第43話 剣聖

043 剣聖 


1563年(永禄6年)


後に剣聖と称される上泉信綱かみいずみ のぶつなが弟子たちを引き連れて、伊勢を訪れる。(こういずみとも読まれることもあるらしい)

そこで、伊勢の北畠具教に剣術を授けるイベントが発生した。


もともと、武道に造詣ぞうけいの深い北畠氏。今や鈴木家の東側の防壁として存在する。

彼は、上泉とも交流があったため来訪したのだ。

そして、宝蔵院胤栄や柳生新次郎とも交流があったため、彼らを紹介する。


剣聖一同は大和に到着したが、現在は大阪城(仮)に居住していることを知り大阪城(仮)をおとずれるという、珍しいイベントが発生したのである。


史実どおりなら、宝蔵院と柳生が敗れ、柳生が上泉の弟子になり、新陰流を伝授されることになる。


この新陰流が後世に柳生新陰流と呼ばれるものとなる。


だが、此処(大阪城仮)には、戸田勢源による、戸田流あるいは中条流が存在していた。

さらに、人外の存在も見え隠れしていた。


「今日はよう参られた」声を発したのは、この城の城主でもない男だった。

山科言継やましな ときつぐ氏である、この公家はなぜか、上泉武蔵守と知り合いらしく、なぜか大阪城(仮)にやってきていた、理由は真珠の首輪の礼ということらしい。


「山科様に置かれてはご機嫌麗しゅうございます」と武人のオーラ全開の上泉武蔵守。


簡単にいうと、上泉武蔵守は自分が作り出した新陰流を広めるための旅をしているということらしい。

因みにとついているのは、「」という剣術がすでに存在しているからである。


「まず弟子と手合わせを」こうして、交流試合が始まる。

柳生、宝蔵院は、史実では、上泉武蔵守の弟子にすら負けてしまうのであるが。

彼らは、長らく食生活の改善と訓練で、この時代の一般的日本人よりもはるかに屈強な肉体に生まれ変わっており、さらに戸田流を徹底的に仕込まれ、さらには、合気柔術も組み込まれたマーシャルアーツを体得していた。

ついでにいうと、前田慶次郎までもが俺にやらせろと前に出てくる始末であった。


柳生と宝蔵院も川崎鑰之介(戸田勢源の弟子)も上泉武蔵守の弟子を圧倒した。

剣術という術以外の要素が大きかったと思う。

前田慶次郎はさすがに、弟子に打ちのめされたがな。


そして、真打とばかりによばれてもいないのに、鈴木九十九氏が登場する。

新陰流の剣術は確実に九十九の隙をついていたのだが、それを完全に無効化する人外の動きで外されてしまう。

そして、剛力が相手の竹刀(すでに木刀から竹刀へと変換されている)を弾き飛ばしてしまう。


上泉自身がこれではまずいと登場、何とか、神技で柳生と宝蔵院、川崎を撃退した。

何とか面目を保つことに成功した上泉武蔵守。完成されたはずの技が!・・・の心境は察するに余りある。


「うむ、なかなかに見込みのある者達である、儂の新陰流をそなたたちに伝えよう」

「ははあ、ありがたき幸せ」皆が一応に膝をおとしてひざまずくのであった。


大阪城(仮)には、すでに海兵隊の精鋭はいないが、陸軍は常駐しているので、それらの兵たちにも教えをお願いする。

「お礼として、これを」出てきたのは、鉄砲である。

「いや、さすがにこれは・・・」剣豪に鉄砲はないであろう。

「いやいや、これは失礼、鉄砲の贈与は我が家の伝統のようなものでござれば、銭100貫でどうでしょうか」と九十九。

「それは、多すぎるのでは?」と混乱する武蔵守と弟子たち。

「まあ、少なすぎるよりもいいでしょう、此方も、新流派を得てさらに飛躍できるのう、道雪」

「はい、全くでございます」道雪はする。


こうして、本来は、京で将軍義輝に剣術を教えるはずだった上泉武蔵守は大阪城(仮)で剣術を教えることになる、義輝氏はすでに、永禄の変により暗殺されている。来るのが少し遅かったのである。


本来は、新陰流普及の旅を続けるはずだった上泉武蔵守だが、彼は生涯、この大阪城(仮)から離れることはなかったという。


「飯がうますぎる、弟子たちには、害である、早く出立しないと、人間がダメになる」

彼は、終始そのようなことを弟子たちに言っていたというが、結局出立する日が来ることはなかったという。


大阪城(仮)の内部練兵場の横には、「剣聖道場」が建てられ、その隣には上泉武蔵守邸が建てられた。


このようなイベントをこなしながらも、この大阪城(仮)から次々と軍団が出撃し、摂津の平野部分を侵攻していく。

摂津の主要な城は次々と陥落する憂き目にあうことになる。

大砲をぶっぱなし、バリスタで爆弾を撃ち込み、手りゅう弾を投げ込み、鉄砲を連射で撃ちまくる軍団に狙われては、どうしようもないというところであろう。さらに夜には、忍びの夜襲、暗殺、毒殺とえげつない攻撃も繰り出してくるのであった。


そんな城(砦)でのある日

「大阪城(仮)はダメだカ~」と夢の中で金色に光るカラスが訴えるのであった。

そもそも、この男がこの世界にやってきた理由は八咫烏信仰を巻き起こすことにあったはずである(?)。(本来は信仰ではなく、名をしろ示すことだった。)


八咫烏がなぜ光っているのか?実はこれには深い事情があるのだ。

八咫烏は中国からの神話に影響を受けている。

カラスは黒いのだが、八咫烏は太陽の黒点を表しているといわれる。

だから、もともとは太陽の化身であったとも言われているのである。

ゆえに、太陽であるから光って当然なのである。そこらへんの解釈は曖昧あいまいであり、本当はどうなのかはわからないが、男はそんなことは気にしない。


その光るカラスが訴える。

「大阪城(仮)はダメですか?」

「だめカ~」

そもそも、適当に名付けてみた訳である。

「しかし、八咫烏城では、あまりにもひどい」と男。そもそもの依頼人?をけなしている。

「カ~!」カラスから怒りのオーラが浴びせられる。

「しかたありません、六芒星にします、ヘクサゴンでいいですね」八角形のはず。

「ダメカ~」

何か名前にこだわりがあるらしい。

面倒くさい奴・・・・。男はそう思った。


そして、ふと思いついたのは、金鵄という言葉だった、太陽の化身に金鵄という神獣がいる。(これも中国神話由来である、日本の神話はかなり向こうの影響を受けている)

金鵄とは、金色のトンビのことである。

トンビとカラスが一緒?と思う人もいるかもしれないが、人間とか神話とかいうものはそんなものである。

金鵄と八咫烏は同一とする考えもあるし、また混同しているという考え方もある。

「金鵄城でどうですか?」

「か~」やっと機嫌が治った様である。

「では、金鵄城ということで、」

「か~」


こうして、大阪城(仮)は金鵄城と改名される。

勿論、城が金色をしているわけではないのだが。


「ということのなので、これからは金鵄城とするので、皆よろしく」

「では、金鵄の絵を金箔で書いておきましょう」

「望月君頼む」


城内に八咫烏神社を建立し、天守閣の一部に金箔で八咫烏と金鵄を描いてもらったのであった。


・・・・

そんなころ、三河国では、三河一向一揆が発生する。

史実では、家康の三大危機の一つとされている。

不輸不入の権のある土地で家康の家臣が何かをした?ために発生したらしい。

家康の家来の中には、熱心な一向信徒が数多くいたので、家を割っての争いに発展する。

家康(元康)と反逆家臣達が争うことになる。


但し、史実通り、それが本当の家康(元康)なのか現在は不明である。

確かに、切腹して果てたことを此方の忍びが確認しているのである。

まあ、そんなことをいっても仕方がないのだが。


だが、この混乱を利用するのが、この男である。

早速、鷺ノ森の本願寺顕如に面会し、一筆書いてもらう。

そして、一揆の地、三河へと出帆するのであった。


情勢は徳川勢が有利であった。


三河本證寺境内。

境内といっても、空堀、土塀などにより囲まれて、要塞化されている。

本願寺の主勢力である。

「空誓様、我らは顕如様より、支援物資をもってまいった次第にござる」

「おお、顕如様が、それは有難い」

長方形の木箱には、鉄砲が入っている。

「御仏をも恐れぬ家康を打ちのめしてくだされ」

「石川殿、貴殿のご子息は家康方についておられる、必ず調略するのです」

「相分かった」

「我らは、物資をもってまいったが、兵力は連れてきてはおらぬ、現在鈴木家は、四国と摂津を攻略中なので、申し訳ない」

「いえいえ、鈴木家のご厚情は決して忘れません」と空誓。

そして、一人一人の武将と挨拶をかわしていく。

負けたときには、うちに逃げて来いということである。

100丁の銃と物資を得た一向宗は恐ろしいほどに強くなり、手が付けられない状態になった。

一向一揆はこの後、1年半は続くのである。


「空誓様、もしも仮に戦に敗れるようなことがあれば、この鈴木大和守の事を必ず思い出し、生き延びるのですぞ」死ぬなよということである。

空誓は涙を流し、この男の手を握り返したという。


帰りの船は尾張に立ちよる、そこには、竹中半兵衛、安藤守就とその家族などがいた。

鈴木家に使えることにしたらしい。


「わざわざ、お出迎えありがとう存じます」

「いえいえ、三河に用事がありましたので、ついでで申し訳ない」

「義父の安藤守就あんどう もりなりです」

「我が鈴木家にようこそ、我が家では、功績次第でいくらでも出世していただけます、よろしくお願いします」

「これは、ご丁寧に、しかし、私は九十九様の家臣としていただきたく考えております」

陪臣ばいしんということになりますが?」(またものとも呼ばれる)

「義息子とも相談致したが、やはり九十九様に仕えるのがよいと判断いたしました」

「まあ、最前線に立つのが、鈴木家の先兵たる我らの仕事なれば、功績はたてやすいかと」

「残りの西美濃衆は、私からの返事によっては、合力したいと勝手なことを言っております」と安藤。

「そうでしょう、住み慣れた土地を棄てるのは勇気のいることです、その点においても、半兵衛殿と安藤殿は勇者です」


彼らを乗せた船は出港していった。




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