第102話 決闘


 私とパウラお姉様は帝都グランディアから少し離れた平原に来た。この場所で決闘を行う。

 平原には剣を持つ五十人ほどの人たちがいた。長い耳で美麗な顔立ちの人たちがエルフ族、獣と人が混ざったような姿をしているのが獣人族。丁度半々くらいいるだろうか。


「フレイヤ、行きますわよ。ザックバーク侯爵です」


 ザックバークがニタニタしながら私たちを待っていた。パウラお姉様と共に近寄る。


「ザックバーク侯爵、シオンはどこにいますか?」

「シオンはあそこにいますよ。来るなと言ったんですがね。どうやらフレイヤ嬢の負ける姿を見たいらしい。降参するなら今のうちですよ」


 鎖で拘束された傷だらけのシオンがいた。シオンの両脇にはザックバークの部下がいる。

 シオンが私に気がついて何かを叫んでいたけど、ここからだと聞こえない。

 もう少し我慢して、必ず助けるから。


「シオンのあの傷は何?」

「ああ、少し躾をしただけですよ。気にしないでください。私は養父なので教育と言った方が正しいですかね」

「ふざけるな!」


 剣を抜こうとして、パウラお姉様に止められる。


「まだ決闘は始まっていませんわ。始まってから、正々堂々と斬りなさい」

「フッ、馬鹿なことを。私の武器は戦闘奴隷五十ですよ。あなたたち二人で勝てるわけがない。私は後ろであなたたちの斬り刻まれる姿を見物していますよ。せいぜい頑張ってくださいね」


 ザックバークは笑いながらエルフ族と獣人族の後ろに下がった。


「フレイヤ、怒りに支配されるのは駄目ですわ。冷静になってください」

「はい、止めてくださってありがとうございます」

「では、援護はわたくしに任せてください。あなたは前に進むのみですわ」

「はい!」


 私はランドバード伯爵がいないことに気がついて辺りを見回す。

 決闘総監だからいるはずなのに。いないのは変だ。


「どうしました?」

「決闘の合図はランドバード伯爵がすることになっていたのですが、どこにもいません」


 パウラお姉様は目を見開き声を上げる。


「剣を抜くのですわ!」


 押し寄せる複数の殺気を感じて剣を抜く。

 私たちの反応が遅れて獣人族の集団に囲まれた。


「私たちには合図なしで決闘が始まったようですわ。フレイヤ、行きますわよ」

「はい」


 私とパウラお姉様は前後に分かれて、獣人族へ突撃した。



 ◇◇◇



 魔力吸収と魔力操作で身体を強化する。

 獣人族は数の多さを活かして前後から私を剣で斬ろうとする。

 前後に挟まれると、私は右へ動き、前にいる獣人族の胴を横薙ぎで斬る。そのまま振り返り、後ろの獣人族に剣を斬り下ろす。


 獣人族の数は減っていくのにエルフ族は後方から動こうとしない。連携ができていないのは私たちにとって好都合だ。


 斬り進んでいくと、私の前に獣人族の巨体な男が立ち塞がる。この獣人族たちの中で一番大きい。

 獣人族の男は剣を捨て、鋭い爪で私を攻撃する。

 受け止めるのは難しいと判断し、後ろに下がりながらその攻撃を躱す。

 獣人族の男が大きく腕を振るのに合わせて懐に入り、横薙ぎで斬り倒す。


「フレイヤ! 前へ跳びなさい!」


 パウラお姉様が声を上げた。


 前へ大きく跳び、空中で後ろを振り返る。

 大きな木のつるが私が立っていた場所でうごめいていた。

 あれは何? 魔法?


 私はエルフ族の集団を見た。

 一人一人がぶつぶつと口を動かしている。魔力の反応も見て取れた。


「パウラお姉様、おそらく妖精魔法です。気をつけてください」

「分かりましたわ。左右から攻撃しますわよ!」


 数の少なくなった獣人族を放って置いて、私は左からエルフ族に向かう。

 私を近づかせないように地面から木の蔓が伸びて襲ってくる。

 剣先から魔力を放出して木の蔓を斬り、前に進む。


「魔力吸収、魔力操作」


 身体強化で速さを上げて、木の蔓を躱す。

 距離が近くなると、エルフ族の男一人が私に向かって来た。


 エルフ族の男の剣撃を剣で受け流して、肩を剣で突き刺す。

 抜こうとしたら、そのエルフ族の男が両手で私の剣を力強く掴む。

 すると、左右からエルフ族の男二人が私に斬り掛かる。

 咄嗟に自分の剣を離して、後ろへ跳んで左右からの攻撃を躱した。


 エルフ族の男二人が私を追撃する。

 体を揺らしながら上手く攻撃を躱して、何度も躱す。一人が大振りになり、その腕を掴んで投げ飛ばした。更に剣を奪って、両脚を斬り裂く。

 残り二人も斬って、エルフ族の集団へと向かう。


 エルフ族の集団は右からの攻撃に応戦していた。パウラお姉様に意識が向いているみたいで、私への反応が遅れている。

 エルフ族の集団に左から入り、何人か斬って、パウラお姉様と合流した。


「フレイヤ、先に行くのですわ。この数でしたら、わたくし一人でも問題ありません」

「獣人族もまだ残っています。私も残った方が……」

「不要ですわ。あなたはザックバーク侯爵のもとへ行きなさい」

「分かりました、ありがとうございます」


 私は全速力でザックバークのもとへ向かう。

 気配を感じて振り向くと、傷だらけのエルフ族数人が追って来ていた。

 エルフ族が必死になって戦う理由をロゼから聞いたことがある。この人たちも誰かを人質に取られているのかもしれない。

 そうだとしても、私はシオンを取り返すためにあなたたちを斬る。


「魔力吸収、魔力操作」


 身体強化して、追って来たエルフ族を全て斬り伏せる。

 地面に倒れたエルフ族たちに目礼して、先へ進む。

 人の背中が見えた。ザックバークだ、逃げようとしている。逃がすもんか!


 私はザックバークの前に立ち塞がり剣を向ける。


「終わりよ、ザックバーク」

「ふざけるな、あれは私のものだ! 下級貴族の分際で私楽しみを邪魔しやがって、ワアァァァーー!!」


 ザックバークが剣を振り回して向かって来る。不細工な動きで隙だらけだ。

 容赦はしない。こいつのせいでシオンや多くの人たちが苦しめられている。

 私は剣を構えて、ザックバークの空いた胴を横薙ぎで深く斬った。

 胴から勢い良く血を流して倒れると、ザックバークは直ぐに息絶える。


 色んな人に手伝ってもらって、大勢の人を斬ったのに、ザックバークは呆気なく死んだ。

 何だか納得できない気持ちがあるけど、これで決闘が終わった。
















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