第14話 陥落
014 陥落
「霜が銃を撃つようになってまだ1年程度です、矢は狙って当てるまでかなり訓練が必要ですが、この種子島は、誰でも順序さえ守れば、弾は大体ねらったところに直線で飛びます、おわかりですか」
「ぜひ、私を家臣にしてください」そういったのは荒部だった。
荒部とは縁(えにし)を感じていたのでそういうと思っていた。
「参りました、わたくしも従うしかないでしょう」と太田。
「では、太田殿は、殿の配下ということで、荒部は私の家臣としていただきます」
「豊作にする方法を教えていただけるのですか」
「一部はお教えします、しかし、雑賀衆の他の部落も従わせる必要がありますので、それはお願いしてよろしいですか」
「雑賀郷以外の2つは私が説得しましょう」
雑賀郷は、雑賀衆でも有力な土橋家が代表をしている郷である。
これは、親戚でもある鈴木家の仕事であろう。
「よろしくお願いします」
こうして、現在では当たり前に行われている
苗代にまく稲を選別する塩水選は、
まずは、太田の荘を豊作にして、他の2つを説得する段取りになった。
一年がかりである。
「まあ、説得はそれでよいのですが、太田殿には、ほかにもお願いしたい」
「なんでしょうか」
「太田城の改築です」
「・・・・?」
「それと、虎伏山にも城を築いてもらいたい」
「かなり銭が必要ですよ、うちにそんな余裕はありません」
「もちろん、銭はこちらが容易しますので、お願いします」
「本気で戦争する気なのですね」
「遊びで戦はするものではありません、しかし、準備は必要です」
太田はうなだれた、心中はえらいところに来てしまったなという感じであろうか。
しかし、次年度からの稲の育ちは非常によく、周囲を説得するのに十分な成功を収めた。
そして、平井から鉄の農具が供給されたため、田起こしなどの効率化が図られた。
中郷、南郷、宮郷(太田の郷)は案外簡単に臣従した、そもそも彼らは、戦争が起これば、いやでも兵士として引っ張られるのであるから、戦争がないときは、豊作の方が有難いのだ。ゆえにそれほど抵抗感はなかったのである。
雑賀郷の土橋こそ、
こうして、2年ほどの間に、雑賀衆は鈴木孫一を棟梁として臣従し、戦国大名化の一歩を踏み出したのである。
5箇荘併せて、もともと7万石であったが、米作の改良により5割増しを達成し、実勢で10万石となったのである。
開けて、天文16年(1547年)
「皆さん、新年あけましておめでとうございます」さすがに、今までの襤褸家では問題と新しく屋敷を新築された。
広間には、個人的に臣従した者たちのほかに、居候、客将、孫一の家臣などがいた。
目当ては、牡丹鍋と鳥鍋、きよ酒などである。
「おめでとうございます」
「えー皆さんが酔う前に言っときますね、これから激動の時代に突入します、皆さんにはいろいろと仕事をお願いすることになるでしょう、ということで、今日は一杯食べて飲んでください」
「おお」
俺は、飲み食いする連中を無視して、かつ丼を作り始める。
昆布を納屋から調達した、甘みとして、酒(高級品:非常に甘いものがある)も宝蔵院経由で手に入れた、脂は猪から、かつ肉は猪、酒に漬けて臭みを抜く。
小麦粉で自然発酵のパンを作成、パン粉、鶏卵で何とか、現代のかつ丼にちかいものを製作することができるようになった。かつ丼用の鍋は自作の鉄鍋だ。
ほぼ同様の方法で親子丼もできるようになった。
使用人の未来も今日は食べる係なので、近所の奥様連中に頼んで手伝いをしてもらい、かつ丼専用の薄い鍋(スウェーデン鋼製)で量産していく。
こういう連中はとにかく
「おーい九十九うまいぞ!お代わりだ」どっかで師匠が怒鳴っている。
師匠のおかげで、興福寺の醸造部門の一部が紀伊に来てくれることになったので、名草(現代の和歌山市の地名、紀三井寺の周辺)に清酒の醸造所を製作している。
ここで、きよ酒(清酒)の製造とみりんの製造を行うことになった。
湯浅には、本格的な醤油・味噌工房を設置した。
ここまでくれば、あとは砂糖だけだが、こいつはなかなかの難物である。
まずは、サトウキビであるが、熱帯でないと難しい、琉球にありそうだが、移植は難しいだろう。
そこで、砂糖ダイコンである。
らしきものの種を納屋に見つけてもらったが、そうなのかはまだ不明である。
もし砂糖ダイコンであれば、紀伊でも栽培は可能なはずである。
主に寒冷地で栽培されるものだが、ここでも可能なはず。
難しいのは、大量に収穫するのが方法だが、そこは、前世で経験しているので(本当は、人に丸投げしただけ)問題ない、苗をポット栽培してから畑に移植すると生産が爆発的に増えるのだ、のはずだ・・・。
今、苗を栽培中・・・。
栽培する人間は、伊賀からやってきた人々で忍びでない人。
「殿、このようなところに」誰かと思えば自称副官の望月氏だ。
「殿、殿のおかげで私の眼が良くなっているようです」それは、手を川崎少年に引かれた勢源先生だった。
「先生、それは何よりです、目薬の木が効いてよかった」
「ああ、本当に殿は神の使いじゃ」なぜか泣き出す勢源先生。
「先生、もうかつ丼はたべましたか?」
「いや、まだです」
「どうぞ」木椀を差し出す。
「しかし、木の椀では、本当のどんぶりといえないのではないか?」
俺はその時気づいたのであった!
「そういえば、望月氏」
「出雲守とお呼びください」
「出雲守、甲賀に信楽焼きがあったはずだが」
「よくご存じですな、神託がござりましたか」
「おお、そうであるぞ、神はどんぶりを欲しているのだ」
「陶器なのですな」
「そうだ、職人を連れてきてはくれぬか」
「は、しかし、詳しくは存じませんが、職人は何とかできても、土はなんでもというわけにはいかないと聞いたことがありますが?」
「そうなのか、なんでも土をこねて作れんのか」
「は、拙者は詳しくございませんので、しかし、なんでもよければ、どこでもできるということになりましょう?」
「そうだな、ここでも、焼き物をつくっていてもよいことになる」
「職人に問い合わせさせましょう」
「頼む」
「うまいですな、殿、お代わりをお願いします」と椀をからにした勢源先生。
川崎少年も、ものほしそうな顔を見せる。
「わたくしもいただきとうござる」
どんぶり作りはまだ始まったばかりであった。
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