キミの横で眠るのが、一番安心する

CHOPI

キミの横で眠るのが、一番安心する

 ……眠れない。自分はいつの間にこんなに繊細な人間になってしまったんだ、と一人胸の中で呟いた。前は枕が変わっても、場所がどこであっても、お構いなしにどこでだって眠れる体質だった。それが今ではどうだろう。キミのぬくもりが横に無い、たったそれだけで眠れなくなるなんて。全く、どうかしているなぁ、と自分でも呆れてしまう。


 布団の中で何度寝返りをうってみても、どうもしっくりくる体制にならない。頭の中が嫌に冴えていて、目を瞑ろうと意識をしているのにも関わらずあまりに眠気が来ないせいで何度も目を開いてしまう。こんな夜はいっそ諦めてオールするに限るな、そう結論に至ってベッドから抜け出した。昼間はもう随分と温かいけれど、この時間はまだまだ肌寒さを感じて、薄手のカーディガンを羽織ってベランダへと出た。


  空を見上げると、今夜は満月だった。目が慣れれば月明りだけで充分明るい。頬を撫でる風が涼しくて、心地の良い季節。こんな夜は、キミと夜空を見上げるのが好きなのになぁ。……あぁ、またキミのことを考えている私がいる。キミは今頃、どうしているかな、なんて。


 キミがいないのはたった数日、されど数日。いつも横にあるぬくもりが感じられないだけで、こんなにも寒いと感じるなんて思わなかった。与えられる優しい甘さが、いつの間にか当たり前にそこにある生活になっていた。



 正直、前はこんなに弱くなかった、と思う。一人でいることに慣れていたし、元々他人とのかかわり合いはあまりしたくないタイプだし。キミと出会った頃はキミとの付き合い方が分からなくて、キミのその優しさを持て余していたくらいだ。だからこそ今、自覚のない自分の変化に驚いた。


 『キミがいないとダメみたい』

 そんな言葉、少女漫画でしか見たことも聞いたことも無い。なんなら、時代錯誤もいいところなのかもしれない、砂糖菓子みたいな甘さの言葉。だけど、そんな歯の浮くような言葉が頭に浮かんでくるくらいにはもう、キミに甘やかされすぎていて、そしてそれが日常に溶け込んでしまっているのだと思う。


 人は知ってしまったら、知る前には戻ることが出来ない。それならばいっそ、キミの優しさを知らないままだったら、と考えた。それならきっと今でも、私は一人で平気だったと思う。たまにあるこういう眠れない夜の超え方なんて、ただひたすら暗闇に思考を溶かして耐えるだけで良かったはずだった。そこまで考えて、でも、と、立ち止まる。キミの優しさを知る前に戻りたいか。そう考えたら、それは否だった。


 キミに出会ってからは、こうやって眠れない夜が来ると、甘やかしてくれるキミの腕が、気が付けば必ず朝へと導いてくれた。キミの腕の中で迎える朝は、暖かくて優しくて、もうそれだけで他の事はどうでもよくなるくらいで。この心地よさを知らないままだったら良かった、とはどうしても思えなかった。



 優しく吹く風が頭を柔らかく撫でるたび、いやに冴えてしまってフル稼働している思考を少しだけ、紛らわせてくれる気がした。でも残念ながらまだまだ眠れそうにはなくて。こうやって一人で超す夜はどうしたって長い。月を見ながら、早くキミに帰ってきてほしい、なんて思う。


 キミが帰ってくるとき、きっと私はちょっと寝不足だろうな。

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