第91話 戦いの決着
魔物は巨大な
真っ赤な目で唸り声を上げながら、魔物は巨体とは思えない俊敏な動きで傭兵たちを蹴り跳ばす。
獣毛に覆われた体は鋼のような硬さで傭兵たちの剣が全く通っていない。
このままだと死傷者が増えるばかりだ。
「フレイヤ、あの魔獣を倒す。傭兵たちでは相手にならない」
「分かった、行こう」
近づくと、黒い魔力が魔物の全身を覆っているのが見えた。
その魔力が魔物の喉に集まり始める。口から何か出そうとしていた。
もしかして魔法!?
私は危険を知らせようと大きな声を上げる。
「そいつから離れて! 魔法が来るわ!」
魔物が大きな口を開いて火炎流を放つ。
瞬く間に炎が広がり、魔物の近くにいた傭兵たちが焼かれて黒焦げになっていく。
最悪だ。苦しくなって、目を背ける。
周りの建物にも火が回り、傭兵たちが逃げ始めた。
その逃げる傭兵たちを無視して、魔物が西へ移動を始める。
駄目!
あっちは避難場所だ。
ソフィアたちが治療もしている。
「魔力吸収、魔力操作」
身体強化して追い掛けようとしたけど、足を止める。
魔獣が色んな場所から集まって来て、百体以上の群れとなった。
犬型魔獣や猫型魔獣、帝都の外から来たのか熊型魔獣までいる。他にも色んな魔獣がいた。
先が見えない、魔獣が多すぎる。
魔物を追うにはこの魔獣の群れを斬り開いて行くしかない。
それに、一体一体は弱いけど、この魔獣の多さは脅威だ。全部倒さないと大変なことになる。
「フレイヤ!
パウラお姉様とレオが魔獣の群れに突っ込む。
でも、二人だけなんて、私も一緒に……
「俺たちもいるぜ! 白銀の嬢ちゃんは先に行け!」
アラクドさんが数十名の傭兵たちと一緒に魔獣と戦い始める。
それでも足りてない。
「
突風が吹いて、無数の風の刃が魔獣に向かって飛ぶ。
魔獣を斬り裂いて、目の前に道が開ける。
「フレイヤ、行くのですわ! ここは
「フレイヤ、行け!」
私は頷いて先を進んだ。
◇◇◇
見えた!
建物を壊しながら魔物がどんどん前に進んでいる。
魔物の先に小さく避難場所が見えた。
早く止めるんだ!
「魔力吸収、魔力放出」
剣先から魔力を放出して、一番攻撃しやすい脚を狙って左の横薙ぎを全力で放つ。
切断するつもりが、表皮で剣が止まった。鋼のような筋肉のせいで全く斬れない。
でも、痛みはあったようで、魔物は跳び上がって距離を取り私と対峙する。
「ギャアゾグゥー!!」
魔物の威嚇する叫び声で地面が震えた。
体を覆う魔力が激しさを増すと、魔物がふっと消える。
速い!
目の前に現れて爪を振り下ろす。
咄嗟に後ろへ大きく跳び、剣先から魔力を一気に放出する。
その魔力で魔物の攻撃の勢いを削ぎ、剣で受け止めた。
攻撃の勢いは完全に殺せず、その衝撃で何度も転がってしまう。
痛みを堪えて直ぐに起き上がると、魔物の喉に魔力が集中していた。
また炎だ!
魔物の大きな口から火炎流が放たれる。
激しい炎が真っ直ぐ私に向かって来た。
「魔力吸収、魔力操作」
炎を素早く躱して、そのまま魔物に突進する。
横薙ぎで斬れないなら突きだ。
突きの構えを取ったまま加速する。
私を止めようと魔物の手が伸びて来た。
余裕を持って躱し、右脚を狙って突きを放つ。
今度は深々と刺さり直ぐに引き抜く。
魔物が傷ついた脚で私を蹴ろうとしたので距離を取った。
傷を負った分、動きが遅くなっている。でも、まだ膝をつこうとしない。凄く丈夫だ。
だったら、もう一度突く。ううん、膝をつくまで何度でも突く。
「魔力吸収、魔力操作」
体中から鈍い痛みを感じる。
戦いが始まってから
私の体、もう少し頑張って。
さっきよりも勢い良く走り出す。
魔力を脚に集めて更に加速する。
魔物の伸びる手を躱して右脚に突きを放つ。
深々と刺さった、手応えもある。
良し! これでこの魔物は膝をつく。
あれ? 剣を引き抜こうとするが、全く抜けない。
その時、視界の端に大きな毛の塊が見えた。
魔物の手が右から私を叩き飛ばそうとしている。
これは間に合わない!
「魔力操作!!」
瞬時に魔力操作で魔物の手が当たる体の右側を身体強化する。
そして、体が弾け飛びそうな衝撃。
空が何度も逆さまになり、体の中から裂けそうな痛みを感じて、グチャグチャなった気分でようやく終わった。
ボワァンボワァンする。視界が定まらない。
左手に剣を持っている。
ユアナの父親から借りた剣なのに。
右手は動かない、力が入らないや。
魔物からけっこう飛ばされた。
後ろから色んな人の声が聞こえる。
振り向くと、避難場所が見えた。
ここから近い。
避難場所にいる人たちが急いで逃げようとしている。
私が魔物を止めれなかったせいだ。
「ゴボォッ!」
口から見たことない量の血が出た。
ディナトと戦った時に内蔵を少し損傷して、今の衝撃で酷くなった。
体中痛くて、どこをどれだけ怪我しているのか正直分からない。
あの魔物を早く倒して、ソフィアに体を治してもらおう。
そう言えば、前に魔物と戦った時も同じ感じだった。
絶体絶命で、そうそう、こんな風に白い光が見えて…… ん!?
「白い光…… 魔力が見える」
周りの地面や瓦礫から白い光が浮いていた。
どうして今見えるのか分からないけど、理由はどうでもいい。
何とかしてあの魔力を吸収するんだ。
立て、早く立て。
立とうとするけど、脚が震えて立てない。
嫌な気配を感じて魔物を見る。
魔物が両手を前に出して黒い玉を作っていた。
あれは魔力の塊だ。どんどん大きくなっている。
あんなの放たれたら、どんな被害になるか分からない。
後ろにはソフィアとユアナ、避難してきた人たちがいる。
ここであの魔物を倒さないと、次は貴族街だ。
貴族街にはオリアナが。それに、お母様もいる。
震える脚を左手で叩きながら何とか立つ。
前に一歩進む。
私はまだ前に進める。私は戦える!
「魔力吸収!!」
白い光が私に集まり、その魔力を剣へ流す。
剣の折れた先から煌々と白い光が出て、その白い光は剣の形になる。
この距離から魔力を放つのは駄目だ。
避難場所の人たちを巻き込んでしまうかもしれない。
だから、もっと近づく。
地面を蹴って、魔物へ走り出した。
黒い魔力の玉が魔物の姿を隠すほど大きくなる。
すると、黒い魔力の玉から矢のようなものが放たれた。
減速してその矢を躱すけど、魔物は更に矢を何本も放つ。
矢の雨が私に向かって来た。
そのまま魔物へ向かったら、私の体は蜂の巣になってしまう。どうする?
「止まるなですわ!」
この声はパウラお姉様!
じゃあ、止まるな。
パウラお姉様を信じて行け!
速さを元に戻して走る。
「
私の髪が
もう前には黒い魔力の玉と魔物だけ。
魔物が私を睨んで声を上げる。
「ギャアゾグゥーー!!」
黒い魔力の玉が放たれた。
地面を削り、瓦礫を消滅させながら私の方へ進む。
私は左手で剣を振り上げる。
剣に溜めた魔力が溢れ出し、白い光が渦のようになった。
剣を振り下ろすと同時にその魔力を一気に解放する。
白い光の
体から魔力が抜けていくのを感じる。
白い光が黒い魔力の玉に少しずつ消されていた。
このままだと……
負けるもんか!
「魔力吸収!」
いつもと同じように空気中から魔力を吸収する。
その魔力も剣に流して、吸収と放出を同時に行う。
白い光が黒い魔力の玉を呑み込み始めた。
絶対に勝つ。
私が大切な人たちを守るんだ!
誰かのために振るう剣は何よりも強い!
「このまま呑み込め! いっけぇーーー!!」
白い光の奔流が黒い魔力の玉を呑み込み、そのまま魔物も一緒に呑み込んだ。
直後、衝撃波が起きる。
私は吹き飛ばされた。
何度も転がって止まると、魔物がどうなったのか横になりながら確認する。
魔物の姿はなく、魔物がいた場所は大きな穴ができていた。
「魔物の気配もない。そう、良かった。私、勝ったんだ」
もう一歩も動けない、へとへとだ。
緊張が緩んだせいで体中の痛みが強くなった。
「誰か来て。私、疲れた」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます