第97話 レオの助勢
「ザックバーク侯爵? あいつがシオンを
ヘドリックが跪いたまま何度も頭を下げる。
「申し訳ございません。私が報告すべきでした」
「もういいから、何度も謝らないで。お母様はエヴァウト先生の所よね?」
「はい、本日は診察日です」
今直ぐシオンを取り返しに行きたいけど、相手はザックバーク侯爵。お母様と話し合う必要がある。
「あー、もう!」
自分に腹が立って、頭をガシガシと掻く。
屋敷の外から馬車の音が聞こえた。
誰? こんな時に!
羽織る服を着て外に出ると、馬車から降りたのはレオだった。
「フレイヤ、急で悪い。お前に話があって来た」
「ごめん、今はそれどころじゃなくて」
レオが真剣な表情で訊く。
「何があった?」
「…… シオンがいなくなって」
「お前といつも一緒にいる仲の良いメイドだな。心当たりは?」
「ある、ザックバーク侯爵だと思う」
「貴族派の有力貴族だな。コルネリア夫人はもうご存知なのか?」
私は首を横に振って言う。
「ううん、まだ。お母様、外に出てるから。今から言いに行こうと思って」
「フレイヤはここにいろ。入れ違いになったら面倒だ。従者の誰かに行ってもらえ」
「…… そうだね」
レオの言う通りだ。今の私は冷静な判断ができていない。
レオが馬車の中にいるメイドに言う。
「ステラ、話は聞いていたな。ザックバーク侯爵を探れ。何か分かれば、直ぐに報告しろ」
「承知致しました」
ステラと呼ばれたメイドは馬車から飛び出すと素人とは思えない動きで走り去った。
「ステラに任せれば問題ない。直ぐにザックバークの情報を持ち帰る。取り敢えず、お前は落ち着け」
「うん、分かった。ありがとう。レオ、屋敷に入って」
レオを客間に招き入れ、ヘドリックにお母様を呼びに行かせた。
ヘドリックから聞いた話によると、ザックバーク侯爵はシオンの養父らしい。六歳から八歳までの二年間を一緒に暮らしていた。
ヘドリックにはシオンが自分から言うのでと口止めをしていた。
もう最悪。本当にどうして? ううん、違う。私はシオンの異変に気づいてた。大したことないと思って、ちゃんと訊こうとしなかっただけ。
「フレイヤ、大丈夫か?」
「大丈夫だけど、シオンが私の前からいなくなるなんて。私、シオンの異変に気がついていたのに」
「フレイヤ……」
私の震える手をレオが優しく握ってくれた。
今はとても心強い。
「…… ありがとう」
しばらくすると、お母様が客間に入って来た。
私はお母様に抱きつく。
「お母様、ごめんなさい、シオンが。私のせいです」
「落ち着きなさい、フレイヤ。あなたが心を乱してどうするの。今は確りする時よ」
「はい……」
お母様が頭を下げてレオに感謝する。
「レオンハルト君、力を借してくれてありがとう。助かります」
「頭をお上げください。俺は友人のフレイヤを助けているだけです」
ドアがコンコンと鳴る。私は急いでドアを開けてステラさんを中へ入れる。
全力で走って戻って来たのか息が乱れている。ステラさんが跪こうとしたので椅子に座らせた。
私たちのために動いてくれているのに失礼なことはできない。
「ステラさん、どうでした?」
「シオン様はザックバーク侯爵の領地に連れて行かれるようです。大きな馬車に荷物を運び入れ、その周りに護衛の騎士が二十名ほどいました」
「シオンが!? やっぱり今直ぐ行って」
「落ち着きなさいって言ったでしょ」
「でも、お母様。シオンが」
「分かっているけど、考えなしで行動したら駄目。シオンを取り返すということはザックバーク侯爵と敵対するってことなのよ。ちゃんと理解できている?」
「シオンを拐ったのはザックバークです。悪いのはあいつだ」
「そんなこと百も承知よ。でも、ザックバーク侯爵は何もしていないわ。現状はシオンが勝手に出て行っただけになっている」
「そんな……」
「それに、ザックバーク侯爵は貴族派の有力貴族よ。良いの?」
貴族派のザックバークと敵対すればアンジェ様を巻き込むことになる。でも、シオンを取り返すために覚悟するしかない。
「どうしてシオンはザックバークのもとなんかに……」
レオが落ち着いた声で言う。
「脅されたんだろう。俺から見てもお前のメイドは自分の主人をとても大切にしていた。力のあるザックバーク侯爵からお前を守るために行ったのかもしれないな」
「じゃあ、シオンは私のために……」
頭を抱えると、レオが私の腕を強く引っ張る。
「顔を上げろ。メイドを取り返す気はないのか?」
「あるよ! でも、何をしたら良いか……」
また下を向きそうになったけど、ランドバード伯爵のことを思い出して言う。
「決闘よ!」
「なるほど、決闘か。良い案かもしれないが……」
レオが何だか困った表情でお母様を見る。
「ありがとう、レオンハルト君。フレイヤはこういう子なの」
レオが今度は非難するような目つきで私を見た。
どうしてそんな目で私を見るの? さっき良い案って言ったよね?
「フレイヤ、決闘は最後の手段にして。仮に決闘を申し込んでもザックバーク侯爵が受けるか分からないわ。それに、色んな根回しが必要になる。まずはザックバーク侯爵と話をしましょう」
「私たちと会うでしょうか?」
ザックバークと会えないと思ったのもあって、私は頭に決闘が浮かんだ。
「アンジェリーナ様に話し合いの場を設けて欲しいと頼みなさい。駄目なら決闘しかないわ」
「…… 分かりました。頼んでみます」
レオがお母様に言う。
「コルネリア夫人、ルーデンマイヤー領にヴェルナフロの騎士を数名派遣しても
「それは領民を守ってくれるということ?」
「はい、そうです」
「それはとても嬉しいけど、どうしてそこまで?」
「父上にお二人の力になるようにと厳命されています」
「そうですか、クラウディオ団長が…… レオンハルト君、感謝します。本当にありがとう」
ヴェルナフロの騎士の派遣はラヒーノの住民を守ってくれるため。私たちのためにそこまでしてくれるなんて……
シオンも私たちを守るためにザックバークのもとへ行ったのかもしれない。
「レオ、ありがとう」
「ああ、気にするな。念のため、九番地区も様子を見た方が良いな」
「…… うん」
レオが私の頭に手を置いて言う。
「フレイヤ、しおらしくなるな。いつものお前らしくない」
私はレオに助けてもらうばっかりだ。しおらしくくらいなる。
レオが小さく溜め息をついて言う。
「気にするなと言っただろう。それでも気になるなら、もし俺が困った時にお前が助けろ。それもできないのか、白銀のフレイヤ?」
私は少しムッとして言う。
「できるわ! レオに何かあったら、私が全力で助けてあげる。それであなたに一杯感謝してもらうわ」
「何だよ、それ。まあ、元気のあるいつものお前の方が良い」
レオが珍しく朗らかに笑った。
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