第24話 寺子屋のち大学

024 寺子屋のち大学


吐前で熱く論戦を繰り広げていた俺たちだが、結局結論は出なかった。

しかし、現在の根来僧兵の数が過剰なことは明らかであったので、津田監物が雑賀の将になることを条件に僧兵2000が鉄砲隊として、転籍することになった。


それと、根来塗の振興により商業の振興を行うことになった。

また、鉄砲鍛冶の雑賀への移転が推進されることになった。

戦国大名に狙われる条件を少しでも少なくするべきという意見をんでのことである。


平井には、親なし子が集められていた、これは、雑賀5箇荘を併合するときに、そのような子供達を集めたのである。


そこでは、食と教育を授けられる。

一見、福祉政策に見えるこの組織であるが、実は違った。

「君たちは、鈴木家のおかげで生きることができる、鈴木家に感謝して、勉強するように、感謝して、働くように」

「八咫烏大神をあがめなさい」

実をいうと洗脳するための施設でもある。

鈴木家の兵を造兵する施設であったのである。

『寺子屋』と呼ばれるこの施設であったが、後の時代の寺子屋とは性質がまったく違う。

寺子屋の教師役は伊賀や甲賀から来た忍びであり、勉学と武術、忍術などまさに戦士養成所の側面を持っている(まさに戦士養成所そのままだろ!)。


武術の面では、剣術は中条流、槍術は宝蔵院流、しかも鉄砲の扱いこれは、雑賀流と呼べるかもしれないを学ぶのである。

これだけの教育を授けるのであるから、裏切られるととても面倒な敵になるので、思想教育も徹底的にのである。


その寺子屋に、今回、畠山氏との戦いで孤児になった子供たちと、人質として連れてこられた跡継ぎ達(次代の国人領主)が編入された。


これは、ある程度仕方がないことである、いちいち反逆されてはかなわないので措置であると言っておく。


だが、一つ大きな間違いがあることに俺は気づいていなかった。


伊賀・甲賀の教師役は、貧しいところから救ってくれた男、鈴木九十九をとても崇拝すうはいしていたのである。

「鈴木家のために」はいつの間にか「鈴木九十九様のために」という内容にすり替わっていたのである。


そして、各地から連れてこられた赤子達も、平井の屋敷で英才教育を受けながら育てられていくことになる。


「ところで、九十九、寺子屋の子供たちはみな優秀であると聞く」

「はい、みな優秀に育っていると聞きます、なんといっても、子供のころから食育は大事なのです、たくさん食べて、大きくならないといけません。そして、脳が発達するこの時期に勉学をすることは非常に大事なのです、大人になってからでは、習っても覚えられないのです」

「そうなのか、さすが九十九だな、してたのにな」

人格そのものが入れ替わったので仕方がない。


「でだ、その評判の良い寺子屋に、家臣の子供らも入れてほしいというものが多いのだ」

「それは、結構ですが・・・」後遺症はきついですよとも言いづらい。

思想教育が激しいのでとも言いづらい。

孫一はそんなことは知らないのである、おそらく説明してもわかるまい。


「では、予算をいただいて、学校をつくりましょう」忠誠心の高い家臣は問題ないだろうという判断である。

「がっこう?」

「はい、学校です、名前は『学習館』ということにしましょう」徳川時代に紀州藩(和歌山)で作られた藩校の名である。


「よし、九十九任せたぞ」と孫一。

孫一は、難しいことはなんでも、俺に投げる癖がついてしまった。悪い子になってしまった。

「わかりました」

こうして、藩校?『学習館』が創立されることになる。

ただし、予算化はしたが、作るのは此方も船大工の統領に丸なげ、教師の配置も望月氏に丸投げである。俺も丸投げする癖がついてしまったようだ。悪い九十九になってしまったようだ。


こうして、「鈴木家でなく鈴木九十九様のために仕えるのです」がメインテーマの学校が走り始めるのであった。



・・・・

「師匠、どうですか?かなり勝手に酒を盗んで飲んでいるそうですが」

中ノ島(和歌山市の地名)という場所でいい水が出るとのことで、そこに酒蔵を作ったので、今、俺は中ノ島にいる。

「なんのことだ」師匠こと宝蔵院胤栄である。

「別に盗み飲みは良いんですが、肝の臓腑がやられるので程々にお願いします」

」絶対にわのいう言葉である。


「それで、今日来たのは、次の酒に取り掛かりたいと思いまして、人員などのこともありますので、相談に来ました」

「なんだと!」

現在、清酒は堺にて大好評発売中である。

堺の「丹波屋」のヒット商品の一つである。

「私は、今の酒もよいと思いますが、とにかく金が要りますので、次の商品を開発したいと思っています。幸いにも、在田、日高を勢力下に置くことができましたので、そちらでも、酒の製造をしたいと思っています」

「すみ酒の新銘柄ということか」師匠はガッカリしている。

「すみ酒もそうですが、まったく作り方の違うものを考えています」

「それよ!それ!」

「ちなみに宝蔵院は大丈夫なのですか?」

院主が長期に不在なのはどうなのか?と思う俺、側用人が永らく側にいないのも問題であろうがな。


「心配無用じゃ」それがとても心配なのですともいえず。

こうして、焼酎についての話を進めていく。

もちろん、実務は、興福寺からきた職人に聞いてもらっている。師匠に聞いてもらっても、また説明することになるからだ。

サツマイモとジャガイモのでんぷんをアルコール発酵させて作る計画である。

サツマイモとジャガイモの力はすさまじく、これにより領内の食料不足は完全に駆逐された。


「よし、伝兵衛よ、その焼酎とやらをつくるのだ」

「はい、胤栄様」職人の名は伝兵衛というらしい。

「ちなみに、焼酎の次もあるので、頑張ってください」

「なんだと、そんなことが!」胤栄は錯乱状態に陥る。頭の中がお祭り騒ぎになっている。


「ですから師匠、健康が大事なのです、肝の臓がやられていては飲めませんぞ」

「わかった、精進する」

「ということで、また興福寺方面から人員の手配をお願いします」

「うむ、宝蔵院の別院を立てるか」

不穏なことを言い始める師匠が発生したので、退散することにした。


次に訪れたのは、鉄砲鍛冶場である。

猛烈な熱気が押し寄せる、やはり暑い暑いぞ!

「おお、九十九よ、珍しいな、しかし、その体たらくでは腕が鈍っておろう」芝辻が出迎えてくれる。

「はい、師匠、しかし、いろいろと忙しいのでなかなか」

「わかっておる、だからわしがおるのじゃ、心配するな、又左衛門も頑張っておるからな」

これは、堺で拉致された橘屋のことである。

「ところで師匠、ですか」とオヤジギャグである。

「うむ、内緒だがかなり儲かっているぞ、銅で儲かるのはかと思うが」さらりとオヤジギャグで返される。

「師匠、そこで次のミッションです」

「なんだ、みしよ?」

「はい、青銅はご存じかと思いますが」

「もちろんじゃ」

「その青銅で大砲を作ってほしいのです」


完成予想図兼設計図を渡す。

絶対にといわれるのはわかっていたので、望月氏に頼んで書いてもらった。

「これは、鋳造か」

「そうです、本来は鉄で作りたいのですが、冶金技術が未発達な現在では無理でしょう、ですが、青銅ならできるはずです」と俺。

「しかしまあ、お前なんでこんなことばかり思いつくんや?」

それは、帝国軍人の知識があるからです。

「八咫烏様のお告げです」

面倒くさいので、そこはすべてである。

灰吹き法で金銀を抽出した後の銅の有効利用の一環である。

あとは、真鍮しんちゅう薬莢やっきょうにも使用している。

銅は戦争に必需の金属なのである。


・・・・

農業方面の施策は、農民の代表たる太田左近が取りしきっている。

彼は、かなりできる男であった。

「太田殿、今度は綿花の栽培をお願いしたい」

「九十九殿、さすがに無理でござる」太田は青い顔をしている。

「そうですか、しかし、綿花栽培はとても重要なのです」

種は今井から得ていた。まだ、蚕の養殖、藍染め、麻の栽培等、農業ではやることは山積みなのである。

「甜菜の栽培もあるし、米の品種改良もあります、確か小麦生産も行えといわれているような、シイタケ栽培もおこなっているのですが」椎茸栽培は忍びが行っている。


確かにそんなこともお願いしたかもな。

「わかりました、農業大学を作りましょう、太田殿はその学長をするというのでどうでしょうか、太田(だいがくのかみ)なかなか、良い響きではございませんか」

「何を言っておられる」

「早速予算化しましょう、太田殿は才能のありそうなものを集めてくだされ、場所は、在田にしましょう」

こうして、農業大学、後に『太田大学』と呼ばれる農業学校が組織され、在田に設立される、農業、機織り、染色がそこで研究されることになっていくのである。


着々とこの時代を蚕食さんしょくする虫のような男であった。

そうだ、絹も作らねば!

太田にまた一つミッションが発生した瞬間だった。

もちろん、蚕の養殖は絹のためである。火薬製造はその副産物にしか過ぎない。



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