第45話 小寺氏

45 小寺氏  


1565年(永禄8年)

三河一向一揆が一揆勢の敗北で終了し、松平元康は三河を統一した。

しかし、一揆の所為で家臣たちはバラバラになってしまった。


金鵄八咫烏城の大広間には、その一揆方の武将が並んでいる。

本願寺顕如からの提案で、鈴木家に仕えてはどうかと周旋があったためである。

そして、家臣となるために、前線の指揮官たる鈴木九十九大和守のもとにやってきたのである。


この男は、すでに摂津のほとんどを占領し、播磨への侵攻も確実にすすめていた。

一方、鈴木家家臣団(旧来からの家臣)は、四国上陸作戦を敢行し、阿波は占領したが、讃岐、土佐方面では、苦戦している。


特に、土佐方面では、長宗我部氏の反撃にあい痛い目にあっていた


「この度は、我々を快く受け入れてくださりありがとうございます」

本多正成が一同を代表して礼を述べる。


「我らは、仏教の守護者と任じている顕如様にも感謝している、いずれは山城に大きな御坊を建てて御移りしていただくお約束となっている、それまで、汝らは我が家の家臣として活躍し、御坊で一緒に過ごしたいとあれば、そうすればよかろう」

「感謝申し上げます」

果たして、彼らが顕如と一緒に山城の寺で一緒に住みたいのかは、知らないがな。


播磨3大城というものがある、三木城、御着城、英賀城である。

そのうち、三木城は、死の吶喊攻撃により落城している。

播磨は、群雄割拠の土地がらであるが、外部からの敵があれば、団結して当たる土地柄である。

御着城(ごちゃくじょう)は小寺氏の居城である。

もう一つの英賀城は姫路より西にあるため、攻撃対象外となっている。

あくまでも、姫路城が攻撃目標であった。

因みに姫路城はこのころは、まだ世界遺産のような城ではなく、この御着城の付き城の扱いであった。


「戸次道雪でござる、主君鈴木大和の名代で参りました」

「ご苦労である」と小寺氏。

「万事、鈴木家がこの地の采配をいたしますゆえ、どうか御くだりくだされ」

「無礼であろう」何人かの側に控えている武士が声を揚げる。

「三木城での戦いは伝わって参りましたでしょう、この御着城は惣構そうがまえと言えども、平城、三木城以上に脆いと言わざるを言えません」

「やって見ねばわかるまいが!」

「やって見せる事にいなやはござらん、しかし、そうなれば、降伏を認めませんぞ」

「どういう意味か」ようやく当主がいう。

「皆、捕虜として拘禁逮捕いたすことになるでしょう」

「?」いわゆる奴隷労働を課すといったのであるが伝わらなかったようである。

「我らの目的のために働いて貰うことになるでしょう」


会見がおわり、城を出ようとする道雪。

「官兵衛殿か?」

「何故?」

「一番能力のある人間は小寺官兵衛であると、わが殿より聞いている、貴公の顔が一番の出来物であると思ったのじゃ」

「!」

まさか自分のことを知っている人間がいる。

そして、一番の能力者だと認められているとは!官兵衛は背中に冷汗が伝った。


「殿曰く、小寺官兵衛を調略してこいと言われておったが、どうかな」

「私は・・・」もちろんここで、はいなどといえるはずもない。

「今回ばかりは、実は戦が必要でな」

「?」

「戦が要るんじゃよ、皆が降れば、捕虜にするわけにも行かんしな」

「戦をすれば、そちらも無傷で済みますまい」

「官兵衛殿、今回の先鋒隊は、摂津や河内、和泉の衆よ、我らは、ほとんど負け知らずでここまで来たのでな、兵が多すぎるのよ」と道雪がニヤリと笑った。

言っていることは、ニヤリでは済まない内容である。

つまり、味方の兵を減らしたいと言っているのである。


「まあ、幸い、軍資金は殿のお力でなんとでもなるから問題にはなっていないがな、では、お返事は三日後に、そなた一人位ならというか、殿の性格上、貴殿だけは召し抱えるつもりであろうがな」と道雪。



敵は、味方の損害を出すために戦をしたいのか?

そして、なぜか自分だけは、眼をつけられているという?なぜなのか?

さらに、敵はほぼ、無敵の状態というのは本当だった。

堅牢な三木城が3日で陥落したという報告は来ていた。


降伏勧告の次の日から、城の周辺で馬防柵や逆茂木の設置が始まる。

馬防柵の合間には、空堀が掘られていく、これが、九十九軍名物の土木作業訓練である。

円匙(スコップ)で自分の蛸壺を掘る訓練の延長線にこれがある。

作業の傍ら一部の銃兵が敵の奇襲に対する警戒をしている。

そして、作業が終われば、巨大な鍋を囲んで、宴会を始めるのであった。


「殿、これは何がどうあっても、戦ってはいけません」官兵衛は嫌な予感しかしなかった。

敵は、明らかに誘っている、此方が攻撃を開始すれば、喜んで吶喊してくる未来図が見える。

籠城しても、大筒で攻撃されるのである、三木城はそのようにドンドンと追い詰められていったと報告を受けていた。

「官兵衛そちは、自分が召し抱えてくれると言われたそうではないか」

「敵の策にのってはなりませんぞ、これは、離間の計ですぞ」

小寺官兵衛はもともと黒田姓であったが、能力を認められ、小寺姓をなのることを許されたのである(一門衆に加わった)。


「裏切り者を閉じ込めておけ」

「馬鹿な、殿、何をおっしゃっているのですか」

「黙れ、早く連れて行け」

こうして、歴史の修正力なのか、捻じ曲げられたのか、小寺官兵衛は牢に入れられるのである。


「官兵衛は、地下牢か・・・」

城内の忍びが情報を送ってきた。

「地下なら問題なし、明日から総攻撃を開始する」

「承知仕りました」


すでに、佐々木、稲富の大砲部隊は、城壁へと照準を定めた状態で布陣している。


次の日は、だが雨だった。


「丁度3日経ちましたな」と竹中半兵衛。

近ごろ、竹中は、肉付きがよくなり、訓練の成果で筋肉質になっている。

可憐な美少年だった彼にしてはである。

「半兵衛はとにかく、もっと肉を喰え」

「殿、今そのようなことをいうときでしょうか」

「儂は、お前が心配なだけじゃ、とにかく、もっと食うのじゃ、望月、もっと栄養価の高いものを半兵衛に食わせるのじゃ」

「はは」

内心、之さえなければ、良い殿であるのだが・・・半兵衛はそう考えていた。

しかし、この男は竹中半兵衛がなぜ死んだかは知らないが、とにかく病弱であると思っているので、とにかく、食わせることに主眼をおいていた。

人質にとった子供すら自分の子と変わらぬ位かわいがるのがこの男の癖になっていたのである。


「では、拙者が先陣を承る」と前田慶次郎。

「いやいや、儂ら後進に道を譲ってくだされ」上泉武蔵の高弟疋田ひきた豊五郎であった。

上泉武蔵は金鵄城の食客となっており、弟子たちも同様である。

食客とは居候いそうろうのことであるが、いざという時には、家主のために働いて恩を返すのである。

別にいらんと言ったのだが、大名になりたいらしく、出陣に随従してきたのである。


家主のこの男の口癖が、我が子たちを大名にさせてやらねばであった。

自分にも適用されているとかんがえているらしい。


「やあやあ、我こそは、上泉武蔵守が高弟、疋田豊五郎なり、我と思わんは者は、かかってまいれ!」

疋田氏が宝蔵院の三日月槍を使い名乗りを上げると、城門が開き武者が馬にのってでてくる。

「拙者、小寺家家臣、山脇何某である」

そして、馬を降りる、馬に乗っての一騎打ちではないようだ。

一応、乗馬も用意している。


疋田の槍が光線のごとくきらめき、山脇何某を襲う。

さすがに新陰流である。

何とかかわした山脇だったが、足首を斬られ、大出血し後退していく。


その時、馬(アラブ)に乗った男がやってきた。

大ぶりの薙刀を持っている。

「儂が出る」それは、師匠の宝蔵院胤栄だった。

近ごろ、前田慶次郎に悪影響を受けたのか、大なぎなたを青龍偃月刀というようになってしまった、そして、あごひげを伸ばし、関羽の生まれ変わりと自称するようになってしまわれたのである。


「次は、関雲長の生まれ変わり、覚禅坊胤栄が御相手仕る!」


近ごろ、皆悪い病気にかかってしまったに違いないと感じる男だった。


一騎打ちは城側の3連敗で終わった


鈴木軍は、一騎打ちを終わると、その日は終わりにして酒盛りをするのである。

酒、火酒(ウィスキー)焼酎がふるまわれる。


城側は夜襲をかけるが、失敗する。

もちろん、忍びが鉄壁に見張っているし、警戒も怠りない。


次の日は総攻めである。

「弾種、炸裂弾」遠心力で起爆装置を発動させる、椎の実型の砲弾である。

「バリスタも準備せよ」

数日前にバリスタが組み上げられ、城に向けられている。


「狙撃隊は配置完了しました」

夜のうちに、ギリースーツをかぶった狙撃兵たちは、前進して、隠れている。

狙撃兵は後送式のライフルを持ち、近ごろ正式採用された、スコープ2倍を装着している。

そして、その狙撃兵を守る、ギリースーツの侍1人のツーマンセルで行動している。


馬防柵の後ろには、鉄砲隊が今や遅しと待ち構えている。


「全軍攻撃準備完了」参謀長の戸次道雪が告げる。

「よし、全軍攻撃を開始せよ」

命令用の旗が振られる。

大砲部隊への命令である。


「撃ち~方用意よろし」

「撃ち~方始め!」独特の節回しである。

大砲名人佐々木が始めたといわれるが、真偽は不明である。

本陣から見て左側、佐々木隊10門が連続的に発射、次は右側稲富隊10門が連続的に火を噴く。

大砲の発射を確認してから、前方の、バリスタ砲も竹筒矢(炸薬搭載)を発射する。

城内のあちこちで爆発が発生する。

そもそも、城内にいる兵力はそう多くはなかった。




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