第90話 戦いは終わらない


 平民街の開かれた場所が傭兵とベスティアの戦場となっていた。

 建物の屋上から見下ろすと、戦況の把握ができる。


 傭兵たちの数は多いけど、人型魔獣に手こずっているようだ。

 しかも、パラディスを飲むベスティアの人たちがいるので、人型魔獣が更に増えている。

 大型魔獣になっていないのが幸いだけど、このままだと戦況は良くない。

 戦場を良く見ると、左ではパウラお姉様が戦っていて、右ではレオが戦っている。

 パウラお姉様なら加勢しなくても大丈夫だ。私は右の戦場に行こう。


「魔力吸収、魔力操作」


 身体強化して建物から跳び下りる。

 ベスティアの人たちは目の前に突然私が現れて驚いているようだ。

 その隙を活かして、私はベスティアの人たちを斬り伏せた。

 パラディスを飲まれてしまったら厄介だ。容赦はできない。


 周りの傭兵たちも私を警戒しているように見えた。

 声を上げて仲間だと知らせよう。

 ディナトを倒したことを一緒に言えば、傭兵たちへの激励になるし、ベスティアの人たちの士気を下げることができるかもしれない。それに、パウラお姉様とレオにも私が来たと伝わるはずだ。


 大きく息を吸って声を上げる。


「私はフレイヤ! 傭兵の皆さんの仲間です! 敵組織のボス、ディナトは私が倒しました。後はこの残党だけです。頑張りましょう!」


 近くで聞き覚えのある声が上がると、遅れて周りからも声が上がる。

 ベスティアの人たちには動揺が見えた。


「士気の上げ方は下手くそだな、白銀の嬢ちゃん」

「アラクドさん!?」


 パウラお姉様といつも一緒に仕事をしている傭兵のアラクドさんだ。

 聞き覚えがあるなと思ったけど、さっきの声はアラクドさんだった。

 止めって言ったのに、また私のことを白銀って呼んでる。


「パウラに頼まれてついて来たんだよ。全部聞いたぜ、まさか二人が貴族令嬢だったとはな」

「すいません、黙っていました」

「気にしてねぇよ。でも、今度から信用してくれよな。俺たちは仲間なんだからさ」

「仲間…… そうですね。今度からはちゃんと言います」

「良し! 仲間に頼まれたからな、確り働かせてもらうぜ」

「アラクドさん、ありがとうございます」

「良いってことよ。白銀の嬢ちゃんは魔獣を倒しな。この馬鹿どもは俺たち傭兵に任せろ」

「分かりました、頼みます!」


 アラクドさんから離れて、一番近い人型魔獣のもとへ向かう。

 大声を出して注目を浴びたせいか、ベスティアの人たちが私に攻撃をしてくる。

 どの斬撃も遅い。

 剣でその斬撃を軽く払いながら、ベスティアの人たちの間を走り抜ける。

 人型魔獣が見えた。


「魔力放出」


 剣先から魔力を放出して、背後から人型魔獣の胴を横薙ぎで斬る。

 人型魔獣は前に倒れて動かなくなった。


 すると、後ろの方から大きな声が上がる。


「白銀のフレイヤが魔獣を一撃で倒したぞ! 俺たち傭兵も続け! !!」


 アラクドさんの激励だ。

 それに反応して多くの声が上がり始め、やがて一つになる。


「ウオォォォーー!!」


 私の時の比ではない。

 右の戦場だけではなく、左の戦場からも大きな声が聞こえた。


 凄い。アラクドさんの激励で傭兵たちの勢いが増す。

 これが歴戦の傭兵の力。傭兵たちを乗せるのが上手い。私にはない力だ。

 そして、戦場の流れが変わる。

 私たちが優勢になった。このまま行けば、勝てる。


 次の人型魔獣を見つけた。傭兵たちを襲っている。

 私は前方へ跳び上がり剣を人型魔獣の首へ斬り下げた。

 人型魔獣が鋭い爪で私の攻撃を防ぎ、衝撃で後ろに下がる。

 私は間を置かずに人型魔獣の首へ突きを放つ。

 剣で首を貫き、人型魔獣は死んだ。


 剣を下げて、小さな息を吐く。

 流石に疲れた……

 ううん、弱音はなし。皆、頑張ってる。

 私の役割は人型魔獣を倒すことだ。もっと倒して、この戦いを早く終わらす。


「魔力吸収、魔力操作」


 再び身体強化をして戦場を駆ける。

 レオが人型魔獣と戦っていた。

 目線でレオに合図をして、私は気配を殺して人型魔獣の背後に回る。

 人型魔獣が攻撃し、レオが防ぐ。人型魔獣が大振りになった。

 私はその隙を狙って跳び上がり、背後から剣で人型魔獣の首を斬り落とす。


「フレイヤ、助かった」

「気にしないで。次、行くね」

「おい、待て。フレイヤ、大丈夫なのか?」

「え、何が?」


 私はわざとらしく首を傾げた。


「もう休め。手が震えている」

「で、でも」


 レオが私の手を強く握って言う。


「見ろ、戦いが終わる。俺たちの勝ちだ」


 戦場にいた人型魔獣は全て倒され、ベスティアの人たちも剣を下に投げて投降を始めている。

 皆、傷だらけだ。

 亡くなった人も当然いる。倒れて動かない人たちが大勢いた。


 周りを見ると、瓦礫の山だらけ。

 上流街と貧民街も同じように酷かった。

 貴族街の方を見る。

 門が閉ざされていて見えないけど、貴族街は間違いなく無傷だ。

 国からの支援はあるのかな?

 カルバーン侯爵とオリアナが色々と頑張ってくれていると思うけど、無理な気がする。

 帝国騎士も来てくれなかったし。


 剣を鞘に戻す。

 避難場所に戻ったら、父親のことをユアナに伝えないといけない。

 恨まれるのは辛いな。


 その時、左の戦場から建物が壊れるような音が響いた。

 その音は直ぐに悲鳴へと変わる。音の方を見ると、人が矢みたいに飛んでいた。

 巨大な化物が大きな手を振り回して人を吹き飛ばしている。


 この嫌な感じ、間違いない。

 あの化物は魔物だ。

 あの魔物を倒さないと、この戦いは終わらない。

 私はもう一度剣を抜いた。

















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