第18話 『霹靂』作戦
018 『
1548年(天文17年)
そんなこんなで、農業振興、商業振興、工業振興の諸政策が日々遂行されている。
海兵たちは、訓練の合間に、乾物と海藻集めをしている。
鉄砲隊は、建設事業と屯田を行っている。
特に、サツマイモ(いまだサツマイモの名称)の栽培に力を入れている。
すみ酒の醸造は、とても心配だが宝蔵院胤栄が指揮している。
農業は大田左近が指揮している。
工業は芝辻師匠が指揮している。
練兵は戸田勢源先生と柳生新次郎。
竜骨船の建造と水軍の指揮は九鬼澄隆。
鉄砲隊の射撃は霜兵衛、火薬製造は甲賀忍者、牧畜は百地の伊賀忍者。
と皆が得意分野?で指揮をとってくれている状況になり、俺もいよいよ、のんびり生活を始められると考えていた。
しかし、である。
某シミュレーションゲームでは、余裕を見せるとすぐに攻めてくる敵がいるので、油断は禁物なのだ。
こうして、俺は、旅に出ることにしたのである。
春のことであった。
目的は
ではなく、九州に用事があったのである。
まず肥前国(佐賀県)の伊万里港に入港する大型関船。
信楽の親方(通称:信楽刑部狸と命名)とその配下が有田にある鉱石(カオリン含有)の発掘に向かう、この時期まだ有田焼はできていないので、石は掘り放題である。
もちろん、その土地の領主には、財物と鉄砲を進物に持っていき、権利をお願いしている。
信楽刑部狸は、セメントの焼成も受け持っているので、石を砕くことも仕事の一貫である。
「殿、しかし、このようなことが本当に可能なのでしょうか?」すでに副官として常に横にいる望月出雲である。
『このようなこと』とは、非常に神がかった作戦である、一応、八咫烏とは、夢の中で確認はしている、ただし、このような現世への直接の介入は今回限りといわれている、かなりグレーな領域らしい。
「まあ、八咫烏大神がおしゃっているので大丈夫なのであろう」
「さすが、御使い様ですな」
豊後国(大分県)の大野郡藤北という地方に来ていた、そのころには、春が終わり、夏の暑い日となっていた。
遠く、雷の音が聞こえた。
一本の大きな木の木陰に、男の姿を認める。
暑さを避けて休んでいるのであろう。
「あの男であろうな」
「そうですか?」もちろん、鑑定しているので間違いない。
「
もちろん、見たこともない人物である。
「誰か?」
「そこは、危のうござる、此方へおいでくだされ」
「ここは涼しいのでな」男は拒否する。
「では、わしらはここから失礼する」10mもはなれた、草に座り込む。
高くすると危険なのである。
「何かの用か、そなたらはいずこのものか」
「
「で紀伊の方が何か?」
「わが、鈴木家に仕えてくださらぬか?」
「儂は大友家の家臣にて無理でござる」家臣でも重臣である。
「そうでしょうな」
「お帰りくだされ」
その時だった。
ババ~ンガ~と大音声が響きわたる、目の前に紫電が走り、大木から、戸次氏の体に紫電が走り抜ける。
「グワーッ」と戸次が叫ぶ。
「回収するぞ」俺たちが立ち上がった瞬間。
ババ~ン、今度は俺を狙った雷が落ちる。
すべての瞬間がスローモーションになり、落ちて来る雷の切っ先が俺の頭を狙ってくる。
抜刀した剣先が雷を切り裂くが、そのまま、刀身を紫電が走り抜ける。
「グエ」
雷の衝撃で俺は数mもはじかれて大地に転がる。痛みとしびれがムカデの毒のように這いまわる気持ち悪さだ。
「殿!」
まさか、こんな時に、歴史の修正力の反撃を食らうとは!
両腕と右足に重度のやけどを負ってしまったが、俺は、立ち上がった。
「望月、早くわたしを、戸次殿のところに」
望月は俺に肩を貸し、倒れている戸次氏のところに連れていく。
もちろん、助けるためではない。
やけどした右腕を戸次氏の頭に置く。
<インストールを開始しますか?>
<Yes>
右腕が青く光り始める。
俺の眼も蒼く光っていることだろう。
<インストール完了、書き換えを開始しますか?>
<Yes>
その時には、俺の右腕もやけどからかなり回復している。
人間離れした、回復力ということでよいだろうか?
俺たちは必要な作業を素早くこなし、しばらく見計らってから、戸次氏を背負い、彼の実家のある村に向かって歩いたのである。
「ごめん」謝っている訳ではない、挨拶である。
一番大きい館の門前で声をかける。
小姓がでてくる。
「殿!どうなされたのですか」
「雷に撃たれた、わしらは、それで担いでこちらに来た」
どたどたと家人がでてくる、そして戸次氏を戸板に乗せ、奥へ運んでいく。
「八幡丸(戸次の幼名)を助けていただきありがとうございます」年齢からすると母親のような人が出てきて礼を述べる。
「いえいえ、とおりがかっただけです、けがをしている人がいれば助けるのは当たり前でございます」口ではそういうが、何かを脳内にインストールしたとは言わない男。
「まずは、此方で、八幡の傷はそれほどではないようですので、もうすぐ気が付くと思いますが・・・」
戸次氏のけがは大きかったが、神力により治療を施している(もちろん今後は使えない)
「お刀もお返ししておきます」と佩刀も返しておく、後に「雷切り」と呼ばれる刀であった。
「殿は大丈夫なのですか」
「ああ、痛かったがな」
驚異的、いや人間をやめた回復力ですでに、回復していた。
ただし、両腕と右足には、何やら怪しげな文様が浮かびあがっていた。
やけどの跡だが、それが雷のように見えないこともない。
傷物にされてしまった。これではお婿に行けなくなってしまう!
勿論、冗談だ。
まさか、もう一度雷を浴びる羽目になるとは思っていなかったがな。
「さすがは殿でござる」人間を辞めていることを賞賛されているようだ。
・・・・
「おお、母じゃ」戸次
「八幡、よくぞ無事で、お前は雷に撃たれたのじゃ」
「はい、そうでござった、そこで、母じゃ、わしは、気づいたのじゃ!」
「なにをじゃ」心配そうな母の顔がそこにはあった。
「神意を得た、わしは、鈴木重當様に仕えることにしたぞ」
「なにを言うておる、お前は大友家の重臣じゃぞ」
「これからは、重當様の家臣になる」
「誰か、大殿を呼んでまいれ、早く、八幡がおかしいのじゃ」そう残念ながら八幡はおかしくなってしまったのである。
いや、正確にいうとおかしくされた、記憶を
・・・・
それから、戸次家は大騒ぎになってしまう。
もちろん、家督を譲られた息子が今の地位を棄てて、別家に使えるというのである。
しかも、紀伊の名も知らぬ家であるという。
それも、主家でなく家臣の家臣、いわゆる
今、九州の大友氏は大名家であり、その重臣の戸次家なのである。
しかし、すでに、『八咫烏の神意を得た』鑑連の意志は異常なほど硬かった。
そして、隠居した父親や母親の夢枕にも八咫烏が登場する。
この時代の人々はこういうのに極端に弱いのであった。
やむなく、戸次家では、鑑連の異母弟が跡継ぎになり、大友家につかえることになる。
俺たちは、銭十貫文と火縄銃10丁を感謝のしるしとして置いていく。
泣きながら見送る家族に手をふる、鑑連の顔には、
しかし、大友家の悲劇はまだ終わっていなかった。
まあ、誰もこれらのことが、悲劇であると理解している者がいるとは考えられないのだがな。
豊前国(福岡県)
戸次八幡丸がここを訪れていた。
「戸次殿か、何用か」吉弘鑑理は厳しい口調である。
戸次は同じく大友家重臣であったがこの度、家督を譲り、別家に使えるという。
殿(大友氏)は初め激怒したが、神意に逆らえなかったため、引き下がらざるを得なかったのだ、いわば、裏切りものといってもよい状況である。
「吉弘殿、頼みがあってきたのだ」
「何をいまさら」
「儂には、残念ながら息子がおらんのだが、」
「ならんぞ!」反射的に吉弘は叫んだ、赤子がうまれたばかりであったからだ。
「これは、神意、吉弘殿、今晩知ることになりましょうぞ、神意は絶対ですぞ」戸次の顔には、悪意のない笑顔が浮かんでいた。
こうして、吉弘鑑理とその妻は、毎夜八咫烏の訪問を受けることになる。精神汚染が進んでいく・・・・。
そうして、大友家の重臣が悪夢にうなされていたころ、俺たちは、肥後国(熊本)八代を訪れていた、何でも、新品種のミカンがこの地域で栽培されているらしい。
ミカン(
苗木を小金を積んで譲ってもらう、大金でもよかったが、足元を見られかねないので、自重した。農民は、喜んで(黙って)譲ってくれた。
現在の和歌山県有田で作られているミカンの原型はこの肥後で生まれた新種だということらしい。そして、その蜜柑は、挿し木の手法により急激に、紀伊で広がることになる。この男は、挿し木の方法を知っていたのである。
「我が子となったからには、きっと大名にしてみせます、吉弘殿信じてくだされ」
陪臣になる戸次の跡継ぎなのだから、それは絶望的であろう。
しかし、毎夜現れる光る八咫烏は息子のためになるのに、逆らうとは何事かと怒ってくるのであった。
すでに、七日続けてとなると、本当に祟りを恐れても仕方がないほどの精神状態となっていた。
「紀伊の鈴木はまだ、小さいですが、必ずわたくしが大きくしますのでご安心ください」
体こそ、近ごろ急速に大きくなったが、面差しはまだまだ幼い俺が言うと吉弘は泣きそうになった。
聴けば、鈴木家は紀伊でまだ7万石程度の小さな家であるらしい。
そもそも、紀伊の守護が畠山氏、その畠山も根来、高野山などの宗教勢力のために、まとめ切れていないそんな土地の国人領主であるという。
なにが悲しくて、九州の雄、大友家の重臣の息子を出さなくてはならないのか。
もちろん、そのような必要は全くない!のだがな。
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提督の野望Ⅱ ~死戦編~
連載開始します、提督の野望の続編になります。
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