幕間 決闘総監の協力


 ザックバーク侯爵は自ら客人を屋敷へ招き入れた。


「ご足労お掛けして申し訳ないですね、ランドバード伯爵」

「そんなことありませんよ。私は決闘総監ですから」


 客間へ移動し、ランドバード伯爵が先に口を開く。


「しかし、大変なことになりましたね、まさか決闘とは。ザックバーク侯爵、勝算はあるのですか?」


 ザックバーク侯爵はニヤリと笑みを浮かべて言う。


「ありますよ。それに、あなたは協力してくれるのでしょう?」

「確認されるまでもありません、当然です。として手助けさせていただきます」

「それは良かった。決闘総監であるあなたの協力があれば、私は勝ったも同然ですね」

「決闘の条件をザックバーク侯爵の有利にすることはできます。実際に見たわけではありませんが、フレイヤ嬢は強い。並の帝国騎士では彼女に勝てないと聞きました。ザックバーク侯爵が戦うわけではないですよね?」

「もちろんですよ、あの憎たらしい娘と私が直接戦うわけがありません。ランドバード伯爵、私がブリュノール王国の者たちと懇意にしているのは知っていますよね?」

「はい」

「ブリュノール王国の者たちから調教済みのエルフ族と獣人族の奴隷を買い取りました。その数は合わせて五十です。いくらあの娘が強かったとしても、数で圧倒すれば良いだけです。決闘の勝者は敗者の生殺与奪は自由ですよね?」

「…… ええ」

「もしかして、獣人族が気になりましたか?」


 ザックバーク侯爵がニヤニヤしてランドバード伯爵を見つめた。


「どうして分かったのですか!?」

「獣人族と聞いて、表情が少し嬉しそうでしたね。あなたとは長い付き合いです、好きなものへの反応は分かっています。実は友人のあなたのために、四肢を切り落とした獣人族の奴隷はいつくか用意してあります、どうぞ持ち帰ってください」

「ありがとうございます、それは嬉しいですね。ザックバーク侯爵には勝ってもらわなければ困ります。の友人たちも私と同じ気持ちですよ」

「私は味方が多くて心強いですね。さて、そろそろ私に有利な決闘の条件を一緒に考えていただけますか?」

「はい、喜んで」


 ザックバーク侯爵はランドバード伯爵と共に決闘の条件を練り始めた。



 ◇◇◇



 いつもの嫌な気配がしてシオンはゆっくりと体を起こした。牢屋の柵越しからザックバーク侯爵が満足そうな笑みを浮かべて自分を見つめている。


「シオン、あなたに良い知らせがあるのです」

「良い知らせ?」

「私とフレイヤ嬢はあなたを懸けて決闘をすることになりました」

「決闘!? あなたがフレイヤ様に勝てるわけがないです。まさかフレイヤ様の強さを知らないのですか?」

「知っていますよ。だから、エルフ族と獣人族の奴隷を五十ほど用意しました。一人と戦闘に長けた調教済みの奴隷五十、負けるわけがない」


 シオンの顔が下を向いてしまう。


(数が多い。いくらフレイヤ様でも……)


 シオンはザックバーク侯爵のもとに駆け寄って柵越しから言う。


「決闘は止めてください! 私はどうなっても構いません!」

「止めませんよ。あなたを私のものにするにはフレイヤ嬢の存在が邪魔です」

「あなたのものになりますから、どうかフレイヤ様だけは!」


 ザックバーク侯爵が柵の間からシオンの腹部を殴る。

 シオンは腹部を押さえて膝をついた。


「真実のない言葉はいらないです。私は本当のシオンが欲しいんですよ。間違っても自死を選ばないでくださいね。あなたが死んだら、ラヒーノを襲いますし、あなたの幼なじみの情報屋も殺します。私はあなたが大切なので、ルーデンマイヤー家にも何をするか分かりませんよ。シオン、あなたは私の大切な養女です。決闘が終わるまで大人しくしていなさい」


 ザックバーク侯爵が声を出して笑いながら去って行った。


 ガン、ガン、ガン、とシオンは何度も牢屋の床を叩く。

 自分への腹立たしさとザックバーク侯爵への憎しみからだった。


(私のせいでフレイヤ様が。フレイヤ様のためにここへ来たと思ったのに。どうして私は役に立てないのですか?)


「私はフレイヤ様に救われてばかり。ザックバークのもとから逃げ出した時も、今回だって。フレイヤ様はどうして私を救おうとするのですか?」


 当然、シオンの問いに答えは返って来なかった。








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