幕間 狙撃


 互いの剣と剣が激突する。

 凄まじい剣撃の応酬。剣と剣が激しくぶつかり合う度に火花を散らしていた。

 クラウディオとヴォルフの実力は拮抗している。


(こんなことならマルクスに魔剣を教えてもらうんだったな!)


 お互いに少し距離を取り合うと、ヴォルフが胸元から何かを取り出した。


(まずい、林の中へ!)


 クラウディオは横っ跳びすると、耳を痺れさせるような鋭い音が聞こえた。そのまま全速力で林の中へ身を隠す。


「あれはマスケット銃なのか? あんな小さいマスケット銃見たことねぇぞ。片手で持てるなんてふざけんなよ」


 パン! パン! と何度か鋭い音が聞こえて、近くの木に銃弾がめり込んでいた。


(簡単に連射してやがる。あんな小さいくせに普通のマスケット銃よりも性能が優秀だ。小さい銃とヴォルフ、逃げるのは難しいか。戦うしかねぇな。弾が飛び出すってことは弾切れが必ずある。そのタイミングで仕掛ける)


 クラウディオは林の中をわざと音を立てながら走り出す。

 その音に反応して銃弾が飛んでくるが、クラウディオは決して止まらない。


(一、二、三、四、五。連続で五発か。五発目の後に少し間があるな、弾を入れているはずだ。その隙を狙うしかない。良し、動け!)


 魔力操作で身体を最大強化して林の外に向けて走り出す。

 発砲音が響き、銃弾がクラウディオの近くを通り抜けて行く。


(弾なんて速すぎて見えねぇよ。そんなもん怖くねぇ!!)


 最後の発砲音とほぼ同時にヴォルフのいる林道へと出る。

 ヴォルフは銃の弾を入れ換えていたが、クラウディオに気がついて銃を捨て剣を持つ。


(構えが遅い。これで仕留めてやる)


 クラウディオは首に狙いを定めて渾身の力で剣を振る。

 首に当たる寸前でヴォルフが何とか自分の剣で防いだが、クラウディオの攻撃は逸れて、ヴォルフの左腕を抉った。

 致命傷ではないが、かなりの深傷だ。ヴォルフが堪らず距離を取った。

 クラウディオはじりじりと間合いを詰める。


(奴はさっきまでのように動けない。あの小さな銃もあそこに落ちている。今度こそ、仕留める)


 間合いを詰めようと走り出した瞬間、クラウディオは腹部に途轍もない衝撃を受けて吹き飛んでしまう。


(何だ? 体が痺れる。腹が熱い、痛ぇ)


 恐る恐る自分の腹部を確認すると、血が噴き出していた。


「俺は撃たれたのか!? どこから撃たれた?」


 林道にはクラウディオとヴォルフしかいない。考えられる狙撃場所は林の中からだ。


(ヴォルフ以外にももう一人いやがるのか。こんな正確な狙撃ができる奴なんて知らねぇぞ。道の真ん中にいたら、良い的だ。何とか逃げるしかない)


 魔力操作を腹部の出血を止めるために使い、この場を去ろうと馬のもとへ急ぐ。

 何発か弾が飛んできたが、全てクラウディオから逸れた。

 ヴォルフの様子を確認したが、左腕を押さえて静観しているようだ。

 馬から馬車のハーネスを外して、クラウディオは馬に乗る。馬の腹を蹴って、左側の木々に沿って走り始めた。


(狙撃はおそらく木の上からだ。左か右かどっち側かは分からねぇけど、木が邪魔で狙えねぇだろ)


 クラウディオは腹部を触って言う。


「いや、もう狙う必要もねぇか。クソッ、ふざけんなよ。マルクス、お前と同じになっちまったじゃねぇか」


 クラウディオは自分が助からないと確信して思わず小さく笑った。



 ◇◇◇



 ヴォルフが立ち上がると、林の中から大きな銃を持った仮面の女性が現れた。


「ふっふふふ、危なかったですね。傷は大丈夫ですか?」

「テラム、お前か。どうしてお前がここにいる?」

「私もあなたと同じですよ。あなたにゴットハルト陛下から命令があったように私も教皇様からヴェルナフロ侯爵の殺害依頼がありました。ふっふふふ、すいません。あなたの手柄を横取りする風になってしまいましたね。怒っていますか?」

「手柄などどうでもいい。皇帝陛下の下知が絶対だ。ヴェルナフロ侯爵が死ねば、問題ない」

「ふっふふふ、流石、皇族の忠騎士。手柄よりも任務達成できたかを気にされるんですね?」

「当然だ。俺は皇族のためにある」

「そうですか。では、任務達成おめでとうございます。ヴェルナフロ侯爵は死にますよ。あの傷を癒せるのは聖女しかいませんが、聖女は遠くにいます。、カイル殿下と地方巡幸の最中です」


 ヴォルフは小型銃を回収してこの場を立ち去ろうとする。


「待ってください。お訊きしたいのですが、その銃はどうでした? 実は私たちの組織が作った銃なんです。火薬の代わりに魔力を使用し、ヴィスト帝国で開発された連射式リボルバーを採用しました。銃身後方の円筒が特徴です。各国に売り出そうと思っているのですが、実験回数がまだ少ないのです。ヴォルフ様、使い心地などを教えていただきたいのです。どうでしたか?」


 ヴォルフはテラムを一瞥して何も言わずに去って行った。

 一人になったテラムは全く気にしていないようで微笑みを浮かべて言う。


「ふっふふふ、人殺しは得意なようですが、相変わらず会話は苦手なようですね。感想はまたの期待ですか、残念。さてさて、ヴェルナフロ侯爵が死んだら、この国は皇帝派の支配へと更に加速するのでしょうか? 世界が前進する、私たちはそのトリガーとなる。とても楽しみですね。ふっふふふ」









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