第34話 調略
034 調略
「で、左近殿、ここでやるのか」
「では、表で致しましょう」
「某が勝てば、左近殿は某の家臣となられよ」
「拙者が勝てば?」
「河内国を差し上げる」
「馬鹿な!」
「嘘は言わん、わが殿から、河内の差配はまかされておる」
すでに、嘘を言っている男だった。
「来られよ」
城内の訓練場である。
「真剣で?あなたは無手ですが」
「条件では、そうなっているのでは」
「死にますよ」と左近少年。
「問題ありません」
左近少年はむっとした表情となる。
自分をなめられたと感じたのであろう。
「殺す」
左近がじりじりと距離を縮める。
抜刀術で来る気満々である。
「シッツ」必殺の豪風がうなる。
しかし、後に豪勇で名をはせる猛将も、今はまだ子供であった。
戸田勢源の元で修行した男には足りなかった。
服一枚を切らせて、近づいた男は軽く、左近の手首をひねると、一回転させて、大地に叩きつける。
・・・・
勝負はつき、島左近は、家臣として
そして、筒井順慶も子供収容施設に預けられることになる、次代の領主養成所?と呼ばれる国人領主の子弟たちが人質として預けられ、鈴木家(九十九様)のためにと洗脳される施設であった。
筒井城は叔父が治
興福寺5万石、東大寺2万石、筒井家1万石の所領が安堵された。
こうして鈴木家は紀伊27万石、和泉14万石、河内24万石、大和45万石の110万石(寺社領など24万石除く)を勢力下に収めることに成功した。
直轄領では、すぐに農業改革が太田左近の手により実施される。
その結果、今までの1.5倍の収穫が可能となり、日当たりの良い場所などは、2期作、2毛作が行われるようになり、金肥や海藻肥料などもつかわれるようになり生産量を増大させていくことになる。
そして、余剰化した僧兵の収容先も鈴木家岸和田方面隊に編成される。
さらに、貧農対策として、各国の孤児を孤児院に集める福祉施策が実施された。
戦国にいる多くの親なし子、貧しい家の子達が、保護されたという。
・・・・・
そしてついに、堺にドイツ人技師達が連れてこられる。
彼らは、ブリュスト(ソーセージ)やハムなどを作るために、今井宗久に頼んで探していた者たちである。(宗教革命あるいは貧困で国を追われたドイツ人を探していたのである)
彼らの技術により、肉の加工とチーズ・バターなどの乳製品が製品ラインナップに加わることになる。
丹波屋と今井の納屋には、次々と新製品が並んだ。
今井は今や会合衆筆頭である。
そして、硝石ビジネスで大儲けしており、鉄砲の販売も好調であるという。
三好家対鈴木家の戦いは鉄砲により勝敗が決したという評判が立っているためである。
雑賀鉄砲が飛ぶように売れているらしい。
蜂蜜、クッキー、紅茶、みかん、砂糖と丹波屋は食べ物が主力だが、貴族や豪商が先を争って買っていくらしい。
「やはり、海軍育ちの私はアフタヌーンティーがあっている」と俺。
「そうですか」と副官の望月。
「殿の言う通りにございます」と何事にも追従する戸次道雪。
皆がジーンズの上下で、革ブーツを履くようになっていた。
ジーンズは帆布を仕立てたものである、それを藍染めで染めている。
紀伊では、作業着、普段着として使われ始めている。
そのために、木綿の栽培も盛んに行われるようになった。
木綿栽培では、肥料が大量にいるが、牛馬の糞や落ち葉などの堆肥を作ることにより、収穫量を維持している。
後、食肉のために、豚や牛がいるので、その皮をなめして、革ブーツやベルト、マントなどが作られている。
テーブルに椅子という、南蛮かぶれのスタイルの店舗である。
喫茶店を再現しているつもりのようだ。
「しかし、このクッキーというのはなかなか」
「紅茶というのは、何とも」
「まあ、茶道の今井殿ですからな」
今井は、義理の父から茶道を学んでいたが、その父が昨年亡くなり、その後、資産や商売を引き継いでいる。
「それで、あなた方は」一人の武士がいる。
「某は、鈴木家家臣、鈴木九十九重當でござる」
武士はギラリと目を光らせた。
「せっかくのお誘いですが、某は失礼いたす」
「松永様、今日はありがとうございました」と今井。
「まあ、せっかくの機会です、少しお話していきませんか」と俺。
「殿の
「三好の殿はご病気で亡くなられたのでは?」
「ぬけぬけと、原因は貴様らが作ったのであろうが」
「いえ、正確には違います、まず、始めに三好側から、攻撃を受けたのです、そうあれは・・・・」
こうして、戦争の経緯を話し始める男。
「かくして、やむなく戦うことになるのです、紀伊に攻め込んできたのも三好側でした。そうあれは・・・・・」と話続ける男。
「そして、畠山討伐のために、河内攻略中に堺を攻めてきたのも、三好側でした」
こうして話すとなぜか、うまくかわされていくのである。
「残念なことに、その戦い、もちろん我らは望みませんでしたが、そのさなかに、三好様ご兄弟は討ち死にされたのです」
「それでも」
「まあ、そうでしょう、ですがせっかくなので、今度開発された、料理ぐらいは食べていっても、罰は当たらないでしょう」
「毒が入っているかもしれぬ」
「そうですな、しかし、毒など使わずとも、松永殿を消すことなど動作もないことです」
そうここは、鈴木家占領地の堺であった。
・・・・・
畳の間に鍋が置かれている、七輪の上で鍋が煮えている、すき焼きである。
「しかし、殿の牡丹鍋が食いたいですな」と望月。
「まあ、今回は、新メニューのすき焼きである、松永様を接待するための料理ぞ」
この時代、食肉はタブーとされていたが、猪などは、捕れれば食べられていたということは以前申し上げた。
「味醂ができ、砂糖もでき、ついにすき焼きが完成したのである」と自慢げに語る俺。
「さあ、この卵につけて食べてくだされ、ご飯もありますぞ」
茶碗には白ご飯が盛られている、白いご飯もこの時代には、食べる習慣がない、精白する能力が足りなかったのである。
「まあ、毒を警戒されているようだ、仕方がないのでわしらでいただこう」
匂いは完全に、すき焼きであった。
「これは、なんという!」と今井が驚いている。
場所は今井さん家を借りている。
「しかし、このきのこは!」
「おお、ついにシイタケが完成したのじゃ、今井殿、買われるか?」
「完成?」
「製法は秘密じゃ」
「椎茸が作れるのか!」驚いたのは、松永である。
椎茸は、自然にとるしか方法がないので、とても貴重な品とされている。
「丹波屋の新名物になるといいのだがな」
「売るほどあるというのですか」
「商品は売るほどないと意味がないではないか」
そういいながらも、食は進む。
「ええい、某にも、食わせてくだされ」と松永。
「毒入りのご飯をもてい!」
松永が蒼くなる。
「冗談でござる、しかし望月よ、すき焼きはやはり松茸でないとダメかな」
「殿、松茸ならば秋にいくらでも取れますが?」
「何!」
この時代は、松茸は豊富に採れ、椎茸は採れないのである。
「ぜひとも、松茸を!」
「わかりました、ですが殿は変わり者ですね」
「いやいや、お前が変わり者だろう、松茸だぞ」
「だから、採れますって」問答は続く。
「これは、なんと、うまい」松永はもう死んでもいいと思うほど食っている。
毒が入っていれば、数十回は死んでいたに違いない。
「酒!」
今度は、すみ酒である
「うまい、この上品な甘さはなんだ」
「大吟醸ですからな」
太田左近の頑張りで酒米にあう米の種類が発見され、それを水車力で、削りまくって、大吟醸を完成させたのである。
松永は泣いていた、あまりに飯がうますぎて、そして、それを軽々と作り出す仇がとてつもないものであることを知って・・・。
「負けました、もはや、我らでは、かないませぬ」
三好勢力はまだ、山城、摂津、播磨、淡路、阿波、讃岐などかなりの所領を領有している。
「殿には申し訳ないが、すでにいない、どうしようもありません」
松永久秀は
三好長慶が存命であれば、まだ勢力をまとめ盛り返すことができるであろう、しかし、柱の長慶と兄弟、あと跡継ぎの義興もいない現在では、仲間割れは必至である。
「私は、山城を土産に寝返ればよいのですか?」
「身一つで結構です、山城はまだいりません」
「恐ろしいことを平気で言う」
「わが家臣となるか、鈴木家家臣となるかは、松永殿がお決めくだされ」
もちろん、鈴木家直臣一択である。九十九の家臣は陪臣(またもの)と呼ばれる身分なのだから。
「九十九殿にお仕えしたい」
「さようか、ではこれからよろしく頼むぞ」
「はは」松永弾正が頭をさげた。
・・・・・
「伊賀の国人衆を代表いたしまして、この服部半蔵(字を改めた)、殿にお仕えすることを申し上げます」
紀伊平井の九十九屋敷である。
「どういうことか」
「は、伊賀の国全体で、鈴木家に降る決意を表したものでございます」
伊賀は小さく、耕す場所も少ないが、人は多かったので皆、貧しかったのだ。
しかし、食(職)にあぶれたものは、みな紀伊で暮らすようになり、伊賀は安定したのである。(人口減少で食料不足の問題を解決できた)
そして、隣国大和が鈴木家に組み込まれたのをみて、今、鈴木家の属国となる決意を固めたのである。
もちろん、自分たち同志の争いを止め、他国からの侵入をけん制する狙いもある。
・・・・
「九十九、どうなっておる、今度は伊賀が降った?」
「はい、殿、殿の
「嘘を申すな」
「何を怒っておられるのか」
「勝手ばかりしおって」
弥勒寺山城の広間である。
「なるほど、少し、構ってほしいのですな。実は、私も少しはなしが進みすぎたと思っているです」
「何を言っているのか!」
「では、兄やんの機嫌を取るために、嫁を
「おい、九十九何を!」
「まあ、少しあてがあります、気をながくして吉報をお待ちくだされ、ではごめん」
居並ぶ重臣たちは苦笑いである。
この男が人の話に耳を傾けることはない。
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