第37話 思いもよらぬ事件の解決
甲高い悲鳴が響いた。
続けて、ゴンッ! 何か妙な音がした。
僕は我に返ると展望台へと目をやる。
見ると綾が玄関へと駆け寄るのが見えた。同時にドアが開くと長野先輩が飛び出してくる。
彼は何かを叫んでいるようだ。叫びながら建物の裏を指さす。
二人は展望台の裏へと走り出した。
どうやら何かあったようだ。
想定外の事案が起こった……。
恐らく部長が部屋から逃走したのだろう。それも玄関からではなく、彼らが裏口に走っているところを見ると、秘密の抜け穴から逃走したのか?
僕も駆け出すべきか?
……いや。
持ち場を離れるわけにはいかない。
部長が彼らの包囲を逃れて逃走する可能性がないわけではない。万一逃げた時、僕まであそこに行ってたら、逃走を止める人間がいなくなる。
自然と手にした木ぎれに力を込めてしまう。
みんなが部長を捕まえてくれよ。
頼むから。
心臓が激しく脈打つのを感じる。手が痺れる感覚も……。
もし部長がこちらに逃走してきて、僕が彼を止めなければならなくなった場合、僕の不自然な挙動を綾に見られてしまうことになる。
やばい……な。
「とおるくーん! 」
遠くから聞き慣れた声が聞こえる。
綾がこっちに駆けてくるのが見える。後ろから他の二人も続いて来ている。
どうやら部長が逃走するという事態だけは無くなったようだ。……どうして彼らだけでこちらに来るのかは不明だが。
「どうしたんだい? 部長は……」
僕も声を上げながら、彼女に駆け寄る。
「部長は、部長は落ちたの」
少し呼吸を乱しながら、答える
何を言っているのか不明だった。
「落ちたって? 部長は一体どこへいったんだ」
「だから、展望台から下に落ちたのよ。宿泊所の裏庭に転落してるわ」
「へ? 」
部長は包囲されて飛び降りたというのか?
やがて先輩たちもやって来た。
「長野先輩、部長が下に落ちたって聞いたんですけど」
疑問解決できないまま、僕は問いかける。
「そうだ。展望台に追い込んだのは良かったんだが、もぬけの殻だった。飛び込む寸前に物音がしたんだがな。調べてすぐに分かった。やはり抜け道があったんだ。その後の話は深町に聞け」
僕は先輩を見る。
「私は展望台の裏、崖側に待機していたわ。たぶん、長野先輩が部長を捕まえてくれると思っていたから、かなりボンヤリしてたかもしれない。……突然、側の壁が倒れたかと思うと、部長が飛び出して……」
「部長に襲われたりしませんでしたか? 」
「私はその瞬間、驚いて悲鳴を上げてしまったんだけど、部長ほうも驚いたみたい。目が合った瞬間、こちらを見てぎょっとした顔をしてた。
すぐに私に近づこうとしたけど、長野先輩や山寺さんの声がしたからすぐにそれを止めたわ。
「もうだめか」そう言って彼は……」
その風景が思い出されたのか、彼女はうつむき黙り込んでしまった。
あの時聞こえた悲鳴は、深町先輩のものだったのか。そしてその後の嫌な音は、部長が地面に叩きつけられた音というわけか。
追いつめられた部長は、観念して飛び降りたとでもいうのだろうか。展望台から宿泊棟までの高低差は結構あったと思う。恐らく助からないだろう。
「つまり、そういうことだ。追いつめられたアイツは、自分が敗れた事を知った。そして、捕まることより死を選んだということだ。アイツらしいといえばそれまでだが」
「これで事件は解決、というわけですか? 」
「どうした? これ以上何かが必要なのか」
綾の問いかけに疑問を感じたのか、先輩が問う。
「いえ、そんなつもりじゃないです。ミステリ小説なんかじゃないんですから。ただ、これでやっと落ち着いて眠ることができるんですね。……あとは、どうやって島から脱出するかを考えるだけでいいんですね」
「その通りだ。残された課題は大きいが、殺されるかもしれないという精神的不安は解消された」
「やっと見回りから解放されるんだ」
僕も思わず安堵の声を上げる。
脳天気な発言だと思う。
ふと、深町先輩を見ると、悲しげに俯いていた。
かつて、いや今でもそうだが恋人だった男が死んだ……。彼女にとっては現在はその気持ちだけで一杯なのだろうか?
合宿初日に恋人は殺される。いや殺されたように見えた。しかし、その晩、恋人に襲われ、怪我をさせられた。殺されてもおかしくなかった。そして、恋人は部員達の皆殺しを企み、実行をしようとしたことを知ってしまう。
村野先輩が毒殺された……。
本当に殺人者となった恋人……。
今、その恋人は崖から転落し、死亡した。ここ数日での激しい変化に彼女自身ついていけてるのだろうかと思う。
この合宿の間、ずっと部長に振り回されていた感じがする。それは僕たちも同じだが、
恋人たる彼女にとってはいちいち感じるショックが半端じゃなかったろう。
それが最悪の結果で終わりを告げた。
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