第4話 早すぎる再会
「ふわあ……おはよう、おばあちゃん」
「あらおはよう、リゼ」
王都に行った翌日、移動疲れで少し寝坊してしまった私は大きく伸びをすると起き上がり、ドア代わりのボロ布のカーテンをくぐった。
するとちょうど、おばあちゃんが朝食をとっているところだった。彼女は私がこの村に来てからというもの、ずっと一緒に暮らしている、優しい素敵な人だ。
実は貴族のお金持ちなのだけれど、何故かずっとこの村に住んでいる変わり者でもある。どうやら此処が好きらしい。
「疲れて沢山寝ちゃった、ごめんね」
「いいんだよ。いつもありがとうねえ」
「ううん、支度を終えたらすぐ仕事しちゃうから」
私は急いで朝食をとると身支度をし、髪を高い位置で一つに結び、家という名の小屋を出た。
そして王都での非日常を終え、今日からまたいつも通りの平凡な日常が始まる。そう、思っていたのに。
「おはようございます、リゼット様」
昨日パーティーで顔を合わせたあの美しい男性が、何故かうちの畑を耕していた。訳が分からない。
彼は私を見るなり、太陽よりも眩しい笑みを浮かべた。
「えっ、あの、何を……?」
「こうして身体を動かすのも、気持ちいいですね」
「ですから、何をされて……?」
「リゼット様の為なら、どんな事もできそうです」
「はあ……」
何やら彼はとても嬉しそうだけれど、さっぱり会話が噛み合っていない。大丈夫だろうか。
そもそも、昨日王都にいた貴族令息が何故、こんな田舎で畑を耕しているのだろう。訳が分からなすぎて怖い。
「昨日の装いも素敵でしたが、今日のお姿も健康的で良いですね。やはり貴女は何でも似合う」
その上、農作業用のズタボロの服を着た私を見て、彼はそんなことを言ってのけた。
小馬鹿にしているのかと思ったけれど、どうやら本気で言っているようだった。目や頭など、どこか悪いのだろうか。
「畑の方は、こんな感じでいいでしょうか?」
「えっ、あっ、はい。ありがとう、ございます……」
そして彼はなんと、私やおばあちゃんが数日かけてやる作業を終わらせてしまっていた。
貴族令息にしては、あまりにも手際が良すぎる。とても素人とは思えない仕事っぷりだ。
「リゼット様、他に何をすればよろしいでしょうか?」
「あの、ちょっと待ってください」
しかも彼はまだまだ、仕事をするつもりらしい。
突っ込みどころが多すぎてパニックになりそうだったけれど、とにかく話をする必要がある。そう思った私は小さく深呼吸をした後、口を開いた。
「ええと確か、ラルフ様……でしたよね?」
「っはい、名前、覚えてくださったんですね」
「まあ、昨日聞いたばかりですし」
「夢のようです……幸せすぎて、泣きそうだ」
ただ名前を確認しただけなのに、彼は周りにぽんぽんと花が咲きそうな勢いで、ひどく幸せそうな表情を浮かべた。
理解が追いつかず、目眩がしそうになるのを堪えながら、とにかく座りませんか、と私は近くの木の塊を指差した。
すると彼は胸元から出したハンカチを私の為に敷いてくれた後、少し離れたところに腰を下ろした。無駄に紳士だ。
「その、ラルフ様は」
「ラルフでいいです、リゼット様」
「いえ、そういう訳には……」
「どうかお願いします、貴女にはそう呼ばれたいんです」
「はあ……」
「敬語もやめてください」
もう面倒なので、そう呼ぶことにする。ここは社交界ではない、ただの田舎なのだ。咎める人もいない。
言われた通りにラルフ、と呼べば彼は「はい」と子供みたいに嬉しそうに笑うものだから、戸惑ってしまう。
「リゼット様は、何故ここで暮らされているのですか?」
「この村が好きなの」
今までだって大勢の人に、何十、何百回と同じ質問をされてきた。若い女性が好き好んでこんな場所に住んでいるなんて、どう考えたっておかしいとは思う。
とは言え、実は前世から魔物に殺され続けていて……なんて話ができるはずも無く、毎度そう答えている。
「貴族も好きじゃないし、一生ここで過ごすつもり」
はっきりそう伝えると「そうなんですね」「僕もここでの暮らしに慣れる必要があるな」と彼は呟いた。なんで?
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