第29話 紀ノ川の戦い2
029 紀ノ川の戦い2
あまり、紀ノ川に近づくと、対岸からの攻撃を受ける可能性を考え、少し距離をとる。
十河隊が突撃すれば、三好隊が河岸(紀ノ川の北岸)に展開し、孫一隊(南岸に展開中)の渡河をけん制する手はずである。
平井の九十九隊は5000である。
一万もの軍勢で攻めれば、勝利は確定しているはずであった。
「弓隊放て」弓隊がけん制の矢を放つ。
もちろん、九十九隊は盾で防ぐ。
全力で引き絞れば、狙いはともかく、飛距離は矢の方が長い。
九十九隊は、無駄玉は撃たない。
「全軍突撃せよ!」「突撃」「突撃」どんどんどんどん、総がかりの太鼓と命令が
「うおおおお」十河の足軽隊が徐々に速度を上げ
「撃ち~かた用意」発音が変なのは、海軍式の影響であった。
敵の足軽の先頭が、一丁の線を超える。
「て~い」房の付いた指揮棒を振る
馬防柵の後ろから1000丁の銃が轟音をとどろかせる。
黒色火薬の黒煙が一面に立ちのぼり、銃を交換した射手は、煙をどうするか考えているときに「て~」戸次の第2斉射命令が聞こえる。
水平射撃で、煙の中で発射する。
交換される銃の第三斉射の命令が聞こえる。
ドッドドドッドドド。もうすでに辺りは、発射煙で何も見えないくらいだった。
3000発の鉛玉が飛び交った後には、千近い死体が転がっていた。
あまりの威力に腰が引けたが、十河は、今こそと踏ん張った。
「今こそ突撃だ!っゆけ~」唾を飛ばしながら、大声をあげる。
「うわ~」すでになきがはいりながらも、足軽は仲間の死体を踏み越えて、突撃を開始する。
後ろにいろと兄に言われていたが、十河は中段にいた。
ここは、自分の武勇で味方を励ますとき、十河は馬をいななかせ、突撃を開始する。
彼の馬廻(側近)たちも、突撃を開始する。
九十九隊は3000丁の銃を用意していたので、交換して射撃していた、第1斉射の銃はすでに、紙早合もあり、装填を完了、射手は、構えていたが、射撃命令はまだ出なかった。
十河軍が第2線(50m)を踏み越えた時、それは起こった。
轟音と火柱が吹き上がる。
ドカーン、ドカーン
周囲の兵士がくるくると宙を舞っているのが妙にシュールだった。
一存は何が起こっているのか?まったくわからなかったが敵の罠であることだけはわかった。
周囲でも爆発が起こり、危うく、落馬するところだった。
あまりの轟音のせいで耳がキーンとなってなにも聞こえない。
何とか、馬を落ち着かせ前方をみると、敵の鉄砲隊は、後退していくところだった。
馬防柵や逆茂木は2列に作られており、その2列目に後退する命令が出たのである。
その後ろ姿が、なぜか無性に腹が立った。
「敵は引いているぞ!突撃!突撃!」先ほどの恐怖で失禁していたが、そのことに腹がたったのである。耳は聞こえないが、大声は出せる!
「殿」
「黙れ!突撃だ!」
側近の一人がいさめたが鬼十河はそのいさめを聞くことはなかった。
鉄砲隊が後退したのは、単に爆発に巻き込まれないための退避であった。
地雷陣地は鉄砲隊の前近くまで設定されていたのである。
「うお~」すでに、恐怖で青い顔になり涙をながしながら突撃を再開する足軽隊。
だが、死の突撃でしかなかった、埋められた地雷のスイッチ(木の枝など)を踏めば、周囲を巻き込み爆発する。手足を飛び散らせながら、舞っている。
運のある足軽が、第1の柵までたどりついたとき、第4斉射が起こった。
「おのれ!」十河がおめいたとき、彼の馬が踏んでしまった。
ドカーン!
その瞬間、一存は空中へと巻き上げられた。
この地雷は「埋め火」(うめび:忍者が使った武器)とは違う。
火薬は、徳利に入れられており、口の部分に雷管と枝が刺さっており、枝を踏むと雷管が爆発し、火薬に点火、爆発するという極単純なものである。(
この口の部分に導火線付きのふたをつければ、導火線式の手りゅう弾になるという、兵器でもあった。
地面に叩きつけられる一存、爆発で右足の膝から下を喪失していた。
「退け、退け」無事だった一存の側近が叫ぶ、しかし、後方から押し寄せる味方には聞こえてはいない。
戦場ではつねに混乱がつきものであり、視界不良、雑音などが入り乱れる。
一度動き始めれば、とまるまでには規模が大きいほど時間がかかるのである。
九十九隊の第2線からの射撃は自由射撃となり、目の前の敵に、射手が好きに撃ってよいことになっている。
一存の馬廻が一存に肩を貸して、後ろに引っ張っていこうとするが、恰好の的になってしまう、馬廻(側近)が次々と打ち抜かれて死んでいく。
一存は意識を失っていた。
十河隊がやっと後退を始めるが、地雷源を迂回した前田慶次郎の騎馬部隊100が突撃してくる。
大混乱の戦場を見渡しながら、三好実休は援護に部隊の一部を繰り出す。
慶次郎の騎馬隊は本当の騎馬だけの部隊である。
適正試験で騎士に向いている人間だけを選抜している。
馬は、明から輸入した、いわゆる大宛の名馬の子孫である。
その中に、いわゆる赤い汗をかく馬もいた。
慶次郎は汗血馬に『赤兎』と名付けた。
『松風』じゃないの?と思ってしまうが汗血馬だからそれで良いのであろう。
慶次郎は風流人なので「三国志」の赤兎馬のことを知っているのであろう。
本当にそれでいいのか?
騎馬隊は暴風のごとく、逃げる足軽を踏みつぶしていく。
明の大型馬は日本馬と違い蹄鉄が必要である。
そして、蹄鉄の馬の足は完全に凶器であった。
三好何某は三好の一族の将であったが、一存を救うために、騎馬隊を率いて、やってきたが、馬に乗っているのは、主だったものだけで、ほかは徒歩である。
「前田慶次郎見参!」槍をしごいて、赤兎馬をかる前田慶次郎は巨漢に育っていた。
慶次郎は、戸田勢源の剣術、宝蔵院の槍術、そして、九十九の合気道でしごかれていた。
すれ違いざまに、槍が三好何某の胸を突き刺して、持ち上げる、そのままの姿勢で慶次郎は突撃をやめない。
十河一存は、何とか地雷原を抜けたがそこで、慶次郎隊に討たれた。
その時、ひときわ大きな音が鳴り響く。
青銅砲である、攻撃終了の空砲であった。
三好実休は撤退を指示するほかなかった。
十河隊は壊滅状態であった。
三好が撤退していくのを見ていると、副官の望月が言う「あの、地雷火は誰が処理するのでしょうか」地雷は埋めるのは簡単だが、撤去するのは、埋める労力の10倍もかかる厄介な危険物である。
おそらくまだ、生きている地雷が数多く埋まっているに違いない。
そして、ここは田んぼである、誰かが撤去しないといけない。
そのため、地雷マップを作っているのではあるが、それは、ここら辺に埋める程度の意味しかないので、あとは人力で撤去するほかない。
「うむ、望月の見事な采配のおかげで完勝であった、みな勝どきじゃ!」
「えいえいおー」「えいえいおー」「えいえいおー」
こうして、領内での地雷の設置は禁止されることになった。決してなんちゃら条約のせいではない。
・・・・・・
三好軍を退けた鈴木家は弥勒寺山城で評定を行っていた。
「皆さま方、我が領に侵攻した三好は撃退されたが、神罰をくださねばなりませぬ」
鈴木家の家臣が集まる評定である、九十九の家臣は当然という顔でうんうんとうなずいているが、孫一の直臣(九十九も直臣)たちは、また始まったという顔である。
「しかし、三好は強大です、今回は九十九様の活躍で撃退しましたが・・・」
「儂の活躍など、大したことはない、八咫烏様の威光のお陰でござる」この男は面倒な話になると、とたんに神話に突入するのである。
「敵を倒したとしても、領地は得ていない、皆のものにも申し訳がたたん」まあそうではあるのだが。
「三好の領地を切り取り、みなに与える事こそ、殿、大殿の願いのはず」今度は他人になすり付けはじめる。
殿も大殿も、もう三好と戦ってくれるなと考えているし、顔にそう書いている。
「不肖このわたくしが岸和田城を攻め落とし、和泉の国を手に入れましょう」
「いかんぞ、九十九」と孫一。
「拙者のことを心配していただきありがとうございます」戦争をやめろといっただけであるが、軽くスルーするのがこの男の持ち味だ。
「ですが、我が身命にかけても岸和田城を落として見せましょう」
現在、岸和田城には、1万の兵が詰めている。
先の攻撃では、三好軍は2万がいたが、3000名以上が戦死、4000名以上が負傷、4000名が逃亡した。
日高、在田国人衆3000名が動員される、彼らは、降伏したばかりであり、どうしてもこき使われる側である。
残りは、九十九隊の5000名である。
他に、輜重隊が続く。
九十九隊の構成は、鉄砲3000人、足軽1800、騎馬200という構成である。
「城攻め三倍の公式はどうなるのですか」と副官の望月。
「そうだな、どうする」と俺。
「殿、策なく動くなどあってはいけませんぞ。
城に1万の兵がいるのであるから、攻め手は最低でも3万を用意する必要がある。
この敵兵の数値は忍びからかなりの頻度で情報が伝えられているのでかなり正確である。
「一万いるが、かなり落ち込んでいるらしいぞ」
鬼十河が討ち取られて、もちろんへこんでいるはず、そのほかにも、三好の部将がかなり討ちとられている。
後退時に山側から、将を狙った狙撃の的になってしまったからである。
財津、荒部、諏訪賀は元猟師であったので、山を登り、適切な場所から将を狙撃していた。
しかも、ギリースーツを作り、着せていたので発見されることはなかった。
発砲時の煙でやっとそこにいることがばれるのである。
しかし、ワンショットワンキルの彼らは、3発撃てばすぐに移動するので再発見は非常に難しいのである。
まさに、スナイパーとして彼らは活躍しているのだった。
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