第19話 推理
「お疲れやったな。外はどうやったん? 」
「異常無しだ。あたりまえだろうがな」
「しっかし、疲れたなあ。ホンマ腹が減って、これじゃあ寝られへんわ。お茶でも飲んで、胃を一杯にしておかへんとアカンわ。うげっ……綾ちゃん、このお茶苦すぎやで」
みんなの気持ちを代弁してか、村野先輩が不平を漏らす。
「あ、すみません。ちょっと入れすぎたかも」
「まあしゃーないわな。……でも長野先輩、なんで戸締まりや見回りをする必要があるん? 犯人は島外へ逃げたんとちゃうん」
「念のためだ。万一、犯人が残っていた時を想定しての行動だ」
「そんなんあるん? 犯人は部長を殺すのが目的やったんでしょ? ウチらまで標的になっとるわけやないやろ」
「それは分からない。犯人が部長殺害が目的だったとは現時点では分からない。たまたま彼が見てはならない場面を見てしまい、殺害されただけかもしれないからな。
……そうだとすると、一緒に来ていた部員達が何かを知ってしまったと思うかもしれない。」
さりげなく言うが、これはかなり重大な事だ。
口封じの為に部長を殺したとしたら、一緒の部員も秘密を知っていると判断するかもしれない。
「先輩、怖いこと言わないでください」
怯えた口調で綾が言う。
「そやそや、そんなことあるわけないやん」
「あくまで仮定の話でしかないがな。しかし、あの研究施設にはどんな秘密が隠されているか、俺ですら聞いていないことだからな。何か重大なものがあったのかもしれない」
「しかし、先輩。施設が閉鎖されてからもう何十年も経っているんですよ。仮に秘密があったとしても、今頃露見するとは思えません」
僕は反論する。
「確かにそうやわ。田中の言うとおり、人を殺すまでして守る秘密があったんやったら、
とっくに回収しているはずやわ」
「……それは正論だな。今更、そんなものが出てくるわけがない。しかし、今回の事件をおまえ達はどう整理するんだ? 部長が殺されたのは事実だ。町中なら通り魔とか怨恨、いろいろな動機があるだろう。
しかし、ここは無人島。
この島に来るには船を貸りなければ来られないんだ。部長は何故、殺されたんだ? 」
「そうやな、考えられるとするなら、怨恨だけや。でも部長は人に恨みを買うような人間やとは思えへんしな」
確かに、怨恨説というのが一番しっくり来るように思う。
この島の秘密を守る存在がいて、秘密に接近しすぎた部長を殺害したというなんて
あまりに荒唐無稽な話だ。
それに比べて、何者か部長に恨みを持つ人間が僕たちをつけてきて、チャンスをみて殺害したというほうが説得力があるように思う。
「村野の言うとおりだ。怨恨というのが一番しっくりする。部長に恨みを持つ彼ないし彼女が今回の合宿を知り、前もってこの島に潜んで殺害の機会をうかがっていた……。
しかし、それはあまりに無理があることだとは思わないか? わざわざこんな島で殺人を犯さなくても、町で通り魔を装って殺害に及んだほうが簡単だし、リスクは少ないと思う」
「……そうですね。この島に来るだけでも大変だし、アリバイ工作なんてできそうもない。
船をチャーターしたりしてたら証拠も残るし、盗んだりするのも困難ですね」
僕は長野先輩の意見に賛同した。
「せやけど、だったら犯人はどうして部長を殺したって言うんや。部長が言っていた、この島の研究施設に働いていた職員の謎の変死について部長が何かを知ったから殺害したっていうん? 田中君も言ってたけど、そりゃありえんと思うんやけど」
「あたしも村野先輩の言うことに賛成です。部長が何かを知ってしまったとして、どうして犯人がそれを知り得たんでしょうか? あたし達を監視でもしていない限り、不可能じゃないんでしょうか」
そう言って、綾は腕を組んで考え込んでしまった。
いつしかこの場は部長殺害に関する推理合戦となっている。
怨恨説と陰謀説。
その二つが展開されていたが、どちらも無理があるようだ。
「おまえ達は知らなかっただろうが、俺はアイツからちょっと気になることを聞かされていたんだ」
長野先輩はみんなを見回しながら言葉を続ける。
「紀黒島の施設に関して、アイツはネットや図書館を調べ回っただけでなく、当時の企業の職員だった何人かに接触したりしていたらしい。あの不審死事件について気づいたのも、その話の中で出てきたことらしい」
新たな事実に、僕たちは緊張を隠せないでいた。
みんなが彼の次の言葉を待っている。
「ほとんどの職員は当然のように会ってもくれなかった。だが、退職した人間や一部の親族が興味本位ではないアイツの態度に絆されて会うことができたようだ。その中でアイツを心配した人からこれ以上の深入りはやめろと警告を受けたらしい」
「それでも部長はやめなかったんですか? 」
綾の言葉に長野先輩が頷く。
「そうだ……。実際、危機感なんて持ってなかったんだろうな。単に会社の機密に触れることを恐れているだけだろうと思っていたようだ。
しかし、やがてアイツに有形無形の警告が来るようになった。
差出人の無い郵便物だったり、無言電話、知りうる筈のない携帯電話への警告メールなど。
アイツは決して態度には表さなかったが、かなり精神的にまいっているようだった」
「どうして、そんな危険な状態だというのに、部長はやめなかったんですか? そこまでしなくても……」
「そうやそうや。何で身の危険を冒してまでそんなんするんや? 」
長野は小さくため息をついたように思えた。
「それは俺には分からない。アイツには、その程度の脅しなど通用しなかったのかもしれないし、何か事情でもあったのかもしれないな。だから少々の危険があっても、この島に来る必要があったのだろうし、ミステリ研究会の合宿で来たのは、その存在に対するカムフラージュだったのかもしれない」
「ちょっと待ってや」
村野先輩が遮る様に声をあげた。
「部長は脅されとったんやろ? この島の謎を調べていてってことやったな」
「ああ。俺が聞いた話ではそうだった」
「この島に来る事は危険やってわかってたんやろ? ほんなもんにウチら部員を連れてきたんかいな。何もしらん言うても、部長と一緒におったら、ウチらやってその部長を脅していた連中に襲われてもおかしいないっちゅうことやんか! 」
彼女の言う通りだ。
部長は自分が脅されていたことを秘密にして、その脅迫される原因の島の探索に僕たちを連れてきたのだ。
「さあ、それはどうだろうな。単なる嫌がらせとしか思っていなかったんじゃないか。実際、俺にもそういった危険性については語らなかったし。
アイツの中では、もし妨害者が来たとしたらこんな無人島だ、すぐに分かるだろうと思っていたんだろう。もしも陰謀によってアイツが殺されたのならば、それは軽率な行動だったと批判されても仕方ないが……」
「そりゃ酷いわ。部長が殺されたってことは、犯人はウチらも殺そうって考えているんやない? 部長を口封じで殺したんやったら、他の部員も秘密を知っていると考えるんが普通ちゃうん? 」
「そうですね。あたしも村野先輩の意見に賛成です。長野先輩は犯人が島から逃げたって言いますけど、もし、部長が何らかの秘密を知りすぎたためにあんな目に遭ったというのなら、あたし達だって危険じゃないですか? 」
不安げな顔で綾が言う。
事態は思わぬ方向へと進んでいきそうだ。
殺人者は部長を監視していた。そしてあの建物の中で殺害の機会をうかがっていた。まるで、ありきたりのサスペンス映画のような展開だ。
しかし、疑問が残る。
部長が知りすぎたために殺害したというのなら、何故この島なのか。目撃者を減らすための工作というのだろうか? ならば昼間に襲う必要性はない。夜中に襲撃すればいいだけだし、無線機を壊すことは理解できるが、食料を隠す必要性は無い。なんなら毒物を食料に混ぜておけば、それで部員を皆殺しにできる。
食料を隠し、精神的に部員達を追いつめるというような手間をかけるとは思えない。
それに部長も危機が迫っていると分かっているのならば、わざわざ危険な島に来る必要性は無かったはずだ。
部長の性格からして、それほど彼を知っているわけではないが、無関係の部員達や自分の彼女を巻き込んでまでこの島に調査にやって来たりしないだろう。
どうも他に何かがあるとしか思えない……。
「部長がそういった秘密を知りすぎたから殺害したという推理はあまりに飛躍しすぎているな」
そう言って、長野先輩は熱くなりかけている部員達に冷静さを促す。
「脅迫とかはアイツから俺が聞いただけで、実際にあったかどうかは分からない。それに殺すなら、あんな行き当たりばったりの方法は採らない。食料を隠す必要性もない。……俺たちを皆殺しにするのなら、他にもっと効率のいい方法がある」
「だとしたら、あたし達は大丈夫なんでしょうか? 犯人はすでに逃走しているということでいいんでしょうか」
「おそらく間違いないだろう。研究施設からこの宿泊施設までの間に船は無かったことが
1つの証明といえるかもしれない」
「なんでそう言い切れるんや? 犯人は一度船で逃走して、また戻ってきているかもしれんやん。今頃どこかで潜んでいるかもしれへん」
「だから念のために周囲をパトロールしたし、戸締まりもきちんとしている。夜も交代で俺と田中が起きているつもりだ。その辺の対応はできている」
「食い物もあらへんし、犯人に怯えて迎えが来るまで待たなあかんの! そんなん耐えられへんわ」
次第に村野先輩はパニックを起こしつつあるようだ。
手にしたビデオカメラが小刻みに震えている。
「村野先輩、落ち着いてください」
僕は立ち上がって村野を押さえつけた。
「長野先輩はあくまで部長から聞いたことだっていったじゃないですか。どこにも部長が脅迫されていた事実はないんです。推測だけでパニックに陥ってもしかたありません。今は冷静に状況を整理することです」
僕は、彼女を椅子に無理矢理座らせると、再び椅子に腰掛けた。
「俺は最悪の事態を想定して行動しているだけだ。現実はそんなに切迫したものでは無いと思っている。何にせよ、現段階では検証できるような事実が少なすぎる」
長野先輩は大きくため息をついた。
「長野先輩はどう考えているんですか? あたしは部長に恨みを持つ何者かが部長を殺害したと思っています。旧日本軍やその後施設を引き継いだ製薬会社に関係のある誰かが、隠していた秘密に接近しすぎた部長を殺害したという推測には、賛成はできません」
「ふむ。では、山寺はどう考えているんだ? 怨恨説を採るというのか」
「いろいろな矛盾点があると思いますが、怨恨による犯行が一番しっくりくると思います。この島にどうやって来たかとか、どうやってミステリ研究会の合宿を知ったか、何故この島なのかといった問題点はありますが、陰謀説よりは現実性があります」
冷静さを取り戻したらしい村野先輩が撮影を再開している。
「この島に来た方法は船をチャーターないし盗んだのだろうな。では、ミステリ研究会の合宿をどうやって知ったか。陰謀説を採用しないとなると、必然的に絞り込まれてくると思うが……」
長野先輩の指摘について考えて行くに、あまり好ましくない推理にたどり着こうとしているのを感じた。
「せや! 」
突然、今まで黙り込んでビデオを回していた村野先輩が叫んだ。
「ミステリ研究会の合宿を知っとるってことは、学校関係者しかあらへんがな。それもウチらの夏期合宿いうたら、顧問の先生か部員とその友人くらいしかおらへん。あとはその家族ぐらいやな」
「そうだとしたら……」
綾は何かを言おうとして黙り込んだ。
僕と同じ事を思ったのだろう。
「そうや! なーんや、大した問題やあらへん! 犯人がどうやってこの島に来たかとか
何でこの島で犯行に及んだかとかすぐに分かるやんか」
「ふむ。では村野はどう考えたんだ?」
「簡単や。犯人は船を盗んだり、チャーターしたりなんてせんでもウチらと一緒に来てたんや。……同じ船でな! 」
名探偵気取りで村野先輩が宣言する。
「ミステリ研究会がこの合宿に来ることも部員やったら合宿の情報は当然知っとるしな。……、つまり犯人はミステリ研究会の中にいるんや」
明確に断言してしまった。
彼女は腰に手を当て、自信満々で胸を張っている。
「確かにな。その説で行けば、犯人がどうやってこの島にやって来たか、そしてどうやってミステリ研究会の合宿を知ったかの問題が解決することになるな」
長野先輩の言葉に更なる自信を持ったようだ。鼻息も荒く、相変わらずカメラを回している。
「でも村野先輩、部長を殺したいほど恨んでいる人なんているんでしょうか? あたしにはとても信じられないです」
綾が席を立ち上がり、否定意見を述べる。
「ハン! 殺してしまいたいと思わんでも、憎しみやそういった類の感情を持ってる人はいっぱいおるやろ? 」
何を言ってるのこの娘は! といった視線でにらみつける。
「一番怪しいのは、深町さんや。彼女は最近、部長と不仲みたいやったしな。捨てられそうになっていて、どうにか元に戻したい思っててもちっともうまくいかへんかったみたいやし。そんならいっそって思ってもおかしないな。恋人を殺された悲劇のヒロインを演じてるけど実際はどう思ってるかわからへんで」
「そんな、酷いです……。先輩、それは言い過ぎです! 」
珍しく綾が声を荒げる。
「おやおや、あんたずいぶん正義漢ぶるなあ。……可愛い顔して、よーそこまで演じられるわ」
いつになく毒々しい口調で問いつめる。
「だいたい深町さんと部長の仲が怪しくなったんは、あんたが原因やっちゅうのが分かってへんのかいな? 」
「え? ……何のことだかわかりませんが」
「あんたがミス研に来てからおかしくなってきた気がするんや。部長はあんたをものにしようとエライ必死やったからなあ。端から見ててもあからさまやったから、そら深町さんもエエ気はせんやろ」
村野先輩が何故そこまで綾に噛みつくのか理解できない。空腹が彼女をより攻撃的にしているのだろうか。
「あたしは部長の事を何とも思ってませんし、部長だってそんな気は無かったと思いますけど……」
「そうなんやろか? 山寺さんかて部長がどう思ってるかわからんわけやないやろ? 露骨に誘われたりしてたからな。まあ確かに、あんたみたいに可愛い子に心変わりするのはわからんでもないし」
「だから、あたしが部長と深町先輩の仲を裂いているわけじゃないでしょう。それは深町さんも分かってるはずだし。村野先輩の推理はおかしいです。あの二人は仲が悪いわけじゃないんでしょう」
「百歩譲って、山寺さんが原因やないかもしれんけど、あの二人がうまくいってないのは間違いないわ。……うん? そしたらもう一つの可能性が出てきたわ。山寺さんは部長の誘いに迷惑してたんやろ」
「……はい」
綾は正直に認めた。
「そしたら、田中。あんた、部長に恨みを持っててもおかしくないわな」
「は? 」
突然、僕に矛先が向いたので一瞬動揺してしまった。
「田中は山寺さんのことを好きみたいやし。……まあ、ただの片思いやろうけど、友人であることは間違いないわな」
「幼なじみであることは間違いないですよ」
「そんなら、山寺さんから相談を受けてるやろ。部長が自分にちょっかいを出してきて困っているとかって。好きな女の子からそんなこと言われたら、普通、怒るやろ? 」
ものすごい論理展開だと呆れた。それくらいで人を殺さなければならないのか、僕は。
「そういった話は綾から聞いてますけど、彼女はうまく部長をあしらっていたし、そもそもそれくらいで僕は人を殺すんですか? 」
「そりゃ、わからへんやろ。田中が山寺さんをどんなに想っているかなんて、ウチには想像でけへん。言おうとすることは分かるんやけど、動機が無いとは言い切れへんやろ? それに何より、犯行当時最も部長の側にいたのは間違いないんやからな」
確かに、部長に最も近い位置にいたのは、僕であることは間違いない。動機は弱いが、怨恨なんて端から見たって理解できないものだ。
ミステリ研究会部員の中で最も犯行のチャンスがあったのは否定できないことだから。
「確かに、田中が部員の中で最も殺害するチャンスがあったとは言える。だが、他の人間に不可能だったかは分からないだろう」
長野先輩が口を開いた。
「建物への入り口は一箇所だが、窓からなら侵入は可能だった。さらに部員達は単独で行動していた。ゆえにそれぞれのアリバイを立証する人間は誰もいない。誰にでも犯行が可能だった……。犯行を終えた後、何食わぬ顔で合流すれば、ばれることはないだろう。つまり、村野、おまえにも殺害は可能だった」
「な、なんやて! 」
探偵役から急に犯人役を割り振られ、彼女はムッとした顔で長野先輩を睨む。
「山寺、田中、深町に動機があるというならば、おまえだったある。聞いた話ではかつておまえは部長に憧れてミス研に入ったらしいな。そして部長に告白をしたが、かなり酷く振られたとか……」
「う、うるさいわ! 」
それ以上言わさないように、村野先輩が叫んだ。
燃えるような目で長野先輩を睨む。今にも飛びかかりそうな形相だ。
「そ、そんなん過去の話や。誰だって失恋の話はあるやろ。そんなんでいちいち人を殺せるかいな。……それも昔の話や! 」
その動揺具合から未だに忘れ切れてないことは間違いない。
「フッ、まああくまでたとえ話だ。要するに誰にだって殺害の動機は考えられるということだ。こじつけでしかないがな。
俺だってアイツと口論することもあったから、動機はないとは否定できないだろう。部の運営についての衝突が原因で殺害に及んだと言われたら、それはそれで充分な動機となるだろう」
つまり、誰にも動機が、殺害に至るまでには薄弱な動機ではあるが、誰が犯人でもおかしくはないということか。
場は沈黙し、誰もが猜疑心を持ち出す……。ミステリ小説と同様の展開だ。
「ちょっと待ってください。確かにみんなに動機があるとしても、決して無理なことがあります」
綾が口を開いた。
部員達は彼女の次の言葉を待つ。
「疑問点として、無線機の破壊や食料の紛失は誰がやったのでしょうか? 部長を殺した犯人と無線機を破壊したりした人物は同一だと思われます。だったらどう考えても不自然でしょう?
あたし達は行きも帰りも一緒でした。研究施設からこの宿泊所までは徒歩で1時間はかかります。あたし達が施設に到着してから部長が殺害されるまで一時間もかかっていません。部員の中の誰かが犯人だったとしたら、それは不可能なのではないでしょうか? 」
「そらそうやな……。でも共犯者がいたなら問題ないで」
「それなら、共犯者はどうやってこの島に来たのでしょうか? 結局その問題に戻ってしまうことになります」
確かに、綾の言うとおり、部員が犯人ならば無線機の破壊や食材を隠すことは物理的に不可能だ。
村野先輩の言うとおり共犯者がいたならば、問題は解決するだろうが、殺人の共犯に及ぶほどの共通の動機を持つものがそう簡単に見つかるとは思えないのだが。
「つまり、結局は堂々巡りということだな」
長野先輩が静かに話した。
「陰謀説と怨恨説。外部犯と内部犯。単独犯と共犯。
どれも可能性があるが、確たる証拠も無い。推理を展開させる要素もないということだ。結局は全ての可能性を考慮しながら、迎えの船が来るまで待つしかないということだな」
「ハア。結局は結論なしなんか。無駄に話しただけやんか。アホらし。ウチは部屋に帰って寝るわ」
散々毒をまき散らしたまま、村野先輩は食堂を出ていった。
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