第9話 剣豪

009 剣豪


越前一乗谷、この室町時代の終盤、この地方は栄えていた。

すでに、戦国大名の朝倉氏が越前を支配しており、京の文化を取り入れた街づくりを行っていたからである。というか京ににせた街を作ろうと努力していたのだ。


谷筋の狭い地域であるが、大変な活況であった。

その中で、俺たちは柳生新次郎の師匠、印牧(かねまき)自斉じさいの道場を探していた。


「頼もう!」この呼びかけが正しいか知らないが、使う。

すいません!では恰好が悪いでしょう?


木刀を持った門弟らしき人が出てくる。

「何ですか」いかにも怪しんでますという対応である。

「柳生新次郎がまいりましたと自斉先生にお伝えください」

「わかりました、此方へどうぞ」

と待合室?応接間?に案内される。



「よく来たな、新次郎」

いかにも、剣豪ですオーラがあふれている、野人やじんが出てきた。

「師匠、御無沙汰しております」と新次郎。


俺たち同行者をちらりとみて

「それで、今日はどうした、また修行か?」

「はい、此方の皆さまが廻国修行で、こちらに寄せていただきました」

「そうですか」

「どうしたのですか、師匠」

「ふむ、実は少しいろいろとあってな、今悩んでおるのだ」

「どうしたのですか、師匠」

とても悩みなどなさそうな野人なのに!と俺は思った。


「ここではな」

「大丈夫です師匠、この方たちは、ばかりです」

面白い方じゃだめだろと思うがな。


「実は、わしの師匠の五郎左衛門殿がな、目を患っておって、どうやら家督かとくを譲るしかないようなのだ」

「そうなのですか」

この時代、目が不自由なのは大きなハンデとなる、しかも、武士であれば戦働きが必要なので、目が悪いとそれができないのは明白である。

「しかし、たとえ目が見えなくとも師匠は強いのだが」


そんな馬鹿なことがあるかと思いつつ・・・。

「戦働きはむりでも、剣術を教えることは可能ですか?」と俺。

「もちろんじゃ、師匠はたとえ目が見えなくとも、心眼しんがんでたたかえる方ですからな、失礼、あなたは?」

「わたくしは、鈴木九十九重當と申します、回国かいこく修行中のものです、ついでに全国の人材をスカウトして旅をしています」

「はて、すかうととは?」


「失礼、人材発掘あるいは雇用と申したらよいでしょうか?」

「ということは、師匠も雇ってもらえると」

「教えることがですが」

「もちろんです、もしできなければ、わたくしがお教えしましょう」

「師匠そんなことを言って大丈夫なのですか?」

「バカ者、そんな場合ではないのだ!なんとしても、師匠に恩を返すのだ」野人は正義感の強い人間のようだ。



とりあえず、修行を許されたので、街で宿を確保し、旅の汚れを洗い流す。

風呂でなく、桶ですけどね、しかも水だし。


翌日、早速道場でガンガン木刀でたたき合う。

「新次郎殿」

「なんでしょうか九十九殿」

「木刀って硬いじゃないですか」

「そうですね」

「柳生って、ふくろ竹刀しないじゃなかったですか?」

「柳生では、木刀ですよ、袋竹刀ってなんですか」

「詳しくは知らんけど、竹で作った棒のようなものに革袋をかぶせたようなもの?に加工したものですかね?」

「知りませんね」

「諏訪賀は頑丈そうだからいいんですけど、霜君はきゃしゃなので、けがが心配なのですが」

「やめさせれば?」

「いや、最低限身につけてほしいんですけどね」

「う~ん」

「作ってみますか?」

「お願いします」


こうして、練習を中断して、竹刀を作ってみる。

竹をとってきて、割り、角やささくれを削り、動物の腱で縛ってみる。

持ち手部分に布を巻く、先端部分も皮で巻いてみる。


「これなら、寸止めしなくても大丈夫そうですね、ただし軽いのでどうでしょうか」

「まあ、あと竹は乾燥の問題と、漆で塗装すると袋竹刀になりますかね、今はふつうの竹刀ですね」

「内の道場で取り入れましょう」と新次郎。


「皆さん少しよろしいでしょうか」自斉の高弟がよびに来る。

昨日の応接間である、といってもただの板間であるがな。

時代劇の定番の畳は、とても高価であるがそんなことは知らない男だった。


見るからに、目が悪いという感じだった。

「戸田五郎左衛門様です」と自斉。

「宝蔵院胤栄」「柳生新次郎」「鈴木九十九」「霜兵衛」「加留羅蓮国」「諏訪賀利一」とみなが名乗る。

「某は戸田五郎左衛門、出家し勢源せいげんと申します」

「師匠、本当なのですか」と印牧。

「うむ、すでにかすかにしか見えん、これでは戦働きは無理であろう、家督を譲り、出家したのだ、心配をかけたな、自斉」

「師匠」自斉は涙を流した、それを感じた勢源も涙をこらえている。


・・・・・

「それで、なんの話であったかな」と勢源。

「はい、この九十九殿が、師匠を剣の師として、迎えたいとおっしゃっているのです」

「私でもよろしいのでしょうか」

内心OKですよと思っているのだが、この雰囲気では言えない。

「ぜひお願いしたいとお思います」

「捨てる神あれば、拾う神ありという、世間とはなかなかに面白い」何か思うところがあるのであろう。

「この戸田勢源、身命をかけて、お教えしましょう」

「よろしくお願いします」と俺。


印牧かねまきの眼が何も言うなと言っている、もしだめなら俺が代わりに教えに行くから、と目が言っている。野人の目力が凄い!


出発は一週間後になった、修行というのは、言い訳なので、適当に切り上げるつもりである。


勢源の世話を見るために、弟子のひとりも同行することになる。

早速、薬に詳しいハズの望月氏に「目薬の木」について記し、文を送る。

勢いで、勢源氏も300石相当で召し抱える流れになってしまい、内心、金がないと焦りが生じる。


その焦りを覆い隠し、一儲けするために、帰りに堺を目指すことにする。


紀伊への帰り道、堺へ寄り道するが、鉄砲について、勢源氏に説明し、銃手の保護のために剣豪(実際は普通の侍で可)が必要なことを説明し、組内術も必用だと説明する。

「脇差は私が得意なので、お教えしましょう」と勢源。

勢源は腰に脇差、そして、杖を突いている。杖は仕込み杖になっており、スウェーデン鋼の刀(反りがないので直剣だが)を仕込んでいたりする。



堺につく頃には、秋になっていた。

案外長い旅をしてきたものである。

堺商人と懇意こんいになって、利益を上げねば、俺が破産しそうである。

堺は自治組織、会合衆が納める自治都市となっている、財力にものを言わせて、武装兵も雇っている。

街の周囲も塀がとり囲み、堀が切られている。

簡単にはやられんぞという気構えなのだろう。


何とか、街に入れてもらい、街を見物していると何やら騒がしい、やはりイベントが起こっているのであろうか?

転生ものではやはりこういうイベントが必須なのであろう。


「離して!」白人の娘が叫んでいる。

しかし、周りの人間は見て見ぬふりである。

第一、ロシア語はわからないであろう、ただし、雰囲気でどういうことかはわかるであろうがな。


「私をだましたのね!」

「何言ってんだこいつ」

「私を返して、国に帰るのよ」

むさくるしい男たちが女を捕まえている。

「うるさいやつだ、大体何言ってるかさっぱりだ」

「お嬢様を離せ!」大型白人が怒鳴るが縛られていて手足が出せない。


「通訳してやろう、だましたのか?国に帰りたいらしいぞ」

「なんだ、お前、この女は買われた、そして、今ここにいる」

「人の売り買いか、それは許されるのか」

「小僧!死にたいのなら、死んでいくか?」

街中、まあ港だが物騒な話である。

「売られた喧嘩は買うのが筋というものか、だが死んでも文句は言うなよ」と刀に手をかける俺。


「喧嘩はいけませんよ」

そこに、若い商人が現れた。


「武力で解決した方が簡単でよいのですが」と俺。こういう輩には一切容赦したことがなかったので余計そう思う。


「二度と堺に入れなくなりますよ」と商人。

「あんな、輩が入れるのに?」

「彼らは、商人の護衛に雇われているものたちです」


堺は財力にものを言わせて、傭兵を雇い、自治を行っている。

そういう街である。

資本主義の権化だった俺の何かが蘇りそうな予感がする。

財力にものを言わせて!そう財力だ!財力さえあれば!財力!財力!金!金!金!


内心で変なリフレインはやめてほしいものである。




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