第31話 堺占領

031 堺占領


船大工の棟梁は、これまで、船以外の大工仕事を次々とこなしてきた。

別に嫌なわけではない、しかし次々と工作物を依頼される。

妙な注文が多い。

一回作ってばらしてしまう。

番号を割り付け、別の場所で再度組み立てる。

簡易櫓だったりする。

そのうち、船以外の仕事ばかりになった。

船大工は弟子に譲らされた。

「おお、甚兵衛よ!すまんな」気軽に声をかけてくる人物こそ、もっとも恐るべき男だった。

「ここをセメントで強化してくれ」

「あそこには・・・・」次々と岸和田城強化策を命令していく男。


「外側に堀を新設してくれ、爆薬でちゃっちゃとやってくれ」

この男は大体こんな感じである。

「星型でこんな感じでやって」絵はとても下手で、ヒトデのようなものを書いているので、自分が引き直す必要がある。


完成させた図面を見せると「おおさすが、百瀬の親父の生まれ変わり、その通りだ」などといっている。

「よし、甚兵衛よ、お前はこれから百瀬の姓を名乗り、名前は甚五郎が良いであろう」

などとのたまうのであった。

「そちはこれから百瀬甚五郎、第100工兵師団師団長である」となにか意味のわからないことを言っている。


「では、甚五郎、あとを頼む。堺を落としてくる、堺でも強化工事が必要になるからな」

此方の返事は全く気にしていない男である。


岸和田城より進発した部隊はすぐに堺の町を包囲する。

堺の会合衆は恐怖した。

前回のトラウマがよみがえる。

越後屋がどうなったのか?

越前屋の首なし死体・・・。

残念ながら越後屋は、紀伊に犯罪奴隷として連れていかれたが、綿火薬の実験中に爆死していた。


「武装解除し降伏せよ」

「三好兵は降伏するか、堺から退出せよ」

命令が触れられる。

堺の傭兵は武装を放棄した。

三好兵は撤退あるいは逃散した。


「今井殿、今回は素直に聞き入れてくれてすまぬな」

今井、会合衆に成りすました百地の家臣丹波屋、それに今井の義父の武野が出迎える。

彼らは、堺の重鎮だ。

「どうか、よしなにお願いいたします」

「今後は、この和泉はわが鈴木家が支配する地となる、堺の防御力を向上させ、わが部隊の常駐を行うこととする。常駐にかかる費用の一部を『おもいやり予算』として堺の町に出してもらいたい」

算?」

まるでどこかの国のようであるが、この男は現代知識も継承している。

「あくまでも一部だから」口ではそういっても、どれだけかけるかは、鈴木家の采配次第である。

しかし、逆らえば、また一つ首なし死体が生産されるかもしれない、ほかの会合衆は何も言えなかった。


「民を安んじていただけますように」

「もちろんである、民には無理はいわん、商人には言うかもしれんがな、経世済民けいせいさいみんだな」

「・・・・・」


・・・・・・・


こうして和泉国は制圧を完了していく。

和泉熊取の国人の霜氏が一万石の大名となり、周囲の国人たちをまとめる、逆らうものは、逮捕拘禁されていく。

紀伊国では、労働力が不足しているため、戦争捕虜は労働力として吸収されていく。


和泉国14万石が鈴木家として組み込まれる。

和泉国の国人たちの世継ぎ候補の子供たちが、平井の九十九館に預けられる。

彼らは人質である、しかし、洗脳の場所でもあった。

彼らが、自分の家を継ぐころには、立派な鈴木家の家臣となるべく教育される

厳密には、鈴木九十九家臣だが・・・。


天文24年(1555年)

春には、岸和田城から、河内畠山を討伐するべく、九十九軍が進軍を開始。

九十九は、鈴木家筆頭家老に昇進していた、というか誰もかなわない状態になっていた。

「今回はさすがに、南蛮船は使えぬな」

「そうですな、私の出番でしょう」戸次鑑連改め戸次道雪べっきどうせつが言う。

「うむ、頼りにしているぞ」

「はは」

先鋒隊は、和泉国の国人衆3000、中堅は紀伊国人衆3000、本体は九十九隷下れいかの鉄砲隊3000と輜重隊1000という構成になっている。

先鋒、中堅は武士と足軽の恰好であるが、鉄砲隊はすでにかなり戦国時代から逸脱した恰好である。


彼らは、鉄兜と布製の迷彩服(草木染めでそれに近いものを作った)革のハーフブーツである、それに、火縄銃とリュックを背負っている。

腰には、革ベルトにポーチと脇差という特異な恰好となっていた。

ハーフブーツの靴底は、わざわざ、インドネシア、マレーシアからガタパチャというゴムの木の親戚?からとった樹脂を取り寄せて使っている。


河内南部から侵入した鈴木軍はさしたる抵抗も受けずに、北上していく。


河内国高屋城には畠山高政がいた。

紀伊を奪われた畠山氏は、鈴木家に復讐しようと考えていたが、できずにいたところ、敵がやってきたという。


国力が半分になっているために報復できかねていたのであるが・・・。

「敵は、岸和田城を進発し、河内南部から侵入しました、現在この高屋城を目指しています、兵力は約一万とのこと」

此方の兵は、集めてざっと6000である。

「籠城するほかあるまい」

兵力に劣れば、防御に回ることは当然である。

城攻めには3倍の兵力が最低必要である、高政も武将、当然すぐにそれくらいのことは思いつく。

だが、岸和田城の戦いの情報などはあつめていなかった。


一方、九十九は、すでに忍びたちを城下に複数侵入させ、様々な情報を収集していた。


「今回はわたくしに一番手をお願いします」

川崎鑰之介(かわさき かぎのすけ)である、彼は、師匠の戸田勢源の世話をするため、紀伊にやってきていた、今は剣術師範をしている。

今までは、柳生、宝蔵院が活躍しているので今度は、自分がと気負っている。

「まあ、いいが、相手が受けるかはわからんぞ」

そもそも、一騎打ちは相手が承諾しないと始まらない。


「我こそは、戸田流の川崎鑰之介なり、我と思わん者は、かかってこい」

高屋城は四方に河などがあり、南面から攻めるしかないような城である。

城というものはたいていそういう場所に作るものだ。


岸和田城の戦いの情報をえていれば、決して誰も受けなかったであろうが・・・。

門が開き、一騎の武士がでてくる。

「某、阿見直政が受けてたとう」

馬を降り、槍を構える。

川崎は剣であり、不利である。

「参る!」


阿見の槍が突きを繰り出す

ガキと槍を受けて下にそらす。

ガンと革ブーツで踏みつける。

草鞋とは明らかに違う力強さに、槍が手を離れる。

川崎の剣先が阿見の喉を突き刺す。

「うおおおおおお」

歓声があがる。

「阿見直政を討ちとったり」


「次は、この前田慶次郎が御相手いたす」と声を張る。


また一騎、騎馬武者が出てくる

「馬上での勝負を所望する」と自慢の方天画戟をしごく。

「なんだ」初めて見る武器であった。

しかし下がることは沽券にかかわる、「丹下宗直参る」


赤兎馬は大型馬、丹下の乗る馬は日本の馬でそれほど大きくなかった(従来の日本馬はポニー並み)。

前田慶次郎は肉食により大きくなっていた、丹下は大きくなかった。


双方突撃し一合目で丹下は馬から押し倒された。

返し馬で馬上からの、方天画戟(ハルバート)がうなり丹下は空中に舞った。


例によって、宝蔵院、柳生と声を張り上げるが、もはや誰も出てこなかった。

「卑怯者どもが!」胤栄の声が叫んでいるがこちらは、陣地づくりの作業を開始する。

空堀、馬防柵、逆茂木、いつもの手順を踏んでいく。

「殿やっと追いつきました」

「ご苦労、陸上では初めての実戦だが、高屋城は丁度良い具合に傾斜が少ない」

「はい、芝辻砲の威力を示しましょう」

佐々木義国は、うれしそうだ。


この男は、鉄砲の技術を学ぶために、紀伊にやってきた変わり者である。

鉄砲の技術は門外不出なので、教えられないというと、家臣になってしまったのである。


そして今、その男のもとにもう一人の代わりものがやってきた、同国人であるらしいその男の名は稲富直秀という。

芝辻砲とは、青銅砲の大砲である。

青銅砲であるが、ライフルは刻まれている先込め式のライフル砲である。

現在、榴弾の開発中であった。

後方1キロに大砲部隊10門が配置される。

南蛮吹きででる、銅はこのようにして有効活用されている。


「まあ、戦は明日からだ、今日はみな、うまいものを食ってゆっくり休め」

戦闘食は、固焼きクッキーと干し肉、干し貝柱などが支給されているが、今日は、戦場の鍋パーティーである。

見張り要員以外はみな、うまい食事にありつくことができる。

見張りも途中で交代となる。

和泉国の国人衆がこの様子に驚いていた。


・・・・

開けて翌朝である。

天気は曇り、鉄砲隊に支障はない。

「先鋒隊は制圧射撃後に突入せよ」

「中堅隊は、後詰、鉄砲隊は援護を行う」

「では、みな位置につき、命令を伝達せよ」

道雪が、各隊の将に命令を伝えていく。


「殿、準備整いました」

「そうか、ご苦労、では義国よ頼むぞ」

「は」

「撃ちーかた用意」

「撃て!」義国が大砲部隊に命令の采配を振る。

ズドーンズドーンズドーン。

青銅砲10門が連続して火を噴く。

すでに、照準はつけられている。

「再照準!装填急げ」

2分で準備が完了する。

「用~意」

「てー」

ズドーンズドーンズドーン。

発射の反動で青銅砲は後ろに動いている。



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