クライアント『無魔力の錬金術士』

俺は勝手知ったるある屋敷のドアを開ける……と言うかこのドアは俺が開けようとすると勝手に開くのだが……一体どういう仕組みなのだろうか?


「やあ、ジャスティン。久しぶりだねぇ~」


俺を迎え入れてくれたのは俺の命の恩人で、左腕を失った俺に魔改造された義手を取り付けた錬金術士のリックである。

俺はこの錬金術士だけは頭が上がらない。命を助けてくれただけでなく、この俺に生きる道を示してくれた言わば恩人であるからだ。


「2ヶ月ほど仕事で拘束されてたからな。それで……」


「分かっているとも。義手のメンテナンスだね?他は?」


「他は問題無い」


「了解。じゃあ外すとしようか」


リックは勝手知ったる俺の義手と言わんばかりに義手を根元から外すとそのままデカい『錬金釜』にぶち込んだ。どうも機嫌が良すぎる……また何か考え付いたのか?


「……また何か取っつけるのか?」


「ああ、とても良いアイデアが思い浮かんでね!少し待っててくれ、直ぐに新品にするからさ!」


そう言うとリックは『錬金釜』に取り付いているピアノの鍵盤の様な物を両手で打鍵しながら、水晶玉に映る見た事もない文字をどんどんと打ち込む……リックはこの打ち込む文字の事を呪文【スペル】だと言っていた。いつ見ても不思議な光景だ。リックは『無魔力の錬金術士』と異名を持つ錬金術士で、普通の錬金術士と違い俺と同じく“魔力無し”である。その為にこの特殊な『錬金釜』を創り出し色々な物を生み出している。その『錬金釜』に必要な魔力は魔石を使っているので魔物を狩って魔石を得る必要がある。俺はそれを冒険者ギルドの指名依頼として引き受けているのだ。そうする事で俺の冒険者レベルは上がり、更に強い魔物を狩る事が認められる。強い魔物からは更に良質の魔石が取れるので双方に利があるのだ。更にリックは俺を使って錬金術で創作した魔導具を試験台として使えるので本人曰く“2度美味しい”らしい。まあ、試験台にされる俺はたまったものではないが……。

リックが呪文【スペル】を打ち終えて水晶玉を見ている。すると何かしらの素材の名前が水晶玉に映し出される。それが創り出す魔導具に必要となる素材なのだ。その素材を取って来て『錬金釜』に入れて『創造』すると魔導具が出来上がるのだ。そして水晶玉に現れた素材は3つである。


オークジェネラルの牙‪✕‬5本


オリハルコン✕‬1350グラム


精霊石(碧)‪✕‬1個


「オークジェネラルの牙は有るし、オリハルコンは在庫も有るから……後は精霊石(碧)だなぁ。しかしコレは……う~ん……」


リックは頭を抱えていた……まあ、そうだろうな。精霊石自体が中々貴重な品で簡単に手に入らない物なのだが、更に精霊石(碧)は上位精霊からしか手に入らないという更なる厳しい難易度となるのだ。リックは本棚の書物を取っかえ引っ変えしながら見ていたが、その内の一冊を見て動きが止まっていた。


「どうした?それになに……」


「うおおおおぉ!コレだ!!ち、ちょっと見て見て!!」


何かリックが興奮気味にその読んでいた書物を俺の方に持って来る。


「ほら!ここを見て!」


その書物は『異端の冒険者』の名で知られている伝説のS級冒険者カルディオ=ローザンヌの日記の原本であった。彼は冒険者ギルドが困難だと認定した依頼のみを請けて、それを達成させると言う天才冒険者であった。彼が最期に依頼を請けた『オリベルド神の祈り』は100年経った現在でも唯一最高難度の依頼として未だに達成されていない。その彼の日記は原本が12巻あると言われており、その内の3つをリックが所有している。


「『聖クリエステルの湖』に現れる精霊竜リタの“五つの試練”の一つ『碧の試練』を乗り越えて精霊石(碧)を手に入れたと書いてあるよ!」


「ああ……しかし『聖クリエステルの湖』はアルザス聖教の聖地だぞ。一般人は入る事さえ出来ないな」


「そうだね……でも君なら伝手があるだろう?」


そう言ってリックは悪そうな笑みをたたえ俺の返事を待っていた。





数日後、俺はとある人物と面会する為にアルザス聖教の総本山である『ドミューゲル中央聖教会』に足を運んだ。入口に居る教会の聖騎士に連絡を取ってもらい許可が出るまで30分ほど掛かっている。


「お待たせした。どうぞお入り下さい」


「手間を取らせたな」


「いえ、問題御座いません。後はあの者がご案内します」


そこには白い教会のローブを着た若い男が居た。


「アルザレス枢機卿がお待ちです。此方へどうぞ」


「ありがとう。宜しく頼む」


俺が頼ったのは“黒の枢機卿”ことイワン=アルザレスである。彼からの指名依頼をこなしている俺は今回の件を彼に口利きして貰おうと時間を取って貰い教会にやって来たのだ。リックは俺が彼からの指名依頼をこなしているのを知っているからな……だから意地の悪い笑みを浮かべていたのだ。

久しぶりにやって来たこの教会の地下にアルザレス枢機卿は居る。彼は表舞台には出て来ない人物なので、地上に居る“表の”枢機卿の連中とは違うのだ。そんな裏方ではあるが、彼はこのアルザス聖教の中で教皇に次ぐ影響力を持っている。そして教会きっての武闘派でもある。地下にある趣味の悪い回廊を通り抜け彼の居る部屋の扉の前まで案内された。


「しばらくお待ち下さい」


此処で案内してくれた白いローブの男が何やら呪文を唱える……なるほど、この前に結界を張っているのか。何か知らんが前より随分と厳重だな……。

結界を解くと扉をノックして中へと入る。

中には見慣れない聖騎士の連中が四人いる。前もこんな事は無かった……警備を付けるなんて一体何が……。


「いやあ、お待たせしたね。君がここに来るなど珍しいな」


アルザレス枢機卿は久しぶりに顔を合わせるなり親しげに話し掛けてきた。この人は何時ものままだな。


「お手間を取らせて大変申し訳ありません。実はアルザレス枢機卿にお願いがあって参りました」


「ほう、君が私に頼みなんて珍しいな。まさか彼女の事かい?」


「いえ、それとは別件です。実は枢機卿に御力をお借りしたくて参りました。実は冒険者としての依頼で精霊石(碧)を持ち帰る案件が御座いまして……」


「……精霊石(碧)……なるほど。それで『聖クリエステルの湖』に行きたいという訳だね?」


「ご存知でしたか……流石ですね」


「君がどうやってその試練の話を知っているのかは理解に苦しむよ。何せ教会でも知る者は枢機卿クラスだからね。まあ、君ならば問題無かろう……何とかしよう」


「助かります」


「ところで……彼女は君から見てどうだい?」


「そうですね……真面目ですね、馬鹿が付くくらいには」


「フハハハハ!やはり君から見てもそうなのか?」


「そうですね。真面目は良いのですが、アレは度を越してますよ」


「うむ、それは私も同じ意見だ。ここの所彼女には休暇を出してるにも関わらず毎日の様にここに押しかけてくるよ……仕事が無いのかとね……」


「全く……困った奴ですね……この間も休む時には休めと説教したばかりなのですが……」


「そうだったな、その話も彼女から報告に受けてるよ。気を使ってくれてありがとう」


「いえ……一応相方なので」


「そう言ってくれると助かる……がもう一つの件も忘れない様に……」


「心得ております、御安心を」


「ああ、引き続き宜しく頼むよ。では『聖クリエステルの湖』の件は了解した。1週間ほど時間を貰えるかな?」


「はい、お手数お掛けします」


「構わんよ。他ならぬ君の頼みだ、断る訳には行かないさ。但し、試練は過酷だぞ?君と言えどもかなり危険だ。十分に気を付け給えよ」


「御注進感謝致します。ではこれで……」


アルザレス枢機卿は手を挙げた後、そのまま部屋の奥へと引き上げて行った。かなり厳重な警備に関しては何も話さなかった……向こうが言わないのなら聞くだけ野暮だからな。俺はそのまま部屋を出て、待っていた男に連れられて教会の外まで出て来たのであった。




1週間後、教会より許可証が届いたので『聖クリエステルの湖』に向かう事にした。王都からは馬車で1週間程の距離だが、今回はリックが良く使っている馬車ゴーレムを借りて来た。これだと休み無しで走り続けるので半分程の時間で到着するからだ。勿論、馬車の乗り心地は最高である。寝泊まりも更にトイレまで走ったまま中で出来るので、俺はたまに休憩するぐらいだ。本当に便利な馬車である。

道中は何も無く、俺は3日で『聖クリエステルの湖』の結界が張られてる検問所の前までやって来た。検問所には教会の聖騎士が警備をしている。何せ聖地だからな……警備は厳重である。俺がアルザレス枢機卿からの許可証を出すと聖騎士達は驚いた様な顔をしていた。まあ、実質教会No.2のアルザレス枢機卿の書名入りの許可証などあまり出てこないのだろうな。


「確認致しました……では、ご案内します。中へどうぞ」


「世話を掛けて済まない」


「いえ、お気になさらず……此方へどうぞ……」


そう言って馬に騎乗した聖騎士に案内される。俺は馬車でその後を走らせる。この結界は湖の周りの森までかなり広大な土地を覆っている様だ。湖に着くまで徒歩だとソコソコ掛かりそうである。30分程だろうか、聖騎士の馬が歩みを止める。


「此処からは徒歩でお願いします」


「分かった。少し待ってくれ」


俺は馬車に積んである荷物……と言っても魔導袋と剣くらいなものだが、それらを用意して聖騎士の前まで行く。


「湖はその先です。私はこのまま戻りますので終わったら検問所までお戻り下さい。もし、帰らずに1週間経ちましたら捜索隊を出します」


「ああ、そうならない様に頑張るさ」


「……では、ご武運を……」


聖騎士はそのまま検問所の方に戻って行った。ご武運を……という事は俺のする事を知っているという事だな。俺は歩いてその先の方まで向かう。しばらく進むと森が開けて前の方に湖が見えて来た。中々幻想的で美しい湖だな。俺はそのまま湖の近くまで歩いて行く……すると湖の中心か盛り上がっていきその中から巨大な青い水竜の頭がゆっくりと出現する。コレがこの湖の精霊であり主である『精霊竜リタ』である。聖クリエステルの召喚精霊として付き従った精霊竜リタは聖クリエステルが亡くなったこの地に聖なる湖を作り、その湖の底に封じてある聖クリエステルの棺を護り続けているという。


《良く来た人間よ……我の試練を受けに来たのか?》


「俺はジャスティン=アークライト。精霊竜リタの試練『碧の試練』を受けに来た」


《ほう……『碧の試練』とな?……》


精霊竜リタはその竜眼で俺を見据えている。恐らくは俺のステータス等を調べているのだろう。精霊竜は鑑定の様な能力を竜眼で使えるからな。


《ふむ……無魔力でこのステータスは異常というしかないな……フフフ……面白い、どれだけ出来るか見てやろうぞ》


その瞬間に俺の身体は何処かに飛ばされた様な感覚に襲われる。そして先程の幻想的な湖とは打って変わった不毛の大地に立っていた。そしてオレの前には硬そうな甲羅を持った大きな青い地竜が立ちはだかっていた。


(コレが『碧の試練』の相手か……厄介そうだな……)


そう思った瞬間地竜は回転して横殴りに尻尾を振ってくる。俺は宙を飛びそれを避けながら左腕に装填された薬莢の魔力で先ずは炎の魔法を発射する。


「ファイヤーカノン!!」


左腕から発射された業火の魔法は地竜に到達する寸前、地竜が口から吹き出した巨大な氷の塊に相殺されてしまった。俺は着地すると左腕から空の薬莢を排出し、直ぐに新たな薬莢を突っ込んで地竜に攻撃を仕掛ける。


「サンダーカノン!!」


その魔法を見て地竜は硬い甲羅に素早く頭を引っ込めた。そして甲羅でサンダーカノンを防いだ地竜はすぐ様頭を出してデカい氷柱を吐き出してくる。俺は服に仕込んである『加速の魔法陣』を発動させて直ぐに攻撃を避ける。そして更にマントに仕込んだ魔導具の隠密魔法により相手の視界から消えた。地竜は一瞬俺の姿を見失って固まった。そこを逃さず俺は地竜の至近距離まで踏み込んで地竜の首目掛けてサンダーカノンを撃ち込んだ。地竜はサンダーカノンにより麻痺状態となり動けなくなっていたので黒い刀を抜いて動けない地竜の首を斬った。


「カキーン!」


「なっ!硬ぇな!!」


俺は直ぐに左手の爪を首に突き刺した。その瞬間、物凄い叫び声を上げる地竜に俺はそのままサンダーカノンを直に撃ち込もうとしたが、麻痺状態から回復した地竜が首を振った為に、俺はそのまま弾き飛ばされてしまう。俺は右腕とあばら骨をやられたが、直ぐに自動的に回復魔法が発動されて仕込んでいた魔導具の魔石が割れた。残りはあと二つ……しかも完全に傷が癒える訳じゃない。痛みはソコソコ残っているし右腕も動きが悪くなっている……かなり厳しい戦いになりそうである。そうそう時間もかけていられない様だ……俺は直ぐに移動して地竜の氷柱を掻い潜りながら再び傷を狙って回り込もうとしたが、地竜はそれを読んでいて俺が移動した場所に氷柱を吐き出した。完全に直撃するタイミングであったが……それを全て読み切った上で俺はあえて地竜の氷柱を受けたのだ……右手に持った黒い刀で……。そして氷柱は黒い刀に吸収されて大きな口を開けたままの地竜に左手が発射された。


「【飛掌術】!!」


その凶悪な左手は大きく開いた地竜の口から入り込んで身体の中をズタズタに切り裂いて行く。苦しみのあまりその場でのたうち回る地竜に俺は更に魔法を放つ。


「ファイヤーカノン!」


開いた口の中に発射された業火の魔法が地竜の内蔵を焼き尽くしていく。そして地竜は遂に倒れて動かなくなった。そして地竜の口から左手が元に戻り手首に装着されるとアーティファクト冷却用の排気口から湯気が吹き出した。

何とかギリギリの勝利であった……やはり地竜の力は半端ないわ……などと考えながら黒い刀を杖代わりに立っていた。


そしてまた身体が何処かに飛ばされた様に感じた瞬間に俺は再び湖の前に戻ってきたのだ。


《うむ、良くぞ我が『碧の試練』に打ち勝った。その胆力と知略には我も驚かされたぞ。見事である》


「……ハァハァ……伝説の精霊竜リタにお褒め頂き光栄だな……」


《エーダルウォーター》


精霊竜リタが魔法を唱えると俺の身体のダメージが完全に癒えていた。流石は精霊竜の精霊魔法である。


《では、ジャスティンよ……『碧の試練』に打ち勝った証として其方にこれを与える。受け取るが良いぞ》


そう言うと俺の目の前に青い光の玉がゆっくりと降りて来る……それを手に取ると精霊石(碧)に変わった。


「ありがたく頂戴する」


《うむ。それとな、これは我からの特別な褒美である。受け取るが良いぞ》


すると突然湖から何かが飛び出して来て俺の頭の上に冷たい何かが乗っていた……。俺が右手で頭の上に乗った何かを捕まえると偉く柔らかい。見てみるとコバルトブルーに光っている……少し大きなアマガエルであった。


『ケロケロ!』


まるで離せと言わんばかりに鳴いたので思わず離すとまた頭の上に飛び乗った。


『ケロ~♪』


「……コレは何かの呪いか何かですか…… ね?」


《フハハハ!どうやら其方の頭の上が気に入った様だな。其れは我の眷属である精霊蛙であるが、どうやらジャスティンの戦いぶりを見て其方を気に入った様だ。可愛がってやってくれ》


「精霊蛙……もしかしてあの……」


《お主も知っておるであろう?『アルタイルの蛙』の話を……》


『アルタイルの蛙』と言うのはアルザス聖教の古典『マルガレイラ』に記されてある有名な説話である。

太古の昔、カリドウス帝国という国にアルタイル=リュナスという者がおり『常勝の軍師』と誉れ高い天才軍略家であったという。その天才故に「我の知略には神すらも霞む」と豪語していたという。そのアルタイルの元にコバルトブルーに輝くアマガエルが神より遣わされた。そして神は《その者と軍将棋をやり勝つ事が出来たら其方を天界に招こう》と仰った。アルタイルは「たかが蛙などが我に勝てる筈がない」と自信満々で軍将棋を打ったが、何度やっても1度たりともアルタイルは蛙に勝てなかったと言う。それによりアルタイルは自らの未熟を知り、その後は奢る事無く常に勉学に励んだと言う……。これが世に伝わる『アルタイルの蛙』の物語である。


「この蛙が……その『アルタイルの蛙』ですか?」


《アレはその功により天界に居るよ。その者はそれの血筋の者であるぞ。魔力を持たぬお主が持てる知略を尽くし地竜を破ったその姿に痛く感動した様でな、是非ともお主の元で学びたいそうだ。この精霊蛙は我の眷属として水の精霊魔法使えるでな。必ずお主の役に立つだろう》


「……俺の元に居てもさほど学ぶ様な事も無いとは思うが……」


《其れはその者が自ら考えれば良い事だ。お主は何も気にせずとも良い。さあ、その者に名付けをして契約を結ぶと良いぞ》


「名付け……蛙……良し、お前の名前は“エル”なんてどうだ?」


『ケロロ~~♪』


精霊蛙はひと鳴きすると身体が光り出した。そして、俺の右手に精霊紋が浮かび上がった。どうやら契約が完了した様である。頭の上のエルはご機嫌なのかケロケロと鳴いている。


《では、ジャスティン……エルの事頼んだぞ。何か有ればまた此処に何時でも来ると良いぞ。エルが居ればこの湖には何時でも来る事を許可する。教会の者には我の眷属から話をさせよう》


「感謝する。それでは引き上げるとしようか」


精霊竜リタはそのまま湖に潜っていった。

そして俺は頭の上にこだわるエルを乗せたまま馬車へと戻った。そして、検問所まで戻って来ると検問所に居た全ての聖騎士達が整列して待っていた。


「オイオイ……どうなってんだ?」


『ケロケロ~』


すると俺を送ってくれた聖騎士がやって来て俺と頭の上のエルを確認すると、俺の前で全員が膝まづいた。


「ジャスティン殿、『碧の試練』の達成、そして精霊蛙との契約も合わせておめでとうございます」


「あ、ああ……しかしどうして??」


「先程、精霊竜リタ様の眷属からお言葉を頂戴しまして、ジャスティン殿の偉業をお聞きしました」


あ~こりゃあ面倒な事になったんじゃないかと考えたが、今更なので考えない事にした。


「なるほど……では俺はこのまま戻る。世話になった」


「いえ、これが役目なれば……ジャスティン殿、また何時でもお越し下さい」


「機会があればそうしよう。では」


俺は急いでリックの元に帰る事にした。まあ、帰ったら帰ったで面倒な事になりそうだが……。





そして3日後……俺は街に戻るとそのままリックの屋敷に戻った。開けようとするとまた勝手に扉が開いた。それを見てエルは興味深げに鳴いている。


「ジャスティン!思ってたよりも随分と早く帰って来たね!……って言うか……その頭の上のアマガエルは何だい?」


「精霊蛙のエルだ。俺と契約を結んだ」


「……はぁぁ???精霊石を取りに行って何で精霊蛙を連れ帰って来るんだ??」


俺はリックに精霊竜リタの事、『碧の試練』に打ち勝って精霊石(碧)を手に入れた事、そしてその試練を見て感激したエルが俺と契約した事、精霊竜リタから『聖クリエステルの湖』に何時でも立ち入れる許可を貰った事を話した。


「何か凄い怒涛の展開だなぁ……初めましてエル殿。僕はリックだよ。錬金術士をやってるんだ、宜しくね。僕は『アルタイルの蛙』の話は好きなんだ。僕の国では『井の中の蛙大海を知らず』って言うのだがね。此方では蛙がその大海を教える所がミソだよね!」


『ケロ!ケロケロ?』


「いのなかのかわずって何だ?だってさ」


「井戸の中の蛙って意味だよ。狭い知識にとらわれて物事の大局的な判断が出来ないって意味さ」


『ケロケロロ~』


「なるほど、良い事を教わっただとさ」


「アハハ、大した事じゃないさ。それにしてもあの『アルタイルの蛙』の血筋の精霊蛙と契約とか正に快挙だね」


「うむ……俺には良く分からんが……」


「……おいおい……まあ、ジャスティンらしいと言う感じだがな。さて、いよいよ改造のお時間ですよ!さあ、精霊石(碧)を出し給えよ!」


俺は何か偉そうなリックに精霊石(碧)を手渡した。そしてリックが俺の左腕を外すのを俺の肩の上でエルが興味深そうに見ていた。そして左腕と精霊石(碧)、オークジェネラルの牙を5本入れて、最後にオリハルコンの塊を『錬金釜』へと突っ込んだ。そして何やら呪文【スペル】を打ち込んで居るとエルがリックの肩の上に乗り食い入る様に見ていた。


「ん?エル殿は呪文【スペル】に興味あるのかな?」


『ケロケロ!』


「そうか、そうか。えっと、コレが……」


何やら呪文【スペル】を打ち込みながらエルに色々と丁寧に教えるリックは随分と楽しそうである。俺は予め左腕から抜いておいた煙管に、拒絶反応を抑える薬草の煙草を入れて火を点ける。


「フゥ~~」


紫色の煙が出る煙草を吹かしながらリックがエルに講義してる姿を眺めていた。


それから2時間後……。

遂に錬金釜から俺の左腕が改造されて出て来た。一見して大きく変わってない……と思ったが、手の部分と指の部分が何か大きく変わっている。つまりこの改造は【飛掌術】に関する何かであると解釈出来る。


「さて、今回の改造は指と爪に関する物である。君の意思で指先が有線で離れて自由に動かせる事が可能だ。そしてその指先の爪がかなりパワーアップしてるし、長さや大きさも変化するよ。自分で言うのも何だがかなり凶悪な仕様になってるね」


俺は先ず爪の長さや大きさを変えてみた。すると今までの爪よりも2倍は長さと太さが大きくなった。かなりの魔力が流れており、リックが用意した案山子の頭に爪が食い込んでズタズタになった。


「おお、凄いな!エリック兄弟もビックリのアイアンクローだね!いや、オリハルコンクローか!ハッハッハ!」


そのエリック兄弟が何者かは全く知らんが、リックがご機嫌で話してるので放っておく。そしてその指先を飛ばしてみる……すると飛ばされた爪の後ろから光の糸が指に繋がっている。それが自分のイメージ通りに動かせるので案山子に5方向から色々な攻撃をする事が出来た。しかもこの攻撃は【飛掌術】よりもアーティファクトに負荷が掛からないので時間を気にしなくても良い様だ。また、魔導キャノン砲の威力も5割ほど上がっていると言う……コレはダンジョンにでも行って要検証だな。


「うんうん、かなり良い出来だ。コレで君の戦術の幅も拡がったろう?」


「確かに悪くない。アーティファクトに負荷が掛からないのはかなり助かるからな」


「勿論【飛掌術】との併用も出来るから上手く使ってくれ給えよ」


「そこら辺は訓練次第だな。コレはどの位まで伸びるんだ?」


「そうだな……理論的には20メーター先まで伸びるはずだが、そうすると動きが緩慢になる可能性があるから10メーター位が実用に耐えうる長さじゃないかな?」


「なるほど……分かった。コレも要検証だな」


『ケロ!ケロロ!』


「ん?早速ダンジョンに行きたいってか?」


『ケロ~』


何故か知らんがエルが言わんとする事が理解出来てしまうのは契約により繋がっているからなのだろうか?


「よし、じゃあ早速検証しに行くか!」


『ケロケロ!』


「気をつけて行きたまえよ。くれぐれも油断しない様にね」


こうして俺はエルとダンジョンに向かった。そして俺はエルの力量を知る事になるのだが……その話はまた別の機会に……。




◆◆◆◆◆◆◆




『……という訳でジャスティンの出入りを許可するとの仰せであるぞ』


「心得ました。周知徹底させますので御安心をと精霊竜リタ様にお伝え下さい」


『うむ。その様に伝えておく……では、さらばじゃ』


そう言うとアルザレスの前からフワフワと海月の様な精霊が上へと浮かび上がり、そのまま天井を素通りして消えてしまった。


「まさか……精霊竜リタ様に気に入られるとはな……驚いたぞ」


すると警備の白いロープの男……ジャスティンを案内した男が口を開く。


「私も驚いております……しかも精霊蛙と契約とは信じられませぬ」


「うむ……しかしコレでジャスティンの立ち位置は今までより大きく変わるぞ。何せ“精霊竜の加護”が付いたという事だからな」


「……どうでしょう、ジャスティン殿を此方に取り込んでしまっては?」


「……いや、下手に動かずにこのまま良好な関係性を保つとしよう。但し、監視……というより警護が必要かも知れぬぞ」


「確かに……では私の手の者を着けるとしましょう」


「そうだな……お前の手下ならば問題無かろう。くれぐれもジャスティンには気付かれない様にな」


「御意に……では之にて……」


白ロープの男は部屋から引き下がった。


「フフフ……ジャスティンよ、君には驚かされるよ……見てて飽きないな……」


そして何かを思い出すかの様に天井を見上げる。


「流石に血は争えぬ……と言う事かな……そうは思わぬか?エステイシアよ……」


そう言って目を閉じる黒の枢機卿であった。

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