第26話 堺

026 堺


堺はこの戦国時代において、経済力により、自治を勝ち取っていた。

周囲を掘りで囲み、土塀などを作り、傭兵を雇い、武装中立であり、経済力を使い、気に入らない大名には、物資を融通しないなど大きな影響力を持っていた。

機嫌を損ねると、まずい相手というべきである代物しろものとなっていた。


今その街を、鈴木九十九隊が半包囲を行っている。

また、堀から、2丁(200m)のところで土木作業を行っている。

彼らの体格はこの時代の平均を大きく凌駕している、力も強いので土木作業にも向いている。

彼らの使うスコップは、スウェーデン鋼製である。スコップで戦う事もできる!

兵士の訓練には、このスコップで敵と戦闘する教練すらある。


「作業をやめよ、貴公ら何をしている」堺から傭兵に囲まれた商人がやってきた。

「無礼」と言いかけた者を俺は押しとどめた。

「使者ご苦労、我は、紀伊の鈴木家が家臣、鈴木九十九重當しげとうである。

先日、用向きは書状にてお知らせした、越後屋一党を逮捕、賠償として、財産を没収するために、出向いて参った、直ちに、お引渡し願いたい」


「なんという無体な、それに紀伊には、鈴木などという大名などございません。」

「ご返事如何いかんでは、一戦まじえることになりましょうぞ」

「しばし、お待ちくだされ」

「明日になれば、此方は勝手にやらせてもらうので、ご随意ずいいに」

「なんという」傲慢という言葉を飲み込んで、使者は帰ってゆく。


土木作業が終わると、ご飯である。

夜が更けてゆく。

岸和田城に国人の一部を残してきたので、兵は2500名となっていた。


・・・・

「聞け!刻限は過ぎた、わしはここに宣言する」

夜明けとともに、俺の大音声が響き渡る、漆塗りメガホンを使っているがな。

「貴様らは、わしの願いも聞き入れず、かつまたこの後に及んで歯向かうという、もはや許し難し、!今ここに、怨敵おんてきどもをみな討ち取らんとするところを!」両手を天に向かって広げ大げさに絶叫する男。

聞いている方にすれば、まったくの難癖であり、言いがかりも甚だしいところである。

「貴様らは今晩、神罰を受けることになろうぞ」


堺側の兵力は堺の傭兵250と岸和田城から逃げた500名である。

もちろん兵力に劣る堺側の作戦は籠城ろうじょうである。

攻める側は、何も動かない。


「勝手に文句を言っておる、鈴木よ、今三好様の援軍がこちらに向かっておる、しっぽを巻いて逃げるがよい」堀、塀の向こうにある物見櫓からこちらを挑発する男が現れた。

もちろん、堺であるから鉄砲が相当数ある、此方が近づけば、一斉射撃に会うことは必定である。

「霜」

「私が」それは、今まで出番のなかった、竜童未来(りゅうどうみら)であった。

彼女は、白人、金髪碧眼の4.5尺(170cm)の大きな美女であった。

側室として、俺の子供を産み、今この戦場にいる、鉄砲の達人である。

後送式ボルトアクションライフルを革ケースから取り出している。

「いや奥さん」と俺。

「お嬢様」と財津が止める。


「そもそも、紀伊のいな!」田舎ものという予定だったのだろう男は顔半分を失い櫓の下へ落ちていった。


このライフルは、金属薬莢を使っているため、有効射程は300mである。

零点規正はすでに終わっていたようだ。


百地丹波は九十九の声聞きながら、丹波屋の座敷で座っていた。

すでに、任務の準備は完了している。

任務は、なんか所かに仕掛けた樽爆弾に夜、火をつけることである。

至って簡単な任務である。


夜まで、攻勢はなかった、九十九側が仕掛けねば戦いは起こらないのである。

しかし、夜、もちろん不吉な言動があったのであるから、堺側はあちこちにかがり火をたき警戒を厳重にしている。

しかし、町中すべてを見張っているわけでもないので見張れないところがある、そもそも、堀や塀の外を見張っていたのである。


数m遠くの陰から走ってくる導火線の火などわかるはずもなかった。

もちろん、忍びが気配を悟られるわけもない。


草木は眠っても、堺兵の半分は起きていた丑三うしみつ時である。

突如、轟音と火柱が各所で発生した。

その中には、傭兵の宿舎も含まれていた。


壁と櫓が吹き飛ばされ、門が弾き飛ばされる。


ドドッドドドド!

それを待っていたかのような一斉射撃。

「おおおおお」在田、日高の国人たちの軍が突撃を開始する。

塀の上の兵が何とか、反撃を試みようと弓をつがえたとその時、第2斉射が襲う。


阿鼻叫喚の巷とかした堺の町。

「誰だ、略奪は禁止だといったであろうが」俺は、町娘を襲っている、足軽を引きはがして、胴切りにする。


「静まれ!」商店から何かもって出てきた足軽の顔を突き刺す。

「逆らうものは、みな殺せ!」

夜が明けて、徐々に被害がわかってくる。

やはり、在田、日高国人の兵が乱暴狼藉らんぼうろうぜきを働いていたものがいたようである。

傭兵たちは、北の門から逃げており、有力な商人も同じである。


「会合衆を集めよ!」

「越後屋はどうした」

「は、馬回り衆が押さえております」


この時代の戦争では、給料を払わない代わりに、敵地で強盗略奪をしてもよいことになっている。いわゆる乱暴狼藉というのはこのことである。


しかし、鈴木家では、特にわが部隊ではそれを認めていない、違反した者は、死刑である。

戦に参加した国人衆には、此方が本気で言っていることが通じていなかったのであろう。


逃げずにいた会合衆が会合所に集められる。

「ご無体な、何ということを」商人はおろおろとしている。

口口に、文句を言っている。

此方が何も言わないので、だんだんと強気が戻ってきたのであろう。

「三好様が許してくれませんぞ」

バン!俺が一歩踏み出した音である。

商人の首が飛び血が噴き出る。


「黙って聞いて居れば図にのりおって、こいつの家財もすべて没収せよ」

「は」


「儂は、貴様らに言ったはずである、越後屋の逮捕財産没収並びに、この堺が謝罪として矢銭、2満貫を差し出すようにと」

「矢銭!」

ぎろりと俺がにらむとその商人は真っ青になって口をつぐんだ。

「直ちに、逮捕すれば、それで済んだが、今はもはや戦後処理の時間である、お前たちすべての財産を没収することもやぶさかではない、命を収めるか矢銭を収めるか、直ちに決めよ!」

「しばし、お時間を」

商人たちは固まって話し合いをしているところに「越後屋一党をとらえました」と伝令が来る。


「うむご苦労、ちとわしは抜けるが、すでに、この堺からは出られぬ、逃げられぬので気を付けられよ」と脅迫しておく。


攻撃が成功すれば(もちろん成功する)北門から逃げるものが出るのはわかっていたので、北側には、兵が配置されていた。

敵兵は軽く攻撃し、逃がし、商人たちをすべて拘束していたのである。

全員が縄を打たれ、広場に引き据えられている。

俺は、真ん前の床几に座る。

越後屋が憎らしいという表情で顔を上げるが、頭をつかまれているのでそれ以上上げることができない。

「儂は、約束を破ったのは、貴様であると思っている、これ以上の争いは無意味である」

「そこで、争いを終わらすため、貴様ら越後屋一党はすべて、逮捕連行し、我が領下で労役刑とする、財産はすべて没収する、以上、引っ立てよ」


「待て待ってくれ」「うるさい」兵が顔を押さえつける。

越後屋の一党子女に及ぶ全員が連行されていく。


・・・・・

「審判は降った、それで返事はどうか」

血の海を避けながら、入っていく俺。

死体はかたづけられていたが、血の海は残っていた、天井からも、血がぽたぽたと落ちてくる。吹き上がった血潮が、天井を濡らしたのだ。

「ちなみに、先ほど死んだ男は誰だ」

皆が、お前が殺しておいて言うなという表情なのは仕方がないのか。

「越前屋様です、越後屋様の親戚になります」

「そうか、それはよかった、無実の人間を切り捨てたとあっては、八咫烏大神に顔向けできんようになるところであった。越後屋一党は全員連座で逮捕したが、越前屋の一党はどうしたものか」

「お慈悲をいただけますように」今井宗久であった。

「納屋殿がそういうなら致し方ない、しかし、財産は没収する、残された家族にも少しは分けてやろう」

「そこで、ご相談ですが、越前屋様の財産を没収されるならば、我々の二万貫から引いていただけないでしょうか」

「今井殿、私たちは、いい商売をしてきたが、それとこれとは別だ」

「我ら堺衆は・・・」今井の顔色は良くない。


「・・・まあ、今回は今井殿の顔立てよう」

今度は今井の首が飛ぶことを覚悟したものが何人かいたが、その緊張が解けた。

「堺はこれからも、紀伊の鈴木を助けてくだされ」俺が頭を下げる。

「もったいなきお言葉」商人たちは頭を床に擦り付ける。


この後、何人かの商人はトラウマになり、息子に跡を譲って引退したという。






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