第30話 岸和田城の戦い

030 岸和田城の戦い


岸和田城をにらむ場所に布陣していく。

馬防柵、逆茂木、簡易な堀といつもの仕事とばかりに、作業が行われる。

そして、食事、いつもと変わらぬ風景であった。


招集された国人衆もあきれ顔であったが、もう慣れたものである。

鉄砲隊は切り込まれると弱いのであるから当然である。

ただし、この鉄砲隊は直営軍なので、剣術槍術体術を仕込まれている。

そして、銃手の護衛をする侍隊がすぐ後ろにいる(ツーマンセルに近い思想)。

ゆえに、他国の鉄砲隊のようなことはない、近接戦でも無類の強さを発揮するはずである。

あくまでも、念のための措置であった。


「貴様ら三好は約束をたがえ、我が紀伊国に攻め入った、これは、信義にもとる卑怯者の行いである、我ら鈴木は、貴様ら卑怯者三好を成敗するために参った」メガホンで呼びかける、この時代はこのように、自分の正当性を述べ立てるらしいのだ。

「命のはかかってこい、一騎打ちを所望する」

命の惜しくない者はかかってこいの間違いである。

しかし、この男のメンタルは気にしない。

「卑怯者めらが!ははは」


「待っておれ!わしが相手になってやる」この時代はもう一騎打ちがなくなった時代である・・・。


「牧歌的だのう」

門が開き、一騎の武者が出てくる。

此方は徒歩である。

しかし、近くまで来ると、武者は馬を降りた。

しかし、槍武装である。

「篠原正成、口ばかりの敵将の首もらい受ける」

「参られよ」

「ええ~い!」気合とともに槍が繰り出される。

槍を寸前でかわし、敵に近づく男。

「影神掌!」一体いつからそんな格闘ものの話になったのか?

両手が、篠原何某の胴丸の部分に置かれていた。

バキッという音ともに、篠原何某ははじき飛ばされる。

頭を打ったのであろう篠原はうめきながら立ち上がる。

九十九は後ろも見ずに自陣に悠々と歩き去る。

篠原何某は自らの負けを認めた、助けられたのであると思った。


しかし、実際は違う、何の技か不明の掌打であったが、その際、あまりの衝撃で手首がおれてしまったのである。

<骨折部分の再生を開始します>

とどめを刺すこともできず自陣に帰るしかなかったのである。

しかし、みっともない姿をさらすこともできず悠々ゆうゆうと歩いたのである。

そう!骨折の痛みの涙を必死で食いしばりながら。


「さすがは殿、見事でござる」慶次郎は明るい男であった。

「次は私が行きましょう」手には、この前作った方天画戟ほうてんがげきが握られている。

馬が赤兎馬なら、これでなくてはとスウェーデン鋼で作ったハルバートである。

慶次郎は、その武器の名前を『』とつけた。ハルバードです。


「首をとったらだめなのか?殿」

「いや、構わんぞ」痛みをこらえながら答える男であった、手首が折れたので、とどめをさせなかったとは言えない。


「おい、慶次郎、わしが教えた技がそんな槍では使えんだろうが」と宝蔵院胤栄が文句を言っている。

「いいんだよ、和尚おしょう、俺はかっこいいのがすきなんだから」

「師匠と呼ばんか」

「はいはい」


そこから、古式ゆかしい一騎打ちが展開された。

だがそれも、三回戦までだった

三好方が三回とも討ち取られたからである。

前田、宝蔵院、柳生だった。

次の番を期待した川崎鑰之介かぎのすけはがっくりしていた。


その様子を見ていた三好実休は「なんだ、あのでたらめな強さは」とうなったという。


城攻めは最低でも三倍の兵力を要するのは兵法の常識である。

実休は、籠城すれば、なんら問題ないと考えていた。

これまでの常識ではもちろんそうである。


雑賀衆は確かに異常に強い、だが、籠城すれば問題はない。

そして、その日、雑賀衆の攻撃はなかった。


・・・・


「明日の攻撃であるが、在田、日高の国人衆に総がかりを命ずる」

吶喊とっかん攻撃は最も、被害が大きくなる。

もちろん、嫌とは言えない、ただでさえ人質を取られているのである。

「まあ、そう心配するな、手は打ってある」

若すぎる総大将がそういった。


日が昇る、今日も晴れである。

このころ、火縄銃の大敵は雨である(多少なら、火縄に火薬を仕込んでいるので問題ないらしいが、降りが強いと使えなくなる)。

そして、雑賀衆の最強兵器は火縄銃である。天気が大事なのである。


三好は、夜のうちに、援軍要請を走らせている、数日こらえれば、摂津から援軍が来てくれるはずと考えていた。

残念ながら、伝令はすべて捕らえられ、始末されていたが・・・・。

そういうことは、忍びの得意とするところであった。そして、鈴木には伊賀甲賀の忍びがゴロゴロ存在していたのである。


岸和田城は、海岸線にある。

海が近いのである。

問題は、その海に、南蛮船が3隻も存在していることである。

明らかに何らかの意思をもって現れたことは、確実であった。


「援軍が来た、皆のもの、この鈴木家のために、八咫烏大神のために威信を示すときぞ!」

「全軍突撃!」

その突撃の采配に合わせるかのように、南蛮船の舷側が一斉に轟音をとどろかせる。

青銅砲の一斉射撃が開始された

射程は2,3キロであるが、城は至近にあった。

鉄の砲弾が音速近くで飛来する。城内の施設に当たると、爆発するように辺りが砕け散る。

もちろん、鉄の玉の運動エネルギーだけであるから、殺傷力はそれほどない。

しかし、直撃すれば人間が飛び散るほどのエネルギーはあった。

冷静になれば、伏せて耐えていればそれほどの脅威ではない。

だが、初めて見る大砲の攻撃に冷静にいろという方が無理である。しかも嫌な飛来音でやってきて、周囲のものを破壊するのだ。

その前にもさんざん心を折られている兵士たちは、気を失わんばかりにたまげていた。



「うおおおおおお」南方からは寄せ手の突撃の喊声が沸き起こる。

何人かが、「だめだ、もう駄目だ」と叫べば、それは瞬く間に伝染していく。


どおお~ん、今までとは違う爆発の振動が腹に響く。


「城門が破壊されました!」

すでに、夜のうちに、一番外側の門のまえには、樽が設置されていた。

それが、銃撃により爆発したのである。


「俺は、逃げるぞ!逃げろ」城内に忍び込んでいる忍びが、味方のふりをして流言を流す。

誰かが叫んだ、「おお、早く逃げないと殺されるぞ!」


南蛮船からの第2斉射が起こる。

「兵が!勝手に門を開けて、逃げています、殿、もうこの城は持ちません」

「馬鹿な!まだ一戦すら行っていないではないか!」実休はうなったが、すでに北門は開けられていた。


・・・・・


兵たちはひたすら堺(北)を目指して逃げていく。

だが、実休は久米田方面(東北)へと逃げ延びようとしていた。


馬を走らせながら、実休はなぜ負けたのか、考えていた。

ありえないことばかりが起こっていたのである、こんなことが許されてよいのか?

理不尽が大勢で押し寄せてきたような感じだった。

しかし、その理不尽が目の前に迫っていた。


草むらが光った、実休が見た最後の光景がそれだった。

何の変哲もない草むらが火を噴いたのである、それは射撃だった。

加留羅蓮国は、大将の命令で久米田方面の草むらに、何とも奇妙な網をかぶって待つように命令されていた。

なぜそんなことをするのか?そのような質問はできない。

神人たる総大将の命令はとされているからである。

もちろん、蓮国はそうは思っていないのだが・・・・。


網をかぶらされ、草などを網の穴に差し込まれていくと、周囲からまったくわからなくなる、着せられている服は『義理須津ギリースーツ』と呼ばれるものらしい。

すぐそこにいる部下たちも、まったく草と同化していて判別できないほどだ。

義理をすべからく港に届けるという貴いに違いない。


「来ました、さすが、使徒様です」ツーマンセルの片割れが小声で言う。

彼は、孤児院上がりの少年兵で大将をほぼ神と同等に信仰している。

蓮国の銃は、ボルトアクションライフルなので、火縄は必要ない。

射程も300mと長い。

一番兜の豪華な武士を狙う、蓮国は撃った。

ボルトを作動させ、排莢し次弾を装填する。

バン!

3発目を発射した時、周囲の隊員たちの火縄銃が火を噴いた。

50丁の銃が火を噴く

一発目が実休の胴体を撃ち抜いていた。

馬廻衆が何とか、実休を助けようとしているが、蓮国の銃が次々と打ち倒していく。

蓮国は機械のように正確に射撃・排莢・射撃を繰り返している。


今や、網はどけられ、雑賀撃ちのため、次の銃が手渡されていた

敵の数騎がこちらに突撃してくるが、蓮国は冷静にそれらを処理していた。

約50名の敵がすでに全員、落馬していた。


こうして、三好実休は久米田で戦死した。


実休の死体を確認している蓮国のもとに、カラスの羽のようなものが落ちてきた。

濡場色ぬればいろの羽、蓮国はそれを手にした。

それ以来彼は、その羽を鉄兜に着けるようになった。

人呼んで『黒羽の死神』(ブラックフェザー)の誕生の瞬間だった。




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