私の母の再婚
唐突に言われた再婚発言に驚いて一瞬言葉を失ったけれど、よく考えたらいい話だ。お母さんは女手一つで私をここまで育ててくれた訳だし、そろそろお母さんも自分の幸せを見つけたっていいからね。
「えっと……その……突然で驚いたけど、そっか……お母さん。おめでとう」
「うん!ありがとう!杏奈ちゃん」
私の言葉にすごく幸せそうな笑顔を浮かべて返すお母さん。うん。でも、こうなると気になるのは再婚相手だけど……
「それで……その……お母さんの再婚相手って……?」
まぁ、当然だけど気になるのはそれだ。お母さんは私が中学に上がるぐらいの時に父と離婚している。原因はお母さんの仕事だ。
私のお母さんは「TOMOKO」の名前で漫画を描いてる漫画家だ。お母さんの代表作「悪役令嬢の姉はヒロインの妹を溺愛す」は、1000万部以上売り上げた大ヒット作である。
が、それだけ売り上げを出せば、当然稼ぎはお母さんの方が上になる訳で、普通のサラリーマンだった父は、自分よりも稼ぐお母さんに不満だったのか、ある日こんな事を口走ってしまった。
「全く……そんな低次元な漫画を描くよりも、もっと家事を磨くべきなんじゃないか?」
父からしたらつい口走った言葉なんだろうが、自分の作品は我が子のように感じてる母さんにとっては聞き捨てならない言葉だったんだろう。
「離婚しましょう」
お母さんは未だかつて見た事がない程綺麗な笑顔でそう言った。そして、あれよあれよという間に離婚は進み、慰謝料を請求しないの条件で、私の親権はお母さんが獲得して今に至る。
まぁ、そんな感じでお母さんは父と別れたので、出来るならお母さんの再婚相手はお母さんの仕事に理解を示してくれる人がいいんだけど……
「えっと……実はね……再婚する人は私の高校の時の後輩で……私が漫画家を目指そうとしたきっかけの人で……私の初恋の人なの♡」
頰を赤く染めながら話すお母さんはまるで恋する乙女そのものだ。なるほど……お母さんが漫画家を目指すきっかけを作った人か……そういう人ならお母さんの仕事も理解してくれ……ん?
「お母さんの高校って……確か……女子校だったよね?」
「えぇ……そうよ。だから、あの当時は初恋は実らないまま、これ以上実らない初恋を抱える訳にもいかないから、キッパリと彼女とは会ったり連絡を取り合ったりしないようにしたの」
まさか、お母さんがそんな高校時代を過ごしていたなんて……初めてお母さんの口から聞くお母さんの初恋話に驚く私。
今だと、超巨大企業「西園寺グループ」社長の妹で、超有名科学者の
けれど、私が産まれる前はその技術がなく、同性同士のカップルなんて非生産的だとかなんとか言われ、同性結婚は認められず、同性同士のカップルはあまりいい目で見られなかったと聞く。故に、お母さんもその人の事を考えて想いを打ち明ける事なく今の今まで過ごしてきたんだろう。
「けど、連絡を絶っていたんでしょ?それが何でまたその人と再婚する話に?」
「えっと……実は……その子私が描いた漫画のファンだったみたいで、サイン会でバッタリ会っちゃって……」
「えっ!?でも、お母さんのサインしてる人ってゴーストだよね?」
お母さんはこの見た目である為に、自分が「TOMOKO」であると主張してもなかなか信じてもらえず、絵を描いて証明しようとしても
「君上手いねぇ!将来きっと「TOMOKO」先生のような立派な漫画家になれるよ!」
と、言われる始末なので、もう諦めてサイン会は、お母さんのアシスタントをしている人が、代筆をするゴーストをしている。
「うん……実はその子前々から私の作品は私が描いてるんじゃないかと疑ってたみたいで……でも、肝心のサイン会に来たら私とは違う人で、描いてもらった絵とサインも何処か違うと感じたらしく、私のサイン会に来る度にずっと私が何処かにいるんじゃないかって探していたら、とうとう、数週間前のサイン会のイベントで見つかっちゃって……」
なるほど……凄いなその人……ゴーストしてるアシスタントの人の描く絵は、娘の私から見てもお母さんの描く絵とそっくりだと思っていたのに……
「それで……一緒に食事……というかお酒を飲む事になって……その……お酒を飲んだ影響か……つい昔好きだった事を話したら、その子も私の事好きだったみたいで……♡」
なるほど。その人もお母さんが好きで、お母さんの描く漫画のファンだった故に見抜けたんだろう。愛の力という事だね。
「それで……あの子も数年前に離婚して、一人娘がいるみたいだけど、今は独身で……だから……その……今度こそ2人一緒にならないかって♡」
照れならがらも嬉しそうに話すお母さんはとても幸せそうだ。こんなに幸せそうな表情をするお母さんは初めて見るかもしれない。よっぽどその人と一緒になるのが嬉しいのだろう。これはもう娘として祝福するべきだろうな。
「それで……その子とその子の娘と、私と杏奈ちゃん。一度顔合わせしようって話になってね」
「うん。分かった。私は大丈夫だよ。それはいつになるの?」
「実はね……今夜なの」
「……はいッ!!?」
またも唐突に言われた言葉に、私はとても間抜けた叫び声を上げてしまった。
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