第25話 宗教勢力
025 宗教勢力
鈴木家には浄土真宗の信者が多かったが、俺の方針転換の呼びかけで、神道なっていた。
八咫烏神を祭る、これは、ゆくゆく起こる一向一揆に巻き込まれることを防ぐためでもある。
いずれ、鷺ノ森別院に本願寺がやってくることが予想される。
いちいち、それにかかわっている暇はないのである。
根来寺は杉の坊をもつ津田監物を言いくるめ、とにかく、武装兵の減少と武装中立を約束させる。
そして、根来寺の紀伊での所領は2万石と定めることに成功する。
紀州征伐の原因は、いちいち、根来衆や雑賀衆が畿内方面に傭兵などとして出兵しているからであった。
根来寺は、和泉、河内に所領があるため、頻繁に出陣している。
高野山が現在残っているのは、紀州征伐時に降伏して、寺の宝を差し出したからである。
根来寺は焼き尽くされている。
根来寺は、漆器と鉄砲を生産し、大人しく静かに繁栄していればよいのである。
ただし、このころは
其れゆえに、調子に乗りすぎると、比叡山焼き討ちのようなことが起こるのである。
相手を見て、強訴しないと焼け落ちるのである。
そこのところをしっかりと、津田監物にさとし、問題があれば、雑賀が力を見せる風にすれば、根来寺は目立たなくなることを説明した。
かくして、根来、粉河、高野山は武装中立、しかも、兵力は必要最小限とする。
所領は2万、1万、2万石を周辺にとること、それ以外のものは、戦国大名の鈴木に譲渡することになった。
八咫烏が夢枕を飛び回った成果が出たのであろう。
そして、守護畠山の一族が討たれたことが大きく影響したに違いない。
あまり語られることのない戦争であったが、圧倒的な破壊力で畠山を破ったことは、伝わっていた。そして、新兵器種子島の威力も。
かくして、紀ノ川沿いの中立的宗教都市群が完成し、紀伊は完全に鈴木孫一の領国となった。
余剰兵力の僧兵は、鈴木家の兵となることがきまった。
天文21年(1552年)
この年、鈴木家では、国内の統治に力を注ぐ。
領国の孤児をすべて集める。
そして、苗代、正条植えを教え、鉄製農具を安く売ってやり、千歯こき、唐箕などの貸し出し、水車の建設で、制圧した国人たちを手なずけていった。
直轄領では、芋の栽培を行い、食料不足のところには、食料を融資する。
余力のあるところには、綿花の栽培を指導し、女性には、機織りを推奨し、蚕の栽培を寺社勢力に依頼した。そして、僧兵を勇猛な兵とすべく徹底的な練兵を推し進めたのであった。
天文22年(1553年)
「貴様らは、兵士として十分の訓練を経てきた、今こそ、その力を示すときが来た。私怨ではあるが、堺の越後屋はいまだのうのうと、生きている。
鉄槌を下すべき時が来たのである。我が妻を売り渡そうとし、あまつさえ、金を支払ったにもかかわらず、襲わせるなどと人にあるまじき言語同断の悪行である、貴様らの力を私に貸してくれ!」
「おお!」
「越後屋に神の裁きを与えん!」
「おお!」「九十九様のために!」
「和泉国の守護、畠山氏は、我らに戦をしかけた、和泉国も同時に攻め取る好機は今ぞ」
「おおお!九十九様のために」
「お待ちください、殿」
「なんだ、望月」
「和泉国の守護は、畠山ではなく細川家です、畠山領国は河内国でございます」
「今、また難題が生まれた、しかし、我らは、神の使徒である、恐れることはない。堺の町を攻撃する」
「おおおおお!」兵たちの勢いは沖天に達するかのようだった。
平井、九十九屋敷
「殿、軍を行軍させれば、いらぬ
「そうか、では、大和を攻めるか」
「なぜ?」
「筒井の主が死んで、子供が後を継いだであろう、攻め時ではないか?」
「殿、なぜそのような情報を、しかし、それでは、興福寺が黙っていません」
「そうじゃ、筒井はもともと、興福寺の武装勢力であるのだったな」
「新次郎はどうか、柳生は筒井に負けてから臣従しているのであろう」
「父が仕えておりますが・・・」
「しかし、なぜ戦を?」
「平和であればよいが、いずれ戦う必要があるのだから、弱いうちにというのではだめか」
円座に座る家臣?達はいつもの思い付きで戦争もするのか?という顔である。
「よし、堺に使者を送り、越後屋の逮捕、私財没収を行うように命令を出せ、同時に、三好氏に堺までの兵の通過の許可をもらうように使者を送れ」
「いかんぞ」と屋敷にやってきた孫一が開口一番にいう。
「兄やんか、しかし、これについては、好きにさせてもらうで」
「主人のいうことを聞かん家臣はおったらあかんやろ」
「そうです、それに三好家は強いですからな」
「まあ、ええけどな」と孫一。
「ええんか~い」
もちろん、出兵の準備が開始される。
三好からはもちろん軍の通過は認めないと返事がはっきりと来た。
彼らは、細川家、足利将軍家との争いで手一杯である。
堺からは逮捕の件等はお断り申し上げるという丁寧な拒否である。
「殿、どうされますか」
「もちろん、想定通りである、作戦計画通り出兵する」
紀伊と和泉の境の孝子峠を越えて、和泉国に侵入する、鈴木九十九の軍は3000である。
基本は、鉄砲隊である。
騎馬隊が50騎である。
馬は明(中国)から輸入したものを越前から陸送してきたものを繁殖させている。
馬(いわゆる、大宛の名馬の子孫になるらしい)の世話に力を発揮したのが、甲賀の諏訪賀一族であった。諏訪賀家は、馬の扱いにたけた者がおおかった。
武器、食料の輸送は、牛と驢馬が担う、のちの自動車化師団の先駆けを目指したものであるが、機械ではないし、歩兵も乗るものがない。
兵力3000であるが、それ以外は工兵(船大工)等500が付き従う。
紀州街道を北へと、どんどん進んでいく。
すると、いったいの騎馬隊が走ってくる。
「待てい、貴公らはいかなる家のものか」と騎馬武者が
「我らは、鈴木九十九様の軍である、堺の悪徳商人を征伐に参る途中でござる」
「通過は許されぬ、帰られよ」
「九十九様の意志を曲げるつもりか、無礼なるぞ」返答していた者の返しがおかしい。
「我ら三好に仕掛けるつもりか、今なら不問に付すというておろうが」騎馬武者も怒って返す。
「三好など知らぬ、我らは九十九様にお仕えするのみ、さあ、道を開けられよ」
「これ以上は
「神罰が下るぞ」
「・・・・」武者がにらみ返す、この宗教狂いがと目が言っている。
俺も遠くで聞いていて、おかしいと思ったのだから、そのとおりかもしれない。
望月が「あのものは、おそらく孤児です、殿に深く御恩を感じているのでございましょう」
いろいろと突っ込みたいところであるが、此方は予想通りの展開なので、文句は言えまい。
岸和田城は、
しかし、通過すれば、後ろから攻撃してくることは明らかである。
城の手前2丁(200m)のところにまた堀を掘り始める。
九十九軍の兵は、スコップを使いこなして一人前となるのだ!
自分のたこつぼを掘る訓練は一番こなす、もちろんこの時代の戦術ではないがな。
工兵(船大工)が簡易の馬防柵や
土木作業を始めた我々に焦ったのか、城内から一軍が攻めてくる。
「撃ち方用意」軍の指揮は戸次鑑連(べっき あきつら)である。
作業員以外に兵がいるのだから当然である。
「撃て」采配を振る戸次。
ドドドド~ン、鉄砲が火を噴く。
槍を構えて突撃してくる兵士たちはたちまち、貫かれて倒れる。
「進め!」敵将は、鉄砲の弱点を知っていたのかもしれない。
次の発砲までは時間がかかることを。
「撃て!」
ドドッドド~ン。
第2斉射はすぐに起こる、もちろん雑賀撃ちである、後ろの人間が射手に次の鉄砲を渡すだけの時間で済むのだ。
バタバタと倒れる敵兵士達。
進軍を命令した指揮官の顔が驚きにゆがむ。
その顔に穴が開く。
此方の中には、射程300mの後送式のボルトアクションライフルが数丁紛れていた。
その中の一丁が彼を黄泉に送ったのであろう。
「退け~」敵は城内に後退していった。
簡易の土木作業がおわり、兵たちは、食事である。
城からは2度と出撃はなかった。
矢を撃ったり、鉄砲を撃ったりしたが、距離が離れているのであまり意味がない。
その夜、岸和田城に火の手が上がる。
もちろん、忍びこんでいる忍者が火をつけて回ったのである。
「突撃!」
それを合図に戸次が采配をふるう。
「おおおお」突撃するのは、在田、日高の新しく家臣に加わったものたちである。
岸和田城は、その夜陥落した、落ち延びた敵は、摂津方面に逃走したが、もちろん逃げ道を開けておいてあげたのである。
「勝どきを上げよ」
「えいえいおー」「えいえいおー」
岸和田城を占領し、物資等を
次の日は、馬防柵などを撤収するのに費やし、その次の日に出発する。
・・・・・
春の季節が良くなるこのころ、堺には不吉な知らせが聞こえてくる。
岸和田城が陥落したとのことであった。
堺商人今井宗久は空を見上げた。
堺の街中に、三好の兵が逃げ延びてきている。
「鈴木はん、また無茶やりなさる」
三好氏は畿内の覇者である、さらに、その勢力は四国から援助を受けることができるのである。
大戦の予感漂う、春の日の昼下がりであった。
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