第5話 島の探索 その3
島の西へと伸びる道は、海岸線に沿って続いている。左側には砂浜が現れ、微かな波音を起てている。
青く澄んだ海を連想したいところだが、この島の海はどういうわけか深い碧色で濁りを含んでいる。内海はこんな色なのかもしれないし、この島の周辺だけそんな色をしているだけなのかもしれない。
「なんだか海って気がしないわね」
海を見つめながら綾がつぶやいた。
「確かに夏の海っていうよりはなんだか淀んだ冬の海って感じだね。せっかくなんだから海水浴もしたい気分なんだけど」
「あたしも一応水着は持ってきたんだけど、大丈夫かな……」
「この辺の海はこんな感じなんじゃないのかな? 保養所みたいなものも造られていたくらいだから、海水浴もできるのは間違いないと思うよ」
「そうよね。じゃあ明日にでもみんなを誘ってみようかな。徹君も来るよね」
「ああ、もちろん行くよ」
僕は何気なく答えた。
ふと綾を見ると少し照れた様な顔をしている。
「この前の日曜日にね……」
「うん? 」
「すっごく可愛い水着買ったの。いつ着ようかって思ってたんだけど、買ってから気づいたんだけど、思ってたより露出度の高い水着で、近くの海に着て行くにはちょっと恥ずかしくて……。ここなら人も少ないから大丈夫かな」
綾ならスタイルは良いからどんな格好でもそれなりに似合う。結構胸も大きかったようにも思う。まじまじと見たことはないが、服の上からもその膨らみは想像できる。
男の目を惹きつけるんだろうな。彼女の言うとおり露出の高い水着だったら、夏の発情した野郎連中が見たら、もう誘ってると勘違いして、声をかけられすぎて落ち着いていられないだろう。そんなことを考えたりした。
はてさて、突然思ったのはそんな水着を何の為に買ったのだろう? 人前で着るには恥ずかしいのに、必要性が感じられない。
「恥ずかしいなら、何故そんな水着を買ったんだい? 」
「なんとなく……かな。ま、徹君には見せてあげてもいいけどね」
女は、……分からない。
綾はそれっきり水着に関する話題には触れなかった。それ以上の話題も無かったので、しばらく黙ったまま歩く。時折喉の乾きを感じ、左手に持ったままのジュースを飲む。
砂浜はやがて無くなり、道は崖を昇っていく。左側は朽ちた柵があるだけで、その下は崖。高さも数メートルはある。
何気なく下を覗いてみると水面にはいくつもの岩が顔を出し、そこに波が当たって白い飛沫を上げていた。
僕は崖側を歩き、綾には山側を歩くようにさせた。
道幅は2メートルあるかないか。
山からは木の枝が道へと覆い被さってきている。雑草も生えており、歩きやすいとは言い難い。
「この先に何があるんだろう」
「どうなのかしら。道があるから何かがあるんでしょうけど」
僕たちはさらに歩く。
景勝とも思える海の風景も見慣れてくると、やはり平凡でしかない。
どれくらい歩いただろうか? 距離にして2キロもあったかどうか。
道はやがて行き止まりになった。大きな松の木がある。その右側には雑草が生い茂った何か塊が見える。
「あれ何かしら? 」
僕たちは雑草の塊に見えるものへと近づいた。
雑草の隙間から小さな祠のらしきものが見える。
「———————祠? 」
僕は草を足で踏み、手でかき分けてその祠らしきものが見えるようにした。
ごくごく小さな祠がそこにある。
小さな扉があり、錆びた南京錠で封印されている。
「この中には何かがあるんだろうか? 」
僕はその錆びついた南京錠を叩きながらつぶやいた。鍵はガチャガチャと鈍い音を立てる。もう少し力を入れたら南京錠ごと壊れそうな感じだ。
「徹君、そんなことしちゃ駄目よ。罰が当たっちゃうから! 」
「壊そうなんて考えてないよ」
僕は笑って南京錠を掴んだ手を離した。
しかし、この祠は何だろうか? 放置されてからだいぶ時間が経っているようだ。
「この祠は何なんだろう」
「何かの神様を、たぶん海の神様とかを祭っているのかしら? 鍵がかかっているのはよく分からないけど」
確かに、何かを祭っているのは間違いないが、それが何かは不明だ。さらに鍵がかかっているというのは見たこともない。この中に人に見られては困るようなものでも入っているのだろうか。
「中身が気になるな……」
「徹君、変な事考えちゃ駄目よ。神様を祭っているんだから、絶対罰が当たるわよ」
「神様云々は知らないけど、まあ勝手に開けるのは良くないかな」
祠が気になるが、それはただの好奇心でしかない。何かの秘密があるかもしれない……そう思うのは考えすぎかな。
気軽に鍵を壊して中を覗いてみたら全てが解決するんだろうな。でも綾に怒られそうだしなあ。彼女は祟りとかそういったものを信じているみたいだから。
……それ以前に、その祠の秘密を知ることは、何か良からぬ事を呼び込むような何やら得体の知れない予感がしたので、僕はそれ以上の探索をやめることにした。
こういう予感は今まで外れたことがないからね。
「さて、ここから先は行き止まりみたいだから、一端戻ろうか? 」
「そうね」
僕たちは来た道を戻って行った。
この合宿中にもう一度ここへ来て、もう少し調べてみよう。
危険なものだと分かっていながら、僕はそう思わずにはいられなかった。何故だかは分からない。
再び合流地点に戻ってきた。
だいぶ日も傾いてきている。
「そろそろ宿泊施設に戻りましょうよ」
綾もさすがに疲れているようだ。
「うーん。明日行く研究施設跡地に行ってみたいんだけど……」
「駄目よ。そこには明日行くんだから、わざわざ行かない方がいいわ。部長にも明日にならないと行かないようにって言われてるんだから。先に見てしまったら、楽しみが半減するんだって」
「そうか……。部長がそう言っているんだったら、見に行かない方がいいかな」
「そうよ。それにここからだと歩いて1時間以上かかるらしいのよ。往復してたら夕食には間に合わないわ。それに部長もそろそろ帰ってくるだろうし、鉢合わせしたら怒られちゃうわよ」
研究施設跡地に行く道は一本だけとのことだ。戻ってくる部長に会わずにたどり着くのは無理みたいだ。それに往復2時間以上と考えると、夕食には間に合いそうもない。結局どこへ行ってたということになりそうだ。
無理は禁物だな。
「じゃあ帰ろうか」
「そろそろみんなが戻ってきていると思うし、夕食の準備をしなくちゃいけないわ」
僕たちは宿泊施設へと歩いて行った。
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