあった』
「……あ、ここじゃない?」
地図を指さすと、胡桃が驚く。
「うわ、こんなとこまで飛んでたんだ」
「どうする? 会いに行ってみる?」
「うん! 会いたい! 誰かが可愛がってくれてるなら、顔を見るだけでもいいから」
「わかった。明日も休みだし、行ってみよう」
「ありがとう。美桜、あたし狐さんにもお礼が言いたい」
「いいよ。白狐、こっちにおいで。胡桃、手を貸して」
胡桃の手を取り、白狐の体を触らせた。
「わあ、ほんとにいる……すごい! もふもふしてる。キャー!」
胡桃は白狐を触りまくったあと、顔のあたりを見つめて言った。
「白狐さん。そらちゃんを見つけてくれてありがとう。それから、神様にも見えてるんですよね? ありがとうございました。明日、そらちゃんに会いにいってきます」
白狐は胡桃に顔を寄せ、すりすりしたあと、『またね』と消えていった。
「すりすりされちゃった」
と、胡桃はしばらく放心状態だった。
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読んでいただきありがとうございました。
あと三話で完結予定です。。日曜までにはすべて掲載するよう頑張りますので、
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