私の母の再婚相手
今夜突然お母さんの再婚相手と会いにいくと言われ驚いた私だが、お母さんが何回も頭を下げて事情を説明し始めた。
そもそも、話的には再会して想いを伝えあったその日にお互いの家族同士会って会話する日を決めていたらしい。
ところが、お母さんの担当編集者さんから電話がきて、漫画の〆切がもうすぐだという事が発覚。お母さんは慌てて原稿を〆切までに間に合わせ、なんとか〆切までは間に合ったものの、そのせいでしばらく何もしたくない無気力な状態に陥ってしまった。で、ようやく立ち直り気付けば今日が約束の日で、私にそれを伝えていない事も発覚して今に至るという……。
〆切間近で急いで原稿を仕上げた後のお母さんは、完全に真っ白な無気力状態になる事はよくある事で、ちゃんと用意すればご飯も食べるので、基本放置しても大丈夫なんだけど、まさかそんな大事な話を話忘れてるなんて……
まぁ、その事でお母さんを責めてももうどしようもないので、電話でタクシーを呼んで、タクシーでお母さんの再婚相手と会う場所へと向かったのだが……
「えっと……お母さん……本当にここで合ってる?」
「うん。REINEで送られてきた住所を運転手さんに見せたから間違いないよ」
たどり着いたその場所は、この辺りでも有名な何十階建ての超高級ホテルだ。いくらお母さんが売れっ子漫画家とは言え、こんな場所に行った事は一度もないので、思わず足がすくんでしまう私。しかし、お母さんは……
「待ち合わせ場所はこのホテルの8階にあるレストランだって!早く行こう!杏奈ちゃん!」
「ちょっ!?お母さん!?」
何の躊躇もなくホテルに入っていくお母さんに、私は慌ててお母さんの背を追うようについて行く。
そして、中に入れば高級そうな装いのロビーに、高級そうな制服に身を包んだホテルマンに、高級な服を着たお客さんらしき人々を見ていると、自分が場違いな気がして帰りたくなるが、お母さんは気にせずにエレベーターに向かいボタンを……
「…………ごめん。杏奈ちゃん。ボタン押して」
「あっ、うん。分かった……」
押そうとしたけれど、お母さんの身長では微妙に届かず、物凄く悲しそうな目でお願いするお母さんを見て、少しだけ緊張が解かれた私はエレベーターのボタンを押して、お母さんの再婚相手が待つ8階のレストランへと向かった。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか?」
たどり着いたレストランはまたいかにも、高級ホテルのレストランですと言わんばかりの装いに、また若干先程の緊張が戻ってきたが、そんか私達の前に、これもまたキッチリと制服を着こなした店員さんがやって来て話しかけてきた。
「はい。今夜、西村の名前で予約している者なのですが?」
お母さんが店員さんにそう伝えると、お母さんの見た目のせいか、お母さんが対応した事に若干驚きつつも、店員さんはすぐに表情を戻し何故か私の方を見て
「西村様というと……お2人は西村様のお連れ様の上原様で間違いないでしょうか?」
「えっ……あっ、はい……そうですが……」
私が店員さんにそう伝えると、店員さんは「少々お待ちください」と言って、スタッフルームらしき所に入って行った。そして、店員さんに言われ待つ事数分、いかにも高級そうなスーツを身に纏った老紳士が現れ私達に朗らかな笑みを浮かべ
「ようこそ。上原様。お待ちしておりました」
老紳士はそう私達にそう声をかけてきた。その老紳士を見たお母さんは、何かに気づいた表情で老紳士を指差して
「あぁ!?もしかして……セバスチャンさん!?」
「その呼ばれ方も懐かしいですなぁ……智子様」
「本当にセバスチャンさんなんだ!執事服じゃないから一瞬違う人かと思っちゃったよ!」
「今は旦那様達の声もあってここのオーナーを務めております。智子様は……色々お変わりないようで安心しました」
あえて、お母さんの身長の事には触れずにそう答える老紳士。って言うか……さっきこの人オーナーって言ったよね!?それってこのお店で1番偉い人って事なんじゃ!?
「もしや、そちらのお嬢さんは?」
「うん。私の娘の杏奈ちゃんだよ」
「これはこれは……はじめまして。杏奈様。改めてになりますが、私がこの店のオーナーを務めております
朗らかな笑みを浮かべて自己紹介をしてくれる榊さんに、私は「は!はじめまして!」と言って頭を下げる事しか出来なかった。
「セバスチャンさん。もうななちゃん来てるの?」
「はい。お嬢様も数分前に到着されてお待ちになってます。早速私がご案内いたします」
そう言って榊さんの後を追うように歩く私達。榊さんの案内でたどり着いた場所は、これまた高級な造りだと分かる扉。榊さんは扉を二、三回ノックし
「お嬢様。智子様と娘の杏奈様がご到着されました」
『ありがとう!セバスチャン!入ってきてもらって!』
扉の奥から女性らしき人の声が聞こえ、榊さんはその声を確認した後、扉を開け「どうぞ」と言って私達の入室を促した。榊さんに促され、中に入った私達を出迎えたのは
「先輩数週間ぶりですね!娘ちゃんははじめましてだね。私が先輩……お母さんの再婚相手の西村
西村 七海と名乗った私よりも長身で、スタイル抜群の、モデルも裸足で逃げ出してしまうんじゃないかという程の美女が、笑顔で私達に挨拶を交わしてくれた。
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