第16話 水路
016 水路
海兵100名と鉄砲隊の兵士150名の計250名が整列させられている。
その全員がスコップかツルハシを持っている。
食生活の改善により、肉体的にこの時代の日本人の平均値を大きく上回っている。
身長もそうだが、体重も重く、筋肉質になっている。
「注目!」例のごとく望月君が副官よろしく声を上げる。
「傾聴!」
「諸君!本日はご苦労、今日から水路を開削する工事を行うことになるが、諸君の日頃からの訓練の成果を発揮することができる場である、君たちは、戦場で活躍することを運命づけられているが、このような土木作業においても十分に身体の能力を発揮することができると信じている、みなの頑張りに期待する、以上」
海兵50名が別に、由良白崎に派遣され、石灰石を輸送中であり、信楽のおっさんが石灰石を焼く窯を製作している。
そして、堺の納屋(今井)に桜島の火山灰を購入してもらった(ただでくれたらしい)
いわゆる、セメントを作るためである(ローマンコンクリートになると信じている!)
「準備よし」
「総員伏せ!」
「点火」
ドド~ン 黒い土の柱が立ち昇る。
火薬による、水路予定地の爆破作業を行っていく。
この作業に参加させるのは、今後攻城戦などで、爆破工作やその類似の戦術に慣れさせるためもある。
あとは、スコップ、ツルハシで掘削と土砂の撤去である。
猫車も用意し、土木作業にも慣れてもらう必要もある、野戦築城も彼らが行う必要があるからである。
水路の掘削が終わると、出来立てのセメントで、水路の構築である、板は、船大工が用意したが、枠組みやセメントの混錬、流し込みなどは、彼ら兵士の仕事である。
兵たちは予想以上の身体能力を発揮し、数百メートルの水路もひと月で完成した。
こうしてコンクリートの水路は完成したのである。
彼らのうちから、いずれ第100工兵師団を率いる者が現れる事を祈りながら、俺は、牡丹鍋を作るのであった。
「しかし、火薬の力はものすごいものですな」と望月。
「そうだ、使い方によってはな、火薬の扱いには慎重にも慎重を期してくれ」
「わかりました」
この火薬は、甲賀者が、平井山中で、チリ産硝石を原料に作っている。
「それに、このセメントは固まると石のようになるとは」
「忍びにもこれを使って、築城などを学んでもらいたい」
「火薬とセメント、我らも活用したいと思います」
「ただし、」
「もちろん、情報の流すようなものは、すべて消しますので、そこはご心配なく」
「出雲守たのんだぞ」
「ははあ」
紀ノ川北部にできたこの水路で水車が回り始めると、いろいろなものが、増産されることになる。
米である、この時代米は、あまり搗けていないので、白米は食べることができない。
しかし、この水車で搗けば白米を食うことができるのである。
だが、この白米であるが、歴史的に江戸ではやるのだが、玄米部分をけずってしまうことにより、栄養バランスが崩れ、
いわゆる「江戸
しかし、この栄養失調気味のこの戦国では、気にする必要はないといっておこう。
そのほかにも、製粉、製材など単純な上下運動で解決できるものは、強力に推進されることになる。
・・・・
このようなことを行っていた俺のところに、納屋の使いのものがやってくる。
「鈴木様のご注文の品が届きましてございますが、受取をどのようにしていただけるのでしょうか」
どうも、頼んだ豚が堺に届いたらしい。
「丹波を呼んでくれ」
「殿どうなされたのか」
よばれた百地丹波が現れた。
「うむ、実はな、豚が堺に届いたのだが、受けっとってきてはくれぬか」
「ぶたとは何ですか」
「いのししの親戚にあたる動物だ」
「拙者が?」
「飼おうと思っているのだが、誰におしつけたがよかろうか、考えているのだ」
「押し付けるのですか」ぎょっとした表情の丹波。
「まあ、そうなるな、わしは忙しいので豚の世話をしている暇がない」
「拙者も忙しいのでございますが・・・」
「動物の世話をみることのできるものはいないか」
「・・・・」
「だがな、豚が喰えんとなると、とんかつとかつ丼が遠のくことになる、ソーセージ計画も頓挫することになろう」
「とんかつもかつドンもすでにありますが?」
「丹波よ、とんかつのとんは
「いや、某には、何とも」そんなことはあんたが言っているにすぎないではないか?と丹波の顔が物語っている。
「丹波、とんかつはもっとうまくなるのだ」
「なんと」
「しかし、そちが豚を飼えぬという、これでは、ソーセージ計画は残念せざるを得ぬ、まことに残念至極!」
「そのそーせーじ計画とは何ですか」
「丹波、豚は飼えぬのじゃ、忘れてくれ」
こういわれてしまうと人間の業というべきであろうか。
「殿、この丹波、なんとしても豚を飼って見せます」
「丹波、豚を飼うだけではだめなのだ、増やさねば、ソーセージ計画は成立せん」
「増やします、増やしますとも」
「やってくれるか、丹波」
「はい、この丹波身命をとして、飼って見せましょう」
「そうか、まあ、命は懸けんでもよい、伊賀の民に世話をさせればよいのではないか」
「はい」
こうして、うまく騙された、百地丹波が豚を飼わされることになるのである。
「ということで、牛も頼む」この男は常にそのようなことを言うのである。
「はい?」
「ついでに、ロバも頼むぞ、あとから来るからな、
真のとんかつがどれだけうまいのかは不明ながら、一番やりの名誉をえた、伊賀忍者達であった。
・・・・
「それで、九十九よ、これはなんじゃ?」
鍛冶屋に運び込まれた、粗銅の塊である。
問を発したのは、我が鍛冶の師匠の芝辻清右ヱ門である。
彼らは、俺が、平井で鍛冶工房を開き、回国修行を終えて帰ってくると、すぐに、自分たちも、根来からやってきた。
曰く、うまい飯が食うためであるそうな。
「師匠、これは銅ですよ」
「それは、わかるが、わしは鉄砲鍛冶、鉄しかいらんがな」と厳しい口調で返してくる。
「師匠、うまい飯を食うには、金が要ります」
「それと、銅が関係するのか?」
「もちろんです」
「つまり、わしに種が島以外の仕事もさせるということか?」
「師匠、鉄砲は儲かりますが、すぐに値下がりを始めます、これは需要と供給のバランスのせいです、つまり希少価値がさがるわけです」
「何を言っておるのか、さっぱりじゃ」
「そこで、重要なことは、ほかにも儲ける手段をいろいろと持っておくことが大事ということです」
「つまり?」師匠は職人らしくくどい話は嫌いなのである、気が短いともいう。
「簡単に言うと」
「何!」
耳元でささやかれた内容に師匠が声を上げる。
「師匠、鉛は気化しますので、吸い込んではいけません、毒になりますから、気を付けるように職人たちに注意してください、それと、空気と職人も循環させるように」
俺が師匠に教えたのは、南蛮吹きについてである、この時代の粗銅には、相当量の銀・金が含有している、中国や南蛮人は、日本で銅を買って、その銀を取り出すだけで儲けを出せるのである。
この方法は1500年代の後半に日本人にも伝わるが、その日本人が住友財閥の出発点となる
人物らしい。
まだ、40年くらい先行しているので、利益は先取りできるはずである。
「ところで、師匠、鉄砲のことですが」
「うむ、どうした」急にまじめな顔になる芝辻。
「銃身に、線条を刻みたいと思います」
「線条とはなんじゃ」
「いわゆるライフルです」
「ライフルとはなんじゃ」
こうして、いかにしてライフルを刻むかを議論するというか、押し付ける。
今のところは、ライフルボタンで刻むことにする。
ライフルボタンとは、弾の形をしたものを熱した筒に押し込んで、回転させながら型を刻み込んでいく方法である。
ライフルボタンの原型は、焼結冶金によりタングステン鋼で完成させたものが実はある。
あとは、押し込みながら、回転させていくガイドの役割を行う装置の製作を師匠にお願いした。
「しかし、九十九よ、こんな筋を切ってなんの意味があるのじゃ」
もちろん、ジャイロ効果により、射線が安定するのである。
「師匠、それと、この溝ができると、発射ガスが抜けやすくなるので、火薬を増量しなければなりません、銃身の根本を補強することも必用になりますので、お願いします」
何気に質問を無視し、注文する男であった。
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