第35話 嫁とり
035 嫁とり
家臣となった松永弾正に早速、多聞山城の築城と、信貴山城の改築を命じる。
それと同時に、京の公家などにもつなぎをつけるよう依頼する。
・・・・・
「では、まず伊勢に向かってくれ」すでに、鈴木家家臣の九鬼澄隆は、九十九の家臣扱いである。
南蛮船一番艦『紀ノ川』と命名。
2番艦『有田川』3番艦『日高川』4番艦『熊野川』と命名の4隻の艦隊は、雑賀崎を出発後、紀伊半島を南下、新宮沖で停泊し、新宮の堀内氏と会談、紀伊半島南部の状況を確認する。
「殿、孫一様の嫁は伊勢にいるのですか」と澄隆。
「いや、伊勢にはおらん」と俺。
「では何故」
「まあ、お楽しみということで」
伊勢国司北畠具教は大河内城を居城にしている。
すでに、戦国大名化していた。
大河内城は天然の要害であった。
その山城から、海を見下ろすと、四隻の巨大な船が停泊し、小舟が降ろされている。
白旗を掲げた小舟。
「何者だ」不審船を発見し、やってきた北畠武士団。
「我らは、紀伊雑賀の鈴木家家臣鈴木九十九様の家臣である、敵意はない、本日はご挨拶に
こうして、突然の招かれざる客は伊勢に上陸するのであった。
大河内城の謁見の間に、九十九、宝蔵院胤栄、柳生新次郎、戸次道雪らが並ぶ。
武器は当然、取り上げられている。
上座に北畠具教がやってくる。
「で、今回は何用か」
「某は・・・・」あいさつの美辞麗句が並ぶ。
「久しいな」具教は柳生新次郎に声をかける、彼らは知り合いである。
北畠具教は剣豪の大名として有名である、其れゆえに、柳生との交流があった。
「今は、九十九様に仕えております」鈴木家客将扱いであったはずだが、いつの間にか家臣だったようだ。
「今回は、わが殿、孫一殿の嫁とりの途中で、隣国の伊勢様にご挨拶に参りました」
「伊賀が鈴木家に降ったと聞くが本当か」
「左様です、わが殿の仁政が民の心を動かしたのでしょう」と
領国では目立った反乱は起こっていない、以前よりも収穫が増えたからである。
「挨拶ご苦労であった」早く帰れという意味である。
「ところで、これは、ご挨拶の品でござる」
そうして、取り出されたのは、箱に入れられた、火縄銃10丁である。
「これは、種子島か」
「そうです、雑賀産の鉄砲です」
「ありがたい、礼を申す」
「で、これからは本題ですが」
「やはり、なにかあるのか」
「5年間の不戦同盟をお願いしたいのです」
「5年間?」
つまり5年間で周りを片付けるといっているのである。
「断れば」
「戦が起こるでしょう」
「そなたらを消せば、おこらぬのでは?」と剣豪北畠が殺気を放つ。
「それは、いけません」柳生新次郎である。
「いくら、知り合いといっても、それだけでは助けることはできぬ、許されよ新次郎殿」
周りには、10人以上の武士、その周囲には、気配を消しきれない武士たちが数十人いる。
「違うのです、ここにいるお方は、戦場では、『百鬼』と呼ばれるお方なのです、刃を向けるは、自分に向けるのと同じことということを申し上げているのです」
「たわけたことを」目でやれという合図をおくる北畠。
「おりゃ~」数人は抜刀し、きりかかる。
その瞬間、一番近くの武士がクルリと回転し、床に打ち付けられる。
グキリといういやな音がしたとき、3人の剣が、殺到していたが、九十九は、死体をかぶって、防いだ。
首の折れた死体を切り裂く3本の剣。
「ぐは」殺到した一人の腹に剣が付きこまれている。
「たわけが!」死体を投げ捨てた九十九の手には、剣が握られていた。
一振りで残り2人の首が飛ぶ。
一瞬であたりが血の池地獄になる有様であった。
「具教!死にたいか!」九十九が一喝する。
さすがの剣豪大名も血の気が失せて、真っ青になっている。
側に控えていた、太刀持ちの小姓は投げ飛ばされた死体の直撃を受けて、倒れている。
「控えよ!それとも、死にたい奴はいるのか!」放たれる殺気が周囲を圧倒する。
「みな下がれ、剣をおけ」いつの間にか、誘拐犯と警官のドラマの様になっていた。
「せっかくの同盟話が台無しじゃ、責任をとってもらわんとな」と殺人犯の男。
ポタリ、ポタリと血が垂れる剣の切っ先が北畠に向けられている。
「だから、言うたではないですか」と柳生。
「殿、シナリオに北畠具教暗殺イベントは用意していませんが?」道雪は血をぬぐいながら冷静である。
「面倒やさけ、このまま、ヤッテ、城に火を放つとかどうよ、みな焼いて証拠もやいてまうとか」と微妙な和歌山弁になる男、自が出ているのか?
「まあ、先に手を出したのは、北畠殿やしなあ」と宝蔵院胤栄。
「さすがに、伊勢があれるのでは」と柳生。
「それこそ、侵入の機会でございます」と道雪。
「賛成2反対1中立1で、暗殺に決まりました」と俺。
「残念です、私のことは恨まないでくださいね」と別れを始める柳生。
北畠は失禁した。
「お助けを・・・」ブルブル震えながら、北畠は泣いていた。
・・・・・・
嫡男の具房が人質、志摩国の割譲を条件に不戦同盟が成立した。
もちろん、大騒ぎを起こすために行動していたのではない、不戦同盟を結び、伊賀を守り、志摩国を武力で割譲させるためにやってきていたのである。
結果的には、同じような効果を発揮することができたのである。
この日の出来事は、決して口に出すことは禁じられることなる。
伊勢では、『百鬼昼行』と呼ばれ、鈴木では、『血天井再びを通り越して、血天井たびたび』と呼ばれることになる。
「さあ、伊勢での仕事は済んだ、早く尾張に向かうぞ」
血まみれで帰ってきた、九十九を見た澄隆は城で何をしたらこんなになるのであろうと考えていた。
「聞かんほうがよい」宝蔵院が澄隆に言った。
やっと目的地が尾張であることがわかった一行であった。
尾張国熱田付近に入港する船団。
カッターで上陸する部隊。
きれいに、今風の装いにし、隊伍を組んで清州城に向かう。
すでに、城には、他国の軍が入り込んでいる情報が伝えられているらしく、門前は、武装した武士が陣取っていた。
「我らは、紀伊鈴木家家臣でござる、この度は織田上総介様にお会いしたく参上した次第」
「何用か、まずは文なりで要件を伝えるところであろう」
「誠にごもっともなれど、急いでおったので参った次第、お取次ぎを」
現在の織田家の事情は複雑で、混乱気味であった。
義理の父斎藤道三が息子の義龍に殺され、信長が出兵したが助けることができなかった。
また、国内では、弟を家督につけようとする派閥が存在し、一触即発の状態でもあった。
そんな時期に、空気を読まず、呼びもせぬのにやってきたのだ。
例のごとく、武装はすべて没収され、謁見の間に通される。
今や、鈴木は畿内の大国である、粗末に扱うわけにもいかない。
目の前に、その信長がいた。
おお、信長じゃ~と男は浮かれていた。
男の記憶では、某ゲームの濃い顔の印象が強いので、違うんじゃね的な感想を持っていた。
しかし、さすがは信長、オーラを持っていた。
「で、何用か」
「は、我が鈴木の棟梁孫一には、正室がございませんので、織田家からお市殿を嫁にいただけぬかと」
なんともおかしな要望である。
婚姻を結ぶではなく、お市条件付きである。
この男にこの時代の常識は通用しないというか、ない。
「市じゃと」信長の顔が険しくなる。
親戚の娘くらいなら応じてもよいであろうが、遠方の国である、なんの効用もない。
「今しがた、我らは伊勢北畠家と不戦同盟を行いました、同盟いただければ、尾張の南方は心配する必要がなくなりましょう」
そのような情報はスッパからは入っていない。
もちろん、数日前の話であるので入るのは無理である。しかも緘口令が敷かれている。
「ふむ」多少は利がありそうだ、今は美濃を攻めねばならないと信長は考えていた。
「どうでしょうか」
「どうといわれてもな」
「ちなみに、某は、お犬殿を頂きたく存じます」
「なんじゃと!」
いうにことかいて、何をいいだすのやら、男は遠慮しない性質であった。
「兄上に喜んでいただくために、土産を持ってまいりました、おい、もってこい」
木の箱が持ってこられる
「誰が兄じゃ!」
箱の中には、今話題の鉄砲が10丁入れられている。
「某の引き出物も込みで、計100丁用意いたしましょう」
値下がり気味といえども、鉄砲100丁は相当な金子が必要である。
「あと1000発分の弾と弾薬もつけましょう」
「犬は良いが、市はのう」信長は思案投げ首である。
この時、犬姫は売り飛ばされることが決定していたようだ。
「そうですか、では、あと50丁鉄砲をお付けします」まるで何かの通販番組のようであった、九十九にすれば、あと100丁でも200丁でもよかったのである。
在庫はある、あまりに放出すると値を崩すことから、出荷を制限しているだけである。
こうして、戦国一の美姫と呼ばれるお市は鉄砲と交換に嫁にだされたのである。
その夜は、すき焼きパーティーが催され、城の下々の者にもふるまわれたという。
それに参加できたものは、生涯そのことを自慢し、人生最高の出来事だと言い続けて死んでいったという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます