第41話 5日目の朝

 合宿第五日目……。

 僕がこの島に来て、とうとう5日目になった。


 旧日本軍施設探索中の部長刺殺事件(狂言)から始まった、一連の殺人事件は、村野先輩、長谷川部長を死に追いやり、現在も犯人不明のままだ。


 一つの推理としては、部長による部員皆殺し計画により、深町先輩の殺害未遂、村野先輩の毒殺。そして僕たちに追いつめられた部長の飛び降り自殺によって、犯人死亡による事件の終焉が考えられる。


 二つ目の推理、それは綾の推理だった。

 まずは一つ目の推理と同じく部長の部員皆殺し計画が存在。

 これは、去年の事件の隠蔽及び真相を暴こうとする者の抹殺を目的とした部長の計画だったが、この実行計画に便乗した犯人による部長殺害という、全くことなる意思の介在により事件が複雑化したというものだ。


 深町理彩は部長の皆殺し計画を知り、それに便乗して部長を殺害した。

 続いて、部長がまだ生きていることを部員達に印象づけるため、また部長の部員皆殺し計画が稼働し始めたことを知らしめるために最初の事件を起こしたのだ。

 そう、あの事件は深町先輩の狂言だったのだ。

 後は適当に時間をやり過ごし、頃合いを見計らい、部長の死体を発見させるシナリオを作ればよかった。

 だが、計画は思わぬところで失敗する。


 真実をどうやってかしらないが、村野先輩に知られ、彼女は脅されることになったのだ。

 危機を脱するため、深町先輩は第二の殺人に手を染めてしまう。

 ……村野先輩の毒殺である。

 本来ならば部長の殺害で終わるはずだった事件も、二人目を殺害したことにより、新たな作業の必要性が生じた。

 部長が今だ生きていることをみんなに信じさせなければならなかったのだ。そこで一計を案じた。

 部長が投身自殺をする場面をどうにか演出する……。

 そうすれば村野先輩殺害を部長に押しつけることができる。どうやって誘導するかが問題だっただろう。

 

 うまいことに長野先輩が部長を追いつめる計略を練っていたことを知り、それに便乗し作業を追考した。僕たちに部長が追いつめられ、投身自殺をしたように思わせたのだった。

 実際、部長は投身自殺をしたように僕は思った。


 だが、そうは行かなかった。

 この二つの余分な作業の為に、綾が深町先輩の犯行説に自信を持ってしまったのだ。


 僕は深町先輩が犯人だと思っていない。

 ……思いたくない。


 犯行の動機は去年の事件……。

 事件で亡くなった、いや行方不明のままの篠本、上本というミステリ研究会の部員と深町先輩にどういった関係があるかわからない。しかし、それを原因として事件が発生したとしか考えられない。

 彼らが亡くなった洞窟入り口に置かれた煙草、献花の花言葉「復讐」……。


 真実を見極めなければならない。

 幸いな事に、綾の推理にはまだ穴がある。真実にはまだまだ辿り着いていないのだ。僕は真実を突き止め、それを明らかにしなければならない。


 僕はベッドに横たわり、思いを巡らす。

 物証があまり無い状況では、消去法の論理を展開させるだけだが—————。


 部長の計画を知り得た人物。部長を殺害するにあたり、部長に疑われない人物。

 ……。


 それは一人では無かった。

 長野先輩もその可能性が無いとは言えないのだ。

 部長が去年の事故(事件)を探ろうとしている人物だと真っ先に疑うのは長野先輩だろう。彼の頭脳、行動力からするとそう考えるのが普通だ。

 

 ならば部長が彼に話を持ちかけるのではないか。

 彼なら口も堅いから、部員達に漏れることはない。事件を再捜査するといえば長野先輩も乗ってくるだろう。


 普通の学生では、紀黒島に来ることはできない。

 そんな費用が出せないからだ。

 長野先輩は、部長が何らかの計略を巡らせていると感づいたかもしれないが、謎を解くという目的の為に計画に便乗した。

 

 部長は部長で、秘密を探ろうとしている長野先輩の真意を確かめること、同じように考えている部員がいるかどうかを調べることを考えたのだ。

 もし、長野先輩が核心に近づいている場合には殺害できるように。

 もちろん、自分が犯人だとは思われないよう計画を練って。

 それが今回の合宿での部長殺害事件だった。


 二人の利害関係が一致したことにより、計画は実行された……。

 長野先輩は自分が殺される危険は察知したはずだから、黙って殺されることはしないだろう。

 むしろ先手を打つかもしれない。


 それが現実になったのかもしれない。

 正当防衛とはいえ、さすがに人を殺してしまった彼は焦りを感じるはず。

 

 そこで部長の計画していた通りの事件をある程度起こしてから、部長が事故死したことにでもするつもりだったのだろう。

 ただ、秘密を村野先輩に知られたことにより、計画が破綻していくのは綾の推理と同じだ。


 問題点とすれば、村野先輩のスペシャルドリンクにどうやって毒を仕込んだかだ。彼はドリンクの隠し場所を知らない欠点がある。

 それから深町先輩を襲った時に、彼女が部長と間違えるかどうか。

 さらに展望台からの転落の時、深町先輩に発見されずに部長の遺体を落とせるかどうかだ。


 ドリンクの場所は村野先輩に聞けば、教えてくれたかもしれない。

 深町先輩を襲ったのも暗闇の中だし、不意を突かれたら普通何が起こったのかわからないはずだ。

 展望台からの部長転落については、隠し扉を旨く利用すれば、深町先輩に見られることなく、死体を投げ出すことも不可能ではない。


 ……なによりも部長の遺体を移動させるとき、彼は僕に遺体をさわらせなかった。

 村野先輩の時は一緒に運ばせたというのに。

 これは部長の遺体に僕が触れれば、秘密を知ってしまうということだ。

 

 そうだ、きっとそうに違いない。

 いろいろ疑問が残るが、深町先輩犯人説よりは僕の推理の方がより真実に近い気がする。

 

 僕は結論づけると、目を閉じた。

 考えに集中しすぎて、疲弊しているのがわかる。

 まだ整理できていないことがたくさんある。焦ることはない。時間はたっぷりあるのだ。

 すべてはこの朝に決着を付ければいいのだ。


 ……心の中では、部長が犯人で幕引きをしたい気分だった。

 これ以上、誰かが傷ついたり悲しんだり憎みあいたくないから。だが、それは難しいようだ。

 恐らく、僕は真実に気付いてしまった。そして真実は隠すことができないのだ。


 朝、全てが決する。この鬼哭島という無人島で行われた連続殺人の犯人が暴かれるのだ。

 —————僕の手によって。


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