第10話 商人
010 商人
「私は納屋兼員です、堺で商人をしております」と商人。
「私は紀伊の鈴木九十九、回国修行をしております」と俺。
「おい、俺たちは行くぞ」と
「お待ちください、どちらのお店の方ですか?」
「越後屋だ、あんた逆らわないほうがいいと思うぜ」あきらかに
「そうですか、では私が代わりにお話しをしてきましょう」
「いや、私が行きますよ」
こうして、大店『越後屋』に二人で乗り込むことになった。
・・・・
応接間に通される、この時代珍しい
「それで、納屋はんどうなされたんや」いかにも悪人顔の越後屋がいう。
「はい、越後屋さん、
「ああ、博多で売りに出されていたんでな、こうたんや、河内の守護様にでも売りつけようかと思うてな」
「騙されたといっていたが」と俺。
「あんさん、どちらさんや」明らかに、子供がなに言うてるんやという態度が垣間見える。
「鈴木九十九、雑賀の国人だ」
「あんさん、紀伊の地侍なんか、河内の守護様は紀伊の守護様も兼任されてるの知らんのか」
「知っているが、それがどうした」やはり全然しらないのだが、もちろんそんなこと気にする俺ではないぞ。(気にした方がいいかもしれない)
「ふん、もの知らずは怖いもん知らずやな」
「越後屋さん、娘さんを私が買い戻しますので」
「いや、俺が払う、いくらだ」
ニヤリと越後屋が笑う
「50貫でこうたから、100貫でええわ」
だせないだろうという意識が透けて見える。
「100貫か」
「即金や」
「出せばいいのだな」
「出せればええのお、子供には無理な金額やな、お父ちゃんは金持ってるんか?」
「私が立て替えましょう」
「あんさんは自分の商売でもしおし、わしは小僧と話して
「証文は作ってもらえるのだな」
「ああ、ええで。字は読めるんか?」
「『今後一切、手を出さない、出した場合は反撃を受けても文句は言わない』と一筆いれてくれ」
「生意気な小僧やな、ああかまへんで」
「では、証文を作っておいてくれ、金をとってくる」
「なに?」
・・・・
「どうだ、落ち着いたか?」
別の間に、捕らえられているロシア人の少女とそのお付きの男、それと監視の輩たち。
「私は騙されたんです」
「そうか、だが売られた事実に変わりはない、俺がお前を買い戻す契約を結ぶことになる」
「働いて返します」
「ロシアに帰るのではないのか」
「母がロシア人で、博多商人の父の側室になったのですが、その母が死んでしまったので、継母にだまされたんだと思います」とロシア人の娘は顔を曇らせる。
「そうか、父親にいえばいいのではないか」
「でも・・・」何かあるのだろうか。
「わかった、お前の好きにしろ、何か縁を感じる、その男にもな」
「私は竜堂未来(みら)、彼は、ザイツエフ」
「俺は九十九だ、とりあえずよろしくな」
「お嬢様をお願いします」
とりあえず、ここまですべてロシア語である。俺はロシア語ができるのだ!
周りのごろつきの輩がおどろいていた。
・・・・
証文を読む、金100貫。
此方の言った文言も入っている
署名を入れる、越後屋も入れる
「越後屋、本当に守るつもりがあるなら、血判くらい押してくれるんだろうな」
「小僧、まず金をもらおう、血判くらい押してやる」
周囲には、金の入った包みが10個、一個10貫であった
簡単にいうと全体で375Kgであった。
一貫は3.75Kgの重さを表している。
俺が血判をおすと、青白く輝く。
ああ、やっぱり、こうなると思い、うまく袖で隠していたのである。
一種の契約魔法が発動されているのだろうと、前世の記憶がよみがえる。
こんなことなら、全財産を譲る的なことをかかせた方がよかったことに気付く。
しかし、すでに契約はなされた。
・・・・・
「これでよかったのですか?それにしても金はどうされたのですか」店を出たところで、納屋が心配そうに聞いてくる。
「納屋殿世話になったな、金は持っていたのだ、気にするな」
「私が立て替えるつもりでしたのに」この男は商人のくせに正義感の強い男なのか?
「納屋殿こそ、越後屋に目をつけられたのではないか」
「ご心配は無用です、それくらいでやられるようでは、商売の世界はわたっていけません」
「そうか、では、南蛮からの品をいろいろお願いしたいのだが、よろしいだろうか」
そもそも、堺によったのは、情報収集とともに、商人と顔をつなぐこと、そしてほしい品物を探してもらうことが主目的であったのである。
こうして、必要なものの品目を書き、一つ一つに説明を加えていく、見つけられそうな国や場所も指定する。
堺は日本で海外貿易の品物を手に入れることができる、数少ない土地である。
「変わったものをお探しですね、しかもこの国にはないのに、なぜそんなに詳しく説明がかけるのですか?」
「おお、さすがは納屋殿、抜け目ないですな」と俺。
「・・・」
「それはですな、八咫烏様のご神託なのです!」俺は勝ち誇ったようにいうのであった。
前世でも、面倒なことはすべて神のお告げで解決してきたこの男であった。
「ですが、銅だけは国内ものなのですな?」
しかし、相手はそれに乗って来なかった。
「ええ、安く買っていただきたい、できるだけ多く、此方は船でもらいに来ますので、輸送は問題ありません」
「ところで、此方もお願いしたいことがございます」
「なんですかな」
「その筒のようなものは、種子島ですかな」納屋の眼がきらりと光ったように見えた。
霜や加留羅、諏訪賀が下げているものを見ている。
「よくご存じですな、あまり出回っているはずがないのですが」
「それを一部分けていただけないでしょう」
「1丁50貫ですがいいですか」
「何丁いただけるので」
「とりあえず、2丁」
「まあ、とりあえず、取引の話もありますし、我が家でもてなさしていただきますのでどうぞ」
こうして、連れられて行く一行であった。
数日接待を受け、ロシア少女、実は12歳だったが回復したので、紀伊の平井を目指すことになった。
「ザイツエフは日本語を早く覚えるように、それと、お前は日本名『財津』だ」
財津は30過ぎの細長い大男(180㎝)だった(日本人基準からして)。
縁を感じるということは、八咫烏が何かを企んでいるということである。
この数日のうちに、財津に火縄銃を撃たせてみると、はっきりした、明らかに筋がいい。
恐ろしいのは、身長150cmの未来(大女)が撃ちたいのだとせがんだので撃たせてみると、なんとやはり筋がいいのである。
八咫烏の意志は明確だった・・・・。(いや、お前だろ!と突っ込みが聞こえる。)
こうして、旅の仲間が増えた。
周りから見ると非常に不気味に見えたであろう。
ごつい槍を持ったおっさん、目の不自由な男、金髪碧眼の大女、金髪碧眼の大男、鉄砲を持った僧兵と農民風の大男、公家顔の小兵などである。因みに、この鉄砲を見て鉄砲だとわかる人間はほぼいない。
納屋氏が何気に凄い情報力!
現代風にいうとすぐに通報されるレベルで怪しさ満点のパーティーだった。
もちろん、銃刀法違反も犯しています、鉄砲槍刀となんでもござれ。
しかし、この時代は農民ですら武装しているので当然の結果である。
出発し、一刻もたつと
「つけられているようです」と目の不自由な戸田勢源がいう。
「そのようですな」と柳生新次郎。
はるか向こうに、ごろつきのようなものたちが見える。
「結局、取り返すつもりか」と俺は吐き捨てた。
行先の方には、少し丘があり、林になっている。
「この先で襲いかかってくるのでしょう」と新次郎。
「よしでは、兵衛、蓮国、利一は藪で射撃準備、財津、未来はそのまま歩きながら早合を籠めろ、先生方は、未来と財津を守ってください」と俺。
丘を登ると、賊どもは急速に走ってくる。
「こちらも射撃体勢を整えよ」俺、未来、財津が膝撃ちの体制になる。
30名以上の男たちが走ってくる。
すでに火蓋は切られている。
「てー」賊が手前50mに到達した時点で発砲した。
3名がもんどりうって倒れる。
その他の男たちは初めて聞く轟音に立ち止まってしまう。
その時、横の藪から発砲が起こる。
あっという間に、10人以上が倒れる。
藪からの射撃は距離が近く、貫通した弾が次の人間も貫いた。
「突っ込め!」ようやく一人の男が叫ぶ。
しかしその時、早合を込めた俺がその男の頭をぶち抜いた。
続いて、第2斉射が行われ、立っているものは10人を切る。
宝蔵院、柳生、俺が抜刀して突っ込んで行く。
鎌槍が瞬く間に、三人を刺し貫けば、新次郎の剣が首を跳ね飛ばす。
俺の剣が賊の胴を真っ二つにしたとき、そこには、死体と血だまりだけが残った。
「殲滅完了、みな、戦利品をいただいたら出発するぞ」
「いやあ、ツクモはすごいね」と霜。
「何が?」
「殿、わざわざ胴切りせず、首などをねらうべきですぞ」と勢源。
「試し切りに丁度良かったので」
「
と俺の偽日本刀をほめる勢源先生であった。
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