第11話 紀伊平井
011 紀伊平井
紀州1号の鉄砲完成後、鍛冶修行を続けた孫一はその次の年、九十九が回国修行にでると言い出したのであきれていたが、自分もいくものだと思っていた、しかし、結果は、芝辻で仲良くなった、霜という熊取の地侍のせがれといってしまうという。
自分には、平井にもどれという、やってほしいことが山ほどあるとのことだった。
まずは、根来で鍛冶修行をしていた子供たちをこの平井で鍛冶をさせるように、整えること、それと、例の鶏の養鶏を行うこと、農業の振興、新宮の堀内に鈴木に加勢するように書状を送ることなど、細かいことが書かれている書状を持たされた。
「うーむ、さすがに八咫烏様の啓示といってもな、お前はまだ幼い」父佐太夫が渋い顔をしている。
「父上、もちろんですから、表向きだけです、この平井の
夢の啓示では、息子孫一に家督を譲るように促されている。
「まあ、例のないことではないが・・・」
家督の相続も書かれていることの一つである。
まだ佐太夫重意(しげおき)は若い、現役でまだまだ活躍できるのである。
しかし、ツクモが行おうとしていることは、今までの慣習やしがらみをかなり破壊することが予想される、ゆえに、新しい当主の方が都合がよいのである。
「神の意志に従おう、これから孫一お前が、平井の
「それでは、父上は雑賀城と
「おいおい、いきなり戦でもするつもりなのか」
「父上、これも八咫烏様の啓示でございますれば」かくいう孫一は14歳である。
うーむ、付き人を間違えたかと心の中で呟き、苦虫をかみつぶす佐太夫であった。
収穫の時期が近い、田んぼは大豊作であることが見て取れる。
平井荘では、みなの表情が明るい、これが、すべて新惣領の孫一の発案のおかげだと知り、多くのものが心服している。
この2年、収穫が増えている。
しかも、食い
幼いながらもよい惣領が生まれようとしていると里のものは思っていた。
そんな時、一番の腹心というか、お付きの鈴木九十九と名を変えた小僧が多くの供を連れて帰ってきたのである。
「兄やん久しぶり、帰ったれ」なぜか、紀州弁丸出しの九十九が大きく姿を変えて帰ってきた。
「九十九、やっとか、なんやってたんや」と孫一も返す。
「兄やん、いろいろな。それよりもどうな、稲の出来は?」
「ええわ、豊作やな」
「そうか、それは良かったわ」
「それより、その人らはなんな」見たことがあるのは、霜しかいなかった。
「おお、其れよ、ちょっとどうするか、相談さしてよ」
「阿呆、こっちこそ相談したいことが山積みじゃ!」
かくして、大相談会が行われることになった。
「拙者は、新宮堀内様からお
「熊野水軍の方だ、お前の言う通り書状を書いて、熊野権現の堀内様に送ったら、与力として来られたのだ」
「そうですか、遠いところご苦労様でございます」
「いえ、堀内家も厄介払いできて喜んでいるのではないでしょうか」
「そうなんですか」
話を聞くと、伊勢の国人たちといさかいを起こして、堀内に世話になっていたようである。
熊野権現の神職の家系だったが、分家が伊勢に移住したらしい。
「それで、兄やんは領主になったんか」
「九十九、領主ちゃう、惣領や、わしらは別に主人と家臣いうような形違うんやって、殿様は畠山様やしな」
「おお、畠山か、この前聞いたで、見たことないけど殿様っておったんや」
「お前な、大丈夫か?」
惣は自治組織である、畠山氏が紀伊守護職であるが、高野山、根来寺などの勢力が強く、しかも、雑賀衆などがいるため、支配力があまりないのが実態である。
しかし、一応、雑賀衆は畠山氏に従う形はとっているのが実態であった。
「とりあえず、雑賀荘全体を支配下に置きたいなあ、兄やん」
「ほやさけ、代表者みなたいなもんで、支配者違うゆうてるやろ」
「兄やん、余裕あんのは今だけや、もうすぐ激しい下克上の時代が始まるんや、ぬるいこと言うてる間ないんやで」
「お前、何過激なこと言うてるんや」
「すまんな、兄やん、わしは戦に負けて殺されとうないんや、ワイは、戦えば必ず勝つちゅうんが信条や」
「お前、ほんまに人変わってもうたな」
「そやろか」
「そや」
「雷って怖いな」
「そこやないやろ」
孫一は思った、ツクモは明らかにこんな人間ではなかった、どちらかでいうとちょっとボケたところのある少し間抜けな、こころやさしい人間だったんだが・・・。
「でよ、人一杯連れてきたんやけど、家臣にしてくれんの?九鬼さんもそうやろし」
「まあ、みなの意見を聞くというのはどうな、わし惣領やし、そういう仕事やしな」
意見を聞いた結果、九鬼さんは家臣に、柳生新次郎は客将、宝蔵院胤栄は
「わが家臣は300石相当の銭とする」と俺がいうと。
「え?」と九鬼さんが涙目である、聴けば100石であるという。
「兄やんなんとかならんの」
「お前な、300石がおかしいんやろ、いきなりそんな単位あるかい」
「ええ、そうなん?うわヤバいわ」
「仕方ないさけ、九鬼さんワイから200石相当出すわ、その代わり、兄やんよりワイのゆうこときいてよ」
「ははあ」九鬼が
「お前な、あの増えた分の石高って、俺ら二人でわけるっていうてなかったか?」
増収分の3割は前惣領から認められていた6000石の3割で1800石である。
「兄やん、もう領主やし、ええやん」
「おまえなあ~」
「家臣4人と九鬼さんの200石で1400石、何とか行けそうや」
「儂はどうなるんじゃ」「俺は」宝蔵院師匠と柳生君である。
「居候は、飯だけ、客将は兄やんからだしてもうて」
何とか、分配についてうまく完了できたと思ったのだがな。
自分の扶持が50石だった、兄やんからとおもったのだが・・・。
そして、服部半三保長、百地丹波守正永、望月出雲守が俺のあばら家を訪ねてくる。
ヤバい900石やんか、これで合計2300石、500石相当が不足となることが発覚したのである。
しかも、稲刈りが終わると、伊賀甲賀の生活苦の家の者たちもやってくるという。
当面は昨年分の1800石と今年分の1800石計3600石のうちで回すしかないと計算する俺。
しかし、鍛冶場の作成、養鶏施設などで500石分は使ってしまったらしい。
経済的
「早速で悪いが、百地殿は堺の納屋へ連絡係を派遣してくれ、それと、性悪な越後屋の監視を頼む」
「はは」
「殿、目薬の木とやらを発見し、樹皮をはぎ煎じましたぞ」と薬品に詳しい望月出雲守が報告をくれる。
「殿?」
「そうでござるぞ、我々は殿の臣下でござる」
数え11歳実年齢10歳で殿であった。
「そうか、しかし早速見つけてくれてありがとう、先生、戸田先生、望月殿の
戸田は、恐る恐る目に流し込む。
「さすがに、すぐに効果は出ないでしょうが、うまくいけば目が良くなるかもしれません」
「しかし、さすがは殿、目薬の木というものをよくご存じですね」
「ああ、これも単に八咫烏様の夢見のおかげだ、ありがたやありがたや」と拝んでおく。
本当は、別知識である。
「八咫烏様」と戸田は感動しているようだ。
「まあ、百地殿には悪いが、皆で、鍋でも囲んで今後のことでも考えようではないか」
そうして、俺は、牡丹鍋の用意を始める、どうも収納ボックスの中では、腐敗はあまり進まないようで、腐らずに使えることが、近ごろ明らかになった、非常に便利で助かる。
「どういうことでございますか」と望月。
俺の中では、酒は透明なものと決まっているが、此方では、ふつうにどぶろくや濁り酒が出てくるのである。
「何をいう九十九よ、濁り酒よいではないか」とごつい師匠。
「それにな、すみ酒は高級品じゃ、我々が飲めるものではないのじゃ」とさらに師匠が言う。
「え?師匠ひょっとして、すみ酒があるのですか」
「バカ者、もちろんあるに決まっておる、わしもたまに、忍び込んでいただいたものじゃ」
「ああ、そうでした、宝蔵院殿は、興福寺の僧でござったわ」と望月。
なんのことかわからない。
「殿はご存じないのでしょうか?
説明によると、酒は寺で作られており、大和ブランドが有名らしい。
「では、師匠、何とかして、その
「何!お前自分でつくるつもりか」
「もちろんです、俺は清酒が飲みたいんです」
「子供のくせに、何を言うておる、わしが代わりに飲んでやろう」
「では、師匠は、その南都諸白の技術者の引き抜き交渉に向かってください」
「いやいや、わしは、槍の稽古係だしな、居候故仕事はせんぞ、大和のことゆえ、新次郎に行かそうではないか」
「え、私ですか」
「鈴木家客将のお前が適任じゃ、剣術は戸田殿がおるであろう、お前は戸田殿の孫弟子じゃ、はよー行かんか、ほれ、ほれ」とつつかれる新次郎であった。
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