第46話 襖絵
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御着城はあっけなく陥落した。
播磨三大城の2つ目の陥落で、播磨国人衆は情勢の変化を感じ取った。
この地方は、戦乱の巷であるため、親でも平気で裏切る土地と何かの書物に記されている。
それほどのことをしないと生き残るのが難しい土地柄ということになろうか・・・。
「そちが、小寺官兵衛か」と道雪が問う。
地下牢から助け出されて、引き据えられている。
「はは、助けて頂き感謝したします」
「我らが殿、九十九様は、貴殿が仕えることを望んでいるがどうか」
「・・・」
道雪の周りには、息子たちが立ち並んでいる。
その雰囲気は、仕えなければ殺すという雰囲気に包まれている。
官兵衛が有能なことを知っている俺だが、敵に回るならその前に始末する。
「何か?」
「某は、小寺家家臣でござれば」
「小寺家はほぼ逮捕拘禁している、実質、解体された」
「はは、御意のままに」
官兵衛は平伏した、何が御意なのかは不明である。
「残念なことだが、播磨国人は皆、平気で裏切る気質らしい故、この書状に血判し、誓ってもらう、これは八咫烏起請文といい、由緒のあるものである、ゆめゆめ忘れる事なきように」道雪が冷厳と言い放ち、小姓が其の起請文を差し出す。
一読すると、裏切り行為には、地獄のような苦しみを得た後に、奇怪な死を遂げる事も了承すると書かれていた。
「これは?」
「間違いなく、裏切ればそうなる故、気をつけられよ、同僚として忠告しておく」
堺商人が惨死した事件で何人かの人間が重度のPTSDに陥ったことを知る者は決して、この証文にはサインしないと心に決めているらしい。
・・・・
「官兵衛殿よくぞ、御覚悟された、儂は歓迎するぞ」と九十九がいう。
もちろん、うんといわねば今頃何処かに死体で転がっていたのだがな。
「殿、これからよろしくお願いいたします」自分とそう変わらぬ年ごろにしか見えない九十九に挨拶する官兵衛だった。
「いやいや、此方こそ頼むぞ」
「西播磨攻略についてはこの官兵衛にお任せください」
「いや、西播磨については、侵攻計画はない、丹波に向かうのでな」
西播磨攻略の目標は龍野あたりであろうか、しかし、この男は違うという。
では、なぜここまで来たのか?半兵衛は悩んだ。
「うむ、半兵衛になら言ってもかまうまい、生野銀山を奪取する」
「さすがは殿にございます」ここら辺が播磨気質?なのかすかさず褒める。
自分の頭の中では、生野?と思っていても、まずは褒めるのである。
生野に銀が出ることは古くから知られていたが、本格的に採掘をしだすのは、秀吉時代からである、そして、日本の貿易の決済のほとんどが銀による決済である。
だがしかしである。
今の主流は、真珠であった(鈴木家の場合のみ)。
世界中で、真珠を養殖できると考えていた者は、いなかったのである。
それを、この男は御木本幸吉よろしく、せっせと志摩の国の英虞湾で養殖していたのである。かつて、この男は未来で、南洋黒真珠を養殖していたのだった。
今や、鈴木の真珠は世界を席巻していた。
取り扱い商店の一つ丹波屋は堺の会合衆になっていた、店主は伊賀忍者の棟梁であったがな。
「紀州の漆器と磁器、それに真珠は、いくらでも売れるからいくらでも欲しい」
南蛮商人達がそういっているらしい。
もちろんそのような状態になると、製法を盗もうとする輩が続出するわけだが、うまくいった者は存在しない。
漆器は、根来寺と海南の黒江がその主要生産地であるが、忍びと海兵隊が警護しており侵入することは不可能であった、忍び込んでも技術を手に入れるには、修行が必要になる類のものである。
弟子になるためには、情報セキュリティーの秘匿契約にサインする必要がある。
そして、情報を漏らせば、大変な死に方が訪れるのであった。
「ブラックマジック」と恐れられる契約書が存在したのである。
忍びや海兵隊では、紀州犬を軍用犬に訓練し、警護に使っている。
他国のものが嗅ぎまわれるような状態ではなかった。
磁器はいわゆる、ボーンチャイナである、粘土に牛骨粉をいれて焼くというイギリス発祥の技術であるが、おきて破りの男がこの世界で技術を確立させていた。
これらは、湯浅地区において作られていたが、やはり同様に侵入不可能な地とされていた。
真珠養殖も同様に、いやそれ以上の厳しさで警護されている。
志摩国人が伊勢国に出るには、厳しい審査が必要になる。
伊勢の方でも、鈴木家からの要請により厳しい警戒態勢を強いている。
何かあれば、息子が大変な眼に会うことになりそうであった。
因みに息子は、淡路の訓練所で収容されていたが今は、戦場に出ている。
思想教育が済んだためである。
金鵄八咫烏城に山科
「これはこれは、山科様」
この山科氏は、上泉武蔵守と友人関係にあり、ちょくちょくやってくるようになった。
「お~鈴木殿、今日はあいすまんの」
「ようこそおいでくださいました」何回も来てくれるなよと思いながら挨拶をする。
「この前は大変貴重なものを頂いた、御かみも大変にお悦びでござりましたぞ」
真珠の首輪は好評であった様である。
「御かみは、鈴木殿に直接あって、礼を申したいとの事じゃ、是非上洛してくだされ」
と無茶なこと平気で言うのが貴族。
「京には、今だ三好三人衆がおりますれば、なかなかに難しいかと、それに、主人の孫一が参る由にござれば・・・」
「気にされることはないぞ、御かみは九十九殿と話がしたいそうじゃ、もちろん主君重秀殿にも恩賞が与えられるであろう、それを貰いに来てたもうということじゃ」
まるで敵がいないかのようにいう、山科氏。
貴族は攻撃されないだろうが、宿敵ともいえる俺が行けば、決死の戦いは避けなれないのでは?
「三好のものには、御かみから通達が行くから、襲ってくることはないのではないか」
松永弾正を見ると、首を振っている。
「わかりました、準備ができ次第上洛させていただきましょう」
「殿!」旧三好家の松永が声を上げる。
「しかし、九十九殿、この城は大変変わった形をし、美しいが、襖絵に華がないのではないか?茶の道などはなされぬのか?」
「は、恥ずかしながら」
「そうか、では京で待っておるぞ、準備ができたら、使いをよこしてくりゃれ」
「はは」
・・・
「殿!」
「殿!」
「お、なんだ」
「攻略をお考えだったのですね」
「いや、襖絵のことを考えていたのだ」
「襖絵?」
「確か、襖絵は狩野永徳とか山楽とかが有名だったな」
「すいません、永徳・山楽などという名は聞いたことがありませんが、狩野派は有名でございますな」と芸術にも詳しい松永弾正。
「狩野松栄ならば知っております」
「おい、弾正、なぜ言わん」
「は、殿はその、芸術に興味がないのかと」
「もちろんないが、見てくれは気にするのだ、早速、狩野派を招集せよ、その中に永徳がいるはず、永徳に書かすのじゃ」
「はは」
・・・
「狩野松栄にございます、よろしくお願いします」
狩野松栄以下、画家集団狩野一門が居並んでいる。
「ご苦労、早速だが、この城の襖に絵を書いてもらいたい」
「有難き幸せ」
本当に有難いのか、有難迷惑なのか推し量ることはできない。
「但し、皆十分な休息と栄養補給は行って貰いたいのじゃ、そこら辺の話は、望月と相談してくれ」
「はは」
狩野一族は仕事が多すぎたせいか。狩野永徳などは早死にしている。過労死ではと推測されている。
十分な休息と十分な栄養補給は必須、長く多く作品を作って貰う必要があるのだ。
「まずは、この金鵄城、その次は、悪いのだが、紀州の本城を頼む、次は、姫路に城を作るから其れにも頼みたい、ゆえに健康には万全をきして、長く元気にやっていってくれ」
「有難き幸せ」
「長谷川等伯なる者が加賀近辺の寺の絵を書いているはずだ、服部に調べさせよ、このものも雇いたいので、連れてきてくれ」
かくして、急に芸術に興味をもった(はずもないが)この男は時代の芸術家を探し始めるのであった。
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