第2話 晴天の霹靂

002 晴天の霹靂へきれき


その日は澄み渡るような晴天、見渡せば紀の川がきらきらと輝いている。

孫一は、目の前を走る少年をなんとはなく見ていた。

少年の名は、八太やた、孫一のお付き兼友人であり、親戚である。


「おーい、孫一」八太が自分を呼んでいる。

「なんや、八太」孫一が呼び返す。


その時である、バーンという轟音がとどろいた。

目の前の八太が青白く光った。


ぶすぶすと何かが焼ける音が聞こえ、八太は倒れていた。

周囲には、今まで嗅いだことのない匂いが漂っていた。

それは、稲妻が作り出すオゾンと人間の焼けるにおいだった。


「八太!」

孫一は八太に駆け寄ったが、雷に打たれのだと、はたと気がついた。

八太の髪が焼けて、いやなにおいをさせている。


「孫一様!」その時異変に気付いた農夫が走ってくる。

「おいやん、八太が雷に撃たれたみたいや」

胸に耳を当てたが、心臓の鼓動が聞こえなかった。


その時、付き人の八太は心停止状態となっていた。

至急、心臓マッサージが必要な状態だったのだが、もちろん周囲の彼らはそんな知識を持ち合わせていないのである。

孫一は泣きながら、八太をゆするが、農夫はおろおろとするばかり、事態は急を要していたのである。


天文10年の夏の事であった。


だが、すでに死んでいる状態の八太の中では恐るべき計画が進行していた。

<システム起動、アナザーソウルインストール開始>

<失敗>

<ソウルトランスレイター起動、ソウルトランスレイト開始>

<交換率21%>

<35%>

<100%>

<ソウルトランスレイト終了>

<再起動>


「八太!やたー」孫一は泣きながら、死体を揺さぶっていた。

その時である、「あ~、やっと降下完了」

八太は息を吹きかえしたのであった。

「八太!?」孫一は驚いて、八太を抱きしめる。


<鑑定>

<鈴木孫一重秀:男:満8歳数え9歳>


「これは、これは、重秀殿、拙者は大丈夫でござる」

その言葉に、孫一は驚き、八太を突き飛ばして立ち上がってしまった。


八太はまだ子供で拙者などとは言わないし、そもそも、「にいやん」といって自分のことを兄のように慕ってくれていた、しかも、重秀はいみなであり、普通は他人が呼ばないものである。まだ付けられていないし。


「すまん、やた、でもどうしたんや、お前おかしいど」

紀州では、「ぞ」が「ど」となるのである。


八太は、怪訝けげんな表情をしたが、「相済みません、どうも、記憶の方があいまいで」


八太の言葉遣いは明らかに、おかしかった。

「八太、大丈夫か、とにかく帰ろら、お前おかしいわ」

「左様ですな、拙者少し記憶が混乱しているようでして」

数え8歳の子供がそのような言葉をしゃべるはずがないのであるが、転生したばかりのこの男はまだ気づいていないのであった。


・・・・

<やはり、ソウルトランスレイトは無理があった>

<トランスレイトで、八太の記憶がかなり飛んでしまったようです>

<さもありなん>

<まあ、適当にごまかしますので、カラス様は作戦通りに>

<相分かった>

・・・・


孫一は、その日起こったことを父に話した、八太が雷に打たれ、後に生き返ったが少しおかしいことを。


しかし、父はそのようなことはたまにあるのだという、今でいうところの記憶喪失という事態は、この時代でもたまに起こることがあり、知識のあるものであれば、重大な衝撃を受けると人間の記憶など錯乱さくらんすることはあるのだそうだ。


しかし、孫一はそれは違うと思った、明らかに、今までの八太の知識にあるはずのない語彙ごいを語り始めるなどおかしいのだ

八太は学のない田舎農民(土豪)の子に過ぎない。


そして、その晩孫一の夢枕には、金色に輝く大ガラスが現れることになる。

<重秀!>

大ガラスは黒かったが、後光がさしているので金色に見える。

<重秀よ!>

カラスが自分の名を呼んでいるらしい。

「はい、カラス様」

<儂は八咫烏やたがらすである>

よく見ると足が三本あることにきづいた。

「八咫烏様」

<うむ、重秀よ、儂は悔しいぞ>

「何がでございますか?」

八咫烏がなにを言っているのかわからなかった。

<そちは、藤白鈴木の流れをくむものである>

「はい、そう聞いています」

<藤白鈴木は、熊野権現の神職の家系である>

「はい、そう聞いています」

<そちは、いつも何をおがんでいるのか?>

その時、孫一はやっと言葉の意味がわかったのである。

「申し訳ありません、南無阿弥陀仏のことですか?」

<そうである、そちは、神職しかも熊野権現の流れをむものでありながら、南無阿弥陀仏と唱えるのか?>

「しかし、南無阿弥陀仏と唱えるだけで、極楽浄土にいけると教えらました」

<重秀!そちの姓はなんであるのか!>

カラスの怒りが伝わってくる。

<よく考えよ、自分でよくみてよく考えよ、重秀、我が旗を掲げ、日ノ本に知らしめるのじゃ、期待しておるぞ>

<お、そうじゃった、八太を大事にせよ、なんでもあ奴に相談するのじゃぞ>

カラスは消えていった。


孫一はバッと飛び起きてしまった。

いやな汗がいっぱい流れていた。


藤白鈴木は、鈴木孫一の本家といわれており、もともとは、熊野三山の神職の家系である。今、日本中にいる鈴木姓発祥の地が現在の和歌山県海南市藤白神社内にある鈴木神社といわれている。


鈴木家の家紋は八咫烏であったが、近ごろはやりの一向宗に入信するものが多いのであるが、孫一もその流れで入信しようとしていたのである。


しかし、言われてみればその通りであり、神職の家系が仏教にのめりこむなど妙な話である、しかも家紋は八咫烏である。

なんともちぐはぐな感じである。


孫一はそんなことを考えつつまた寝入っていしまった。

・・・・

<システムダウンロード中>

<スキル 身体強健を取得>

<スキル 武術の才能を取得>

<スキル 収納ボックスを取得>

<収納ボックスに物資転送中>


<破損した身体を強制的に治療中>

<八太の記憶を取り込み中>


<治療終了>

<身体構成変換:MODEL 99TAKANO>

<変換中>


その夜、鈴木八太だったものは、就寝中に完全に別のものへと作り替えられてしまったのであった。



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