第28話 紀ノ川の戦い
028 紀ノ川の戦い
天文23年(1554年)
納屋、今井宗久のもとに、その男はいた。
「おう、今井殿、一別以来であるな」
「これは、鈴木様、お待たせしてすいません」笑顔が引きつるほどには、トラウマが残っていた。
俺、鈴木九十九も二十歳になった
「この前はすまなかったな、別に堺を壊したいわけではなかったのだが、シナリオ的にああするしかなくてな」この男の中では、ストーリー上、堺の破壊と商人の首きりは必要な脚色であったらしい。合掌。
「よくわかりませんが」単語の意味といっていることの意味が分からなかったのであろう。
「おお、きになさるな」とても気になるが、聞けばトラウマがもっとひどいことになるであろうことは必定なので、今井は止めた。
「今日来たのはな、これじゃ」
木箱のふたを開ける男。
白い陶器の茶碗があった。
「これは?」
「おお、今井殿は茶の湯の達人と聞く、これは、紅茶を飲む器じゃ」
「高麗ものですか」
「違うな、景徳鎮に近いと思う」
「近いとは?」景徳鎮とは、中国の焼き物で有名な都市の名である。
「おお、これは、うちの信楽刑部がつくった、ボーンチャイナじゃ」
有田で土石を採取し、入れる必要のない、牛骨の粉末も入れて焼き上げてある。
「珍しい形ですな」
「そうであろうな、片手にて飲めるようになっている」いわゆるティーカップである。
「これが?」
「貴殿のつてで、貴族に献上してほしい」
「献上?」
「形は、茶碗ではいけないのでしょうか?」
「できんことはないと思うが、わしは、茶の湯は知らんからな、違う道を行こうと思っただけだ」この男なりに、気をつかった結果らしい。
織田信長が茶器バブルを創出するが、此方は、西洋陶器バブルを創出するために、まずは、貴族の間に広げようと考えたけである。
こうして、紅茶が入れられる。
紅茶自体は、京都の茶葉を発酵させたものである。
そして、付け出し?にクッキーである。
クッキーは小麦粉と甜菜糖の砂糖あるいは蜂蜜で作ったものである。
この時代にはそぐわないものかもしれない。
だが、男はそのようなことを気にかけることはない。
これぞ、アフタヌーンティーであった、時間は昼の3時とこの男なりに時間を合わせてきたのである。
「どうだ、アフタヌーンティーは」どや顔の男は自慢げな笑顔であった。
結局、クッキーの方が反応がよかったのだが、今井自ら、信楽刑部にあっていろいろと茶器のお願いをすることになった。
「いや、アフタヌーンティーでボーンチャイナなんだが・・・」
今井の耳はそんなことを聞いていなかった。
それから、白磁茶碗は今井でプロデュースされて販売されることになった。
クッキーは丹波屋で販売されることになった。
丹波屋が、鈴木の直営店ということは、今井にはばれていた。
・・・・
そんなころ、孝子峠(和歌山と大阪との境界部分にある峠)では、大規模な土木作業が行われている。
そして、それが終われば、峠より北部、和泉日根の各地で奇妙な建造物が建造され始める。
それは、住民達も見たことのない作業であり
穴を掘り、木枠を組み、そこに泥のようなものを流し込むのである。
そして、屋根も同じようなやり方で作っていく。
木枠を外すとなんと灰色の家のようなものができるのであった
しかし、住むためには、狭そうであり、天井も低い、そんな建物をあちこちに作っている、住民は、逆らわなかった、三好の殿様からそのように言われていたからである。
作っている方は、我らが、この地を治めることになったといっていたが・・・。
農民には、そんなことはどうでもよかったのである、しかし、これは戦準備であるとはおもった、もうすぐここに、前の支配者、三好が来るのだろうと思ったのである。
秋、稲の収穫が終わったころ、ついに、岸和田城に、三好軍が集結を開始し始める。
堺に、四国からの援軍も到着し、岸和田に向かう。
まさに、戦雲が湧きあがったのである。
その数およそ2万、「紀伊の田舎者を成敗してくれる、三好の力を示す時ぞ!」
「おおお」
紀州街道を南下していくと、奇妙な建物が目に入る。
地元住民からの情報があった建物である。
それが何かはしらなかったが、三好軍先鋒部隊の篠原何某は気にしなかった。
距離が30間(50m)に近づいたとき、バンと轟音が響き、篠原何某は、馬から
建物の小さな穴から煙が出ていた。
それを合図に次々と発砲音がする。
何人かが、建物に走りよるが別の建物から発砲される。
混乱しながらも、建物にとりついた兵士が建物をやりでたたくが石のように硬かった。
その兵士も別の建物から狙い撃たれた。
いわゆるトーチカである。
「なんじゃあれは」すでに数十名が死亡していた。
「硬いです、槍では通りません」
「一斉にかかれ、穴の中に槍を突き刺せ」
「おおお」三好軍の足軽たちが一斉に走ってトーチカにとりつく。
その間も、銃声は連続するが、さすがに数が違う、穴の中へ、槍をつきこむ。
しかし、手ごたえはない、何度も何度も突き刺す。
トーチカの隅には、退避する穴が作ってあり、このような場合はそこに退避しているのであった。
四方八方に穴が開いているので各方向から槍が付きこまれる
勇気のある兵士が穴からのぞき込むとドーンと発砲があり、顔に穴が開いた。
「鉄砲を打ち込め」
三好も今井から購入した銃を持っていた。
その銃を、トーチカに差し込み発砲する。
「やったか」
もちろんわからない、穴の中をのぞく勇気はなかった。
トーチカには小さい扉がついている。
「これを破れ!」
鉄の扉はなかなかに硬い。
鉄斧が折れて砕ける。
潜水艦のように丸いハッチになっていた。
結局、軍が通過するまで、槍攻撃や銃撃を継続するしかなかった。
なかの兵士は厚さ1センチの鋼板により守れられ生きていた。
扉を破壊された場合は、自爆用の火薬樽が用意されていたのだが。
彼らは決死隊であった。
そのような陣地がしばらく行くとまた出てくるであった。
討伐隊の指揮をとる
戦術、戦法があまりに異形であった。
トーチカにたどり着くまでに確実に何名かは、撃ち倒された。
そして、通過するまでは、槍を突き刺した状態を保つ必要があった。
最後の陣地はもう、射程外を迂回して進んだ。
時間と人の無駄である、幸いにして、トーチカの数はそれほど多いわけではない。
孝子峠に侵入した三好軍だったが、今度は、山道のわきから、矢石の襲撃が
伊賀、甲賀の忍びの多くが、紀伊の国に移住しており、彼らは、この戦いに参加している。
この時代の最も安上りな戦法は印地打ち(石の投てき)である。
しかし、この技術を磨いている忍びの印地を喰らえばただでは済まない。
反撃をしようにも敵はすぐにいなくなった。
山中に踏み入れば、罠のオンパレードでさんざんな目にあった部隊もでてしまった。
峠の山頂にたどり着くまでに、すでに1000名以上の死傷者を出していた。
そして、山頂部には、いかにも堅牢な砦が作られていたのである。
コンクリートと木材を組み合わせたものであった。
「突撃!」「おおおおお」
もちろん、ほかに戦術などはない。
「撃ち~方はじめ!」
砦から一斉射撃が展開される。
砦から1丁(約100m)の距離に軽く堀が掘られている。
彼ら(鈴木兵)は、その距離をキルゾーンとしっており、その線を踏み越えた敵に発砲するように訓練されている。
この時代鉄砲は一斉射による面制圧が主力攻撃法であったが、彼らは自由射撃でもまったく問題ない、正確な射撃が期待できるからである。腕もよく、銃の性能も良かったからである。
「矢盾を担いで突撃せよ」「おおおお」すでに三回の突撃が行われたが、結果は
「よーし、効果ありだぞ、破城槌の前に、盾を並べて突撃せよ」
「九十九、本当に、あの将軍を撃たなくていいのか?」そういうのは、霜であった。
「ああ、今回は作戦上、ここは突破してもらう」櫓から見下ろしながら、会話する俺と霜。
霜は熊取の国人の子息である、昔からの付き合いになる。
肉食を進めて、みな大きくなったが霜だけは、あまり大きくならなかった。
顔つきは、公家顔(うりざね顔で色白である)。
射程300m以内に十河一存は入っている。
彼らの世界では、銃の射程は50m~100mである。
もちろん、火縄銃の世界では常識の範疇である。
しかし、彼らは後送式ライフルを持っていた。薬莢式の弾を込めた。
その晩、雑賀軍が砦を放棄した。
次の朝、峠に勝どきが上がる。
「えいえいおー」「えいえいおー」
「よーし、敵は逃げたぞ、あとは追い詰めて、みなごろしだ!」十河一存は意気を上げる。
「おおおおお~」
峠を
別動隊が峠から西に別れて、平井を攻撃する手はずになっている、細いがそのような道もあったのである。
紀ノ川の南岸には、雑賀の鉄砲隊が陣取る。
これは、和歌山の町を守るための孫一隊2000であった。
渡河する部隊に攻撃を仕掛けるために布陣している。
一方、本拠地平井の全面には、九十九隊5000が布陣していた。
馬防柵も逆茂木もすでに配置を完了している。
「敵は、平井方面の敵5000だ、これを撃破し、対岸の2000に攻撃を仕掛ける、兄上は、対岸の部隊の警戒をしてもらいたい」十河一存は兄、実休に言った。
「敵の鉄砲は強力だぞ、堺での生き残りがそのように証言している」
「兄上、鉄砲は強力ですが、二発目の発射までに時間がかかる、射程も半町、一発目を耐えれば、何とかなります」
十河一存は、堺の今井から鉄砲についてよく聞いていたのである。
「一万で総突撃し、敵陣を砕きます」
さすが鬼十河と恐れられた猛将であった。
「わかった、しかし、先陣は切るなよ、お前が撃たれれば、総崩れになる」
「わかりました、兄上、敵の小僧の首を持ってきます」
「うむ」
畿内の覇者三好を
三好実休はそう考えていた。十河一存もそう考えていた。
しかし、なぜ敵は有利な砦を放棄したのか、実休の心に一抹の不安がよぎった。
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