第12話 海賊の島

012 海賊の島


この時代の南蛮人が作った日本地図には、紀伊半島は海賊の島と書かれていたらしい。

地図がしっかりしていないため、島と認識されていたのであろう。


熊野水軍は海賊もしていたらしいし、水軍のことを海賊とよんでもいたらしい。

つまり、日頃は水運業、時々海賊のような感じの生活だったのであろうか。


俺は、九鬼浄隆に自分で書いた絵を見せていた。

「これは、なんですか」と九鬼が首をひねる、そういえばなぜか、自分の書いた図面をくさされることには、慣れている。

以前にも似たようなことが何度もあったような気がするのである。


「これは、船の設計図です」

「・・・・」

「肯定ととって差し支えないようですので、先に進みます」

「・・・」

「この真ん中に走っているのが、竜骨と呼ばれる構造材になります、この構造材から肋骨のように別の構造材を配置して、そこに板を張るというものです」

「なんと!」

「詳しいことはわかりませんが、この構造でまずは小舟、それで知識経験を積んでより大型化をお願いしたい、大工は今いる連中を使ってくれればよいと思います」

もちろん、雑賀衆は雑賀水軍も持っているので、船大工もいる、技術もある。

ただし、遠洋に出る必要がなかったので、和船わせんしかない状態なのである。

因みに和船は衝突などの衝撃に弱い、この竜骨船はそういう部分で強い構造である。


南蛮船は発想さえあれば十分に実現可能なものである、ただし今は知識、経験、金がないので小舟からである。

「わかりました、やってみましょう」


「服部殿、望月殿は、友が島に物見やぐらを建築し、周囲を監視してください」

「は!」

「おい九十九、今度は何を始めるつもりや」

「兄やん、内緒や、でも水軍をちょっと借りるで」

「やばいことしようとしてるやろ」

「この前ちょっと、嫌がらせされたんで、仕返ししたろとおもてな」


こんなことを始める数日前まで、俺は、平井の鍛冶場で鉄砲を作っていた。

平井の次男三男が作る鉄の筒の底に穴をあけ、ねじをきるのが俺の仕事である。

火縄銃を作るうえで最も難しい作業の一つが、めすねじとそれにあう雄ねじの製造であった。

日本には、ねじの概念がなく、その概念を得るために、南蛮人に娘を差し出して、情報をえたというエピソードまであるそうだ。


しかし、戦前(太平洋戦争以前)から武器ばかり製造させていた俺は、もちろん銃についての知識は豊富であったので、転生するときにお願いしたものの中に、ねじ切りタップのセットをお願いしていたのである。

ボール盤とか中ぐり機とかも欲しかったのだが、電気がないと使えないし、高いものはダメと八咫烏に拒否されたが、ねじ切りセットなどはそれほど高いものではなかったのでOKをもらっていた。

だから、誰もいない隙に、鉄砲筒に雌ねじを作り、雄ねじ用の金具にねじ切りを素早く行っていたのである。

従来のやり方では、雌ねじ雄ねじとも手彫りとか、雄ねじを筒に突っ込んで型を転写するというような方法がとられているのだが、それらの手間を数分でこなすという革新性である!


「とりあえず、50丁完成だな」

「はい、そうですね殿様」この鍛冶場でも、なぜか殿様呼びになってしまった。

「殿様は兄やんや、俺は家臣」

「はい殿様」


50丁の火縄銃は1丁50貫で納屋に買ってもらう約束になっている。

2500貫、約2億5千万円相当だ、死の商人になってしまったな。

しかし、これで当分はしのげるはず。

前世では、死をまき散らす商人だったような気もするが、きっと勘違いのはず・・・。

(死をまき散らす商人ではなく、軍人で相手方からは死神と呼ばれていた。)


そもそも、この火縄銃の原価はほぼ労働力と炭代だけだった。

鉄は収納ボックスに一杯入っていた、ただし、スウェーデン鋼のため鍛接に余計に手間がかかる、硬いからな!

しかし、昔から、いや未来では、スウェーデン鋼を使った銃は、長持ちで高品質と言われることを俺は知っている。

村田銃でも、それらを使ったものだけは、珍重されたという(銃の国アメリカで)。


「じゃあ、引き続き、お願いね」と鉄パイプの大量生産を依頼して小屋をでようとするとき。

「殿」と呼びかけられた、慣れぬ!

そこには、百地がいた。

「越後屋を探らしていた者からの報告では、越後屋の貿易船が博多に到着した模様です」

「とすると、紀淡海峡をもうすぐ通るということか」

「そうなります」


そもそも、日明貿易は、神戸(兵庫の津)で行われていたが、応仁の乱以降、治安が乱れ、瀬戸内海が海賊の横行で航行しづらくなってしまった。

そこで、紀伊、四国、周防灘、博多と進むことになったのだが、神戸では遠いので堺が脚光を浴びることになる。

そして、それらの貿易で儲けた者たちが、会合衆となり自治権を獲得していったという歴史がある。


ゆえに貿易船は博多から周防灘、土佐沖、紀淡海峡という順路を進むのである。

そこで、淡路島を望む友が島に監視廠を作り、海賊をすることにした、もちろん越後屋の船だけを狙う、ほかの人には、迷惑をかけるわけにはいかないからな。

紀淡海峡は狭いので監視にはベストなポイントである。海軍の基地もあったくらいだ。


・・・

「注目!」なぜか望月君が号令をかける。

「諸君は名誉ある突撃隊員に選ばれた、皇国の興廃はこの一戦にかかっている、各員奮励努力せよ!」俺は海軍式の敬礼をすると、皆がそれを敬礼で返す。

「よし、各員乗船せよ!」停泊中の関船2隻に分乗する。

先ほど、見張り櫓から、敵船発見の報告が入っていた。


関船の操縦は雑賀衆だが、戦闘員は新雑賀衆ともいえる、次男三男の暴れ者たち(中には違うものも大勢いた)を戦闘員にすべく、剣、槍、鉄砲などの訓練を施こされた者たちである。

ただし、まだまだ訓練不足である、いずれ帝国海兵隊の精鋭になることを祈る。


そもそも、彼らは、陸上戦闘を想定し訓練されていた、船上の戦闘は想定されていなかったのである。

急遽きゅうきょ、友が島にて、船上戦闘の訓練を昨日まで行っていたところである。


「よし、海賊旗を掲げよ!」

船上に、ジョリーロジャーが掲げられる、これも急いで作らせたものである。

なんといっても、海賊行為行うのだからこれでないといかんということである。

もちろん私掠船免状などはない。ちなみにヤタガラスの旗にしようかとも考えたが、自分のやろうとしていることを考えてやめた。


敵船は紀淡海峡を抜ける、その後を海賊船2隻が追う形になる。

敵船は安宅あたけ船なので大きく、遅い。

此方は、関船で小さく細いのですぐに追いついていく。


どんどんどん、かいをこぐための太鼓のピッチが速い。

並走し彼我の距離が50mになった時、敵船越後屋丸(仮称)から問答無用で矢がいかけられる。

それを、矢盾で防ぐ。

「専守防衛のため、反撃を開始する、うちーかたーはじめ!」

全く勝手な言い草を放つと、それに、呼応してドドドと火縄銃が火を噴く。

海面が黒煙でおおわれる。黒色火薬はこれだからな!


「各砲座自由戦闘開始」

いわゆる雑賀撃ちのため、射手は同じで銃だけを交換する。

ドドド、ドドド、ドドドそうこうしているうちに、矢が来なくなっていく。

船と船の間隔が狭まり、喫水の高さの差から、銃が使えなくなると、旧雑賀衆が鉤縄を投げて、敵船越後屋丸(仮称)にたいする白兵戦の用意をしてくれる。

「よし、突撃!」

新雑賀衆と忍びたちがどんどんと縄梯子を登っていく。

俺も、自身白兵戦に参加すべく、縄梯子を登ることなく、敵船にジャンプ一閃、安宅船の防御壁に手をかける、腕力に任せてよじ登る。

すでに船内は戦乱の渦中であったが、俺はその防御壁の上を華麗にはしり、敵将がいそうな、屋敷?を目指す。

安宅船には、家のようなものが作られているのだ。

まあ、船でいえば艦橋のようなものなのかもしれないがな。

扉を一撃で蹴り破る。

「お助けを」数人の男たちが、土下座している。

「敵の兵はほぼ掃討しました」と望月が報告にやってくる。

「こいつらがまだいる」

「儂らは、船員です、ただの船員です」

戦闘員は甲板で戦闘に出ていたのであろう。

「しかし、生かしておくとまずいな、始末すべきであろう」と俺。

後生ごしょうでございます、どうかどうかご慈悲を」涙と鼻水にまみれ必死に命ごいする男たち。

「面倒くさいな、おいとりあえず、友が島の港に向かえ」

「はい、はい」

船員たちは、全員船内にいたため無事であった。


友が島の港に荷物を卸し、船は、新宮に向かうことになった。

そこで、船員を熊野水軍に引き渡し、船自体は、金になるらしいので、博多で売却することになった。


敵の攻撃により、新雑賀衆2名が戦死した。

敵兵はすべて水葬にふされた(証拠隠滅ともいう)。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る