魔導具争奪戦(7/9)

 見た目は冷静に見えるがアンドレア・V・ノーラスは怒り狂っていた。だがそこまで愚かではないので激発は抑えていた。

 だから背後の壁際に積み上げてある瀕死の人狼たちも殺さなかった。ここで彼らを殺せば二度と人狼傭兵は雇えなくなる。吸血鬼の護衛に人狼を使うことにはそこまでのメリットがある。

 頭の中でダークを百回は殺した。あらゆる拷問を与え、悲鳴を聞き、命乞いをさせる想像をするのに忙しかったので、背後の人狼の血に染まった壁の上に小さな目玉がつけられているのには気づかなかった。それには魔法偽装が掛けられていたが、冷静に注意深く観察していればあるいは見つけることもできたかもしれない。


 盗聴不可能な特殊回線の携帯電話のベルが鳴った。待ち望んでいたモーリスからの電話だ。

 ノーラスは携帯電話を取り上げた。幾重にも張られた魔法の網が通信回線を保護する。

「俺だ。ああ、早く言え。どこだ? いつ?

 よし、こちらの人数は三人だ。それは譲れない。俺と護衛一人、それと魔導士が一人だ。当たり前だろう。魔導具が本物かどうか調べる必要があるからな。そうだ。どのみちお前は条件を呑むしかない。それとも何か? お前の元の女王さまのところにそいつを持っていくのか?

 さぞや歓迎して貰えるだろうさ」

 しばらくノーラスは携帯電話と言い合いをしていたが、最後には合意し、携帯電話を置いた。

 モーリスが指示してきたのはバッテリー・パークに朝の十一時だ。

 モーリスめ考えたなとノーラスは思った。

 高位の吸血鬼は耐性があり強い太陽光線の下でも活動はできる。だが魅了を始めとする吸血鬼の権能のほとんどは使えない。太陽の光で灰になるのを防ぐのに手いっぱいで権能を使う余裕がないのだ。おまけに水辺の近くだ。いざとなればモーリスは川を泳いでの逃走を試みることはできる。吸血鬼は流れる水を渡ることはできない。だからコウモリに変身できない以上、モーリスを追いかける手段はない。

 慎重な男だ。もしかしたら吸血侍従にしても損はないかもしれないとも思った。

 これから始まるだろうリビア派閥との戦争において役に立つかもしれない。少なくとも吸血鬼である以外に取り柄のないボンクラ配下よりは。

 コツコツと指でテーブルを叩く。

 配下を他に潜り込ませるか?

 モーリスに奇襲をかけて魔導具を手に入れるというのは魅力的な案だ。

 だが昼間の陽光の下では、高位吸血鬼とは言え能力は人間なみだ。

 そこで背後に積み上げている人狼たちを見た。時間が来る前にどれか一匹が動けるようになるだろうか?


 夢想を中断するかのように再び携帯電話が鳴り、それを取り上げる

「俺だ」

 モーリスからだった。約束の時間を一時間遅らせて欲しいという頼みだ。快諾した。その方が人狼たちの回復の時間が稼げる。

 背後の壁で、これらを見ていた目玉が静かに自壊して灰に変わった。



 モーリス・ヴァルナクスは準備に余念が無かった。

 今日の取引で魔導具はモーリスの手を離れ、代わりに命が手に入る。

 すでにモーリスの体はかなりの老いが進行している。だがそれも血の膏薬が手に入ればすべて解消する。吸血鬼の真祖であるボスの血から精製する軟膏を塗れば、また若さが戻って来るのだ。

 再び若くなって、自分を陥れた連中に復讐をするのだ。

 ノーラスとの取引で得る寿命は十年分。だが、それに加えて一億ドルを要求した。それだけあればもう一度事業を立ち上げ、再び大富豪となることができるだろう。

 もちろんこれから先の生涯を夜の女王リビアに付け狙われることになるが、それは支払わねばならない犠牲と言うものだ。リスクを恐れていては何もできない。


 モーリスが隠れているのは以前に持っていた貸家の複雑な部屋割の中にこっそりと作っておいたセーフハウスだ。入口は巧妙に偽装してあり誰もそこに部屋があるとは気づかない。ずいぶん昔にある呪術師から買い取った『隠れ家』のシジルがその場所に対する魔法的な追跡を断ち切っている。

 このシジルは高い買い物であったが、実際に役に立ったのだからモーリスは満足していた。備えあれば憂いなしとはよくも言ったものだ。

 昔ライバルを事故死させるときに雇った爆弾魔に今回新たに作らせた起爆装置の動きを確かめる。

 そいつは自分の手で殺したからこの方面から足跡を辿ることはできないはずだ。

 遠隔起爆装置を自分の腕に嵌めたまま、プラスチック爆薬にテープで貼りつけたネックレスをまた眺める。

 そのネックレスはとても美しく、いつまでも眺めていたいと思わせる妖しさを秘めている。中央の不思議なカットの宝石を巡る七つの宝石はどういうやり方でか相互に位置を入れ替える。驚異的な魔法の力があるという話だが、それを考えに入れなくても見事な芸術作品であることは間違いない。

 これを破壊するようなことにならなければ良いがと思った。芸術品の破壊者は人類の敵だというのが常からの持論であった。

 まあそれも自分の命に関わらなければの話だが。


 時間だ。モーリスは隠れ家から出た。

 頭から被っているのはかなり昔に手にいれた魔導具だ。『私は誰』という名称だったように思う。一種のフードで、それを被ると何者の注意も惹かなくなる。銃を構えた銀行強盗の横を何食わぬ顔で通り過ぎることもできるすぐれ物だ。

 これが無ければとうの昔にリビア配下の吸血鬼たちに見つかっていただろう。昼の日中でも動ける吸血鬼は存在するのだ。

 これがあっても夜ならば高位の吸血鬼はモーリスを見つけることができるだろう。だから取引は昼に行うしかないのだ。それでこそリビア派閥の吸血鬼の目をごまかせる。


 約束のジョン・エリクソン記念碑につく。

 ジェームズ・アール・フレーザーの像の下に腰を下ろしてそこから周囲を観察した。通行人がいるがこちらに注意を向ける者はいない。だが油断してはいけない。

 左手のスイッチを握りこむと、デス・スイッチが起動した。これで正しい解除手順を使わない限り、スイッチが手から離れた瞬間に足下のスーツケースは爆発する。発信機の電波が遮断された場合も同様だ。

 しばらく待った。もうすぐ約束の十一時だ。隠れ身のフードを脱ぎ、リビア派閥の吸血鬼に見つかる恐怖に耐えてひたすらに待つ。


 目の前に影が落ちた。顔を上げると三人の男が立っていた。みなサングラスをかけている。

 心臓が割れ鐘のように鼓動を打った。

 眼鏡をかけた小男と背の高い男を残して、やや太り気味の男がモーリスの横に座った。

 慌ててモーリスは言った。

「前に言った通りに、ネックレスには爆薬が仕掛けてある。おかしな動きをすれば爆発する」

「分かっているさ。モーリス・・だな?」隣に座った男が言った。

「俺がノーラスだ。時間を無駄にするつもりはない。邪魔が入る前に取引を始めよう」

 モーリスは右手で一枚の紙片を取り出すとノーラスに渡した。

「ギースの文言だ。この通りに私にギースを掛けてもらいたい」

「まあ焦るな」

 ノーラスはその紙片を連れてきた眼鏡の魔導士に渡した。その内容にざっと目を通してから魔導士は紙片を返した。

「問題ありません。これにより私が魔導具を確認した後に、モーリス様はノーラス様の吸血侍従として認定され、保護を与えることになります。有効期間は十年。後の取引により期間の延長はありますが、短くすることはできません」

「一億ドルも忘れないでくれ」

「いいだろう。それだけの価値があるとこちらが認めた場合だけだがな」

 ノーラスが即答すると魔導士が口を挟んだ。

「契約が成立しなかった場合はこの魔導具は永遠に我らの所有とはなりませんのでご注意ください」

「分かった。お前はいつも口数が多い」ノーラスが苛つきながら答えた。

「ギースを」モーリスが急かす。

 ノーラスはギース開始の身振りをする。モーリスは半吸血鬼とは言え、魔力はないので自らギースを使うことはできない。

 ノーラスは手の中の紙片の文言を一言一句違えずに読み上げる。それからギース完了の身振りをした。

 ギースを司る亜神が取引内容を解釈するまでには一瞬の間がある。それから帳が周囲に降り、首筋に冷たい慄きが走った。ギースが受け入れられた合図だ。

「ではその魔導具を渡せ」

 モーリスはスーツケースに番号を打ち込んだ。一度、もう一度。それぞれ別々の番号だ。

 カチリと音がして爆弾が解除されると、スーツケースが開いた。

 魔導士は中からネックレスを取り出すとすばやく布に包んだ。周囲には通行人がいるのだ。これを見られるわけにはいかない。

 軽くネックレスに魔力を流し込むと魔導士は頷いた。

「たしかに古代魔導具です。それも相当強力な。機能はまだわかりません」

 ノーラスはモーリスに向けて右手を差し出した。

「良い取引ができて嬉しかったよ。モーリス」

 それを合図とみたのか背の高い護衛が近づいてくると、爆弾が詰まったままのスーツケースを取り上げて空に向けて放り投げた。恐ろしい膂力だ。スーツケースはまるで鳥か何かのように空高く飛び、川の中に落ちて水しぶきを上げた。

「危ない玩具は片付けないとな」

 護衛の男が呟く。

 ノーラスは立ち上がった。

「さて、モーリス。ここでもう少し待っていてくれないかな? 迎えを寄越す手配をしてあるんだ」

 一人で!?

 モーリスは緊張したが、自分はすでにノーラスの吸血侍従で彼の保護下にあるのだと思い出した。再び隠れ身のフードを被る。

「あまり長く待たせないでください」

「約束する。それほど待つ必要はないさ」

 上機嫌なノーラスはそう言い残すと二人を連れて去った。


 一時間は待たされなかった。

 ベンチの上でじりじりと待つモーリスの前に再び三つの影が落ちた。

 希望と共に顔を上げると、そこにはノーラスの顔があった。だが何かが先ほどと違っていた。

 残りの二人も違う。今度の二人はサングラスはかけていなかったし、一方は髭面だ。

「ノーラスさま?」

「モーリスだな?」ノーラスは言った。「ブツは持ってきたか?」

「あの、何を言っているのです。魔導具はすでに渡しましたよね?」

 モーリスは嫌な汗が背中を滑り落ちるのを感じた。

「何のことだ?」冷たい声。「約束の時間を延ばせと言ったり、魔導具を渡したとか訳が分からんことを言う。まさかこの俺と取引をする気がないと言うのか」

 ノーラスの体が怒りで膨れ上がった。

「待て。待ってください。お願いします。確かに貴方に渡したんです。ギースも掛けてもらえましたし」

「ギース? 何のことだ。俺は何のギースも使っていないぞ」

 ノーラスは背後のボディガードにモーリスの殺害の合図を出そうとしたが、周囲の目に気づいて止めた。大声で怒鳴りあったのだ。注意を惹かないわけがない。

 陽光の下の吸血鬼は無力に近い。ボディガードの人狼にはその制限はないが、人々の注意を惹くことは厳禁だ。対策局は怖くはないが、人前で闇の存在を暴露してしまう行為には、あらゆる魔物のグループから非難が殺到する。彼らの多くは影の中での暮らしに満足している。

 ノーラスはモーリスの横に座った。先ほど偽ノーラスが座っていた丁度その位置にだ。そして、そっと手を伸ばすとモーリスの手を取った。

「いいかい。良く聞きなさい。モーリス」

 ノーラスはできる限り優しい口調で言う。モーリスの顔に希望の光が灯った。

 ノーラスの口調がいきなり変わった。怒りで顔が歪んでいる。

「俺は周囲の注意を惹きたくない。だからお前はこれから俺が何をしようとも、決して声を上げてはいけない。一言でも声を上げたら、お前の首をその場で折ってやる」

 そこまで説明してから、ノーラスはまた優しい顔に戻った。

「いいかい。まずは小指からだ」

 言うなり手の中のモーリスの小指をへし折った。枯れ枝を踏んだかのような音がした。

 あまりの激痛にモーリスは手を引っ込めようとしたが、ノーラスに捕まれた手首は万力に挟まれたかのように動かない。古い血の吸血鬼の筋力は普通人の二十倍に達する。

「しーっ。静かに。泣き叫ぶんじゃないぞ。これはお前が俺を騙した分だ」

「ノーラスさま」

「声を出すな。心を落ち受けて苦痛を楽しむようにするんだ。いいか、これは昼の日中に俺を呼び出した分だ」

 もう一本へし折られた。モーリスは必死で悲鳴を抑え込む。

「これは俺をぬか喜びさせた分」

 容赦なくさらにもう一本。

 モーリスは絶叫したかったが、ボディガードが横に座ってモーリスの首の周りに手を置いているのでそれもできない。こちらも恐ろしい握力だ。

 大粒の涙がぼろぼろと零れた。激烈な痛みに本能が悲鳴を上げる。無残な有様になった自分の手を見つめる。

「ノーラス・・さん。違う。私は・・」

 その口をノーラスの手が優しく抑えた。

「俺はもうお前の声は聞きたくない。言い訳も、悲鳴も」

 後二本。さすがに親指が折れるときは大きな音がした。モーリスの体が抑えようもなく痙攣する。

 ノーラスはモーリスの残骸となった右手を開放し、自分の手を改めて差し出しながら言った。

「さあそちらの手も」


「とんでもない無駄足だったな。帰るぞ」

 そう言いながらノーラスはベンチから立ち上がると踵を返した。

「モーリス。次に俺と闇の中で会ったら覚悟しておけ。楽には死なせんぞ」

 そこでふんと鼻を鳴らした。

「もっともその有様では後数日で塵になりそうだがな」

「そんな。ノーラス様。ギースが! ギースが!」

 無残な有様になった両手を振りながらモーリスは叫んだが、無情にもノーラスたちは立ち去ってしまった。



 スモークガラスの車の中で、ファーマソン神父は椅子に深く体を預けた。運転席ではシェイプシフターのアラバムがハンドルを握っている。顔の横にも目を作り、周囲を油断なく見張っている。


 アラバムが肩越しに紙を私に差し出した。

「我が魔王・・いや、神父。これをお返しします」

 紙片を受け取る。そこには自分が描いたノーラスの精密な似顔絵が描かれている。吸血鬼は写真には写らないのでどうしても手描きの肖像画に頼ることになる。

 くしゃくしゃに丸めて捨てようと思ったが、将来必要になるかもしれないと思いついて、綺麗に畳んでポケットに納める。

 横でネックレスを調べていた魔導士のアーダラクが顔を上げて言った。

「確かに古代魔導具です。処理できる魔力量が桁違いですし、魔法材料が現代のものとはまったく違います」

「そいつにはどんな作用がある?」

「精神操作系だと思いますが詳しくは持ち帰って調べねば判りません」

 答えながらもアーダラクの声に希望が籠る。

「ダメだぞ。アーダラク。研究したいのは分かるがそれはリビアに返さないといけない。対策局がそれを接収したらただちに戦争が勃発する」

「吸血鬼にこれを返してよいものでしょうか?」

 アーダラクは当然の疑問を口にする。

「『究極の三』のような超破壊力を持つ古代魔導具ならともかく、その種のアイテムなら元の持ち主に返しても大丈夫だろう。今までリビアが持っていて問題を起こしたことはないのだから」

「我が君がそうおっしゃるのならば仕方ありません」

 アーダラクはしぶしぶという様子でネックレスを包んだ布ごとこちらに渡してきた。本当に残念そうだ。少し胸が痛んだが、彼の望みを叶えるわけにはいかない。

 古代魔導具を研究できる折角の機会を失い、あまりにも残念なので、アーダラクは無理にでも話題を変えたようだ。

「しかし究極の三はいったい誰が持っているのでしょう。伝説では恐ろしい破壊力を持つと言いますが」

「ああ、それなら天界の宝物庫にあるぞ。もっとも今は『究極の二』だが」

 ネックレスを目の前にぶら下げて見ながら迂闊にもそう答えてしまった。いけない、このネックレス。見ているだけでも精神干渉を引き起こすぞ。

「なんですと!」

 アーダラクの手が伸び私の肩を掴む。

「我が君。どうか、今すぐ天界に連れて行ってください。お願いです」

「ダメだ」私は冷たく言い放った。

「君はあれを分解するつもりだろう。それで暴走したら天界都市が消滅してしまう」

「大丈夫です。我が君。対策局の私の自室に持ち帰って調べますから」

「それはなおさら悪いぞ」

 思わず厳しい声になってしまった。あれを絶対に渡してはならない相手がいるとしたら、それはこの魔導士に他ならない。

「お願いです。我が君。見るだけ。見るだけだと約束しますから。絶対に触りません」

 そこまで言ってからアーダラクは何かに気づいた。

「究極の二ですと? 究極の三ではなく?」

「ああ。一つは私が使ったからな。ほら、あの闇大戦の最後で、悪魔たちの要塞である万魔殿が半分吹き飛んだだろう。あれだ」

 ああ、いかん。また口が滑った。

 私はもっと見ていたいという欲望を抑えながらネックレスを布で完全に包むと懐に納めた。これは本当にヤバイ代物だ。

「あれは我が君の仕業だったのですか!」

 アーダラクは目を剥いた。

「いや、ちょっとあの城に穴を開けるつもりだったのだが。まさかあそこまでヤバイ代物だとは思わなくてな。あれの目盛りをもう一つ進めてなくてよかったよ」

 魔導士は毒気を抜かれて椅子に力なくもたれかかった。

「今の話も秘密だぞ」念を押しておく。

 まあ今回の作戦ではアーダラクが作ったスパイ装置が役に立ったから、後であの魔導具の絵でも描いてやろう。彼ほどの魔導士ならそこからも何かを汲み取るだろう。

 もちろん例えできるにしても、あれのコピー品などは作らせないが。作ったりしたら取り上げて太平洋のど真ん中にでも捨ててやる。それとも妖精の道の誰もたどり着けない闇の中に投げ込むというのがいいか。


「しかしあのギースの帳はどうやったんです?」

 そう訊ねたのは運転席のアラバムだ。

「簡単だ。君はノーラスに化けていただけだからいかにギースを掛けようが、ノーラスに特化した契約のギースは最初から働かない。その代わりにアーダラクがギースに似た魔法の感覚を作り出したんだ。モーリスはただの半吸血鬼だし魔力も無ければ魔法も使えない。だからあの偽物のギースを見抜けなかった」

 私は車の外を眺めた。彼を騙した罪悪感が少しだけある。だがモーリスの死の原因はひとえに夜の女王リビアから盗みを働いたことにある。古き血の吸血鬼女王なのだ。この世にこれほど確実な死刑執行令状はない。

「彼がもっと魔法の経験豊かだったら騙せなかっただろうな」

「お見事です。我が魔王、いえ、我が神父」アラバムが感想を述べる。

 私は十字を切った。

「神よ。我が詐術の罪を許したまえ。アーメン」


 存在しない神に許しを請わねばならないとは、本当に奇妙な話だ。

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