暗夜行(3/7)
この犯人もしくは犯人たちは驚くべき行動に出た。
自ら迎えを寄越したのだ。
私は指定された街角に立ち、迎えの車が来るのを待った。
周囲は対策局の面々が幾重にも監視網を張り巡らせている。物理的なもの。魔術的なもの。魔獣的なもの。透視能力から超聴覚までずらりと勢ぞろいしている。子供たちつまり神学生たちは普段から各局員の一人を選んで子弟の絆を結んでいる。だからどの局員の目も必死になっている。
それは私も同じだ。だから色々と仕掛けを用意した。
待ち合わせの時刻になると黒塗りの大型のバンが現れた。
運転席に一人、バンの中に二人。匂いからするといずれもただの人間だ。
男の一人が私の前に来ると、伝言を述べた。
「写真で見た通りの顔だ。あんたがダークだな。先に言っておくが俺たちは何も知らない。昨日雇われたばかりなんだ。あんたを指定の場所に送り届ければ俺たちの仕事は終わり。雇い主の顔も知らなければ名前も知らない。だからあんたも指示に従って欲しい。何か大事なものがかかっているというじゃないか」
なんとご丁寧なこと。
「分かった。どうすればいい?」
相手はただの人間だ。倒すのは容易だが人質を取られている以上はそうもいかない。
まずは情報を手にいれねば。動くのはそれからだ。
この機会を逃さず過去透視能力者は彼らの昨日に遡って雇主の情報が得られるかどうかを試している。私はと言えば人狼の嗅覚を使って彼らのひどい臭いの中に手がかりがないかを探っている。
うえ、こいつらが前に風呂に入ったのはいつのことだろう。
男の合図でもう一人がバンの後部から車椅子を運んできた。
「まずこいつに座ってもらおう。それからこれだ」
取り出したのは中に何かの液体が入っている注射器だ。
「心配するな。麻酔薬だ。かなり強力だがな。なんでもあんたには普通の薬だと効かないらしく特別製だとさ」
危険はないのか? もちろん危険はある。
男たちが嘘を教えられていてその注射器の中身が猛毒という可能性がある。だが私は大人しく腕を差し出した。
その度胸の良さには感心する。ダークはいつも躊躇わないことで有名な男だった。
注射器が空になると眠りに落ちた様子で車椅子の上でぐったりとする。心臓が動いているのを確認した上で男たちはバンに車椅子を詰め込むと発進した。
誰もそれを止めない。だが密かに追跡の者たちは動き始めた。
バンはいくつか大通りを通り抜けた後、さらに人気のない郊外へと出た。ビルの数が減り、周囲は荒地に変わる。
やがて日が暮れると、夜の道に霧が出始めた。
問題の車の背後で尾行していた車の中では、濃くなる一方の霧を通して先行するバンのテールランプを追っていた。やがてそのテールランプが左右二つに割れた。
そこまで来て初めて自分たちが追っていたのが二台のバイクのテールランプであることを知り、尾行が撒かれたことに対策局員たちは驚愕した。
各国諜報局よりも腕が良いと言われる彼らの自慢のテクニックが通用しなかったのだ。
車椅子の下に張り付けておいたGPS発信機の信号もいつの間にか途切れていた。
慌てて対策局の覗き屋たち、つまり透視能力者の部門に連絡が飛んだが、彼らもいつの間にか眠りに落ちていた自分に気づいて小さな悲鳴を漏らす始末であった。
あらゆる魔術的追跡はすべて無効化されていることに気づき、対策局員たちは途方に暮れた。
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