第13話 納屋

013 納屋なや


「ごめん」すでに自称副官の望月氏が玄関でいう。

別に謝っている訳ではない、挨拶である。

奥から、番頭が出てくる。


「はい、どちら様で」

「こちらは、紀伊の国、平井の荘から参られた鈴木九十九さまである」

「それはそれは」

「納屋殿にお会いしたい」

「こちらへ」応接へと連れられて行く

「主人を呼んでまいりますので、しばらくお待ちください」


・・・・

「これはこれは、遠いところわざわざありがとうございます」納屋が現れた。

「納屋殿、例のものを持ってきた、それと少し相談したいことがある」

「失礼しました、わたくしのは納屋ですが、名前はと申します」

「そうか、今井どのであったか」

「で、相談とは」

「うん、では、港まで来てほしい、船で来たのだ、例のものは、玄関まで荷車に乗せてきている、倉にでも入れておくか」

「もうできたのですか?ひょっとして簡単にできるものなのでしょうか?」


「簡単ではないと思うが、それほど難しいものでもないと思うがな」

「それでは、うちでもつくれるかも」

「今井殿、一つ教えよう」

「はい」

「この情報はただではない」

「え?」

「まあ、あとの話は、我らの相談の後にしようではないか」

相談でうんといわないと教えないということである。


・・・・

堺港。

雑賀水軍の安宅船内

「これは、南蛮ものですね、しかし、これだけの量!」と今井。

船倉には、南蛮ものとおぼしき物資が満載されている。


「買い取ってほしいのだが」

「う~ん」と今井。

「難しいか」

「まず、先ほどのの代金だけでも結構ギリギリで、こんなに早くできると思っていなかったので、それでこの量の南蛮もの、さすがに銭が足りません」

「わかった、この南蛮ものは掛け売りでよい」

「ありがとうございます、しかし・・・」

「そこで、先ほどの情報料だ、これを聞けば、今井殿は儲けることができよう」


今井の頭の中には、近ごろ噂になっている事件のことが浮かびあがった、会合衆の重役、越後屋の船が遭難そうなんしたのではないかという噂である。

だが、この数日間、堺では晴天が続いた、海があれるとも思えない。

海賊にあったのではないか?噂には尾ひれはひれがつくものである。

「何とかしましょう」

「では、此方も情報をお教えしよう、鉄砲には、火薬が必要なのは、知っておろう、火薬の原料は硝石だが、硝石はこの日ノ本ではほぼ産出しない」

硝石は日本で産出しない、しかし作ることはできたりするのだがな。


ちなみに収納ボックスには、チリ産の硝酸カリウムが大量に入っていたりするのだがな。

「わかりました、そういうことですか、ありがとうございます」

硝酸塩は水に溶けやすい性質なので、仮にできたとしても、雨の多い日本では、流されてしまうのである。だから産出することはないのである。


南蛮ものは売り上げの2割を今井がとり、8割がこちらの収入となる後払いの契約を交わす。

「私の腕にかかっているとはいえ、5千貫文はいくとは思います」


「ではよろしく頼む」

「わかりました、ところで、九十九様に依頼を受けていた、ルソンの芋とかぶについては品物が来ております、見ていただきたいのですが」



「そうか、早いな」

「ええ、明にそれらしきものがあるとのことで取り寄せてもらいました」

「すまんな」

「いえいえ、なんということはございません」

・・・


「おお確かにサツマイモであるな」

「薩摩ですか?ルソンではないのですか」

「おおそうだな、雑賀芋と名付けるべきか?」

芋はどうでしょうか?」

いやいや望月君、それは嫌だ。絶対に嫌だ。

「とりあえず、サツマイモ(カタカナ)にしておく」

蕪の方は、それが目的のものなのかわからない。

種だからである。

「種ですが、南蛮人が牛のえさにする蕪だといっていたらしいので、お試しください」

「わかった、ほかのものも頼むぞ」

「これからも納屋をよろしくお願いします」

「これからは、此方は、鈴木ではなく、紀ノ國屋きのくにや符牒ふちょうとしようと思う」

「では、紀ノ國屋さまこれからも良しなに」


こうして、少し黒い会談は終わった。


・・・・・

平井に戻ると、来客が待っていた。

近ごろは何かと忙しい。

「私は、宮郷の代表の太田左近です」と男が名乗る。

宮郷というのは、雑賀5箇荘の一つである、雑賀衆と呼ばれるのは、この5箇所の荘の集団をさす、いわゆる自治組織(惣)である。

「太田様がわたくしに何か用ですか」子供が返事を返してたので、少し驚く太田左近。

「あなたが、鈴木九十九様ですか」

「そうです」

「惣領の鈴木孫一殿に米の作り方を教えてもらいに行きましたら、その方法は九十九殿が考えたので、一存では決めかねるので、聴きにいけといわれました」

近ごろの孫一は弥勒寺山城の建築現場にいることが多い。

弥勒寺山城というのは、現在の和歌山市秋葉山である。

ちなみに平井は、紀の川(和歌山市を南北に分けている)の北側で紀伊山地のふもとになる。

弥勒寺山は紀の川の南側である。


「そうですか、いくつか条件があります」もちろんただで教えるなどということは、俺にはない。

「どういう条件ですか」

「まずは、我が十ヶ郷(平井)では、今後武力闘争を展開していく予定であります」

子供からこのような言葉が出てくるとは思いもしまい、太田の顔色が変わる。


「もちろん、十ヶ郷以外の郷には協力をお願いしたいと考えています」

「どういうことですか」太田左近は顔を紅潮させる。

「まずは、日乃本の現状について、説明させてください」

こうして、太田左近とその従者たちは、長話の被害者になってしまった。

延々と下克上と戦国時代の状況について語られたのである。


個人的に俺の家臣となった者たちは興味津々で聴いている。


今後の日本は室町時代の終焉と戦国化、下克上と戦乱の嵐が吹き荒れ、この紀伊の国も例外ではないということを切々と説明する、そして、八咫烏の神託では、紀州征伐というものが発生すれば、多くの被害が発生するという。


この男は基本的に詐欺師的な性格を有するのだが、それゆえ人をだまし、説得するのは得意であった。


「紀州征伐というのは起こるのですか」

「そうです、八咫烏大神やたがらすたいしんが夢枕に立ちはっきりと告げられました」

!」

「そうです、この米を豊作にする方法もが授けてくださいました」嘘である。

この男は基本的に平気でうそをつく。

「それで、戦乱を生き抜くために、臣下になれというのですな」幾分青ざめた太田左近。

すっかり騙されている模様。

「そうです、生き抜くためなのです、そのためには、合議制ではむりがある、それに戦上手いくさじょうずで交渉力がないといけない、こと戦となれば、我らの方が向いています」

5箇荘でも、十ヶ郷、雑賀郷は平地が少なく、海に近いことなどから海運などを手掛け、荒事にも慣れている。

他の3荘は、平地があるので農民的性格が強いのである。


「そうですが・・・」

「どちらにしても、我々は雑賀衆の武力統一を行います、今臣従していただければ、古参こさんとして今後有利になることは必定ひつじょうです、しかも、になります」

九十九としては、有能な農民は必要であった、収穫を上げる方法は知っていても、農地農民がなくてはどうしようもないからである。


「武力統一とは、どのようにして」

「種子島です、今からお見せしましょう」

さすがに、喧嘩が弱いからといって一方的に言い分を聞く必要はないと思ったのか、強気の原因をさぐろうとしているのであろう。


・・・・

元々、弓の訓練場があった場所。


20間離れたところに的がある。

射手は霜である。

前の海戦にも参加しており、越後屋丸の傭兵たちはかなり銃創をおって死んでいたが、彼の射撃が大きな原動力になった、いずれと呼ばれるであろう男であった。

ちなみに誰も呼ばなくても、俺が呼ぶので問題ない。


先の海戦では銃の威力を証明することができた。

しかし、問題も発覚した。

火縄銃は、撃ちにくいのである。

どういうことかというと、火縄銃は両手で捧げて持たないといけないのである。

霜は体が小さいし腕力も強くはないので、撃ちにくいと言ったのである。

そして、俺も気づいた、違和感を感じていた部分は、銃床が短いのである。

これでは、撃ちにくい。そこで、銃床部分を大きくし、肩にあてて支えるように改良を施した、これで両手と肩により三点で支えることができ、より安定した射撃を行えるようになったのである。


「俺は、荒部あらべ芳富よしふ。猟師をしている」太田左近もなめられてはいけないと、荒事に慣れている、この男を連れてきたのであろう、弓を持っている。

荒部は半弓を放つ、なんと矢は真ん中に刺さる。

「お見事」思わず叫んでしまう。

この程度、我々もできるというデモンストレーションなのであろう。

「荒部殿の弓は見事、どれほどの期間を修行されたのか」

「そうよな、子供の頃よりから10はかかった」

弓は威力がある戦争の兵器であるが、如何せん習得には練習が必要だった。

だから、誰でも使えるということにはならない。戦争では、基本農民を徴発するが、もちろん、弓など使えない。練習するくらいなら、米を作れと言われるに違いない。


「霜、頼む」

霜は膝たち撃ちの構えをとり、火蓋を切る。

引き金を引くとカチンと火ばさみが火蓋に落ちる。

ドーンと轟音と火花、煙が立ち上る。

その有様に、太田たちは肝を冷やして驚いた。

的を見ると、刺さっていた矢が吹き飛ばされていた。

「なんと!」今度は荒部と太田が驚いて声を上げた。


後に「白い死神」と呼ばれることになる公家顔の小男、である。

シツコイ?何それおいしいの?




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