第32話 河内の戦い

032 河内の戦い


「昨日はさんざんであった」畠山高政はつぶやいた。

一騎打ちがさんざんな結果におわった、勇将2名がいとも簡単に打ち取られた。

しかし、今日はそうはいくまい。

城攻めは難しい、消耗戦である。敵の数は少し多い程度である。

此方が粘れば、連携はないが、和泉をとられた三好が堺方面を攻撃することは明らかである。

「殿、敵に動きがあります、寄せてくるようです」

「ふん、ぬかるなよ」

「は」


その時聞いたことのない轟音が聞こえた。


ひゅーんという不吉な音がやってきて、ゴーンという音がして石壁が砕けた。

バーンという音ともに、門の上部が大穴を開けた。

砕けた石壁の破片で血まみれになった兵士が倒れる。

狭間さまから敵を見ていた兵士が壁ごと後ろに吹きとばされる。


「何事だ!」

「わかりません」もちろん横にいる兵士がしるわけもない。

大門が半壊していた。

「大門を修理するのだ」

「はい」

一体どのようにして?

しかし、その判断が更なる悲劇を生んだ。

第2斉射は大門に集中したので、修理のため?に集まった兵士は鉄の砲弾の直撃を食らって肉塊になり果てる。

大門が完全破壊されたので、先鋒が突撃してくる。

「撤退、二の丸まで撤退せよ」

判断が遅れたことが致命傷になった、後退する兵士たちが入りきる前に、敵の先鋒隊も追いつていた。

二の丸の門で壮絶な乱戦が発生し、門を閉じることは不可能となる。


「弓で攻撃せよ」三の丸から攻撃命令が出されたときは、二の丸にいる兵はどんどんと押されて、三の丸に追い込まれてきていた。

「味方にあたってもよいから撃て」

板壁越しに弓矢が山なりで撃たれる。

敵も味方も突然の矢の洗礼を受ける。

「撃てーい」


一千丁の射撃が腹に響く。

三の丸の板壁の向こうの兵は打ち抜かれる。

もちろん、丸太の柱の後ろなどは安全であったが。


「撃てーい」

雑賀撃ちなので、2射目までの時間は少ない。

板壁を貫いて飛んでくる銃声が死神の叫びに聞こえる。

伏せれば、高低差もありよけれるのだが、訓練を受けていないものにはそれがわからないのである。

そして、畠山の兵のほとんどは、鉄砲が初めてであった。


ズドーンズドーンズドーンズドーン。

今度は大砲が目標を修正し、本丸目掛けて攻撃を開始する。

バーン、弾が木に当たるとそれは、運動エネルギーだけであたりを吹き飛ばす。

本丸は大混乱となる。

単なる鉄の玉なので、当たらなければどうということはない、当たれば肉塊だが・・・。


「儂は、落ち延びる、あとは任せるぞ」畠山高政は青い顔をしてそういって、近侍きんじらと逃げ去っていく。

周りの家臣たちは、唖然とするほかなかった。


一時間後、高屋城は降伏した。

高屋城の戦いはこうして終わった。


高屋城が落ちれば、最後は飯森山城しかないのであるから、当然そことの間に、伏兵を用意しいている。


荒部は、例の網をかぶって、逃走通過予想地点Aで待機していた。

草むらである。

馬の足音が聞こえてくる。

ハンドサインで射撃準備をさせる。

自分の銃はふつうのものより射程が三倍である。

荒部が網の中から、狙う、撃つ。

鎧武者が馬からまくれ落ちる。

全く気負いのない流れるような動きだったが、狙いは正確だった。

次々と発射音が起こる。

狙撃は、自由射撃である。

「うおおおおおお」

網をまくって、狙撃手の護衛役も兼ねる侍たちが、ここぞとばかりに突撃していく。


襲撃が終わると、「大将らしいものがいました」

「よし、撤収する」「は」

そこには、生きている敵武士はいなかった。

こうして、河内畠山氏はあっけなく滅んだのである。


・・・・

河内の戦いは長期戦が見込まれていた。

何しろ、管領家である。

堺の会合衆はそう考えていた。

そして、この機会に、鈴木家を堺から追い落とすことを考えていた。

「三好家に援軍を頼みましょう」もともと、堺に影響力を持っていた三好家である、三好家自体も取り返したいはずである。


「だめですよ」今井宗久が止めに入る。

「そうです」と百地丹波の家臣の丹波屋がいう。

「今井はん、このままでは、堺はどうなるかわかりまへん」

「あの人は、普通ではありません」

「そうです、神の使いです」と丹波屋。

「そういう意味ではなくて」


「矢銭2万貫を支払うと?」

べに屋さん、あの人には逆らってはいけません、越後屋さん越前屋さんがどうなったか」

「大丈夫です、淡路から安宅様の水軍、摂津からは義興さまの軍勢が来てくれます」

馬鹿な!のに何を言っているのだ!


紅屋は、丹波屋が鈴木家の商店であることも気づいていないのか!

もちろん、今井宗久も鈴木家の支配に内心は苦々しい思いがないわけではない。

だが、あの男はすでに異次元の存在であると考えるようになっていた。


結論として、決して逆らわないのが吉とも考えてもいた。


「今、鈴木は城攻めに入りました、時間がかかるでしょう、ついでに言うと飯森山城もあります、その間に、堺を奪回していただくのです」

「紅屋さん、死にますよ」

「今井はんは、我々の監視下にいてもらいます、ついでに、丹波屋はんも」

「残念ながら、そうは参りません」と丹波屋。

丹波屋の従業員の半分は忍びである。

しかも、その忍びが、剣術、槍術、体術をさらに叩きこまれているのである。

紅屋の後ろから護衛の侍が出てくるが、その男に丹波屋は近づき簡単に刀を奪い、刺し貫く、残りの護衛も簡単に頸動脈を斬られて、血を噴き上げる。


「抵抗はやめよ、ここからは、この丹波屋が指示する、逆らうものはみな死ぬ」今までの顔つきとは明らかに違う、鋼のように厳しい顔つきであった。


「紅屋を拘束する」丹波屋の手代が、紅屋を縛り上げる。

「紅屋は反逆罪で家財没収、一族、従業員全員を逮捕する」

「だから、言わんこっちゃない」今井は一人胸の中で呟いた。



「そうか、三好が来るか」堺の守りは滝川一益である。

港の方面は防備体制が完成している、九鬼水軍にも援軍要請しているので問題はないハズである。


「摂津方面の作業はどうか」

「外郭の作業はまだ完成しておりませんが」

「そうか、急がせろ、馬防柵、逆茂木のキットは十分か」

「はい」

堺の防御部隊は滝川隊500である。

「諏訪賀殿、財津殿、お内儀殿」

「あれを使われるのですな」

「そうです、しかし、本当に効くかはわかりません」

財津、竜童(内儀)もやっと少し日本語を話せるようになっていた。

「やってみなはれ」と変なイントネーションの竜童が笑顔をみせる。


三好義興は、三好家の跡継ぎである(三好長慶の息子)。

摂津方面から、5000の兵を率いて、南下している。

同時に、淡路から、安宅水軍が堺に向かっている。

安宅 冬康(あたぎ ふゆやす)は三好長慶の弟である。


敵軍の主力は河内国の攻略に出払っているので、堺の兵力は500程度であるという。

「叔父貴たちの仇をとる!」期するところがある。

父、長慶は、親戚の三好と争っているのでくることができないでいた。

ここで、跡継ぎの自分が頑張らねば!義興はそう考えていた。


堺の町の手前に布陣すると、堺の町を区切る塀の前に、一段、土塁が形成され、その前には堀ができている、その前に、逆茂木や馬防柵が展開されている。

そして、その前に見たことのないものが存在していた。

灰色の四角い箱?小屋?がぽつりと3つあった。


「あれはなんだ」側近のものに尋ねるが、「見たことがありません」

それは、半地下の鉄筋コンクリート製のトーチカである。

トーチカは高さ3mの土塁から100m以内に設置されていた。

攻略するには、土塁から100m以内に侵攻し攻撃を加える必要があるが、土塁から銃撃を受けることになる。


「こちらが、圧倒的に有利であるのだ、降伏勧告してみよ」


もちろん、守将の滝川は不承知である。

これは、河内侵攻計画を立てたときに十分予想されていたことなのである。


「よし、全軍総がかりの鉦をならせ」

「うおおおおおおお」鯨波げいはをあげながら、5000人の三好兵が突撃を開始する。

「もみつぶせ!」

「うおおおおおお」

考えなしで突撃し、叔父が爆死したことを甥は知らなかった。

突撃兵はトーチカを槍で攻撃した。

ガキ、槍が折れた!

もちろんコンクリートなので硬い。

刀をたたきつけるとパキンと折れた、石のように硬い。

その時、トーチカから銃撃が起こる

突撃兵は自分がトーチカを叩いたので怒ったのかと思った。


その時、突然火柱が立ち登り、爆風が周囲を圧する。

轟音が耳をつんざく、爆炎と轟音、黒煙であたり一体が大混乱に陥る。

突撃兵は耳を抑えて屈んでいた。

その時見たのである。

シュウシュウと音を立てて動く火を。

その火は、陶器の中に吸い込まれた。

バン!

陶器の破片と鉛玉をまき散らしながらそれは爆発した。

トーチカの周りには、いくつもの「それ」があり、一本の導火線でつながっている、そこからそれに対して枝のように導火線が出ている。一回ですべてが点火されることになる。

戦史には記されることはないが、これが日本の戦闘で始めて対人地雷が使われた瞬間だった。陶器製対人地雷の登場は、皆に知られることはなかった。すべて爆発して、己の存在を消し去ったからだ。


トーチカ周辺の三好兵は一掃された。


そして、先ほどの大爆発は火薬樽を偽装して、戦場に仕掛けておいたものを射撃により爆発させたために起こったものである。


土塁の上方から一斉射撃が行われる。

面制圧射撃である、今回は人手が足りないため、残り2丁を予備として装填済みで横に置いている。


義興は、揺さぶられていることに気が付いた。

「殿、殿、大丈夫ですか」

「ああ、篠原か、ああうっぐ」落馬した拍子に骨折したようだ。

脂汗をながしながら、思い出そうとするが、意識がぼーっとしている。

義興は樽爆弾の爆風で馬から転げ落ちたのである。

その際、左腕と肩を骨折した。

「残念ながら、撤退しましょう、殿のお体が一番でございます」

「うむ」その時、篠原がどおーと横倒しになった。

「篠原!」兜には、穴が開き血が流れだしていた。

まさに、悪夢のような出来事だった。






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