第8話 服部半三
008 服部半三
「それで、なんの用ですかな」
家長が出てきて、胤栄師匠に向き合う。
当然、一番の大人、あとは少年?ばかりである。
「ああ、貴殿が服部どのか」と師匠。
「はい、そうなりますかな」と同じくらいの年であろうか?ただ、疲れているように見える。
「実は、この子が話があるそうなのじゃ」と俺を指す師匠。
「私も忙しいのですが」当然不機嫌になるであろう。
「すいません、お時間を少しいただきます」得意の営業トークの笑顔で話を始める。
霜は、ないわーと心中で思ったという。
・・・
「ということでですね、伊賀の方をできれば家臣に、でなくても一定期間雇用したいのです」
子供の口調は普通でなかった、今まで聞いたことないしゃべり口調(営業トーク)で妙な作り笑い、中身もおかしい、自分の自由にできるのは、1800石(相当の金)なので、何人かできれば多いほど良いらしいが、家臣になるか、雇われてくれというのだ。
「今すぐにとは言いません、それと移住希望者も大歓迎です、紀伊の雑賀荘で米作以外の仕事もたっぷりありますので、どうでしょうか?」
「そのようなことすぐに返事はできませんが、保証はあるのでしょうか」思案顔の疲れた男。
「そうですね、さすがに子供の言葉ですからね、信用できませんよね」
「いや、そのようなことは」いやいや、俺なら絶対疑うわ。
「ではこれでどうでしょう」そう言って取り出したのは、明銭1貫文。
「え、どこからっていうか、今まで何処にもっていたのだ」と師匠。
ひもで縛られた明銭がだらりと置かれる。
今の価値で約1千万円でどうだ!
「ところで、私ならいくらで雇っていただけるのか」と新次郎が前のめりに突っ込んでくる。
「いやいや、新次郎殿、客将でしょう?」
「いやいや、紀伊で領地をいただけるのでしたら、私は行きますよ」
「1800石相当です、領地は持ってません」
「その私が行ってもよいのでしょうか?」疲れた男の顔に喜びの表情が生まれている。
「服部さまなら願ったりかなったりです」
「服部半三保長でございます」
「そうですか、でも、1800石相当をすべてというわけにいきません、ほかにも雇いたいものがおりますので」
「もちろんです、200石頂ければ、わが服部が家臣となりましょう」
・・・・
雇いたいが相場観がない、200石で家臣になるという。
ほんとにそれでよいのか?
「では、300石にしましょう、今は実入りが少ないですが、もちろん増やしますので増えれば、一族の人にも来てもらいましょう、仕事だけは一杯できる予定なんで」
「ははあ」服部は床にひれ伏した。
この時、俺はこの服部半三が服部半蔵だと勘違いしていたのだ。
そもそも、ハンゾウと名乗ったので、半蔵だと思っていた。
そして知っている半蔵は家康に仕えた忍者?だった。
その半蔵の父であった、そして、俺の知る半蔵は生まれたばかりの赤子だったのだ。
ちなみに半蔵は槍を使う武士で、伊賀忍者とはあまり反りが合わなかったという。
「俺も300石で」
「それで、もう一人くらい紹介してください」柳生君を無視して話を進める。
「伊賀者でよいですか」
「もちろん、できれば甲賀もお願いしたいですが」
「同じ条件でよいですか」
「ええ構いません」
「では、伊賀3家の百地丹波を連れてきます、我ら伊賀3家はもともと、服部から分かれた家でして」
伊賀3家というのは、いわゆる上忍の3家で服部、百地、藤林である。
「甲賀は望月にしましょう、あそこが甲賀の元締めですから」
「服部さんにお任せします」
・・・・
俺たちは服部家に据置かれた。
望月さんを呼んでくるとのことで、服部本人が出ていった。
「仕方がない、では九十九例のものを頼むぞ」と師匠。
「いやいや師匠、何で俺が・・・」
仕方がないのでまた牡丹鍋を作り始める。
奥さんに台所をかりて作り始める、米は、霜君が炊いてくれるようになった。
一刻後(2時間)服部氏と男2人がやってくる。
「
「
「わざわざご足労ありがとうございます」
子供が妙に堂に入るあいさつを返すので、妙な間が生まれる。
「おお、みな来られた、では九十九よ、難しい話はあとだ、鍋を食おう」と師匠。
難しい話のあとで食おうぜと思いながらも、皆の意識が囲炉裏の巨大鉄鍋にいってしまった。
「これは、なんと」
「うまい」
「ああ」
鍋は俺が、飯は霜が作った、この時代年貢は米で払うのだが、本人たちはほとんど米を食べることはできない。
だから、宝蔵院(金持ち)から米を奪って大量に持ってきている。
服部家の人間も端に座り食べている。
酒もどぶろく(般若湯といっている)も出ている。
一応説明しておくと、坊主は酒を飲んではいけないので、酒の事を般若湯、お湯でできたなにかという言い方を使ってごまかしているのである。
「これで死んでも悔いはない」少し酔っているのか、言っていることがひどい。
結局大宴会は夜遅くまで続き、朝を迎えることになる。
・・・・
「我らは、九十九様の配下とし、お仕えしとうございます」
服部、百地、望月の三人となぜか、服部家の下人の大男。
昨日の宴会で相伴にあずかっていたのである。
「このものは、諏訪賀利一と申し、諏訪神社の縁者でありますが、故郷を追われ、この地に住まいしもので、当家で預かっていたのですが、なかなかの豪のものでございます」
「殿とは何か縁を感じるのでございます」
「某も感じます、諏訪賀殿よろしく頼みます」
「ははあ」諏訪賀氏ひれ伏すのであった。
「それでは、来年の春、雑賀で会いましょう」俺たちは、目標を達成したので、次の目的地に向かう。
忍者軍団は来年春に紀伊に来てもらうことにし、それぞれ、引継ぎや後継者選びなどをしておいてもらうことにした、旅には、諏訪賀が同行する。
連絡係でもある。
「よし、次はどこに行くのじゃ」師匠は相変わらずのようである。
諏訪賀は体が大きい170センチくらい、この時代でいえば4尺5寸である。
しかも、よくよく聞くとまだ17歳(数え)であるという。
そして、体を維持するために、よく食べるのだという、つまり口減らしに出されたのである。
俺たちは、北上している。
目指すは、越前である。
柳生新次郎の師匠が、越前にいるとのことで、スカウトに向かうのである。
伊賀から近江そして琵琶湖をめぐって越前へと入る。
この間、山賊などに何回か遭遇し、試し切りや試し撃ちが行われた。
「かあー」「かあー」
カラスが鳴いている。
「賊が潜んでいる」と俺が言う。
カラスが場所を知らせてくれる。
何気に、カラスが教えてくれるのである。
さすが、八咫烏!
「射撃準備!」
霜、加留羅、諏訪賀と俺が鉄砲に弾薬がセットになった紙包みを入れる。
いわゆる
此方が、準備を開始したのを見て藪に潜んでいる賊がわらわらと道に出てくる。
火縄、火蓋を切る、点火薬OK。
師匠と新次郎は後ろで戦闘態勢、発射後に前で敵を食い止める形になる。
これが俺の考える戦闘隊形である。
「うおー」賊が走ってくる。
「てー」ドンドンドンドン4発が確実に4人をしとめる。
「霜は後退、蓮国はその援護、抜刀!」俺と諏訪賀が抜刀する。
霜と蓮国は後退する。
すでに、師匠が鎌槍で突撃、新次郎も剣で突撃を行っている。
10人以上いた賊はあっという間に、殲滅されていた。
「雑賀に来れば、雇ってやったものを」
「九十九、無理をいうな、日乃本に飢えた人間がどれだけいると思っとるんじゃ」
山賊たちも、悪い人間ばかりというわけではなく、重税と不作のせいで流民と化し山賊化したものが数多くいるのである。
「それにしても、カラスが本当に教えてくれているとは!信じられん」新次郎がつぶやく。
というのも、これが初めてではなく山賊の潜伏している場所ことごとくでカラスが鳴いたのである。スカラーレーダーとでも名付けようか?
「はは!皆、八咫烏様をあがめるのです」と俺。
「これでは、気配を探る修行の邪魔になるわ」と師匠。
そうかもしれません・・・。
スカラーレーダーは不評のようだ。
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