第20話 徳川四天王
020 徳川四天王
季節は夏になっていた、三河の国は騒然としていた。
春には、織田家と戦を行い、やっと終わったところである。
だが、その戦いで松平家(今川家に従属している)家臣が多く討ち死にしていたのである。
その中に本多忠高もいた、その息子が本多忠勝であるが、今は生まれたての赤子であった。
赤子の忠勝は叔父の家に引き取られていたのである。
その家の前に、謎の行列がやってきたのであった。
本多家内
「この度は大変でございましたね」
「どちら様ですか」当主の本多が聞く。
「わたくしは、紀伊鈴木家家臣鈴木九十九重當と申します」
「どのようなご用件でしょうか」この忙しい大変な時に何を無神経にやってきたのか!という表情が現れている。
「申し上げにくいことですが、今、本多家は忠高殿が討ち死にされ、赤子が残されてしまった、大変でございましょう」
「・・・そうですな」だからどうだというのか、戦で武士が討ち死にするのは、仕方がない事である。
「そこで、赤子をお引き取りさせていただきたいのです」
「鍋之介(忠勝のこと)は、兄の家の跡継ぎなのですぞ」
「忠真様、本多家の鍋之介様は、紀伊で新たに、家を建てられれば良い。残念ながら、松平様は今川家家臣、この三河、尾張は戦乱の巷、紀伊はそれほどではありません。
我が鈴木家は、紀伊で勢力を拡大させております、必ずや、鍋之介様を大名に育ててみせましょうぞ」目の前の少年が力を入れてしゃべっていることに、何の効力もないことは明らかだが、この戦乱に赤子を育てること自体が、本多家では苦しいことであったのも確かである。
「結納の品をお持ちしました、ぜひお受け取りください」
応接の床に銅貨が並べられる。
「銭十貫文とこれは、巷で噂の種子島です」いつものごとく、鉄砲10丁を置いている。
銭の力は、目の前に積まれると
当主はこの金があれば、この急場はしのぐことができると考えてしまう。
「・・・わかりました、鍋之介をお預けします」
未来の徳川四天王の一角がこうして崩れ去ってしまったのである。
・・・・
だが未来の徳川四天王に、不幸はまだ続くのである。
徳川四天王のもう一人に、榊原康政という武将がいるが、生まれ年は忠勝と同じである。
榊原家は、本多家が松平家の直臣であるのに比べ、松平家の直臣の酒井家の家臣である。
まさに陪臣の家柄である。(九十九の家臣は皆、鈴木家の陪臣になるのと同じ)
そして、戦によりやはり
「本多家より、鍋之介殿をお預かりいたしました」少年がいう。
「本多家?」榊原長政は考える。
「はい、そこで、ご友人が欲しかろうと、御家のご子息をお預かりしたいと思いまして」
妙なことを言う少年である。
「なんのことでしょうか」一体、本多の息子と自分の家の息子にどのような関係があるというのか!
「簡単に言うと、亀丸殿を我が家に仕えさせていただきたいのです」
「そんなことを急に言われても」
「そうでしょう、そこで、此方を見ていただきましょう」
またまた、結納の品である。
「率直に子供を売れということですか?」
「簡単に言うとそういうことですが、亀丸殿をわが息子と同様に育てますので、ご安心くだされ」子供に子供を育てるといわれても、なんの安心も得られないのは当然である。
本多家は当主が討ち死にしたので、子供を差し出したのであろう。
赤子を育てるのはなかなかに難しい時代なのである。
「いざというときは、紀伊にわが一族が行かせていただいてもよいのでしょうか」
陪臣の家柄である榊原家は別の方向を考えているのであろう。
生き抜くためには手段を選んでいられないのがこの時代である。
「もちろん、豪勇でなる榊原家の方が来られるのであれば、最大限の助力を惜しみません、それに、亀丸殿は私の息子も同然、皆さまはもう家族も同然です」と少年は穏やかな笑顔で答える。
時代は戦国乱世である、保険はいくらかけておいてもよい時代なのである。
幸い、亀丸は次男である、子供はまた作ればよい。
なぜ、亀丸なのかという疑問は多少残るが・・・。
「亀丸のことよしなにお願いします」ついに折れる父。
「万全を期して、お育て申し上げますのでお安心ください」
全く安心できないが、十貫文は大金である。
鉄砲10丁は今売れば、500貫になるのだが、彼はそれを知らなかった。
こうして、四天王の2天目も崩れ去っていった。
・・・・
紀伊平井の荘では、俺の屋敷が拡張されていた。
離れが増築され、そこで赤子達が育てられている。
そこには、なぜか妊娠した竜童未来もいた。
どうも俺の子供らしい、知らないうちに子供を作ってしまったようだ。(本当に知らないならば、それはそれで大変な事態である。)
そう俺も15歳になった、もう大人に仲間入りである。
伊賀、甲賀の娘たちも乳母として住んでいるので子供の乳は十分足りている。
彼女らは、栄養不足の状態から完全に栄養十分の状態になっていたので、たくさん乳を出すことができた。ありがたい事である。
「近いうちに、弥勒寺山城のふもとに居を移す必要があるかもしれんな」
「そうですな、ここは、紀伊山地をぬけてすぐですから、守るには向いていません」と望月。
「秘匿工場も移したいところだが、場所がない」
「さようですな、まだ平井の山中で続けるべきでしょう」
「土地も狭くなってきたしな」
「仕方ありません」多くの移民が伊賀・甲賀・柳生・根来からやってきているのである。
「土地をひろげるとすれば」
「まずは、南に向かうべきかと、紀伊の統一でしょう」
「在田、日高か」紀伊半島の南部牟婁郡は熊野の堀内氏の領域である。
堀内は早くから、八咫烏を通じて、従うことになっている。
(在田(有田のこと)、日高は現代でいうところの、紀中地方に当たる。)
「それより、農業の省力化で、婦人たちの機織りはどうなっている」
「もちろん、進んでいます、豚皮のなめし業も進んでいます」
「しかし、確か船の帆を作るということでしたが、あんなに必要なのですか」
「ああ、帆はもう足りるかも、しかし衣服を作るのには、いくらあっても足りんから、できるだけ、生産力を増強しておいてほしい」
「まあ、ですが、くのいちも必要ですぞ」
「そこは、忍び同志で調整してほしい、忍びの数が大いに越したことはない」
「わかりました、それで藍染めですが?」
「おお、それそれ、布を藍で染めると、虫よけ効果があるらしいからな、ぜひとも呼んでくれ」
「では、阿波の国に人をやりましょう」
「ところで、あの蕪はどうされるのですか?」
「絞り汁から砂糖が作れるんだよ、また甲賀に秘密が一つ増えたな」
「・・・しかし、あまりわたくしだけがそのようですと、服部、百地、藤林がなんというか」
「そうか、まあ、人の世界はそういうものだからな」
「服部はもともと、忍びというより武士だからよいとして、藤林にこの染め物と帆布を仕切らせるか、新しい展開をお願いしよう、あとで呼んでくれ」
「は、」
「百地はとりあえず、堺で店を作らせよう、今井ばかりだといざというときに裏切られると困るからな」
「では、百地も呼びましょう」
「馬はうまくいきそう?」思わずオヤジギャグが出てしまう。
「はい、調教に関しては、諏訪賀様が才能があるようで、うまくやっています」
「まあ、人手をだして、できるだけ増やしてほしい、牛は蕪の搾りかすを食べせるといいらしいからね」
「その知識は、八咫烏様からですか」
「もちろん」もちろん嘘である、前世でサトウダイコンを栽培したノウハウがあるからである、そして豊作である。
砂糖ダイコンは、明治に頑張って殖産興業したが、栽培が難しく失敗したのであるが、直播をやめ、苗を栽培して植え替えると豊作になったのである。
「ああ、そういえば、蜂蜜を作ろう、服部でいいか」
「蜂蜜ですか?」
「割と簡単にできるから、やろう」
この時代に養蜂は一般的ではない。
「ついでに、シイタケ栽培もさせよう」
「え?そんなことが可能なのですか」
「秘密だぞ」
「秘密が多すぎですぞ殿」
「そうだな」
百地は堺で『丹波屋』を開設した。
服部は、紀州の山で養蜂とシイタケ栽培を開始した。
この時代シイタケは自生のみである、ゆえにとても貴重で高価である。
ついでにいうと、松茸はいくらでもというとごへいがあるがかなり採れたのである。
方法は割と簡単で、養蜂は木をくりぬいて、小さい入り口を開けてふたをしておくだけである、ただし、女王バチが来てくれないといけないのとスズメバチの襲撃を避ける必要がある。
そこで力を発揮したのは、信州から昌幸の家臣?としてやってきた海野才蔵であった。
彼らは、スズメバチの巣を発見して、蜂の子を食べるのであった。
土に巣を作るオオスズメバチを退治してくれるのであった。
それだけでも、相当、蜜蜂の巣にとっては脅威の排除になる。
「海野、蜂の子なんて食わんでも、いくらでも食い物はあるだろう」
「殿、これは、食習慣ですから」海野少年は笑う。
シイタケの方は、原木を作り傷をつける、それに自生のシイタケの菌を糖液で培養したもの?を塗り付けるだけである。
あとは生えるか、生えないかだけである、日陰で保存しておけばOKである。
シイタケができた原木があれば、今度はそれが菌になるので、それを粉にして使うのである。
藤林隊は、藍染めを始めることになる。いずれテントやジーンズを帆布で作ることになる。
そして、軍服や革靴など軍事に必須のものづくりの基礎が進められる。
堺の丹波屋では、根来塗の食器、信楽焼き改め「男山焼」、砂糖、石鹸が売り出された。
あとは、味噌、醤油、みりん、清酒のちに、蜂蜜、蜜蝋、シイタケが追加されることになる。
根来塗は、いわゆる漆器である。
この技術は、寺で使う木器を長持ちさせるための技術であり、先進の技術である。
輪島塗などのほうが現代は有名になっているが、紀州征伐で根来寺が壊滅した時に、職人たちが散逸し、輪島塗などを興したとされている。
ゆえに、現在、漆器は丹波屋が独占販売している状況である。
土地こそ少ないが、鈴木九十九の経済力は急速に膨れ上がっていくことになる。
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