第37話 本願寺
037 本願寺
1558年(永禄元年)鈴木家は紀伊、和泉、河内、大和、伊賀、志摩、淡路を傘下に収める大名に成長し石高数129万石にも及んでいる。(そのうち寺社領など21万石が含まれる)
農業には大変な力を入れているので、収穫量はその1.5倍を確保することに成功している。
実質150万石以上の生産力を誇る超大国になっていた。(ただし、よその国には知られていない)
そのほかにも、鉄砲、塩、醤油、味噌、鰹節、砂糖、酒、味醂、俵物(アワビ、海藻、ナマコなど)、蜂蜜、綿、絹、石鹸、陶器、磁器、みかん、干し椎茸などを産物として輸出販売していた。
領国内では、肉、卵、芋類なども生産し、消費されている。
近ごろでは、無理やり連れてこられた、ドイツ人がソーセージ、ハム、チーズやビールの生産にも成功し、食生活がより豊かになっている。
この状態は、すべて八咫烏神のお告げにより現出したことになっており、そのお告げの主は鈴木九十九ということになっている。
領国内では、九十九という男は神の代理人あるいは使いということになっている。
「兄やん」
「なんや、また妙なこと考え付いた顔してるな」
九十九と孫一は兄弟のように育ってきた、今孫一は、城づくりを趣味にしている。
現在の和歌山市秋葉山、このころは弥勒寺山と呼ばれていたが、それを城として改良し、難攻不落の要塞に仕上げていた。
次は、雑賀城、そして、岸和田城である。
「次は、大阪城つくろか」
「なんや、それは」
「紀州は端っこすぎるさけ、畿内の中央に城をつくんのよ」
そもそも、紀州は畿内ではなく、南海道であった。
「お前、大和に城つくらせてんのちゃうんか」
「あれは、大和用やし、中国地方からの攻撃に備えなあかんし」
「まあ、近ごろ趣味やし、それでええけどな」
こうして、大阪城計画がスタートするのであった。
この趣味は大変高価な趣味であり、万人が楽しむというわけには行かない。
いわゆる大阪城はもともと、石山本願寺があった場所である。
昔の地図からも明らかなように、この場所は、上町台地の北の端である
他の場所は、河の堆積作用によってできた砂州であり、城をたてるなら、ここしかないという場所なのである。砂州や河ばかりで、堅牢な構造物を建設できないのである。
しかし、戦国時代といえば、一向一揆である。
そして、その首謀者とは、本願寺顕如である。
その総本山が石山本願寺であった。
元は、山科本願寺であったが、戦いに敗れ、此方に移ったのである。
この時代の宗教とは、武装勢力の一つであることを忘れてはいけない。
「で、何用か」顕如は言った。
「は、我ら雑賀衆はもともと、一向宗のものが多くございます」
「知っておる」
「そして、我らは、仏教を保護しております」
「あれを保護というのか」
根来寺、粉河寺、高野山、興福寺、春日大社、東大寺は必要以外の武装を解除し、最低限の所領のみを認めている。
「そうです、宗主さま、今のまま武装していては、いずれ、戦国大名に攻め滅ぼされるでしょう」
「その戦国大名とは貴公らではないのか」
「我らは、宗主様に仏の道に専念していただくお手伝いをしていきたいのでございます」
「都合のよいことを言うの」
堺の向かいには、この石山本願寺が存在する。
すぐにでも戦争することは可能なのである。
「で、元の質問に戻るが、何用か?」
「は、宗主様にはこの石山より退去いただき、鷺ノ森においでいただきたいのでございます」
「何!」
鷺ノ森御坊は和歌山市内の一向宗の寺院である。
史実では、石山合戦で信長に降伏した後、一時身を寄せていたこともある。
「我に、石山を棄てろと申すのか」顕如が気色ばむ。
「残念
「そんなバカなことがあるか!」
地の利があるから、ここにいるのに、地の利があるからここから出ていけという。
「そうなのです、場所がよいから、いずれ戦に巻き込まれます、お譲りくだされば、我々が代わりに、戦いましょう」
「鷺ノ森などに行きたくはない」さすがに、紀州の田舎に行きたくはないのであろう。
顕如の嫁は公卿の娘であったりするので、血統正しい家柄なのである。
「そうでございましょう、では、山城に本願寺を立てればどうでしょうか」
「簡単に言ってくれるな!」山科本願寺は殲滅されたのである。
「ゆえに、一時、鷺ノ森に避難され、時代が落ち着けば、京でお寺をお建てになればよいのではないでしょうか」
言外には、譲らない場合は戦争ですと言い合っているのである。
そして、これまでの経緯では、鈴木家は戦闘では不敗、圧倒的な強さを発揮していることは伝わっている。
一向一揆は織田家と激しい戦いをしたという事実は事実として残っているのだが、当初、顕如は信長のいうことを聞いていたのである、しかし、次第にエスカレートする要求に切れて、宣戦を布告したのである。
有名な石山合戦で活躍した武将に、雑賀孫一がいることは言うをまたない。
だが、現状は非常に難しい、そもそも、鉄砲傭兵の雑賀衆が敵になる、堺までは、その鈴木の領土、海上は淡路が鈴木に占領されているので、海上からの攻撃も予想される。
三好が一番味方になるであろうが、その三好が連戦連敗で鈴木にやられている。
「山城を占領した暁には、必ずや、本願寺を再興しましょうぞ」
堺の今井宗久から、この男は約束だけは必ず守ると聞いていた。
「本当に、必ず?」
「宗主さま、我が当主は今でこそ、八咫烏神教の使徒でありますが、元は一向宗です、むげにするわけはありませんぞ」
「わかった、では起請文をお願いする、山城国を領有した場合、必ず、本願寺を再興していただくと」
「ははあ」目の前の男は平伏する。
こうして、石山本願寺は無血開城されたのである。
第100建設師団が石山本願寺に進駐してくる、そのほかにも、対三好のために、鉄砲隊も随伴している。
城の設計は、松永弾正に任される、しかし、基本的には稜堡式城郭の縄張りだけは命じられている。
「外側は六芒星なのですか」
「まあ、そんな形が、鉄砲を有効に使うには、この形が一番ええんやよ」
「はあ、そうですか」どうも、美意識に共感できないようであった。
・・・・・・
このころ、雑賀鉄砲後送式は射程500mを達成していたが、秘匿されていた。
そして、芝辻大砲の砲弾も鉄の丸い塊から椎の実型砲弾を実現し、遠心式信管が開発されていた。
いわゆる炸裂弾である。
火薬も黒色火薬からコルダイト(無煙火薬)を開発していた。
そして、また、越後からくそうず(臭い水という意味)がひそかに輸入されていたりもする。
このようにして、平和裏に時は進んでいる。
「しかし殿、なぜ、このような粉を入れるのですか」と副官の望月。
「おう、これはアルミニウムの粉でな、火をつけると激しく燃えるのだ」
「さすが殿、まったくなんでもご存じなのですな」
うんうんと参謀の道雪がうなずいている。
そこでは、越後から輸入されたくそうずを火で温めて、成分ごとに分離されていた。
そのような、鉄の管が一杯ある研究所(紀州某所)が存在した。
ガソリン、パームオイル(マレーから輸入)、アルミニウム粉末、石鹸とが混合されていた。
平和裏に時間が進んでいる。
そう、平和に。表面上は。
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