第36話 海兵隊

036 海兵隊


1557年(弘治3年)

伊勢国北畠氏と同盟、尾張国織田氏と婚姻、同盟を結んだ鈴木家。

そして、北畠氏より譲り渡された志摩の国人衆たちは、逆らう者は掃滅された。

従う者たちは、九鬼水軍に吸収され、厳しい訓練を受けることになる。


九鬼水軍の者たちは、ある男から『海兵隊』と呼ばれており、あらゆる軍事の活動を教え込まれる、ある意味最も厳しい軍隊が海兵隊であった。

通常の陸兵では、大砲、鉄砲、槍などは分離しているが、海兵隊はすべてをこなすことを要求される、さらに、水泳、上陸作戦、野戦築城も要求されるからである。

ゆえに、落伍者も少なからず存在する。


そういったものたちの中でも忠誠の高い者は、志摩国である仕事を任せられた。

真珠養殖であった。

すでに、基礎研究は紀伊白浜の湾口で行われていた、それを拡大事業化する手はずであった。


ある男は、志摩国英虞あご湾をどうしても手に入れたかったのである。


友が島はすでに、基地兼訓練場と化していた。

海兵隊の基地である。


「諸君、訓練ご苦労、今この鈴木家では、一つの問題にぶつかっている」と男が整列している海兵に訓示を行う。

「三好家と戦闘状態にあることは知っていると思うが、畿内の三好を一掃することは可能であるが、四国方面から援軍が来ることは必至である、そして、この友が島基地であるが、君たち鈴木家の精鋭の基地としてはみすぼらしいといわざるをえない、そこで、淡路国を奪取し、君たちの壮大な基地としようではないか」

「うおおおおおお」

「九十九様バンザイ」

「九十九様万歳」

兵たちは熱狂している。

思想教育のせいでかなり偏った考え方が浸透しているのである。


しかし、裏で交わされている会話ではこうなっている。

「殿、傘下に収めた国人衆が多すぎて、制御がききません」

「うむ、戦闘でもっと死者がでるはずだったのだが、此方が強すぎた、どうせ淡路は落とさねばならん。邪魔だからな、大和、河内、和泉の国人衆、僧兵あがり達に攻めさせよう」


かくして、淡路島(国)攻略軍が編制される。

淡路を守っていた安宅冬康はすでに戦没している。

畿内では、三好三人衆が山城と摂津、播磨で勢力を維持していた。

松永と対決する予定だったが、いち早く、鈴木家臣になって退いたので、三人衆で仲間割れを起こしていたのである。


目と鼻の先に洲本城が存在する。

戦艦4隻が一列に並んで腹を見せている。

青銅砲(芝辻砲)による艦砲射撃を行い、その後、後尾の上陸部隊(和泉、河内、大和、元僧兵たち)が上陸し、洲本城を攻略する手はずであった。


「撃ち~方用意」すでに、青銅砲はすべて、洲本城に向けられている。

「て~」房付きの軍配が振られる。

ドンドンドンドン舷側の砲4門と甲板の2門が連続的に火炎と轟音を上げる。

弾は鉄の塊である。

それでも、石垣を吹き飛ばし、土壁の土を噴き上げる。

建物に当たれば、板を弾き飛ばし、打ち砕く。

直接当たらなければ、実はたいした効果はない。

だが、その弾の飛んでくる音と周囲の物を破壊する衝撃と音は、城兵の心を砕くには十分である。


上陸兵が無事に小舟で砂浜に上陸する。

もともと敵兵は籠城を選択している。

その中に、百瀬甚五郎を襲名した工兵師団長もいた。

試作兵器の実験を強要されたのである。

彼らの周りは、海兵隊が護衛についている。

5000もの畿内の兵が、洲本城にとりついて攻略している。


船から陸揚げされた木材を素早く組上げていく。

彼らが作っているものは、攻城用バリスタである。

いわゆる石弓の巨大版である。

滑車と歯車と金属、木材でできたバリスタが完成する。

ねじ機構を使った照準である、左右、上下をハンドルを回して調整する。

弦を別のハンドルを回して引っ張り、発射準備を終わる、矢は特大な矢で、先端部分に陶器の筒を入れることができる。

筒の中には、火薬と雷管が配置されており、矢が衝突する衝撃で雷管が爆発し、火薬を誘爆させることができる、筒の構造は2重になっており、外側には、鉄の破片が入れられており、爆発により鉄片が飛び散ることになる。


「本当に、味方の上に落ちないんだろうな」

「発射テストでは、問題ないハズだが」

「撤兵させるわけにもいかん」

「私は技師なので、その判断は任せます」

工兵師団と海兵たちは沈黙する。

狙いは、攻城軍がとりついているよりも奥の曲輪なので問題はないはずであった。

「儂が狙いをつけておるのじゃ問題ない」と近ごろ大砲の指揮を執る佐々木義国であった。

堺が攻撃される可能性が高いため、九十九一党は堺方面に展開していた。

淡路攻略の総大将は九鬼澄隆であったが、彼は、船上の人である。

前線指揮は、滝川一益がとっていたが、バリスタよりも前にいる。

その時、隣のバリスタが発射される

バリスタは4台持ち込まれており、隣では、稲富直秀が調整をしていた。

「師匠、次撃ちますよ」


狙いより少し下で爆発が起こる。


「え?お前何かってにうってんの!」と佐々木。

「撃たずにわからんでしょう」と稲富。


佐々木の狙いはそれよりかなり下に着弾した。


城内で爆発が起こる

「よ~し、今こそ力を見せる時、全軍突撃!」滝川が叫ぶ。

ドンドンドン総がかりの太鼓が響き渡る。


味方を爆撃したかもしれないなど滝川はまったく知らないことであった。


城兵は1000程いたのだが、艦砲射撃と謎の爆発で驚天動地の状態にあった。

しかも、敵の鉄砲も脅威的な存在であった。

狭間(さま)は鉄砲や弓矢などを放つための穴であるが、そこに銃弾が撃ち込まれるのである。


城の大門が破城槌で破壊され、侵入を許した時、城兵たちは降伏した。


淡路島にはその他にも城がいくつか存在したが、次々と陥落していった。

主将の安宅氏が戦死しており、もともと戦意が乏しく、兵も少なかったためである。


こうして、淡路国は陥落することになる。

百瀬甚五郎の工兵師団が、洲本城の改修と増築を開始する。

いずれ、淡路島全体が海兵隊の一大拠点となっていくのである。


淡路を失った三好は、四国と畿内の行き来に支障をきたすことになる。


そんなころ、堺に、公家が訪れる。

その名を山科 言継(やましな ときつぐ)という。

堺の今井宗久を足掛かりに、鈴木家は朝廷に金品を贈っている。

今では、そのラインに加えて、松永弾正のラインも加わっている。

堺、九十九屋敷に山科氏が下向してきたのである。

「ようこそ、山科様」

上座に座る公家にあいさつをする、九十九である。

九十九の後ろには、今井宗久、松永弾正、柳生、前田、霜などが控えている。

「鈴木家の朝廷への忠義は御かみも知っておる」

「それにしても、あの干し椎茸は素晴らしいな、もちろん酒も、蜂蜜も石鹸も、とにかく鈴木家の忠義に御かみは大変およろこびであるぞ」

「ははあ」

「その忠義に答えるため、重秀を紀伊守に任ずる、重當は、和泉守に任ずる」

「有難き幸せ」

いわゆる猟官運動を行っていたわけである。


かくして、山科氏を歓待するために、すき焼きパーティーが挙行される。

肉はいのししのものと説明されているが、牛肉である。

肉食禁止を言い出したのは、かなり以前の天皇である、そのための嘘の説明であった。


「これは、なんといううまさでおじゃるか!」

おはぐろをしているとまずくなりそうであったが、山科氏は大喜びである。

「ぜひにもおかみにも食べさて差し上げたいのだが」

「さすがに、下々の料理を陛下には・・・」

「しかし、麿が話をつけ申すので、ぜひとも和泉守殿その時には」

「は、畏まりました。」


「お犬も未来もたくさん食べろよ」

公家にも気を使い、横に並ぶ正室と側室にも気を遣う男であった。

「はい」

犬姫は、織田家の姫であり、お市の妹である。

普通にかわいい女の子であった。

未来はギロっとにらんでくるが、無視する。

戦国時代は婚姻関係が重要なので、仕方がないのである。


すでに、未来(ロシア人)との間には、息子が一人いる。










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