第19話 人さらい

019 人さらい


「戸次殿、ところで貴殿はなぜ鈴木家につかえる気になったのだ」吉弘氏。

「吉弘殿、まさに青天の霹靂でござる、今まさに、それを知ったからでござる、某が仕えるべき方は、この九十九様しかおらんということが分かったのでござる」と自慢げに語る戸次。


これは、今までの記憶を少し修正され、九十九に都合がよい記憶に上書きされているのである。


「どうわかったのか」

「吉弘殿、九十九殿は日乃本をすくっていただけるお方なのだ、これは、大友家では言えんことだが」

「なんということを」吉弘はあきれ顔である、内心、戸次は救いようがないと思ってしまう、そんな男に大事な次男を預けるなど!しかし、八咫烏の神罰は怖いのである。

よくも悪くも、この時代の人は迷信深いのであった。



「これは、結納でござる」

銭十貫文と鉄砲10丁が並べられる。

「ありがとうございます」頭を下げる吉弘氏は憔悴しょうすいしていた。

断ることができなかったからである。

しかし、千寿丸はよくもわるくも次男、また子をつくれば問題なかろうと吉弘氏はあきらめるしかなかった、神罰が怖いからである。


「千寿丸のことを何卒なにとぞよろしくおたのみしますぞ」と吉弘氏は涙を流した。

「もちろん、この八幡丸が立派な武将に育てますので、ご安心くだされ」まさに満開の笑顔である。

後ろの方には、乳母と思しき女性もいた、伊賀の忍びの娘で近ごろ娘を生んだばかりであった。


博多港から俺たちは出向した。

船倉には、発掘した大量の鉱石(カオリナイト)とミカンの苗木、十数本を積んでいる。


船は、瀬戸内を突き進む、もちろん瀬戸内の海賊船がいるわけであるが・・・。

「前方に海賊船と思しき船影」マストの哨楼から声が降ってくる。

「ラム戦用意」と船長兼指揮の九鬼澄隆である。


同型程度の海賊船だったがこちらは、帆に一杯の風を受けて進む。

この竜骨船には、衝角が装着されている、和船は構造的に、衝撃に弱いのである。

板をあわせて張り合わせているだけだからだ。衝角は相手船の船底に穴を穿つ、そして、舳先へさきを砕きながら衝突する。

「撃てー」ドドドーン!火縄銃が発砲する。

「よし、乗り込め!」射撃の次は白兵戦である。

真っ先に相手船に乗り込んだのは、俺だった。

「りゃあ」戸田勢源仕込みの剣先が雷光のごとくさやばしる、九州では、雷すらも切り捨てた剣法へと昇華していた、残念ながら感電したがな。


海兵隊は、この手の白兵戦も常に訓練している、村上海賊はあっという間に、制圧されていった。

「早くしろ、沈むぞ」と九鬼。

価値がありそうなものを運びこんでいると相手船はいよいよ沈み始める。


「これほど、訓練されておるとは驚きですな」と戸次。

「戸次にも、陸の兵の訓練を頼むぞ」

「わかりました、殿」赤子が、銃に驚いて泣いている。


船はその後、堺で一泊し雑賀に戻ったのであった。


「芳富、新次郎殿を呼んでくれ」

平井に帰ると、俺は小姓に命じる

「なんだ、九十九殿」と柳生新次郎、彼は、鈴木家の客将という身分である

「新次郎殿、馬に興味はないか?」

「馬?」もちろん、武士にとって馬は重要なものである。

「そうだ、馬だ、明から中国馬を輸入した、ついでに驢馬も輸入したが、敦賀つるがの港につくので迎えに行ってもらいたい」


堺で停泊した際、今井から知らせがあった、中国の大型馬の輸入をお願いしていたものが届くというものだったが、馬は輸送のストレスに弱い生き物であるため、敦賀につけるということらしい。

そういえば、そうだった、帝国では、馬よりも驢馬を活用するように各方面に配ったのだが、あまり喜ばれなかった、オーエンスタンレー山脈にレーダー基地を建設するのには、大活躍したのであったが。

あと一部の部隊では、愛玩動物として可愛がられたという。


「馬の扱いというか繁殖に成功すれば、騎馬隊の指揮官はそのものに任せることになる」

と宣言すると、新次郎は目を輝かせた。

「芳富、驢馬も頼むぞ」

「はい、わかりました」荒部芳富は狩人出身のため、辛抱強い性格である。

「儂も行こう」なぜか呼んでいない宝蔵院師匠がいる。

「ここの生活はよいからな、儂の弟子も何人かつれてきてよいだろう?」

「興福寺にも協力してもらえるなら」

「もちろんじゃ、任せておけ」

ということで、加留羅が鉄砲隊を連れて、興福寺で僧兵の一体を連れ、敦賀に向かうことになった。


冬になる前に、馬、驢馬、羊がやってきた。ブレーメンの音楽隊をするためではなかった。

馬は、新次郎が世話をすることになった、驢馬と羊は荒部が世話することになった。

伊賀甲賀の移民もこの家畜以外にも、牛(牛馬耕用)、豚(食用)の世話を行っているそして家畜の糞尿は集められ、一か所に投棄され、硝丘法の材料となっているのである。


豚のラードからは、石鹸が生産され始める、これが、堺で莫大な利益を生みつつある。この時代石鹸はない。


とんかつを揚げたあとのラード油も石鹸に再利用されている。

京の貴族の間で人気が出ており、堺の豪商も買うようになっているらしい。

製法は甲賀忍者たちにより秘匿されている。

もちろん、作り方は俺が教えたものである。


雑賀5か荘は合わせて、7万石程度であったが、今や10.5万石を収穫している。

その中で余った米を相場で売り買いして儲けを出している。


今や、伊賀の者たちが各地に散り、様々な情報をもたらしてくれるようになった。

ゆえに、需要と供給の波の中で儲けを出すことができるようになったのである。


俺の家の収入は増加分の2割となっているので3万5千石の2割で7千石ということになっている。

しかし、家臣が多すぎて困っている状態は相変わらずだが、石鹸が救いの女神となっていた。


まあ、そのほかの事業の土地ができ次第拡張しているので、問題はないだろうが。

食料問題はサツマイモ、ジャガイモの栽培で確実に解決した。わが領土で飢饉の問題は解決したといっても過言ではないだろう。



天文18年(1549年)


俺は、望月出雲と今度は信濃国小県郡(長野県)にいた。まさに神出鬼没というにふさわしい活動ぶりだ。


「何か御用がおありとか」当主は何者かこいつはという雰囲気を出している。

「はい、実は、申し上げづらいことなのですが」と俺。

「なんですかな」だったら言わずに帰ってくれと当主の顔に書いてある。


「お子様をいただきたいのです」

「何!」明らかに当主は怒っている、まあもありなん。

「この地は戦が絶えぬ地、大変でありましょう」まさに、この信濃の地は、上杉、武田が争っており、なかなかに気の抜けない土地である。

「簡単にいうと源五郎殿をいただきたい」簡単に言う内容ではないような気する。


「何をおっしゃっているのかわかりませんな」

「はい、ゆえに申し上げにくいといったのです」と俺。


一呼吸開けてまた続ける

「実は、私は八咫烏を信仰しているのですが、たまに夢枕に立つのです、真田様の三番目の息子が我が信仰を広めるであろうと」


「そんなはずがなかろう!」もちろんである。この地方の信仰は諏訪大社がほとんどである。

「真田様のところに八咫烏様は来ておりませんか?」

真田氏の顔色が青くなる、まさに、ここ数日、其れらしきものが夢枕にたったのである。


「真田様には、すでにご立派なご長男、ご次男さまがいらっしゃる、一人を紀伊で立派な武将として育て、勢力の拡大を図るのは、それほど悪い手ではないのでしょうか」二入の息子は何れ戦死して、真田から別家に養子に出されたいた、この子供が戻って真田姓を継ぐことになる。


「そうでしょうか?そのような方法に利があるとは思いません」と苦しい当主。


「わが家臣には、中条流の戸田先生、槍の宝蔵院殿、元大友家重臣戸次殿などがおり、子供の教育においては一歩も引けを取らないことをお約束します」


それが、心配なのである、子供のころから教え込まれると、あとから修正は効かない、幸隆はそのことを知っていたのである。


「もちろん、結納の品もご用意させていただいております」

取り出したのは、銭の束である。別室に銭十貫門が用意された。

「それと、これは、今ちまたで噂になっておる、種子島でございます」

まだ、この瞬間、鉄砲はそれほど普及していない。


近江の国友、美濃の関、摂津の堺、紀伊の根来で少量生産されているに過ぎない。


ただし、本来は堺で大量生産を開始するはずだった、鉄砲又こと橘屋は、百地の配下に拉致らちされ、雑賀に軟禁されている。

また、国友の鉄砲鍛冶もいろいろな手を使い、足抜けさせ、生産力を削って、供給力を制御している状況である。

この男のこういうところは感心させられる。受給のバランスを変更し永らく利を得ることができる態勢を整えたのである。


こちら側の銃を高く売るための戦略を陰ながら展開しているということだ。


ゆえに、今最も鉄砲の生産を行っているのは、紀伊雑賀ということになっている。


「これが」真田幸隆は鉄砲をもってじっくりと見ている。

「失礼ながら、もし息子がそちらに行けば、鉄砲と弾薬(たまぐすり)は、供給を受けることが可能ということなのですか」と幸隆。


「さすがに真田様、目をつけるところが違いますな」と焦る俺。

「実は、弾薬(たまぐすり)と弾(たま)の材料はこの日ノ本ではほぼ入手できません、源五郎殿がうちに来れば、真田家は家族同然です、できる限り協力は惜しみません、もちろんただではとはいきませんが・・・」


「わかりました、源五郎を御家に遣わします」

「ありがとうございます、必ずや当家にて、大名に育ててみせましょう」


一行を見送る真田家の者たち、「まだ、源五郎は赤子なのに」と母が幸隆に文句を言いたいの我慢している。


「恐ろしいやつらじゃ、敵に回すと怖いぞ、奴らの中には、素波もいた、その気になれば、誘拐も可能であろう。逆らうことなど無駄じゃ、来た時に勝負はついていた、源五郎のことはかわいそうだが、忘れよ」赤子につけた者たちが、どのような情報を持ち帰るか、それからしか対処の方法はなかった。





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