ギミックウォーリアー!隻腕の傭兵は魔改造の義手で敵を駆逐する。

鬼戸アキラ

クライアント『裏聖女』

「ウラァァ!!」


俺は飛んできた敵のファイヤーアローを右手に持っている黒い刀で斬りながら魔力を吸い取った。そして返す刀で炎魔法の斬撃を相手に飛ばした。

俺は今、クライアントを守りながら敵に攻撃を仕掛けている真っ最中だ。相手は邪教集団【アミナスの眼】の狂信者共である。クライアントは教会から此奴らの殲滅と“とあるアーティファクト”の回収を命じられている。俺はそのクライアントの警護の為に雇われた傭兵ギルドの傭兵である。


(まだ、掛かるみてぇだな……仕方ねぇ……)


俺は黒い刀を前方の地に突き刺し、腰にあるリボルバーからデカい薬莢を取り出す。義手である左腕の肘を直角に曲げ肘にある銃身の穴にそのデカい薬莢を上向きに装填する。そして肘を伸ばして鋭い爪のある掌を開くと銃口が飛び出す。俺は左腕を伸ばしたま敵の方角を狙う……。


「サンダーカノン!!」


銃口から広範囲魔法が発射されて敵に直撃する。

俺はそのまま左肘をまた直角に曲げて、右手で排出された空の薬莢を受け取り、その空の薬莢をリボルバーに戻す。リボルバーはカチリと回り、空の薬莢に魔力を充填するのだ。


「ジャスティン……準備完了よ……退きなさい」


「あいよ……」


俺はクライアントの横に避ける。

そしてクライアントは敵の方向に魔法を繰り出した。


「喰らい尽くせ!【カルバドス】!!」


クライアントが放った黒紫の魔力が敵集団に襲いかかった!その魔力に巻き込まれた敵がまるでマリオネットの糸が切れた様に力無く倒れて行く。そして誰一人として動いている者は居なかった。

その後、クライアントは一帯を調べていたが直ぐにため息をついた。


「はぁ……此処にも無いわね……」


「おいおい……ウソだろ?個々でもう3箇所目だぞ……今回引きが悪過ぎだろ?」


「……仕方ないでしょ。次行くわよ……始末をお願い……」


「へいへい……」


こうして目的の品が無かったので俺は再び左腕の義手を直角に上げ、リボルバーから薬莢を取り出し装填する。そして肘を伸ばして銃口を出した後、手首のリングを回して印に合わせてあった『雷』の古代文字から『炎』の古代文字に印を合わせる。そしてそれをくたばってる連中に向けて発射した。


「ファイヤーカノン!!」


広範囲炎魔法によりそこに転がっていた死体を全部焼き尽くす……コレがアンデッドにならない為である。こうして3発ほど充填しながらファイヤーカノンを撃ち込んでやった……迷わず逝けや。

そして俺たちは次の拠点へと向かう事になった。



俺の名はジャスティン=アークライト、某子爵家の次男で随分と昔に廃嫡された身だ。アークライト家は死んだ母親の家名でもう既に断絶して無くなっている。この名を名乗って居るのは元実家への単なる嫌がらせである。

子爵家を魔力無しの無能として廃嫡され、平民として養子に出された先で奴隷の様な扱いを受けた俺は、ガキの頃にそこを抜け出してスラム街の教会に逃げ込み、そこで孤児として教会の手伝いをしながら食い繋いで過ごした。

10歳の頃に冒険者ギルドに登録して薬草採取をしながら細々と生きていたが、ある日森で採取の途中に魔物に襲われた際に左腕を付け根から無くす重傷を負った。その時に救ってくれたのはダンジョンに行く為にたまたま通りかかった錬金術士とその護衛 (後から知ったのだが錬金術士の造ったオートマタ)であった。そしてその錬金術士に保護された俺は欠損した左腕にとんでもない魔改造を施した義手を着けられた。その代償として俺は錬金術士の代わりにダンジョン攻略しながらドロップアイテムを集めて錬金術士に渡し金を貰うという請負をしながら日々を過ごして来た。

コレでも冒険者としてはかなり有名なんだぜ……魔力無しの俺は全身にアーティファクトや魔導具を身に付けて単独でダンジョン攻略をしているからだ。そんな奴は俺くらいなもんだからな。まあその装備にはあの錬金術士が一枚噛んでる訳なのだが……。今でも勿論ダンジョン攻略はこなしているよ……何せ錬金術士が次々と新しい魔導具を造っては俺に試運転させるからな。まあ、命の恩人だから文句も言わずに付き合ってやってるけどさ……。

そして今は傭兵ギルドにも登録して傭兵としての仕事を主にこなしている。対人なら此方の方が冒険者ギルドよりも金が良いからな。


そしてその傭兵ギルドから毎回直接指名を受けてるのが今回のクライアントであるアルザス聖教の『聖女メルティー』の護衛である。彼女は教会本部においては聖女の登録だが、基本的には聖女としては全く表舞台には出て来ない。

それは彼女は教会の影として邪教集団を殲滅する為に動いている所謂『裏聖女』であるからだ。彼女の正体は【蝕魔法】と言う古代禁呪である特殊な魔法を操る【黒紫の悪魔】こと“魔女ナミレーヌ”であり、本来であれば教会の『魔女狩り』での処刑対象であった。しかし、その能力を惜しんだ教会の影を取り仕切る“黒の枢機卿”イワン=アルザレスにより、公開処刑された事にして彼女の記録を抹消した上で『裏聖女』のメルティーとして登録させたのだ。

そして彼女が裏の仕事をする際の護衛役として俺は指名依頼されている。何故俺かって?それは俺が“魔力無し”だからだよ。彼女の【蝕魔法】は魔力を蝕む魔法で魔力持ちは敵だろうが味方だろうが構わず魔力ごと生命も『喰われる』のである。しかしながら、その無敵の魔法には発動までに時間が必要という致命的な欠点があった。そこで“魔力無し”の有名冒険者であり傭兵の俺に声が掛かったって訳だ。俺ならば魔力が無いから【蝕魔法】の餌食にならないので【蝕魔法】を近くで発動されても何ら影響は無い為に護衛としてはうってつけである。言わば【蝕魔法】の“天敵”とも言える存在だわな。

そして……万が一メルティーが教会を裏切った時、彼女を始末する為の監視役……コレが俺への裏依頼でもある。


「次の拠点は?」


「商業都市タリスの北東の森の中ね……」


「じゃあ一旦村まで戻ってから翌日移動だな……とりあえず馬車に戻ろうぜ」


「このまま向かいたいのだけど……」


「ダメだ。そんなに無茶しても良い結果は出ねぇぞ……真面目かよ!」


「……フン……真面目で悪かったわね……」


「とにかく今日は帰るぞ。馬車に乗れ」


渋々馬車の方に向かうメルティー。彼女は教会からの任務に忠実と言うか絶対服従に近い感じだ。この様な仕事ぶりなので教会自体もメルティーが裏切る可能性は限りなく低いと感じてはいるだろう。それ故に彼女は放って置くと誰かが止めない限り平気でとんでも無い無茶をする。だから俺が調整役も引き受けてやっているのだ。別に俺が不真面目な訳じゃねーぞ。


俺は馬車に取りついてる結界の魔導具を解除した。実はこの馬車、例の錬金術士が色々な仕掛けを施している特別製だ。錬金術士の得意先である教会から俺この仕事が舞い込んだのにもこの錬金術士が絡んでいるのは間違いない。そしてこの馬車は独立懸架?とかいう四輪が独立して動きながら衝撃などを消す仕掛けをしているらしく乗り心地が抜群に良い。また、防御用の魔導具の仕掛けも満載なのだ。やり過ぎな感も有るのだが、あの錬金術士ならこの位は平気な顔をしてやらかすだろうな……。

これを引く軍馬は最近あてがわれた軍馬だ。教会の影専用に飼育されている魔馬と軍馬を掛け合わせた特殊な馬である。速度も速いしデカくて力があるので1頭でこの馬車を軽々と引いちまう本当に良い馬だぜ……凶暴だけどな。


メルティーに「少しは休め。加減ってのを覚えろ」と散々グチグチと説教をしながら馬車を走らせて2時間ほどで今回の拠点の村に着いた。彼女は基本的には聖女メルティーとして教会で寝泊まりする。俺は契約上、教会で寝泊まりしても良いし、馬車で寝ても、宿に泊まってもいい。ただし、宿に泊まる時は自腹だ。今回は馬車に泊まる事にしてる。此処は小さな村で宿屋も部屋数が少ないしボロ屋だからな。教会も似たりよったりだ……それなら馬車の方が断然居心地が良い。

俺は軍馬に水と飼葉を与えながら丁寧にブラッシングをする……丁寧にやらねーとコイツの機嫌が悪くなるからな。

それが一段落したので煙管に煙草を詰めて火をつける。実はこの煙草、普通の煙草じゃ無い……義手を装着すると身体に拒絶反応が起きる為、それを緩和させる為の特殊な薬草の煙草なのだ。俺はコレを一日数回吸わなくてはならない……これが俺の“弱点”でもある。煙管でゆっくりと煙をふかしながら馬車の横で火を起こす。晩飯はさっき帰る途中で仕留めたボーンラビットの肉を焼くとしよう。


「おっ、こりゃあイケるな……」


この村で教えてもらった香草入りのソースが中々良い味を出している。コレはしばらく定番になりそうだぜ……いいモノを教えて貰ったな。食い終わった頃に気配がした……アイツめ、まだ起きていたのか……。


「ジャスティン……教会で寝ないのか?……」


「ん?ああ、コッチで良いわ。どうした?寝れないのか?」


「ああ……次のアジトを殲滅する計画を……」


「うおおおい!!お前さっきの話聞いてねえのか?休めって言ったろ!」


「だが……」


「だが、じゃねぇよ!真面目かっ!」


「……私は命を助けられた……それに報いて何が悪い?」


「別にそれが悪い訳じゃねえ。だけどな仕事には減り張りが必要なんだよ!弓の弦も引きっぱじゃ直ぐに切れるだろ?それと同じだ。いざと言う時動けなかったらどうするんだ?」


「……言う事は判るが……」


「だったら今日は寝ろ。明日話せばいいだろ」


「うむ……それで次のアジトの話なのだが……」


「うおおおいぃ!!話を聞いてんのかテメーわ!!」


結局、作戦会議をやらされたぜ……チッ!


翌日、眠い目を擦りながら商業都市タリスを目指す。昨晩はアレからあーでも無いこーでも無いと遅くまで付き合わされた。全く呆れる真面目さだぜ……重症だなありゃあ。

欠伸をしながらも煙管で煙草を吸いながらのんびりと馬車を走らせていると前方に嫌な気配がしやかる……俺は煙管の雁首をカン!と備え付けの煙草用の火鉢に当てて中身を出しフッと煙管を吹いて中の灰を出してから煙管を左腕の隠し場所に仕舞い、そして馬車を停めた。


「周りを囲まれたわよ……どうする?」


「……あのな……そういう時は囲まれる前に教えなさいよ……仕方ねえな……防御用の魔法障壁は?」


「大丈夫。動いてるわよ」


「じゃあ突破するぜ……舌を噛むなよ!」


「噛まないわよ……」


俺は左腕に薬莢をを装填した。そして軍馬を突っ込ませる!!すると前方に足止め用なのか障害物を発見した!俺はそのままの勢いで馬車を走らせて左腕で障害物に狙いを定め、手首のダイヤルを『風』の古代文字に合わせる!


「ストームカノン!!」


義手から発射された暴風の魔法が障害物にぶち当たり傍にいた盗賊諸共吹き飛ばされた!


「ヒャッホーーー!!」


そのまま馬車を走らせる。慌てて盗賊共が後から攻撃を仕掛けているが、後方に張り巡らせた魔法障壁で矢も魔法も全て弾き返されている。


「チッ!追いかけろ!!」


盗賊共はしつこく追いかけて来る様だ。だが、ウチの馬車の速い事……あっという間に盗賊共を引き離した。やっぱりこの軍馬はスゲェ速さだな!それにこの馬車もアレだけデコボコの道をぶっ飛ばしても差程ガタガタせずに走っていやがる、相変わらず優秀だな。


「……どうやら諦めたみたい……魔力が引き離されているわ」


「そうかい?まあ、馬が気分良く走ってるからしばらくは飛ばすぜ!」


何時もゆっくり走っていたのがストレスだったのか?そう思うくらい気分良く走っていたよ。そのまま1時間程ぶっ飛ばした軍馬はやっと満足したのか足取りが緩やかになってきた。

そして小川のある場所で止まって馬車から軍馬を外し、軍馬に水を飲ませながら桶でザバーっと身体に水をかけてやり、布で拭いてやった。


「お前スゲーな、速かったぜ」


俺が褒めたのが分かったのか、それとも走って機嫌が良いだけなのか……とりあえず嬉しそうな軍馬である。ご褒美に林檎と人参を食べさせてやり、ひと心地ついたので軍馬を馬車に繋いでゆっくりと走らせる。俺とメルティーは馬車に乗りながら昼飯がてらパンと干し肉をかじっている。


その様な感じで盗賊を振り切り、後は出て来た魔物を倒したりしながら旅を1週間程続けると目指す商業都市タリスに到着した。タリスには大きな教会が有るのでそこを拠点にして北東の森を捜索する。街に入る前に左腕の義手に取り付けてある隠蔽魔法の仕掛けを発動させる。義手から正体がバレない様にする為だ。

門番には中央教会から派遣された修道女のメルティーとして教会に行くと話す。俺は教会から雇われた護衛の傭兵の体である。ここで使う傭兵の名前は『ドラン』だ。教会の仕事を請け負う際にはこの名前で活動する事にしているのだ。勿論、傭兵ギルド上層部はこの事を知っている……と言うかそもそも傭兵ギルドからの指示だからな。

教会に着くと神父長のゲールさんが出迎えてくれた。


「これは聖女メルティー様……よくお越しになられました」


「ゲール様、御世話をお掛けしますが何卒宜しく御願い申し上げます……」


「その様な……聖女様、勿体無いお言葉で御座います……」


「神父長、メルティーの事を知っているのは神父長だけですかね?」


「はい、私のみです。護衛のジャ……ドラン様ですね。宜しく御願い申し上げます」


「いやぁ神父長……俺にはそんなに畏まらないでくれ……メルティーとは違うんだから」


「そうですか?それではその様に……ドランさん」


「こちらこそ宜しく頼むよ神父長」


この教会ではメルティーは中央教会直属の修道女として、此方の商業都市タリスにおける教会の布教の状況の調査に来たと言う設定になっている。

まあ、中央教会から来てるってだけで地方の教会じゃあ尊敬の目で見られる。一通りメルティーに教会の修道士や修道女を紹介して、メルティーが皆にそれらしい有難いお言葉をかけてやるのがお決まりである。

しかもゲール神父長でさえメルティーが聖女なのは知っていても『裏聖女』である事までは全く知らない。あくまでも聖女がお忍びで祝福をもたらす為の修行中であると言われているだけなのだ。

教会での聖女の立ち位置は非常に高く、それ故に『お忍びで』と言うだけで地方の教会のトップなどは誰にも余計な事を喋らないのが常識である。

俺たちは教会の1部屋を借りてそこで今回の作戦会議をする。音が漏れない結界の魔導具を使ってから話し始める。


「んで、今回も力押しで行くのか?それとも闇に紛れてサクッと片付けるのか?」


「うむ……それも現地を見てからよ……」


「……あのさ、毎回それでお前が奴らに見つかって結局が力押しになるじゃねーか?」


「……それはたまたま……」


「いやいや……お前が毎回何かしら踏んずけて足音立てたり、すっ転んで声出したりだろ?」


「……もう忘れたわ……」


「……お前は鶏なのか?3歩歩けば忘れるってか?とにかくお前は大人しく此処で待ってろよ、分かったか?」


「……チッ……」


……舌打ちしてやがる……。メルティーのドジっ娘振りは筋金入りだ。本当に愛想が尽きる……ワザとなのか?と疑いたくなるほどだ。そのクセ現地ガー!とか直に見ないと報告ガー!とかとにかく五月蝿い。そして結局しくじって力押しに陥ってしまうのだ。流石に今回は規模からいってもヤバいから連れて行かないと前の教会でも話したのだが……。


俺は不満気なメルティーを置いて直ぐに北東の森の探索に出かけた。

こうして俺だけならマントに仕込んだ魔導具で隠密魔法を駆使しながら敵陣深く入り込む事も可能なのだ。

しばらく森の中を探索していると検知用の結界が張られて居るのがわかった。アイツと来てたら間違いなく引っかかったな……。

俺は検知用の結界に通れるだけの穴を検知されない様に慎重に空ける。結界が有ると分かっていればやり方次第でどうにでもなる。検知用の結界は発見さえすれば7、8割方は結界を崩した様なモノである。

俺は慎重に入り込み森の更に奥を目指す。するとそこに古代遺跡の様な建物を発見した。周りには沢山の見張りが目を光らせている……何だ、結構簡単に見つかったじゃねーか。俺だけならこの位スムーズに事を運べるのだ。

そして俺はマントに隠密魔法をかけたまま慎重にアジトに潜入した。目的のアーティファクトが有るのかを調べる為だ。

入ってみると中々の規模の遺跡の様だ……こりゃあ調べるのに時間が掛かりそうだ。

潜入してから3時間ほど色々探しているが部屋も多いし規模も有るので流石に直ぐには見つからない。腰を据えて調べるか……などと考えていると急にアジトが慌ただしくなる……何が起こったんだ?とりあえず隠れて見ていると誰かが連行されて来るようだ……。


「森の中で彷徨いて居たのを捕らえました!」


「ほう……さて、教会の修道女様が何故こんな場所へ?」


「や、薬草を採りに……み、道に迷ったのです……」


俺は頭を抱えた……。

捕まったのはメルティーだった。


(アイツは馬鹿なのか??大人しく待ってろと言ったのに……チッ!)


「ほうほう……中々厳しい言い訳ですねぇ……とにかく牢に放り込んで置きなさい。後でたっぷりと拷問して吐かせるとしましょう」


(アレが此処の頭目か?まあまあの強者ではあるがあの程度?……どうも怪しいな……こりゃあもう少し慎重に調べないとな)


メルティーはとりあえず放って置くとしてアーティファクトの有無と此処の頭目を見付けないといけない。どうせメルティーの居る場所は魔導具で追尾出来る俺には判るからな。更に奥を慎重に調べると最奥の場所に鍵のかかった部屋があった。中に人が居る気配がある……此奴は……とりあえず場所だけ確認したので後はメルティーの居る場所の近くで様子見だ。

牢に入れられたメルティーは手に魔封じの手枷が嵌められていた。牢番はいやらしそうな目でメルティーを見ている。俺は牢番の男を魔導具の『魔笛』で眠らせる。


「……遅かったですわね、ジャスティン……」


「……うん?そのままが良いかな?」


「……ゴメンナサイワタシガワルカッタデス……」


「……全然反省の色が見えねぇんだけど……とりあえず手枷をコッチへ……」


メルティーが手枷を出すと俺は左手の人差し指で解錠した。そして、魔導具粘土で手枷をしている様に見せる。


「そのまま詠唱を始めろ。俺はそろそろ騒ぎを起こすから。詠唱が終わったらそのまま発動させろ」


「分かったわ……」


メルティーは直ぐに詠唱を始めた。俺はこの牢を解錠して終わったら出られる様にしておく。そして、此処を出た俺はマントの隠密魔法を発動させたまま次々と敵を倒して行った。


「おい!どうなってんだ??」


「わ、分かりません……次々と……」


「うわぁぁぁ!!」


俺が右手の刀や左手の爪で敵を斬り裂いているのだ。見えない俺を探知出来ないまま斬り裂かれているのは恐怖でしかないだろう。俺は魔力無しだから魔力探知に引っ掛からないのだ。だからいくら俺を探してもそれに頼っていては見つからないのである。

その時、俺に正確に攻撃を仕掛けて来た奴が現れた。俺という餌に釣られてようやく例の部屋からやっと出て来た様だな。


「ほう……俺の位置を把握出来たのか。中々やるな」


「ふむ……魔力無しの様だね。それじゃあ見つからない訳だが、タネが分かれば手品もこれまでだ」


「じゃあそろそろ本気で行くとするよ」


俺は左腕を伸ばした。


「!!マズい!皆逃げろ!!」


敵の親玉が移動する瞬間にサンダーカノンを発射した。遺跡の壁ごと敵を吹き飛ばした俺は逃げた頭目に更なる攻撃を仕掛ける。

頭目は中々の剣の使い手で勝負は拮抗した。間違いなく最近では一番の獲物だ。


「フフフ……どうしました?先程のは打ち止めですか?」


「アレは挨拶代わりだからな、大した事はねぇよ。さて、そろそろ遊ぶのも飽きて来たから終わらせるとするか」


俺は先程と同じ様に左腕を伸ばした。


「打ち止めなのは分かってますよ!!」


攻撃仕掛ける頭目に俺の左手が発射された。驚く頭目は何とか剣で止めたが、離れた左手は自由自在に飛び回り、頭目に襲い掛かる。コレこそが左腕に仕込まれたアーティファクトの真の能力【飛掌術】である。俺の意思通りに飛び回る左手の爪は魔力が込められており相手を鎧ごと切り裂くのだ。


「くっ!お前達も手伝え!!」


「いや、もう遅い……」


俺の左手に気を取られてる内に俺自身が一気に飛び出し、右手の刀で頭目を叩き斬った。俺の左手が戻って来て自動的に手首に装着される。その後、肩のアーティファクト冷却用の排気口から蒸気が噴き出した。


「あっ……此奴の名前聞いてねぇな……」


「き、貴様!!よくも司祭様を!」


司祭だって?中々の大物だった様だな……。

すると周りから黒紫の魔力が噴き出して来た。どうやら詠唱が終わった様だ……。


「うわぁぁぁ!何だこれ……」


「うごっ……」


敵はどんどんと黒紫の魔力に飲まれていった。しかし、何時もより黒紫の魔力が多い様に感じる……。

そして魔力が無くなった時には死体だらけになっているのはいつもの光景だ。牢から出て来たのかフラフラとメルティーが現れたが顔が真っ青だ。俺は直ぐにメルティーの傍に行きメルティーを抱き抱えた。


「……お前無茶し過ぎじゃね?」


「……逃げ回る者が……は、範囲の設定が……広過ぎましたね……」


仕方ないので遺跡の所で休ませようとするとパッカパッカと音を立ててウチの馬車がやって来る。誰も乗ってねぇのに……マジか?


「お前……ここまで来てくれたのか?お前やっぱスゲーな!」


軍馬はヒヒンと鳴いてどうだと言わんばかりだ。俺は馬車のソファにメルティーを寝かせて外に出る。牢に居て外の状況が見えないメルティーが追い掛けて魔力を使い過ぎた“元凶”に相対する為だ。


「おい、そこにいる奴出て来いよ」


すると長い刀を背中に背負った全身黒ずくめの男が現れた。顔は鍔の長いハットとマスクをしており見えない……眼は赤い色をしている。


「全く……恐ろしい魔法に追いかけられたモノですね……死ぬかと思いましたよ」


「何者だ?コイツらの仲間じゃねーな?」


「そうですね……どちらかと言えば敵ですかね」


「って事は……誰かを狙って来たのか……もしかして暗殺ギルドか?」


「……流石ですねぇ……ジャスティン=アークライト殿」


「ほう……俺の事をしってるのか?……なら貴様の名前は?」


「さあ?何者でしょうね?」


俺はそれを聞くとすぐさま刀を抜いて斬りかかった。それでもソイツは直ぐに背中の長刀を抜いていた。一連の流れる様な動き……流石は暗殺ギルドの男だな。


「ん?私を斬って何の得が?」


「……俺だけ正体を知られたからな」


「そうですか……しかし貴方の技は全て見させて貰ってますよ」


そう言うと男の動きが急に速くなる。俺は両手や魔法障壁でヤツの攻撃を受けながらも攻撃も仕掛けるが見切った様に避けられる。確かに動きを読まれている様だ……中々の強敵だな。すると突然奴が無詠唱で氷魔法を飛ばして来た。俺は避けながら何本かを黒い刀に喰わせてヤツに跳ね返す。だが、奴は残像を残して消えた。

俺は突然現れた奴の斬撃を左手で辛うじて受け止めた。だが後ろから近づいたのは悪手だ……そこで勝負アリとなる。


「こ、コレは……」


奴の首元には俺の背中から出て来た蠍の尻尾に生えた剣の刃が当たって止められている。隠し魔導具のひとつ……『蠍刃』である。この尻尾はマントに隠れて見えなかっだろうな。


「参りましたね……まさかまだそんな手を隠していたとは……」


「悪いがまだまだ引き出しは多いぞ……。さあ、お前の名を聞こうか?」


「……私の名はファラ=デレクトール」


「何だと?……お前があの有名な“ヘルギロチン”のファラか??こりゃあ驚いたな……なるほど強え訳だ……もう充分だな」


俺は奴から離れて刀を収める。


「?……私を殺さないのですか?」


「お前の名前が知りたかっただけさ……あっ、それとお前の腕前な。だからひと芝居打たせて貰った。用は済んだから後は好きにしろ、お前の狙ってた首は持ってけよ、後でココを焼いて始末するからな」


「なるほど、それで殺気が足りなかったと……私の名前さえ聞けばどうにでもなる……という事ですか?」


「まあ、詳しくはお宅の偉い奴に聞けば分かるだろ……最初から殺す気はねぇよ。それに……まだ本気じゃ無かったろう?……ああ、そうか……魔力も“アレ”に少し喰われていたか?」


「フッ……ご存知でしたか……では有り難く首は頂いて参りますよ。それでは私はこれで……また会えるといいですね……ジャスティン“ギミックウォーリアー”アークライト殿……」


そう言うとファラはあの司祭の首を跳ねて持ち、そのまま消えた。そうか……あの司祭が狙いだったのか……。それにしてもまさか“ヘルギロチン”に会えるとはな……闇の世界ではかなり名の通った男だ。狙ったターゲットの必ず首を落とす事から地獄の断頭台(ヘルギロチン)の二つ名が付いている。アレで魔力を喰われていた状態……通常であるならかなりヤバい事になってたろうな。


そして俺は例の部屋に向かい中に置いてあったアーティファクトを持ち帰り馬車に戻る。メルティーは少し回復していた様だ……ソファから起き上がっていた。


「良かったのですか?あの者を逃がしても……」


「ああ、暗殺ギルドの有名人ならお前の上司の“お知り合い”だろう。問題ねぇさ……もしかしたら“お得意さん”かも知れねぇしな。それよりもコレだろ?依頼されてたアーティファクトは?」


メルティーは専用の眼鏡を取り出してアーティファクトを調べた。眼鏡を外したメルティーはホッとした表情をした。


「どうやら目的のアーティファクトの様ですね……やっと見付けました……」


「コレでやっと帰れるなぁ……今回は疲れたぜ」


「……私も疲れました……」


「……それと、戻るまでお前説教な」


「えっ?……」


「えっ?じゃねーよ。お前なに勝手に此処に来やがったんだ?あ?」


俺は教会に戻る間もずっと説教をしていた。説教の間メルティーはソファの上で正座をしていた……それじゃダメだろ……全く反省の色が見えねぇな!この残念聖女がっ!


こうして俺たちは目的のアーティファクトを手に入れて帰る事になったのである。

今回の仕事は空振りが多かったぜ……これ割増請求出来る案件だよな?残念聖女の暴走とかもあったしな!

やっとまとまった金が手に入る……コレでしばらくは働かないでも酒が飲めるぜ!フハハハ!



◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……では、ジャスティンとその女には姿を見られたと言う事だな……」


「……その通りです。申し訳ありません」


「……まあ、良いだろう……今回の事は『お前が標的を始末した』それ以外は全て忘れろ、良いな?」


「……はい、判りました……」


「しばらくは静養しろ。魔力が減り過ぎている……戻ったら繋ぎを付けろ。仕事はいくらでも有るからな」


挨拶をしたファラが出て行った後、その男はため息をついた……そして魔力が揺れる……。


「……よもや……かの者の手先になって居たとはな……」


その顔は苦虫を噛み潰したような表情である。


「ジャスティン……」


男は持っていたペンを握り潰した……。

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