九十九後伝 八咫烏血風戦記 畿内覇者編

九十九@月光の提督・完結

第1話 プロローグ

001 プロローグ


それは、白い部屋だった

目の前には、発音不能で眼だけが隠された状態の女神が立っていた。

いわゆる目隠し女神と呼んでいた女神である。


「ご苦労様でした、見事目的をされました、ほめて遣わします」と女神。

「#$%&女神よ、俺は死んだのか」

「大往生しました」


「そうか」

大変な時代に生まれ、戦い抜き、見事功を成し死んだらしい。

「これで、通常の輪廻に戻しましょう」

「そうか」

「今までの、能力を封印します、残念ながら、あなたの魂に描かれた文様は消すことはできませんが、私がパテで埋めておきましたので、次の生では発動することはないでしょう」

なんとも、不思議な言葉が出てきたものであるが、心はいでいた。


人の魂は、死ねば、きれいになり輪廻してゆくとされている。

だが、俺の魂はある理由により消えない術式が刻まれているため、神ですら消し去ることができないらしい。


「九十九ご苦労様でした」

「まあ、楽しかったのでよしとします」

女神の目隠しが解除されると、その美しさで魂が魅入られる。

「あんた、すごい美人じゃないか」

女神はニコリとするそして、意識がシュワシュワと消えていく。


仕事が終わった満足感も炭酸のように消えていく。

そう、すべてが完了し、調和の世界へと何も持たずに出発していくのだ。


・・・・


だが、まだ白い部屋だった。

「おい、今までのはなんだったんだ」

満足感につつまれて、消えていきかかっていた俺の意識は、また、白い部屋にいたのだ。


「カアー」

目の前には、人の大きさほどのカラスがいた。

巨大カラスの目には知性の光があった。

「カアー」

「カラスに友達はいなかったがあんた誰だ」

「ふむ、わしはヤタガラスである」

よく見ると、足が三本あった。

「わかった、次はサッカー選手に転生しろっていうやつか!」

「よし、では名前は翼でお願いする」


一呼吸おいて。

「行くよ!岬くん」

「カアー」

カラスは首を振っている。

違うらしい。


「ところで、俺って通常の輪廻に戻る予定なんですけど」とギャル風に言ってみる。

「わしは、ヤタガラス、神獣である」

「人の話聞いてる?」

「おぬしの活躍は見ておった、主はよく紀州にきておったからな」とカラスはいう。


前世でのことのようである。

前世では、ある理由から和歌山をよく訪問していた。

「それで、これが通常の輪廻でいいんだよね」

いな

「約束が違うぞ」

「カー、わしは何も約束していない」

「断る!」

「カアー」カラスは怒り気味に鳴く。

「うんざりだ!」

「まあ、そういうなお前のようなものはなかなかいないのだ」

「かあー」怒りに任せて、いってしまった、決してカラスのまねではない。

「ふむふむ、わかってくれたか」

「わかるか~い!」


「お主のつぎのみっしょんは、戦国時代だ」

「やかましいわ!」

「こころして、挑んでほしいのじゃ」

「カラス野郎、俺のいうことをききやがれ」


「お主のみっしょんは、このわし、ヤタガラスを後世に知らしめることだ」


「カラス、俺は断るといっているのだがな」


「成功を祈る」


「じゃねえよ」


「報酬は」

「報酬は?」と俺。


「考えていなかったのお」

「ないんか~い」


「バカガラスどの、つつしんでんでお断り申し上げる」


「今無礼なことを考えておったろう」とカラス。

いや、はっきりといったけどな。


「わしには、貴様の考えが読めるのじゃ」

「それは重畳ちょうじょう、でははっきりとおわかりかと思いますが、お断り申し上げる」

だからはっきり言っているのだがな。


・・・・・


不毛な論争が、数時間にわたり続く。

「しつこい!このカラスが!」

「無礼者!」

俺の魂は、大ガラスと殴り合いを演じていた。


魂で殴れるのかって?

もちろん、帝国軍人の魂は伊達ではないのである、精神一到何事かなさざらん。

「おぬしのようなものが、通常の輪廻などできるわけがなかろうが」

カラスの翼が俺の魂を殴りつける。グヘ!


その一言は、俺にとって衝撃だった。

「なんだと!」

「愚か者が、すでに規格外のお主が、普通にいけるわけがなかろうが」

「ちょっと待て!」

「なんだ」

「今の話は本当か?」

「何がだ」

「普通に行けるというところだ」


「ああ、お主は知らんだろうが、すでに通常からはみ出たものだからな、おぬしは、規格から外れている。商人の真似事もしておったからわかるであろうが、規格外品ははねられる、ぬしは、日乃本の規格を統一したであろう、魂にも規格があるのじゃ、馬鹿者が~」


「なんだと、だが、女神が」

「ああ、規格品にするべく偽装していたが、すぐにはねられるじゃろうて」


「女神は、魂の洗浄、製品チェックの方法を詳しくは知らんであろう、女神の知らん方法で規格外ははねられる、おぬしは規格外である、そもそもそのような作業に女神は入らんのじゃ、現場の仕事は、儂ら神獣がこなすことが多いのじゃ」


・・・・・


「このままでは、おぬしの魂は、再生いきだ、つまりはに回される」

すごく嫌な表現が現れた、リサイクル、自分の魂に使われるのはためらわれる表現だ。

しくはないのか、お主は、すでに規格外の能力をもっているのに、完全に消されるのだぞ」


「カラス様」

「ヤタガラスである」

「ヤタガラス様」


「はじめからそのように素直なおぬしでいてほしかったのう」

「それで、わたくしは何をすればよろしいのでしょうか」


・・・・・

「なるほど、戦国時代で、というわけですね、しかも、ヤタガラスの家紋の一族、つまり、雑賀党ですな、もちろん、わたくしは例のゲームも精通しておりますので名前ぐらいは知っておりますぞ、ですが信長になれれば、天下統一も簡単かと存じます」


「それでは、儂の真影が広がらぬではないか」

「いえいえ、わたくしは、織田家の紋をヤタガラスに変更いたしましょう」

「駄目じゃ、影響の大きい人間になるのは、難しいのじゃ」

「では、武田はどうでしょうか、信玄公の息子の四郎勝頼殿であれば、少し有名どころから外れ、なおかつ影響力が広がらないのでは?」

「駄目じゃ、武田菱であろうが」

「だから、私が大名になったら、変えるというておろうが」

「だから、大名になるようなものには成れぬというておるに」


不毛な論争が再発したが、やがて収束する。

結局雑賀党のままであった。


・・・・・・

「期待しておるぞ」

「は、ですが、命を張るにはいささか、心もとなく存じます」

「何が必要なのか?申してみよ、技術水準を超えるものは出せぬがな」

「では、とりあえず銭ですな、何事もまずは銭ですからな」


「うむ、では千貫文を与えよう」

「今一つ貨幣価値がはっきりしませんな」

「現代の一億円くらいであろうかの」

「さすが、ヤタガラス大神であらせられます」

「しかし、金だけでは厳しい戦国時代は生き抜けませんな、何かこう、強くなるとか、健康になるとかはないのでしょうか」

「うむ、おぬしはそもそもスキルに「強健」があり「武術の才能」を持っている、わしの力でそれを、にしておいてやろう」

「おお、さすが、ヤタガラス大神であらせられます」

「しかし、雑賀党ということは、鉄砲でございましょう、鉄砲には必要なものが要りますぞ、ぜひ御下賜ごかしたまわりますように」

「なんのことじゃ」ヤタガラスはおおように答える


「は、では、早速ですが、まずは、銭を入れておくスキル「インベントリ」でございます」

「うん、

「では、申し上げます、まず鉄でございます」

「うむ」

「ただし、大神たいじん様、日本の鉄ではだめでございます」

「何!」

「日本の鉄は、硫黄が含まれておりますれば、硫黄は鉄をもろくしますので、だめなのでございます。そこで、現代の生産品のスウェーデン鋼でお願いします、インゴットで10トンほど」

「瑞典のはがねか、しかし10トンとな」

「状況によっては、もっと必要かと存じます」

「大神さま、あとは、硝酸カリウムです、ああ硝石のことです。これは、日本では産出しませんので是非とも必要なのです」

「注文の多いやつよの」

「チリに豊富に産出されますので、大神のお力で何とかしていただけますようにお願いします」

智利ちりとな」

「あとですね」

「なんとまだあるのか」

「はい、これは大変大事なものでございます」

「なんじゃ」

「雷三水銀になります」

雷汞らいこうか」

「左様にございます」

「やけに詳しいではないか」

「もちろん、帝国軍人でありましたので」


そのほかにも、いろいろと金属などをお願いして、条件闘争はこちらが圧勝する。

やはり所詮は鳥である。


「では、鈴木重秀に転生ですな」

「いや違うぞ」

「では、鈴木佐太夫ですか」

「うむ、さすがにどころではいろいろと目立つのでな」とカラス。

「しかし、雑賀党でないと、旗指物に八咫烏は使えませんぞ」

「うむ、大丈夫だ、鈴木重秀のいとこの友達に鈴木がおるから、そやつに転生させる」


「大神さま、それって、他人では」

「うむ、そうともいうが、遠い血縁だからな、気にするでない、では行くぞ」

周りが光始める。

「降下準備よし!」

「行くがよい!」

こうして俺の意識が失われていくのであった。

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