第15話 水車

015 水車


なぜか、信楽の職人が一団を形成し、俺の前で平伏している。


「ええと」

「この度は我らにお召しをいただき有難き幸せにございます」

統領らしい男が言う。


ちょっと待ってほしい。

確か、問い合わせるだけだったはずだが?


望月には、平井の山中に火薬製造工場を製作をお願いしているので、あいにく留守だった。


「まあ、それで焼き物を作ってほしいのだが、できるのか?」

「土があればできます」

「そこらへんにあるものでよいのかという意味だが」

「無理ですな、質の良い粘土が必要ですな」

じゃあ、あんたらなんで来たんだよ!といいたいのをぐっとこらえる。

「粘土か?」

「石も砕く必要がありますので、作業も必用です」

「なかなか、難しいのですな」

「そうなのです」

じゃあ、できねえじゃねえか!といいたいのをぐっとこらえる。

「もちろん、かまもいりますが」

何にもないじゃないか!


「窯は、我らで作りましょう、もちろん銭は必要ですが」

「粘土や石は?」と俺。

「甲賀から購入してはどうでしょうか」

「金がかかりますな、それに、それでは、信楽焼きを紀伊で作っているだけでしょう」

「そうなりますな」


そもそも、六大古窯こようと呼ばれたりするものは、燃料と材料がそこにあるから発達しているのであるから、そこからはなれれば、不便になるのは当然である、逆にいうと、ないから発達しないのである。


しかし、かといってどんぶりは欲しい、そうどんぶりと茶碗である。

木椀で食うよりも絶対にうまくなるはずである、食感的に。

この男は手に入れるまでは、粘着質であり、手に入れると熱が冷めるタイプの男だった。


「わかりました、とりあえずは、お疲れでしょう、今日はゆっくりお休みください」

「では、此方で雇っていただけるのでしょうか」

すでに、集団でここまで来ているのである、だめだといったら彼らはどうなるのであろう。

この時代の旅は、結構命がけなのである。


「まあ、仕事ならいくらでもありますし、焼き物も欲しいのはほしいのです」

「なんでもやります、ぜひともよろしくお願い申し上げます」

一団全員が平伏する。


・・・・

「土か?紀伊にはいくらでもあるぞよ」金色の後光さすカラスがいう。

「いやいや、土は土でも、陶器に使える土なんです、私、高野山しかしらないので」

「うーむ、わしも基本神獣だからな、土のことは知らんが・・・」

「みんなに八咫烏大神やたがらすたいしんとかあおってるんですけど、そんなこともしらないのでは、困りますね」

「むむむ」夢の世界でも攻防を繰り返す俺、前世の知識は戦争の知識がメインで陶器については知らない、ついでにいうと、和歌山で焼き物があったとは聞いたことがない。

「ふむ、アーカイブの記録には、どうやら焼きものはあるようだ、広村の山に、陶芸の用の土が取れるところがあるようだな、カ~」カラスらしい返事だ。


「広村の山ですね」

「うむ広八幡神社の近くの山であるようだ」

「ははあ、さすが八咫烏大神さま」

「うむうむ、よい心がけである、我が名を知らしめるのじゃ、カア~」

「ははあ」結構チョロいので楽だ。


・・・・

便利な神である。

こうして、広村(現在の広川町)に土を購入しに行くことになる

広村は、我らの一応の主人の守護職畠山氏の城(広城)がある地域であるので、手土産をもたせて、土の掘削の権利を得られるように、手を打っていく。


「九鬼殿を呼んでくれ」自分は孫一の付き人であることを忘れているが、自分の付き人に命じる。

九鬼澄隆は、孫一の家臣だ、越権行為だが気にしてはいけない。

「九十九殿、何か」

「これだ」紙を差し出す。

いやそうな顔の九鬼氏。

「この円盤のようなものはなんでしょうか、みみずのようなものが何匹もいますが」

「違うちがう、それはを再現しているのだが、そうは見えないか?」

「え?すいません、思いいたりませんでした」顔には絶対無理と書いている。


「この円盤はな、水車である」

「水車ですか?」

「そうだ水の流れの力を取り出して、作業することができるようになるからくりだ」

「からくり?からくりの部分は?」紙には円盤しか書いていない

「ああ、君にも言われていたように、私は絵が苦手なようだから、口で説明する、要は回転運動の力を歯車で上下運動に変換するんだよ」

「それこそ、絵にかいてください」

こうして、九鬼君に小一時間問い詰められてしまった。


「今、竜骨型関船の2番艦の建造で忙しいのですが」

「うむ、わかっているが、此方も重要だ、船大工にやらせてくれ」

「ですから、忙しいのです」

「まあ、では、明日でも大工たちを慰問しよう、それでご機嫌を取ればよいではないか」

「・・・」


次の日は浜小屋で大牡丹鍋大会をひらいて大いに船大工を慰労した。



・・・・

「彼らが、3か郷から集められた孤児たちです」と太田左近。

「そうか、結構いるな、みな食うに困っているということでよいか」

「はい、みな親がない子たちです、本当に預けてよろしいのですか」

雑賀5か郷のうち雑賀荘以外の郷は、新農法の前に屈服した。

その3箇郷の孤児を集めてもらったのである。

「みな、私が、平井郷の鈴木九十九である、これから、みな私の家臣として働いてもらおうと思っている、飯だけは不足なく食わせてやるから心配するな、私の家臣になるのが嫌なものもおろう、そのものは、かえってよい、左近殿に送らせるからな」

太田左近は首を振る。

「殿、子供らもう村へは帰れぬ、というかそもそも、村でも仕方なしに育てているような感じなのです」

「そうか、では、みなある程度までは、わしが育てるから、一人前になってから、家臣になるかどうか決めればよい」

「はい」みなが土下座している。

「望月殿」

「は、」

「彼らの家の用意ととにかく、まずは洗ってやってくれ、それから飯の用意をとにかく、食わしてやってくれ」

「は、仰せのままに」

こうして、20人の子供たちは、望月に預けられた。

「みな、よく覚えておくように、この方が、九十九様である、みなの救い主であり、有難い八咫烏様の御使いであるぞ」

こうして、子供たちが洗脳されていくのであるが、俺はそのようなことが行われていることを知らなかった。


「水車を作るとか」と太田左近。

「これで石を砕けるのですな」信楽の親父。

「粉を引くのではないのですか」太田左近。

「まあ用途は様々だ、必要ならば、数を作る」と俺。

「しかし、水車を作るにしても、水路がいるのではないですか」と左近。

「さすがは、左近殿、そうですな、その通り」

「大変な作業ですぞ」

「そこは、私流で行きます、しかし、まずは水車と本体の設計段階ですから」

設計は、九鬼澄隆である、こんな時あの人がいてくれたらと、譲らない人を思い出す俺だった。


・・・

「殿、御無沙汰にございます」

「おお、九十九、いったい何をしているのだ、わしの側用人のそちがいないのでは困るぞ」と孫一。

「いろいろといそがしゅうござる」

「側用人なんだが」

「はい、殿のために手を尽くしておりますれば、ご不自由をおかけしております」

「それで、久しぶりになんじゃ側用人の九十九よ」

「はい、海兵の訓練はどのような感じかと」

「おお、海賊どもと一緒に訓練させているぞ」

「そうですか、なかなか、それで海兵をお借りしたい」

「おお、兵農分離はいい案だと思うが、日ごろ訓練しかしないとすればもったいないのではないかとおもっていたのだ」

「はは、殿、私は、自分はさぼっても、決して他人にはさぼらせませんぞ」

「さぼる?」

「気になさらず」黒い笑顔の男がそこにいた。


海兵は竜骨関船の戦闘員である。

雑賀海賊衆の息子たちを徴兵した者たちである。


目標としては、米国海軍のシールズを目指す。

シールズ?米国にそのようなものがあったかなと前世の記憶がうやむやなことに気付く俺だった。マリン子だったかな?ありんこ?・・・記憶が曖昧あいまいだ。


「九十九、俺も種子島を撃ちたいぞ!」唐突に孫一がおっしゃる。

「ああ、忘れていました、どうぞ」と何丁かの火縄銃を取り出して置いてみせる。

「相変わらずの手妻だな」(手妻という表現は現代でいう、マジック程度の意味)

「では、殿、城の修築をおねがいします」

「おお、任せておけ」

側用人が主人に任せて帰っていく。

これが、日常の姿である。







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