第101話 強力な助太刀
私は居間で決闘の条件を記したランドバード伯爵からの手紙を読んでいた。
決闘の条件は大きく三つ。
相手を戦闘不能、敗北を認めさせた者を勝者とする。戦闘不能について、生死は問わない。
武器は剣のみ、魔法の使用は可能とする。
決闘の助太刀は人族一人のみ。人族以外の異民族は制限に含まれない。
「決闘に懸けるものはザックバークがシオンで、私はルーデンマイヤーの爵位」
何か大きなものを要求されるとは思っていたけど、もし負けたら……
私は首を横に大きく振って、悪い考えを振り払う。
「フレイヤ、決闘の条件が確定したのね、見せて」
「これです、お母様」
お母様が黙ってランドバード伯爵からの手紙を読む。
「三つ目が気になるわ。ザックバーク侯爵は異民族を自分の代わりに戦わせる気ね」
「やっぱりそういう意味ですか。でも、大丈夫です! 私は必ずシオンを取り返しますから」
「フレイヤ、ごめんなさい。いつもあなただけを戦わせているわ。まだ魔法が使えたら、私も一緒に戦うのに」
「お母様、謝らないでください。むしろ、家に迷惑を掛けて申し訳ございません」
「覚悟を持って決めたことなんでしょ? フレイヤこそ謝る必要なんてないわ。あなたはルーデンマイヤーの当主になるんだから。私はフレイヤの力になるだけよ」
「お母様、ありがとうございます」
ドアがコンコンと鳴って、お母様が返答する。
「どうしたの?」
「パウラ様がいらっしゃいました」
「分かったわ、お通しして」
私は驚いてお母様に訊く。
「パウラお姉様がどうして?」
「もちろん私が呼んだのよ。フレイヤの助太刀を頼んだら、快く引き受けてくれたわ。パウラ嬢がいたら、心強いでしょ?」
「はい、とても心強いです!」
パウラお姉様と一緒に戦えたら、絶対に勝てる。でも、一つ心配事がある。
「ニークリャーギ男爵は宜しいのでしょうか?」
「問題ないわ、ニーグリャーギ男爵には説明済みよ。カルバーン侯爵も当然承知しているわ」
「そうだったんですね。お母様、本当にありがとうございます」
「お礼なんていらないわ、母親が娘たちのために動くのは当然のことよ。パウラ嬢に挨拶をするわよ」
「はい!!」
私とお母様はパウラお姉様のもとへ向かった。
◇◇◇
木剣を構えて、パウラお姉様と対峙する。
決闘について話し合ってから、パウラお姉様と軽く打ち合いをすることになった。
お母様は屋敷から私たちの打ち合いを見ている。
魔力操作で身体強化して、木剣を振り下ろす。しかし、私の攻撃は難なくパウラお姉様に木剣で受け止められる。
近い間合いのまま、木剣を何度も打ち合う。
「フレイヤ、このまま話せますか?」
「え? あ、はい。何でしょうか?」
「コルネリア夫人の前では快く協力すると言いましたが、実はフレイヤに受け入れてもらいたいことがあります」
パウラお姉様が私に要求するなんて変だ。もしかして……
「カルバーン侯爵が何か言っているのですか?」
「その通りですわ、良く分かりましたね」
何となくそんな気がした。カルバーン侯爵は善意だけで私たちを助けようとはしない。今まで私たちの手助けをしてくれていたけど、必ず何か自分が特になることを考えていると思った。
「カルバーン侯爵の要求とは何でしょうか?」
「決闘でフレイヤが目立つことです。他の貴族の密偵たちが決闘の様子を隠れて見るはずです。その密偵たちにフレイヤの強さを知らしめて欲しいのですわ。
「全力で戦いますが、それは相手次第になると思います。ザックバークが弱い相手を用意するわけがありません」
「
「エルフ族と獣人族…… パウラお姉様はどうして戦う相手のことを知っているのですか?」
「カルバーン侯爵から聞きましたわ。あそこの密偵は優秀ですから」
戦う相手が強くないのは良かった。だけど、エルフ族と獣人族の人たちは多分ザックバークの奴隷になっている。正直、戦いにくい。
「フレイヤ!」
パウラお姉様が木剣を強く振って、私を後ろへ下がらせた。
「パウラお姉様?」
「同情は止めなさい! 情けは命取りになりますわよ!」
「ですが、相手は……」
「フレイヤ、非情になりなさい。あなたは強いですが、優しくあり過ぎますわ。戦う相手に優しさなど必要ありません。あなたは大切な家族を取り返すために戦うのでしょう?」
パウラお姉様の言う通りだ。相手が誰であっても関係ない。
私は木剣を構え直して言う。
「はい! 私はシオンを取り返します! パウラお姉様、打ち合いの強度を上げてください」
「分かりましたわ。怪我しない程度でフレイヤに付き合います。フレイヤも
パウラお姉様としばらく打ち合って、私は闘争心を大きく膨らませた。
そして、決闘の当日を迎える。
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