第23話 岩室城攻略

023 岩室城攻略


「湯浅の醤油屋でございます、味噌と醤油をもってまいりました」

「現在は、いくさ中につきお前たちのために、門を開けることはできん、荷車ごとおいて行け」なじみの業者であっても、門を入れてくれぬらしい。


醤油屋は、「しかし、荷車は欲しいので、樽をここに置かせてもらいます」

日頃はなんでもはいはいと聞く業者だったが今日は、聞かなかった。

樽六つを器用に三角に積み上げる

「おい、なんの嫌がらせだ」門の端に積み上げられた醤油樽だった。

「お題を」

「つけだろうが」

「そうでした、では」

商人たちが去っていく。


門番はその商人を何度もみて知っているので怪しいとは思わなかった。

門番は面倒なのでそれはとりあえずほおっておくことにした。

もうすぐ、戦が起こるので、見張りが大事だからである。

しかし、門番の予想は間違っており、今日この日に戦いは勃発していたのである。


それから四半時(30分)が過ぎたとき、大爆発が発生した。

門番4名と大門が爆発で吹き飛んでしまった。

樽に仕込まれた火薬が爆発を起こしたのであるが、そのことを誰もが予想できなかった。

目撃者の門番も爆死してしまっていた。


「大殿が、大殿が!」

その時早馬が駆け込んできたのであった。


鈴木九十九隊の後ろには、孫一本体が備えていた。


九十九隊には手を貸さぬが、雑賀荘に攻め込んでくるならば、迎撃する必要があると説明される、はずだった部隊である。

その部隊が峠より10km程度後方にいたのである。


しかし、今現在、畠山軍は大崩れであり、これを機に在田平定に向けて進撃することになる。


有田川河口のはじかみ川にあった物資集積所は、雑賀海兵隊が占領した。

残念ながら、鉄砲隊は足軽より進軍速度は遅い。


「九十九よくやってくれた」と孫一。

「兄やん、次は岩室城攻略や、たぶん大丈夫やと思うけどな」と俺。


孫一本体1500が有田川に沿って東進する、まさに畠山軍の来た道を進んでいる。

鰈川の戦いで戦死した兵はせいぜい500であったが、精神的ショックが強すぎたし、主将がやられた場合は逃げるのが普通のこの時代なので、みなは必至で逃げていくのである。

そう思っていたが、3000の内500戦死というのは相当高い死亡率であることをこの男はわかっていなかった。戦では、そんなに多数が一辺に死ぬことはないのだ。


畠山氏の直臣らは、岩室城に逃げ込み迎撃する算段を考えていたが、城に何とかたどり着いた時、ショックで気を失いそうになる。

城門と周辺の石垣が完全に砕けていたのである。

その惨状に、数日前の戦場の悪夢を思い出し、力が抜けて座り込むものが続出してしまった。


数刻後には、鈴木家の本体とみられる部隊が山城を包囲し始める。


一人の武者が歩いてやってくる。

「降伏勧告に参った、降伏せよ」

それは、峠で最初に一騎打ちをした男だった。

「鬼が、鬼がきた」


「失礼な、死神と呼ばんか」男は聞き耳をたてながらつぶやいた。


城の兵らはみな心を折られていた。

雑賀の一騎打ち衆はみな鬼神のような戦いぶりだった。

そして、鉄砲はまさに雨あられの暴風だった。

このような者らと誰が戦いたいというのか。


紀伊畠山氏は降伏した、在田地区の国人らも、領土の半分の安堵と跡継ぎの子供を雑賀に預けることを条件に降伏した。

日高地方も同様の条件で多くの国人が降伏した。


こうして、紀伊のほとんどが鈴木家によってその領土と化したのである。

鈴木家は、紀伊国で20万石を得たことになる。

雑賀が、和歌山市周辺と有田、日高を占領し、堀内氏が田辺、新宮を占領している状況となる、堀内氏は、八咫烏の神託により、雑賀に与力する約束となっている。


この在田地方の総括を俺が拝命したというか、もらった、うちには、秘密が多いため、他国に近い平井でやるには、問題が多いので、この敵のなくなった?地方に移す方が都合がよいのである。


そして、在田といえばミカン栽培である。

新品種の苗は平井で栽培していたので、早速、この地の適地、日当たりよく、水はけがよく、やせた畑に植えようと思う。

しかし、苗で植えるとなかなか増えることはないので、手っとりばやく、接ぎ木を行うのである、これにより、急速に増やすことが可能である。

苗木から芽のついた枝をどんどん切り取り、台木に継いでいく。

数年後には、すべて新品種に代わるだろう、接ぎ木のやり方を農民に教え普及させる。

ただし、収穫はすべて買い取りだがな。


破壊された岩室城の石垣はコンクリートで再構築し、大門は新しく作り直した。

別に、ここで戦争をするつもりがないが、門くらいないとまずいだろう。


在田、日高の農地改革は、太田左近が主管して行われる、逆らえば、鬼が来るといわれると、みな大人しくなったらしい。

領地をむしり取った分は増収させてやる必要がある。

そして何よりも、増収せねばならない。家臣や家族(買い取ってきた赤子)を養うためであった。


そうこうしていると、土橋守重がやってきた。

「今日は何用ですか」

紀伊平井である。

「此度、土橋は、鈴木の傘下に入る」

「そうですか」

「して、臣従するからには、わしらにもあの銃を回してくれるよな」

「そういうことですか」

なぜ、俺にとも思うが、銃の製造はこちらが握っていることは知られているので仕方ないのかもしれない。

「土橋様も根来で作っているのでしょう?」

「明らかに性能が違うらしいではないか」

「まあ、そうなんですが、もうそんなことまで知られているんですか」

「孫一が自慢していた」

あのバカが!


「ところで、話は変わりますが、根来のことなんですが」

「なんだ?」

「実際根来は苦しいんじゃないですか?」

「どういう意味だ」

「収入という意味です」

「泉識坊は大丈夫だが?」土橋は根来寺に泉識坊という塔頭たっちゅうを建てている。

「ちょっと前までは、70万石とか言っていたんですよね」

「うーん、その通りだ、各地で横領されてるようだな」

戦国化で、各地にある寺社領はその国の戦国大名に接収されているのだ。


「僧兵1万とか実際、養えるんですか?」

「そこらへんは、津田の杉の坊が考えるだろう」

「霜の成真院のところからも働きかけているんですが・・・」


「だが、僧兵を首にすることもできんだろう。それに、雑賀となんの関係がある」

「雑賀衆へ編入し、兵力にしたいのですが」

「お前、恐ろしいやつだな、何を狙っているんだ」

「へへへ」

土橋守重はドン引きした。

目の前の子供が見てくれとは全く違う化け物であることがわかったからである。


・・・・

津田監物けんもつ吐前はんざき(現在の和歌山市の一部)城主の一族である。

津田氏は根来寺に杉の坊を持っている一族で根来では有力派閥である。


その吐前に、俺は、土橋、霜といた。

「あまり言いたくはないのですが、現在の状況は、我が鈴木が紀伊のほとんどを制圧したということになるでしょう、紀北の沿岸部、紀中、紀南と残るは那賀、伊都地方のみになります、この那賀の中心が根来寺、伊都地方には粉河寺、高野山がいる状況です」

「雑賀がここまでやるとは考えていなかった、それにしても、よく畠山を破ったな」と津田監物算長。

「もともとは、売られた喧嘩ですので、仕方がなかったというのが、表向きの答えですが」

「ほう」

「裏向きの答えはいずれ、下克上を行う予定で計画しておりました」

「下克上!」

「わたくしのことを皆、八咫烏神の使いと呼んでいるのはご存じでしょうか」

こういうのは、言ったもの勝ちである。

霜だけが激しく頷いている。


そもそも、八咫烏が神であるかは疑問がある、神獣であって神ではないのではという疑問があるが、ここは、神と言い切る俺だった。

「根来寺がこのまま武装を続けることについては、問題があるというご神託をえました」

「どういうことか?」

「まず、根来寺の収益源は、全国各地の荘園からのものですが、この戦国の時代では、横領されているはずです」苦い顔の津田。まさにその通りだったのだ。

「つまり、石高相当の兵力を養うとなれば、現在の行人(僧兵)の規模は過大となるでしょう」全員が驚いたような顔をしている。

「もう一つの問題点ですが、これは世界感の問題になります、これからの時代は戦国大名と呼びますが、戦国大名が覇を競う時代になります、その戦国大名が力を持つ過程で、邪魔なものは何かということです」


「いいですか?仮に雑賀が紀伊を支配下に置こうと頑張りますが、これは、他国からの侵略を防ぐという面もあります、弱い者が強い者に食われるわけです、さあ、いよいよ紀伊を統一したいのですが、できません、なぜなら、紀伊には根来、粉河、高野山があります、どうでしょうか?権力者にとって邪魔以外の何物でもありません」


「それは、根来寺対してのに宣戦布告と取ってよいのか」と剣呑けんのんな津田。

「仮の話です、今の雑賀に根来に喧嘩を売る力はありません、しかし、考え方は同じです、力を集結していく過程で、邪魔になるのは、宗教勢力です。紀伊では、今言った寺社勢力、全国をみわたせば、一向一揆、比叡山、法華宗、興福寺、東大寺等様々ですが、彼らの考え方は常に宗教的な考え方と強訴です、権力者への忖度はありません。彼らと権力者と相容れがたいのです、つまり権力者は宗教を排除するしかなくなるわけです」


「それで、解決方法はあるのか?」重い雰囲気になった。

「宗教と兵力を分離するしかないでしょう、宗教都市宣言です」

「なんだそれは」

「最低限の兵力のみ保持し、中立宣言を行うのです」

「だが、権力者が無理を言ってきたら?」

「目立たぬようにするしかありません、ちなみに、根来の防衛に関しては、この雑賀が行いましょう、しかし、目立ったところがなければ、権力者も何も言ってくることはなくなります」

「そんなことで、うまくいくか?」

「今のままでは、きっと根来寺は焼かれるでしょう」

「逆に、根来寺が戦国大名化すればどうか?」

「実に面白い発想です、しかし、其れですと、宗派の違う者をことごとく改宗させるか、皆殺しにするしかないのではありませんか?」


この時代の宗教はよくも悪くも熱かった。

ゆえに、過激である。


自分の宗教が正しいならば、違う宗教は間違っているとしか言えない、違うならば、正すしかない。いうことを聞かないものは邪魔・・・みなごろし・・・・という方向性を示すすことになる。




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